幻の夢を追いかける花   作:或る記憶

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アセビボタンと高垣芳司の話。



その身体に触れながら

何時も通りの時間に目を覚まして身体を起こす。

妻と子供達に挨拶をして、食事を終わらせて、仕事を始める前に巽君の作った牧場へと脚を向ける。

遠くから聞こえる犬や猫の声を楽しみながら、馬が生活する馬房の扉を開ける。

 

まずは、オスの馬である譲り受けたロカ。

この子は競馬場でも見た事の無い、明るく特徴的な栗毛で少しだけ荒々しい性格をしているから最初の頃はどうしたもんかと頭を悩ませたが、今は子供達が今よりももっと小さかった時分を思い出して、接する方法にも慣れてきた。

癖なのか、パッパと歩く速度に合わせて早足で横に並び、放牧の為に作られた空間へ放す。

そうすれば瞬きをした瞬間には走って向こうの方へ行ってしまう。

 

もう一度歩いて来た道を戻って、別の扉を開ける。

そこには、ロカとは違い大人しいメスの馬ボタンがいる。

何となく挨拶をしながら、競走馬として走っていた時よりも、白い毛が混じる様になったその身体に触れて異常が無いか、確かめる。

この頃はお腹の膨らみも増して、もう少しすれば子供が生まれるのだろう。

 

「頑張ろうな、ワタシも牧場の人間も初めてだけど、きっと、良い子が生まれるぞ」

 

馬房からボタンを出しながら放牧地へと歩く。

まだ寂しいこの場所に仔馬が増えたら、賑やかで寂しさの無い場所になるだろう。

 

あぁ、巽君。

ワタシは未だに寂しいよ。

ボタンの子も、ボタンの未来も一緒に見ているものだと思っていたから。

 

なんて事を考えて、下を向けば、慰めてくれたのかボタンの鼻先が頬に当たる。

 

「有難う……ボタン。ワタシが気落ちしていても仕方無いな」

 

手綱を外し、柵で囲われたその場所の中にボタンを入れる。

しかし、ボタンは動かずに、ワタシの隣で止まったまま。

 

「あははっ!君は、本当に優しいな」

 

髪の毛を整える様に、その額に触れる。

黒と白が混じり合うボタンの風貌は、最近売り始めたと言う「ごましお」によく似ていた。

 

 


 

この身体に触れられて

 

お早う。ほうじくん。よく眠れたかしら?

昨日はね、遠くでろかが怒っていたからわたしはあんまり眠れなかったの。

あとね、お腹の中でチビがわーって動いたから、ビックリしておしりを壁にぶつけてしまったわ。

痛くないけど、けがはしていないかしら?

 

「頑張ろうな、ワタシも牧場の人間も初めてだけど、きっと、良い子が生まれるぞ」

 

うん。頑張るよ。

いい子で生まれて、可愛いお顔をしていたら良いな。

 

って、ほうじくんどうしたの?

今日はちょっぴりお顔が悲しそう。

お腹でも痛くなっちゃったの?

仕方ないから、今日は隣にいてあげるね。

わたしの隣はつぶらやせんせいの場所だけど、ほうじくんならとくべつよ。

 

広いお庭は嬉しいけれど、がまんしてジッとほうじくんのちかくにいてあげる。

 

「あははっ!君は、本当に優しいな」

 

そうでしょう?

わたしは、優しい子だから。

優しいあなたにも優しくするの。

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