幻の夢を追いかける花 作:或る記憶
「ねぇ。夏休みにお友達と遊ぶなんて、初めてじゃない?」
「そうだね。それだけ大切なものができたんだろう」
「なんか……泣いちゃいそう」
「子の成長は嬉しいものだね」
綺麗な花束。
桶に入った水。
火を入れて貰った提灯。
昔は「転ばない様に」とビクビクしながら歩いた石畳を辿る。
目標の様に一段と色とりどりの花が備えられたそこの前に立ち止まり、桶を地面に降ろす。
「じゃあ、良い感じにお花を供えちゃって」
「良い感じにと言っても、相変わらず供えられないというか」
「ほら!芳君、高身長!水!」
お母さんと、お兄ちゃん、夏の最中に帰ってくるあの人を迎えに行く為にやって来た山中のお寺。
お兄ちゃんがお墓の天辺から水を流して、気になった所を軽くスポンジで擦る。
私は備え付けの花立から溢れた花と合わせて敷地内に持って来た花束を並べる。
風に煙を揺らせて、提灯の目印を掲げる。
「帰って来れたかなぁ」
「さぁ。でも、帰って来てるでしょ。あのヒト家族も親族も知らないヒトも大好きだから」
「それにしても暑いなぁ……帰りにアイスでも食べに行くか?」
お兄ちゃんが汗を拭いながら腕を捲る。
お母さんも良いわねぇなんて傘を差し直した。
「御免なさい。私、ここら辺で逃げさせて貰います」
「え?」
「何だ予定でもあったのか?」
「そう。チームの皆とお祭りに行くんです!お寺の隣にあるバス停から乗って行こうと思って」
「えー?送ってくよ。芳君が」
「そうそう、送るよ。俺が」
お兄ちゃんが車の鍵をポケットから取り出そうとするのを見て、私はそれにNOを出す。
「チームの皆とは、バスで合流しようって約束してるんです。だから、リーダーである私が乗っていないとビックリされちゃいますから!」
「あら、そう?」
「えぇ。では!一足お先に失礼しますね」
「気を付けなよ」
「うん!では、行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
「帰る時は連絡しなさいね」
時計を確認して、予定まではあと5分。
バッグを掛け直して楽しみで少し早く動く心臓を押さえて、古びた錆だらけのバス停の隣に立つ。
お祭りの会場と此処はレースよりも長い距離で離れているのに、もう音が聞こえてくる様な錯覚に陥る。
やって来たバスに乗って、整理券を取って、1番後ろの席に座る。
バスの中には私を除いたら1人しかいない。
でも、もう少しだけ進んだら。
サンダルを履いたスーちゃんが
「よぉ、センパイ」
って言って。
浴衣を着たローちゃんが
「こんにちは〜」
って言って。
お洒落をしたコウちゃんが
「ご機嫌よう」
なんて背伸びして。
運動靴を履いたルーちゃんが
「みなさん、こんにちはですねー」
って、アイスを食べながら乗って来て。
ツーちゃんは少しだけ大きな荷物を持って
「虫除け、冷却シート、水分補給の準備は充分です」
って挨拶よりも先に得意げに笑って。
早く、会えないかな。
皆の様子を勝手に考えて、小さな笑い声が漏れた。