幻の夢を追いかける花   作:或る記憶

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適当な人

 

何時もの様に、拘りよりも値段で選んだ煙草の煙を喫みながら仕事場に向かう。

動物の臭いが漂うその場所の扉を開けば一頭の茶色い馬がジッと、耳ばかりを動かして狭い馬房の中で佇んでいた。

 

「よォ。おはよーさん」

 

煙草を咥えたまま口を開けば反応をする様に、偶然鼻を鳴らす馬。

ジブンはこの馬の世話を任された厩務員。という名のちゃらんぽらん。学校は行かずに退学となり、仕事は直ぐに怒られてクビになる。ちゃらんぽらんどころか世間から疎まれる出来損ない。

 

「まー、ま。そんなジブンでも出来てるのだから、楽な仕事ですわ。ホント」

 

何かを強請る様に前脚をガシガシと動かす馬をそんな事をしてどこか痛めたのなら怒られるのはジブンなのだからと宥めながら、餌をバケツの中に入れて、目の前に取り付ける。ちゃんと食ってるのかどうかを横目で確認して、新しく水を入れたバケツを地面に置いた。

 

「草って美味いのかね?興味は無いんだけど」

 

適当に、それっぽくブラシをかけてやって食事の終わりを見届けてから外に出す。

よく晴れて、レース日和だな……と呟いた言葉に、再び茶色の馬はタイミング良く鼻を鳴らした。

吸い終わった煙草のカスを地面に捨てて、新しい物へ火を付けた。

青空の中に一筋の灰色が混じるのを見ながらもう少しで隣の馬がレースに出る日だった事を思い出した。

 

トウキョウなんかの競馬場と違って、この場所の競馬場は酷く寂しい空気の匂いがする。

珍しい所と言えば、馬場から海が見えるくらい。

そんな金にもなりやしないこの場所を馬を曳きながら歩く。

パッカパッカと音を立てて、地面に落ちるソレを踏まない様にそれとなく避けながら柵の向こうにいるオッサン共が口に咥える物へ依存の気持ちを向けながらただ、歩く。

 

「そんじゃ、今日も頼みますわ」

 

「はい。お願いします」

 

茶色と黒の勝負服を見に纏った伊波さんが乗り、嫌そうな顔をした馬の首を軽く叩きながらゲートへ向かうまでの道すがら、パドックから離れた場所で欠伸をした。

今日も空は晴れ渡っていた。

そして、こんな場所にも関わらずたった1人、オジサンなんて言葉では呼べない程の坊主がいたのが見えて、珍しーと誰にも聞こえない声で呟いた。

 

ガチャンコン。

軽い音を奏でて馬が飛び出す。別にジブンは賭ける側では無いので、勝ったら良いなぁと漠然と思いながら馬場を見つめる。

一応、レース後にはアイツの権利を持つ人の所に報告する約束をしてるので、特に何かを言われる事は無いが良い順位を獲ってくれた方がジブンの気持ち的にも有難い。

 

「かーて、勝て。なんか100勝くらい」

 

適当にボヤいていれば、レースは残り800メートル。

アセビスズナは未だ後方にいた。

 

ジブンの担当する茶色の馬はその昔、ダービーを勝った馬らしい。だいたい2000頭かそこらの数、その頂点。

まぁ、確かに。アイツのレースぶりを見れば、強いんだろうなとは思うが、アイツがねぇという思いに支配される。

無事1着を獲ってきた馬の額を撫でて、お疲れと声を掛ける。また鼻を鳴らされる。

 

「やっぱよ、お前ジブンの言葉理解してるね?」

 

鼻はならない。

どっちなんだと文句を言えば、伊波さんが笑って「頭が良いんですね」なんて事を言うから、そうですね。と返す。

 

「ま、アタシは頭が良くて、ヤサシイ厩務員ですからね。そんなニンゲンに世話されてたら頭も良くなるでしょうよ」

 

本当の事なのに、何故かスズナはジブンの脚を踏みつけようとした。

 

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