幻の夢を追いかける花 作:或る記憶
宝塚記念。
それは上半期の締め括り、実力ナンバー1を決めるレース。
“グランプリ”とも呼ばれるそれはファン投票を行い、上位10人が優先出走権を与えられる。吾は有難い事にファン投票10位でその名誉あるレースに出走出来る事が決まった。
「なんか、皆ピリピリしてる?」
「だろうな。上半期のトップを決めるのだから、多少なりとも空気は変わる」
「はぇ〜、うらは初めて障害組で良かったって思うね?」
「何を言うか。お前も宝塚記念の前日に東京ジャンプステークスがあるのだろう?」
「いや?いやいやいや、我々は〜あまり注目されないので、ピリピリしないって言うか〜、あ、聞いた?今回は出走人数10人だって、歴代最低人数に迫る勢いだね!」
「……はぁ、少なくとも吾はロードの走りを楽しみにしているんだがな」
吾の前に座り能天気にキャロットジュースを口にするチームの仲間、アセビロードはもう何日か眠れば重賞本番であるのに緊張感が無い。
それは仕方の無い事なのか、彼女の言う通り注目がされないからなのか。
いや、違うな。
アセビロードは自身が走るレースを盛り上げたいと思っていても、その力が無い。と、吾達が走るレースには敵わないの思ってしまっている。
少し視野を広げれば、応援の声はあるというのに彼女はあまりにも機械に疎い。
「なぁ、ロード」
「ん?なに?」
「次の東京ジャンプステークス、勝て」
「突然どうしたのさ?勝ちたいとは思っているね、当たり前だけど」
「吾も勝とう」
「へぇ、珍しいね?ツバキはレース前に結果を決める様な物言いしないと思ってた」
「吾とロード、土日の目玉レースを奪い取ってやろうじゃないか」
「えー?でもー、勝てるかは分からないね?レースに絶対は無い」
「いや、あるさ。吾はこんなにもお前と共に勝ちたいと思っているのだから」
レースに絶対は無い。たらればを語るのも意味は無い。
だが、想う力は絶対で、それはきっと自分の未来を変える要素になってくれる。
今の吾はトレーナーさんから見ても、ボタン様から見ても完璧な仕上がりで、ロードだって勝てるか分からないと言うがその身体は相変わらず完璧だ。
「レースの種類は違うが、過去にあったオークスの様に一緒に優勝インタビューを受けたいな」
「えぇ〜?うら達カメラの前で抱き着いちゃうの?」
「良いじゃないか。珍しいし、面白い」
「んふふ。じゃあ〜ツバキがそこまで言うなら、うら頑張るよぉ?」
互いの小指を合わせる。
本当は、出走表を見た時に感じた恐怖を払拭したいと思ったからこその提案。あんな名だたる名ウマ娘達に吾なんかが混ざってしまったが故の目を逸らした話。
だけど、共に時間を過ごす仲間が同じ気持ちで走ってくれるなら。
吾はきっと頑張れる。
「あっ!ツバキはっけーん!」
「え?うわっ!?何だ!?」
「ぎゅーってしよ!おめでとうのハグ!」
「いや、吾は勝てなくて……」
「良いの!うらは勝ったんだから、うらの方が偉い!」
「はぁ……?」