幻の夢を追いかける花 作:或る記憶
1人のウマ娘が耳と尻尾を揺らしながら、手に持った一枚の書類をペラペラと揺らす。
その瞳はサングラスで隠れているといえど、何かを考えている様で、分かり易く口がへの字を作っていた。
「どうしたんですか?デージー」
「ん?あぁ、コレ。ジャパンカップの出走登録」
「え!?ジャパンカップ出るですか!?オトトイL'Arc走ったのに!?」
「いやぁ……俺もさ、キングジョージ勝って、凱旋門も5センチとかの差で2着。日本でもそろそろ頑張れそうじゃない?」
楽しそうに話しながら、デージーと呼ばれたウマ娘は手に持っていた紙を自身の契約したトレーナーへと渡す。
トレーナー、ルドルフ・コヴァーチュは紙を受け取ると記入するべき項目が全て埋められた文字を目で追う。
しかし、何年もの勉強を重ね読める様になった日本語の文章で【提出期限】と書かれた先の日付けは、既に過ぎ去った過去。
「これ、提出期限過ぎてますね。Copy?」
「いんや。普通に出してないけど?」
「……全くアナタは。いっしゅん驚きましたよ、ガイセンモンからジャパンカップまで約二ヶ月、移動も含めてどうするか思いました」
「あっはっは!流石の俺もそんな無茶はしないさ」
「無茶はしない……?だけど、スケジュールにあるメルボルンから香港への感覚がヤケに短いですね?」
「それは、仕方ないってやつだね!」
「……全く。メルボルンでの走りが影響あったら、香港は走りませんからね」
「わーってるって!」
デージーはカラカラと笑う。
だが、その表情はどこか物足りなさそうに壁に掛かった絵画を見つめていた。
デージーがこういった表情をするのは初めてではなく、ルドルフは隣に座るとその頭を軽く撫でる。
「残念ですか。ジャパンカップに出られないのは」
「別に、特別ジャパンカップに出たい訳じゃない。ただ、応援も殆どないこの場所にいると、日本に嫉妬する」
「シット?」
「あぁ。俺に走る力があれば、日本で力が使えれば今頃スゲー奴らと同じ様に歓声を向けられていたのかもしれない。この気持ちが贅沢で、世の中には何処にも走る力を見つけられなかった奴らがいる事も分かっているが、なんだろうな、俺は、欲張りだから。ターフから戻った時にお前以外もいて欲しいとも思う」
「デージー……」
「……願うしかない。この旅の末、俺達が歓声を向けられる事を」
「ラストランはアリマキネンですからね」
「その通り!有馬で走れるかどうかは知らんが、出たら出たでキャー!デージーちゃーん!なんて言われるんだ!!俺は!!!」
「その為に、ガンバルですね?」
「おうとも。次はダート、やるぞ。ルドルフ」
「えぇ。やりましょう、デージー」
拳を合わせる。ルドルフと比べたら小さな手。
応援もされない、日本から離れた地で2人の悪巧みは着々と実を結び始めていた。
「……あっ!ジャパンカップ海外ウマ娘枠で招待されない?」
「流石に無理」
「やっぱりか」