幻の夢を追いかける花   作:或る記憶

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その日、一つの「お知らせ」がトレセン学園に舞い降りた。
そのお知らせに生徒会長は頷き、花好きな副会長はため息をし、一匹狼な副会長は普段通りソファに座っている。

同時刻、同じお知らせを受け取った理事長は大きく扇子を振り上げ、理事長秘書は両手を合わせ「お出迎えをしなければいけませんね」と笑った。

明日、とあるウマ娘が海外の地から戻って来る。
嵐の様な彼女が久し振りにトレセン学園の敷居を跨ぐのだ。
 


海外の冠を手にせよ、乙女。

 

ベタベタと貼られた様々な国旗のシールが特徴的なボロボロになったスーツケースをガラガラと引きながら、一人のウマ娘が日本の土地を踏み付ける。

シルバーのアクセサリーや厚底の靴、頭に付けたフリルのカチューシャ、色の濃い髪の毛と両耳を揺らして彼女は懐かしそうに大きく呼吸した。

 

「お疲れ様です♪お待ちしておりました!」

 

緑色のスーツに身を包んだ駿川たづなは学園が用意した車の前で手を振る。

それに気付いて、スーツケースを乱雑に車に投げ込んだウマ娘は身に付けていたサングラスを外し、両眼に光る星型の瞳孔を晒しながらトレーナー以外に使うのは懐かしいものとなった日本語を口にする。

 

「よぉ!秘書さん。出迎え有難う。一時帰国したぜ」

「はいっ!海外のレースはどうでしたか?」

「あ?ンンまぁ、君達の元に届いている通りだ。日本にいた頃よりは、少しだけ上手く走れた気がするね」

「それは良かったです!では、学園に戻りましょう♪」

「あぁ。宜しく頼むわ」

 

静かなエンジン音を奏でながら、車が発進する。

彼女の目に映る変わった街の、変わらない街の風景。久し振りの左側を走る車道。どれもが懐かしく、自分の故郷に戻って来たのだと主張される。

鼻歌が溢れ、脚先が無意識に揺れるウマ娘の姿を隣に座る駿川たづなは微笑ましそうに見つめていた。

 

 

 

そのウマ娘は日本で大成しなかった。

メイクデビューは10着。まだまだこれからだ!と続く条件戦は11、9、13、8と掲示板にすら乗れない育成機関のトップであるトレセン学園に通うウマ娘の中でも、下の下と呼ばれて可笑しくない惨状。長い歴史の中で記録にすら残らない沢山の1人。

しかし、そんなウマ娘に一つの光が訪れる。

『アネモネステークス』1着。それは、クラシックに出られる奇跡の切符。

小さな小さな奇跡。だが、そのウマ娘にとってはとてつもない奇跡を抱えて出走した『桜花賞』。

 

「残念無念。掲示板が精々だったな、まぁ、今までのポンコツ振りを考えるに、素晴らしい感じだな。漸く本格化、身体が仕上がってきたか?」

 

初めて着用した勝負服に付いた土を払いながらウマ娘は悔しがるウマ娘、涙を流すウマ娘の中で特に何もアクションを起こさず、ただ真顔のまま拳を握った。

 

 

 

身体を揺すられる。

閉じていた目を開け、いつの間にか辿り着いていた懐かしのトレセン学園が目に入ってから漸く眠ってしまっていたのだと気付く。

 

「ふふっ。よく眠っていましたね」

「あ?まぁ、長旅なもんだったんでね」

 

身体を伸ばし、バキボキとなる関節の音を聞きながら車から降りて見慣れたスーツケースをもう一度手にしてから、堂々と歩く。

道行くウマ娘達が珍しそうな視線を向ける中、校舎の前に立つ生徒会長、皇帝・シンボリルドルフがそのウマ娘を視界に入れる。

 

「お疲れ様。君の帰りを首を長くして待っていたよ」

「あら?本当?俺なんかを生徒会長サマが待っていて良いの?」

「あぁ。君の走りは正しく希望、一つの可能性を示すものだからね」

「そーかい。ならば、出来うる限り頑張るさ。次は来年、サウジカップだね」

「……前途多望。我々は、君の走りに期待している」

「ハイハーイ、面目躍如、面目躍如〜」

 

ウマ娘は、皇帝、理事長秘書に手を振り理事長室へ勝手に会話を切り上げて歩いて行く。

そんな見る人が見たら許されないその行動も、慣れた二人は「相変わらず」だと顔を見合わせた。

 

彼女の名前は“アセビデージー”。

桜花賞後、ヨーロッパを渡り歩き、かの「女王陛下」へ投げキッスをするという不敬をやらかしたバカであり、海外の地で覚醒をした左耳の飾りが可愛らしいウマ娘である。

 




 
 
 
 
 
という訳で、海外適正のヤベー奴「アセビデージー」です。
友人と「なんだコイツゥ〜!!」をコンセプトに生み出した、実馬としては父アセビロード、母父シンボリルドルフ(母は友人が生み出した架空馬)の牝馬です。
主戦騎手はアセビデージーに一目惚れして陣営を口説き落とした謎のチェコ人(無名)です。

桜花賞後の成績はこちら

リブルスデールステークス 3着
KGVI & QES 1着
ストックホルムカップ国際 1着
バイエルン大賞 6着
ガネー賞 5着
フォワ賞 1着
凱旋門賞 2着
サウジカップ 3着
ゴドルフィンマイル 2着
メルボルンカップ 1着
香港カップ 5着
サンルイレイハンデキャップ 1着
オグデンフィップスステークス 1着
東京シティカップ 1着→日本帰国

有馬記念 2着

初期設定はもっと勝っていましたが、あまりにもあまりなのでナーフしました。凱旋門は拘りとして、サウジカップは日本馬だとまだパン君だけのものなので勝たせてません。
デージーはガチガチの番外編的な子なので、あまり登場しません。
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