幻の夢を追いかける花 作:或る記憶
「うまをのりまし!!」
1人の男が大きな声で叫ぶ。
使い方も発音も甘い日本語に、疑う余地の無い程に鮮明な外国人らしい顔付き。
厩舎のスタッフが続々と集まり、英語を扱えるスタッフが怒るがその男は全てを理解出来ませんとばかりに首を傾げる。
堪忍袋の緒をスタッフが切らす直前、調教師が顔を出す。
「お前さん、何処から来た。Where are you fromだ。それくらいは分かるだろ?」
「あ、えーっと……ちぇーこから、きますんね?」
「そうか。何しに来た」
「うーま、のっきたよ。わたし、きしゅー、てすから」
「免許は」
「めんき?」
「……帰って貰え」
調教師は心労からくる深いため息をして、スタッフに告げる。男は、何も分からないままその厩舎を追い出された。
しかし、次の日。
「……何でいる」
「わたし、きしゅー、なるね!」
不躾にも程がある、心臓に毛が生えている騒ぎでは無い程のメンタル。名前も知らない男が1つの厩舎を巻き込んで勝手に始めた挑戦。
毎日やって来ては追い出され、追い出されてはやって来ての姿を星を宿した牝馬がずっと見つめていた。
その馬を表すのなら正に「異端」という言葉がよく似合う。
平均的な牝馬の肉体に、落ち着いた性格の尾花栗毛。
毛色特有の美しさと母父シンボリルドルフのネームバリューもあってかほんの少しだけ期待をされていた。
デビューは中央、中山にて。
その背に外国人騎手を乗せて、10着という大敗を記録した。
彼女に向けられた期待の眼差しは一気に落胆へと変わり、始まったのは騎手の批判と、父となる馬の批判、そして馬自身への批判。
勝手に期待しておきながら、大きな声で罵倒する。
続く未勝利戦は11着、9着、13着、8着。
掲示板にすら入れず批判の声ばかりが大きくなっても、厩舎のメンバーと馬主は信じ続けた。その馬は諦めなかった。その騎手は、一目惚れをした馬と共に成長していた。
奇跡が起きたのはリステッド、アネモネステークス。
その馬の瞳から、先頭まで10馬身以上ある短い中山の直線。何かが噛み合ったのか、はたまた一瞬の煌めきか、己の脚など気にしないとばかりのあまりに無計画過ぎる追い込み。
実況の興奮と、観客の異質なものを見たとばかりの静寂。
その光景を見た瞬間、その馬を所有するスーツ姿の人間だけが静かに「クラシック追加登録」の音を立てていた。
掌返し、昨日まで「見た目だけが良い」「出涸らしにもなれていない駄馬」「これで牡馬だったらお察し」などとコメントが溢れたインターネットの深い場所は、一転して「いけるんじゃね?」「やっぱ強いって思ってたんだよな」「漸く良さ出てきたな」というコメントが増え、本番『桜花賞』までの日々を心躍らせて待ち続けていた。
「……すみません。出れたのに」
馬から降りた騎手は厩舎のメンバーと、馬主に向かって頭を下げる。
約470メートルの最後の直線、騎手のタイミングが遅かったのか、中山競馬場よりも直線が長かったからなのかその馬はギリギリ掲示板に入れはしたものの、表彰台には立てなかった。
「いや、G1なんだ。他の馬も騎手も強い、我々から見ても仕掛け所も道中も悪くなかったよ」
「ごめんなさいでした」
その日、とある厩舎を根気強さで射止め、身を削った努力で中央競馬の通年免許すら取得した名無しの騎手は「悔しい」という大き過ぎる感情を理解した。
今までとは一味違う舞台で1番に出来なかった、なれなかったその悔しさは「次こそは負けない」という闘志を芽生えさせた。
次の舞台は、海外。
競馬の本番、イギリス。
女王すら見に来ると言われるロイヤルミーティングの3日目。『リブルスデールステークス』への出走が決定され、インターネットにおいて「クラシック捨ててダートも試さないとかかかりすぎワロタwwwww」なんて言われる珍事件。そして、尾花栗毛が世界を魅了する毎日の始まりだった。
その馬は、目を開ける。
ロイヤルミーティング3日目。
その美しい見た目と、新調した馬具を携えてアスコット競馬場の地面に蹄鉄の音を鳴らした。最低人気、日本からやって来たという話題以外は何の期待も、注目もされない牝馬。
「Pracujme společně.」
彼女の首筋を撫でて、一番綺麗に写る様に前髪を整えながら、誰も理解する事は無いであろう母国の言葉で激励をする。タイミング良く馬が嘶いたので笑って、緊張が解れる。
今日も、彼女に宿る星が輝いていた。
ドレスコートに包まれた観客は熱狂する。
イギリスの競馬を愛する人々の視線がただ一点を見つめている。
特徴的な三角形のコースを18頭の馬が走る。
最後の直線、日本の馬では上手く走れないと言われるヨーロッパの馬場を日本の馬が、日本の馬場と同じ様にスルスルと上がっていく。
遠い日本では、物好きな人間達が「いけっ!!!」と叫んだ。
日本ではリステッド以来の表彰台。3着。
レース後、一層警備の厳しい方へ馬が顔を向け大きく嘶いた。
「わたしが、レースの前の日に、勝ったら投げキスしましょねって、いっちゃったよから」
たまたまだけどね。
そう言って、騎手はどこか怖がる様にインタビューへと答えた。
ロイヤルミーティングが終わった7月の下旬。同じアスコット競馬場にその馬はもう一度蹄鉄の音を響かせた。
『キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス』
リベンジとばかりに燃える瞳はゴールだけをただ見据えて、今度こそ、その名をイギリスの競馬史に刻み付けた。
その馬は、旅をする。
シリウスシンボリ、フジノオーに続く長期の海外遠征。
その牝馬と騎手、スタッフ達「花の旅人」をチーム名としたメンバーはイギリスから始まり、スウェーデン、ドイツ、フランス、サウジアラビア、ドバイ、オーストラリア、香港、アメリカで歴史を刻んで、最終地点日本『有馬記念』で長い長い旅を終えた。
最終成績は22戦8勝。内、海外成績は14戦7勝。
G1を3勝の名牝。日本ではなんとも評価のし辛い変わった馬。
世界の競馬ファンを魅了してしまった魅力的な尾花栗毛の馬。
「まさか、こんな結果になるとは思わなかったよ。きっと日本で走り続けた方が入ってくる金も、出ていく金も、もっと変わっていた筈だ。でも、オーナーさんの所有している馬がこの子だけだったからこそ繋がった未来だ。この子が無事に走れて、結果を残せている。そんな幸せを俺達はこれからも支えていきたい」
調教師は、旅の最中そう話す。
これでもかと愛情を含んだ表情で、のんびりと草を食む牝馬を穏やかに撫でていた。
インタビューの終わり、動画が切れる直前「インタビューですか」なんて、拙い日本語が入り込んだ。
その馬は、名を残す。
21世紀が始まってまだ20年も経っていない時代に一頭の面白い馬が現れた。
その馬の名は「アセビデージー」。クラシックでは有力馬の候補にすら上がらない、悲しい事によくいる歴史に何も残せない馬。
花開いたのはイギリス。
まるでこの場所こそが私のホームだと言わんばかりにタイトルを獲り、ヨーロッパの特徴的なコースと馬場を走り、次なる遠征先のフランスでは日本の悲願でもあり呪いでもある凱旋門賞で2着。
日本での成績が嘘の様にマイルから長距離、芝からダートという嘘みたいな適正の幅を持った謎の馬は訪れた国で人々を魅了し、その国の関係者を唸らせた。
彼女を語る上で、よく話題に上がるのが『サンルイレイハンデキャップ』。当時は『サンルイレイステークス』という名でデージーの母父であるシンボリルドルフが獲る事の出来なかったタイトルを彼女は手向けとばかりにダートと芝の境界線をもろともせず追い込んで見せた。
サンルイレイハンデキャップを勝ったのと同じタイミング、日本では多くの人がそのゴールに拳を握った。
彼女は歴史に何も残せない筈だった馬。
しかし、走り続けたからこそ、その馬は自分自身の力で歴史に名を刻み、沢山のファンを手にしていたのだった。
アセビデージーに乗る騎手は引退式、最後のインタビューで言う。
「やっぱり、ひとめぼれウソじゃ無いね。わたし、デージーのこと大好きよ。凄く、ハート、つながってるね」
アセビデージーに一目惚れをして、厩舎も、馬主すら口説いてしまった騎手はその馬に最期が来るまでずっと、ずっと、愛し続けた。
始まりは「名無しの馬」「名無しの騎手」だった一人と一頭は、いつしか「アセビデージー」と「ルドルフ・コヴァーチュ」と呼ばれる様になり、人々が忘れられない存在となっていた。
数年後。とあるアプリゲームにて同名の「アセビデージー」が登場した。
アセビデージーは、キャラクターとしても人々の心を奪い、若手とは呼べなくなった騎手の心をもう1度奪ってしまったのだった。
Asebi Daisy
アセビデージー
誕生日:2月26日
身長:147cm
体重:適応している
スリーサイズ:B75 W56 H80
長期の海外遠征から戻って来たウマ娘。
世界中に知り合いがいるが、それ以上に問題を起こしては周りの肝を冷やしている。
生徒会長へちょっかいを出す事も多く、制服を改造している事も含めてよく怒られている。
日本よりも海外のバ場の方が走れるのでは?と専らの噂。
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耳飾りは「左」
両耳に沢山の花を模したピアスをしていて、左側にのみ菊と桜の飾りが付いたヘアピンを飾っている。
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[世界を旅して何国か]
アセビデージー
芝A ダB
短G マB 中A 長B
逃G 先G 差C 追A
「歓声と困惑で乾杯をして」
最終コーナー前にスキルを10個以上発動していると、最後の直線で速度を上げる。海外のレースだと規格外な力で速度を上げる。
(L'Arc以外にも自由に海外レースへ出走できる様になった場合の想定)
固有二つ名
[期待値ゼロを笑って]
桜花賞、有馬記念を勝利する。イギリスとアメリカを含めた海外レースにてG1レースを2つ以上5バ身差以上をつけて勝利する。
アセビスズナのヒミツ①
[実は、投げキッスが得意技。]
アセビスズナのヒミツ②
[実は、ヒトもウマ娘を魅了してしまう謎のオーラを放っている]
(同期:レッツゴードンキ、ミッキークイーンなど)