【完結】血界戦線ー黄金の薬指ー   作:南畑うり

11 / 11
星の手紙

 

『ハロー、ミシェーラ。

HLでは毎度なにもかもが驚きの連続で、お兄ちゃんの心臓はそろそろ破裂しそうです。そんな驚きを、少しは家族に共有してもらえたらなと思ってね。今回は荷物も多かったと思うけど驚いてくれたかい?

ちょっと仕事の関係で、大物芸能人で超絶美しく、世界を代表するような歌姫の、なによテゾーロ! うそじゃないわ! 書いてないだけ! レオは気がきかないの! あ! ミシェーラ笑わないでよ! ほら続きね! ステラ・ディ・メディチと一緒に仕事をする機会がありました。妹の話をしたら、ステラが一緒に曲を作りたいという話をしていて、僕は話半分だったのに!? え! 失礼よ! 失礼よね! 私のほうがお姉ちゃんなのに! あ、ならミシェーラは私の妹ね! あはは! こほん、えー、ボクハハナシハンブンダッタノニ、ステラは乗り気になってしまい、今回郵便役を押し付ける形になってしまいました。何事もなく手紙一式が届いてくれることを祈るのみです。えへへ!

同封したのはそのステラのアルバムCDです。一枚映像ディスクもあるけど、それはCDにも収録されることのない幻の曲なので聞いてみて。HLライブを見に来た人たちは幸運だったんだ。……ん、ううん、なんでもないわ。ちょっと恥ずかしかっただけ。最後の曲でわんわん泣いちゃって、すごいみっともなかったの! それを映像に残すなんてひどいことするレジスタもいるものよね! あ、もうクビになってるんだった。いまは私の、んー、なんだろ? 家族? あ、カメラマンね、カメラ回してるし。付き人でもいいわよ』

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

テゾーロが身を寄せる貴族の別宅。郊外に作られたウッドハウスの居間で暖炉に薪をくべながら、彼は木製のソファに寝そべっていた。

身体の上には置いたノートパソコン。画面で流れる笑い合う少女らの映像を一度止め、テゾーロは目頭を押さえながらほぐすように揉みこむ。眼鏡が邪魔になったがブルーライト対策にと、そのままにしておいた。

目を強く瞑り、ため息を吐くように深く呼吸する。疲れているのだと、重くて開けられない瞼で自覚する。

 

三年前、【新世界】から【この世界】へ渡ったギルド・テゾーロ。結局、彼が世界に降り立った理由は分からずじまい。一度は三年前に《異界》へ繋がったヘルサレムズ・ロッドへ向かったものの、《悪魔の実》や《グランドライン》に辿り着くことなく、それどころかステラを失いそうになった。

ヘルサレムズ・ロッドの思い出は決して最高のものではなく、むしろ暗い感情を引き起こすものばかりだ。

ステラにとっては死傷事件が深い傷として残っており、テゾーロもステラを心配するあまり【重ね】すぎた。

 

それでも、得たものがあるとするならば──

 

 

薪の爆ぜる音。

なにかの気配が目の前で揺れた。

 

 

「──冷えるね」

 

テゾーロが見開くと差し出された湯気立ったマグカップが目に入る。受け取って眠気覚ましにとその中身を一口含む。

掛けていた眼鏡は彼女の手の中に。

視線が絡み合う。彼女の瞳は、なんて美しい空の色なのだろう。

 

「ありがとう、【ステラ】」

「無理しないでね。いまはなにしてるの?」

 

パソコンの画面をのぞき込む【初老の女性】。サラリと垂れた髪をかきあげたその女性の頬には、年齢に見合ったほうれい線が目に付きやすい。それはきっとしかたのないことだ、なぜなら彼女は、よく笑う人だったから。

 

「いまは、そうだな」

 

なんと、言えばいいのだろうか。

 

「……歌を、歌ったんだ」

 

いいや、足りない。

 

「……仲間と」

 

まるで自分のことのように、えくぼを深く作った彼女は笑う。その笑顔を見上げるだけで涙がこぼれそうになる。女性の手のひらがテゾーロの金髪を撫でた。

髪をからませる彼女の指に、テゾーロが手のひらを重ねた。

 

これは、夢だ──。

自然と溢れる涙を彼女は手のひらで拭ってくれた。それでも涙は止まらない。しまいには彼女も泣き出して、お互いに笑いあう。

 

「ありがとう、【ステラ】」

「もう……許せそう?」

 

テゾーロは軽く首を振って否定した。

立ち上がって彼女を強く抱きしめる。細い身体、柔らかな髪、そして星の匂い。

二人の【身長差】なんて十センチとないだろう。こんなにも小さい身体で、こんなにも距離が離れてしまった。

 

「預けているんだ……。まずは、返してもらわなきゃならない」

「甘えすぎちゃダメよ」

「ちゃんと、話すよ」

「本当?」

「誓うさ」

 

あぁ、こんな未来もあったのだろうか。

お互い身を寄せ合い、貧しくも慎ましく、二人が──死を分かつまで。

ステラが笑うと彼女の目じりに皺が寄る。濃く深くテゾーロの心に刻まれた。

彼女の鼻息がテゾーロの首元をくすぐって、テゾーロはステラの髪の匂いを確かめる。

 

オレが求めた幸せ。

 

「キミを……」

 

夢だから──。

 

「キミを救えなかったっ!」

 

甘えてしまった。

 

「オレ頑張ったんだ!」

 

一番辛い思いをした彼女に。

 

「幸せにしたかったんだ!」

 

無力さを暴力にして、押し付けている。

 

「キミのために歌いたかった! 鎖なんてない世界で! 手を繋ぎたかった! 抱きしめたかった!」

 

ただの、欲望だ。

理想でもなく、人に誇れる夢でもない。

鎖の代わりに、オレの愛でステラを縛り付けたかった、醜い欲望。汚らしいエゴ。

 

「ごめん、ごめんなステラ! ごめん! ごめん!」

 

欲望で彼女を汚した。

無力だから彼女を救えなかった。

「素敵な歌」なんか、きっと一度も歌っていない。

 

「キミに救われたのに! 生きたいと、思えたのに!」

 

涙で頬を濡らすテゾーロは、思い出の女性の笑い声を聞こえた。

揺れる視界なのにステラの笑顔がはっきりと見える。

 

「救われたのは、私よ。テゾーロ」

 

【あの時】とまったく同じ笑顔で、彼女は言った。

 

「私は心から幸せだった」

 

そして二十数年もの時を越え、その続きを紡ぐ。

 

「あなたも、幸せになってね」

 

もう冷たい涙は流れない。

いまは暖かさだけがあればいい──。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

──薪が爆ぜる。

 

テゾーロが薄っすら目を開けると、目の前にカップが差し出されていた。

芳醇なコーヒーの香りと、炎の暖かい匂いを嗅いで、徐々に意識が覚醒していく。

 

「ありがとう、ステラ……」

「ん……」

 

床に座って暖炉の炎で温まる少女からマグカップを受け取る。無理な体勢ではなかっただろうが、温くなったコーヒーの温度が彼女の気遣いを感じさせていた。

 

「……零時になったわ、テゾーロ」

 

言われ、金の腕時計を確認する。午前零時二十分。なるほど、と少女の頭をひと撫でしコーヒーに口をつける。

二人で炎の音を聞いた。

テゾーロは濡れた目元を拭いながら、重い口を開く。

 

「三年も預けてしまったな」

「もう四年目よ」

 

ぶっきらぼうに言い放つステラ。

預けた内容を忘れたことなどないような口ぶりだった。

四年──【ステラ】とともに過ごしたより、この少女と過ごした時間が長くなったのだ。

 

「四年前、【飛ばしてしまった話】をしよう、お嬢さん」

「それは話しても、いいの?」

 

テゾーロは上体を起こし寝そべったまま、ステラは座り込んだまま。二人とも、合図を待つかのようにカップの中で波紋を広げるコーヒーを見つめ続ける。

 

「難しい……というか、怖い、だな。だから、すこし長くなってしまうかもしれない」

 

あの夢は妄想だったのか、それとも本当に《異界》と繋がったのか。

それでも、怯えながらでも一歩を踏み出す勇気をくれた。

 

大切な者を失った子どもの自分を。

今日、その一歩を踏み出すことで救える自分になりたい。

 

テゾーロがどこから話したものかと思案していると、ステラはコップを床に置いてテゾーロの身体に飛び乗った。彼の口から間抜けな音が抜ける。

 

「長くなるなら私の話のほうが先よ! いいテゾーロよぉく聞きなさい!」

 

馬乗りになってようやくテゾーロを見下ろすことができた彼女は、息巻きながら、まるで【あの時】と同じ笑顔を彼に向けた。

【あの笑顔】が無理して作られたものではないと、テゾーロを慮ってのものではないと夢の中のステラが、そして目の前のステラが証明した。

 

「Tanti auguri a tesoro!!」

 

この笑顔は、ただ、相手の幸せを願うための笑顔だったのだ。

 

演出家が歌いたいと言ったら、彼女は笑ってしまうだろうか。

それとも、一緒に歌いたいと言い出すだろうか。

 

なんにせよ──この暖かい涙をとめるには、すこし時間がかかりそうだ。

 

 

 

       -finale-

 

 

 





最後までお付き合いいただきありがとうございます。
劇場版「ONEPIECE FILM RED」楽しんでいきましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

血しぶきハンター(作者:みこみこみー)(原作:HUNTER×HUNTER)

幾万もの悪夢の夜を繰り返したその果てに、月の魔物を屠り上位者と成った狩人は、流星街で目覚める。


総合評価:4773/評価:8.01/連載:11話/更新日時:2026年04月23日(木) 15:00 小説情報

パッチワークとハートの私(作者:月日は花客)(原作:ONE PIECE)

私はSCP-2295になった、元人間です。▼何故か、ぬいぐるみではなく人の少女の形をしています。それでも、私は人を治せます。▼この世界は、争いが多いみたいなので、頑張ってみたいと思います。▼すべての傷を癒すことができるのは、時間だけですが、私にも、なにかやれることはあるはずだから。▼カイロスちゃんなんとなくこんな見た目ですというイラスト描きました。作者の手描…


総合評価:5755/評価:8.63/連載:48話/更新日時:2026年05月15日(金) 02:50 小説情報

宿儺もどきはスローライフを夢見たい(作者:表梅)(原作:僕のヒーローアカデミア)

呪いの王、両面宿儺として転生した男。▼男は個性社会の裏を知る元公安としての名を捨てて、定食屋を営んでいた。


総合評価:6838/評価:8.46/連載:3話/更新日時:2026年02月26日(木) 08:00 小説情報

【悲報】ワイこと禪院直哉さん、青春ラブコメを夢見る模様(作者:パッツンスキー枢機卿)(原作:呪術廻戦)

禪院直哉はヘタレであり、非モテであり、天才である。


総合評価:7970/評価:8.54/連載:4話/更新日時:2026年01月15日(木) 16:37 小説情報

アホみたいなオーラ量に対して、貧弱すぎる出力でどうしろと?(作者:村ショウ)(原作:HUNTER×HUNTER)

転生先はHUNTER×HUNTER。▼特典は「オーラ量メガ盛り」。▼勝ったな、と思ったら増えてたのは総量だけだった。▼潜在オーラ量は化け物級。▼でも顕在オーラ量はしょぼい。▼要するに、巨大なバッテリーを抱えてるのに出力が足りない。▼なので、真正面から最強を目指すのはやめた。▼蓄える、支援する、情報を集める、必要な時だけ倍率をかける。▼そんな感じで念能力をシス…


総合評価:9572/評価:7.73/連載:14話/更新日時:2026年05月31日(日) 23:05 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>