通常弾ぺちぺちマン   作:三流二式

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vsクイーンランゴスタ?

「一つ上の敵、ですか」

「そうだ」

 

 

 鬱蒼とした草木を払いのけながら、後ろからついてくるガントレットへと答える。

 

 

「畢竟、格上との戦いも経験せぬままでは壁は破れぬ。上に行けば必然的にターゲット以外と、それも格上と闘わなければならない状況も、ままあるからな」

「……あぁ、良く分かるぜ、それ」

 

 

 センチスピードは深く頷いた。

 

 

 真昼でありながらうす暗い密林の只中を、ガントレット、ソリティア、センチスピードを引き連れながら、歩く。そのさらに後方ではヨシツネとマサムネが付き、不測の事態が発生した際にガントレットたちと交代し戦闘に参加する。

 それまでは基本待機だ。ヨシツネの恨みがましい視線が突き刺さるが、いちいち振り返る価値もないので捨て置いた。

 

 

 ───ビイイ

 

 

「? 何か聞こえたような……」

 

 

 突如としてソリティアがそんなことを言いだした。

 

 

「なんだ? どうした?」

 

 

 ガントレットは訝り、足を止めた。

 

 

「確かに、何か聞こえるな。これは……羽音?」

「さぁ~て」

 

 

 耳を澄ませるガントレットへと笑いかけ、俺は目的地である密林のエリア9へ歩を進める。

 

 

 さてソリティアやガントレットが聞こえたという羽音だが、当然俺も把握している。何ならここに付きベースキャンプをおっ立てている間にも俺の聴覚は連中の耳障りな羽音をしっかりと捉えていた。

 ごくごく平凡な俺ですらそれだ。ヨシツネやマサムネは言わずもがなで、今も恨みがましい二つの視線が、羽音の発生源に近づくにつれてみるみると力強いものとなっていっている。

 

 

 キャンプからエリア1あたりまでは精々耳を澄まさなければ、立てられる葉音や鳥獣たちが引っ切り無しに上げる鳴き声にかき消されてしまっていたが、エリア1を通り過ぎエリア9へと向かいだすといよいよ羽音は鈍い聴覚のセンチスピードですら気が付き、エリア9間近に至るころには羽音しか聞こえないありさまにまでなっていた。

 

 

「ビイイイイイイイイ何ビイイイイイイイこりゃあビイイイイイイイ」

 

 

 センチスピードの苦言が、羽音にかき消されて途切れ途切れにしか聞こえない。

 

 

「ビイイイイイイイこれビイイイイイイイはビイイイイイイイ」

 

 

 ガントレットは目前の光景に目を丸くして驚愕している。

 

 

「ビイイイイイイイキャアッビイイイイイイイビイイイイイイイ」

 

 

 ソリティアに至っては顔を青ざめさせ、ピーチフリルパラソルを掻き抱いていた。

 

 

「ビイイイイイイイハッハハビイイイイイイイハハハビイイイイイイイ」

 

 

 俺は笑った。笑うしかなかった。眼前の光景に。狂ったように乱れ舞い飛ぶランゴスタの群れに。

 

 

「いやはやまさか一度討伐をサボっただけでこれ程までになるとは! ここまでくればいっそ痛快だ!」

 

 

 俺はゲラゲラ笑った。もう笑うしかないのだここまでくると。

 

 

 この密林では定期的にランゴスタが湧く。そりゃあもう沢山湧く。で、大量発生の兆しを観測気球や調査員が見つけたらすぐにギルドへ報告が行き、クエストが発行される。

 そうして集ったハンターをいくつかの班に分け、エリアごとに派遣し、増えられる前に迅速に討伐する流れになっていた。

 

 

 基本的に湧くのは一年に一回のペースで、俺が生まれる前からそれはずっと続いてきた。当然俺も何度か参加したことがあり、そのたびに汚くて臭い体液を頭から浴びたり耳鳴りに数日間悩まされたりと最低な目にあわされてきた。

 もはや年中行事とすらいえるランゴスタの大量発生の討伐なのだが、今年は例年よりも人が集まらなかったのだ。

 

 

 というのも不幸にもランゴスタの大量発生と同じ時期に、なんとバサルモスが大量発生(バサルモスな季節)したのだ。

 報酬も良く、何より大型モンスターとの戦いである。当然誰だって汚くて不快な羽虫となんか戦いたくないもんだから、世のヒッピーどもの大多数がそっちへと流れてゆき、例年よりも数が少ない、確か半分以下だったか? で討伐を余儀なくされた。

 

 

 俺? 馬鹿めそんな面倒くさいことしてられるか。ていうかその時は原稿の書き上げやらギルドからの依頼で携帯食料やら応急薬の作成でてんてこ舞いだ! あっちもこっちもいけるか! 

 てなわけで当然のように討伐漏れがあっちでもこっちでも現れ、何より現場がのやる気が著しく低いために見逃された結果、女王陛下がこの地に降臨してしまったのだ。

 

 

「笑っている場合ですか! こ、これをすべて私たちだけで討伐するのですか!?」

「ンン~?」

 

 

 畏怖と嫌悪、その他さまざまな感情がないまぜとなった表情で憤慨するガントレットに、俺は向き直った。

 

 

「まさか! 俺たちのターゲットは彼らの王、『女王虫クイーンランゴスタ』だ。彼女が死ねば、この群れは機能しなくなる。そうすれば後は自然の浄化作用がどうにかするだろう」

「ちょっと待ってくれ先生、確かクイーンランゴスタといえば……!」

 

 

 女王を呼び出す条件に思い至ったセンチスピードに、俺はにやりと笑いかける。

 

 

「そういう事だ。何心配することはない。ちゃんと羽虫の掃除の手伝いはするさ。ただし、女王は君たちがやりたまえ。これは不甲斐ないハンターたちの後始末でもあるが君たちに課す修行でもあるのだ」

「うえ~……」

 

 

 俺の宣言にソリティアはしたを出して顔を顰めた。しかしピーチフリルパラソルのグリップを握り、引き金に指をかけていることから、やる気は十分のようだ。

 

 

「全員散弾の装填は十分かね?」

「「……」」

 

 

 振り返って問いかける。センチスピードはグラビモスハウルを、ガントレットはレインバレッツ・白をそれぞれ構えた。

 

 

「よろしい、ではギルドからの要請に従い、ランゴスタ及びクイーンランゴスタの討伐を開始する」

「「ジジジイイイイイ!」」

 

 

 敵意を感じてか、縄張りへと入り込んだ異物を排除するためか、ともかく、雲霞の如く群れるランゴスタの一部が急降下。尻に生える毒針を突き刺さんと迫ってきた。

 

 

「総員、攻撃開始!」

 

 

 俺が手を振り下ろせば、3人は一斉に引き金を引き、空間に散弾をばら撒いた。

 避ける間など当然なく、真正面から散弾を食らったランゴスタたちは汚い汁をまき散らしながら爆散した。

 

 

「さてお手並み拝見だ。精々頑張ってみたまえよ」

 

 

 奮闘する後輩たちへエールを送りながら、俺は背負っていたライトボウガン『デゼルトテイル』を手に取り、突っ込んでくるランゴスタたちに向けてレベル3散弾をぶち込んで爆散させた。

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

「オォッ!」

 

 

 勇ましい声とともにガントレットは引き金を引き、レベル1散弾をばらまく。レインバレッツ・白は加工屋が施した不出の機構により余剰属性エネルギーで弾を複製し、対応しているレベル1散弾を三連射した。

 

 

「「ギギィ!」」

 

 

 放たれた弾丸の嵐は突撃してきたランゴスタ数匹をバラバラに引き裂いた。飛散った緑色の血液がガントレットの頬に付着した。

 

 

「次っ!」

 

 

 ガントレットは拭う間も惜しいとばかりに叫び、背後から襲い来る敵影に銃口を向け、景気良く引き金を引いてゆく。

 反応速度、狙い、ともに悪くはない。だがやはり、遅(・)い(・)。

 

 

「───チッ!」

 

 

 ガチンという音がして、引き金が固まる。弾切れ(アウトオブアモー)だ。ガントレットはそのまま足を止め、手元を見ながらレベル1散弾を込める。

 これもいけない。レインバレッツ・白はレベル1散弾が速射に対応しているが、その他レベル2、3も使えるため、グリップ横にあるつまみを捻りどちらかに切り替えて撃つべきであった。

 

 

 そして手元を見ながらというのも良くない。下位や上位になりたて程度の雑魚ならばともかく、それ以上のやつとなると、そういう隙を見つけるや否やこぞって突っ込んでくるものだ。

 見れば、ガントレットが視線を落とした瞬間、異様に反応速度が速い一匹のランゴスタが急降下突撃を繰り出してきた。

 

 

 咄嗟に気が付いたガントレットはリロードを途中で切り上げて銃身で守ったものの、受け損ねて跳ね飛ばされていた。

 G級での戦いの基本中の基本は敵から絶対に目をそらさないこと。そして隙になるような行動は極力しないことだ。だからリロードは素早く、また決して視線を向けないようにしなければ、G級のモンスターとの戦いの土俵にすら上がれないのだ。弾の切り替えなどで目を外すなど言語道断だ。

 

 

 あぁものすごい今更だが、基本的にこの世界のガンナーは弾をフル装填していない。なんでかって? 重(・)い(・)か(・)ら(・)だ(・)。

 基本的にボウガンは重い。ていうか狩猟で使う武器防具は死ぬほど重い。防具は言わずもがな。武器だって大剣とかはともかく片手剣だって双剣だってとっても重い。

 

 

 ゲームでボウガンの弾は基本的にフルで装填していたが、現実世界でそんなことしたら背負うのだって難儀するんじゃない? 俺はもちろんやっているが。

 ガントレットは執拗に追いかけてくるG級のランゴスタの攻撃をどうにかかわし、一撃離脱戦法の離脱の時に散弾を打ち込みやっとこさ仕留めることに成功した。しかし仕留めた先から次々にランゴスタたちは飛び込んできて、ガントレットは苦い顔で後退を余儀なくされた。

 

 

 他の連中も似たり寄ったりであった。

 

 

「クソックソックソ!」

 

 

 

 センチスピードが毒づきながら、引っ切り無しに射線に飛び込んでくるランゴスタへ向けてレベル3散弾をばら撒きまくる。

 散弾が飛び散り、肉片や甲殻、堅殻、体液が飛び散り、地面を濁った緑色へと変えてゆく。

 

 

 

 グラビモスハウル。ヘビィボウガンなので重い。特にこいつはグラビモスの素材をふんだんに使っているので特に重い部類だ。それを問題なく持てる上に反動でよた付かないのは、ひとえにガンランスを使っていた時のノウハウが生きているのだろう。あとグラビドSシリーズには反動抑制のスキルがあるから、その助けの相乗効果か。

 しかしやはりというべきか、撃つときにいちいち足を止めるのはよくない。こいつ、良くも悪くもガンランスの撃ち方なのだ。俺の下で修練に励むのならば、かつての常識は早々に捨て去ってもらわねば困る。

 

 

「も~ヤダ―ッ! 気持ち悪いよ~!」

 

 

 半泣きになり、あちこちを緑色に汚したソリティアが散弾を乱射して津波めいて襲いくるランゴスタをクズ肉へと変えてゆく。散弾で敵を攻撃する関係上、どうしても至近距離での戦闘となる。

 女性にとって甲虫種と、その上ごく近い距離で戦うなど拷問に近い行為だろう。さらに身だしなみにも気を使っている彼女からすれば汚くて臭い体液を頭から浴びるのは到底許容できないに違い。助け舟を出してやるつもりはさらさらないが。

 

 

 全体的に動き自体は悪くない。しかしあくまでそれは旧来の動きとしてはだ。ゲームでの動きが基準の俺から見れば、それは及第点もあげられない。やはり上に行くならば、最低でも移動撃ちくらいはマスターしてもらはなければ困る。

 

 

「「ビイイッ!」」

 

 

 と、シャーテックの連中を見つめているのを隙と見たのか、おそらくG級のランゴスタ三体が編隊を組んで襲い掛かってきた。

 

 

 

「えぇい鬱陶しい」

 

 

 俺はつまみを捻って弾種を散弾から火炎弾へと切り替え先陣を切って突っ込んでくるやたら大きいランゴスタを爆散させ、燃え広がる炎を嫌って左右に散った二匹の腹にそれぞれ火炎弾をぶち込んで各個撃破する。

 

 

 それから俺はそのまま散弾に切り替え、ようとしたけど一旦やめ、代わりに弾込め穴(ローディングゲート)を開いた。

 すると示し合わせたようにランゴスタが殺到して、俺は思わず苦笑いを浮かべてしまった。

 

 

「ハン、狙いが分かりやすすぎるわ」

 

 

 もちろんリロードはせず、つまみを捻って散弾に切り替えると飛び込んできたランゴスタの大群をレベル3散弾で根こそぎに薙ぎ払った。

 

 

「さぁ~てだいぶ削ったし、そろそろかな」

 

 

 俺は首をめぐらせて周囲を見回す。そうすると、攻撃に参加する個体が先ほどとは目に見えて減少しているのが分かった。つまり配下を散々に削られ、彼女はついに重い腰を上げたようである。

 

 

 

「お?」

 

 

 噂に影とはこのことで、壁めいて飛び回るランゴスタの天蓋に、不意に穴が開き、地面に黒い影が生じた。

 

 

「ギィイイイイ」

 

 

 穴の向こう側から決して大きくないが、しかしどこか威厳を感じさせる声が聞こえた。ようやく女王のお出ましだ。

 

 

「こ、こいつが!」

 

 

 ゆっくりと降下してくる巨体にガントレットが生唾を飲んだ。

 

 

「ようやく女王陛下のお出ましってわけだ」

 

 

 攻撃が止んだとみるやすかさずリロードを済ませたセンチスピードが吐き捨てるように言った。

 

 

「キッ───」

 

 

 ソリティアに至ってはあまりの気色悪さに絶句していた。

 

 

 ランゴスタの数倍の巨体。醜く膨れ上がり絶えず蠕動する腹部。特徴的な羽音を放ちながら『女王虫クイーンランゴスタ』が、親衛隊めいて侍らす複数のランゴスタとともについに姿を現した。

 

 

「取り巻きは俺がやろう。その代わり、女王は君たちが」

 

 

 ───ズシン

 

 

 やるんだ。そう言おうとした。その瞬間に、心臓が一際大きな音を立てて鼓動を刻んだ。主観時間が鈍化し、周囲の動きが泥めいて鈍化する。

 

 

 ───ズシン、ズシン

 

 

 それは大地を踏みしめる力強い足音だった。踏みしめられた衝撃が空気を振動させ、耳の穴を伝い、鼓膜を微かに震わせた。

 

 

 ───ズシン、ズシン、ズシン

 

 

 足音は響くたびに強さを増し、間隔も徐々に狭まってきていた。俺の鼓動もそれに合わせて徐々に高く、速く、刻む。

 

 

 

 ───ズシン、ズシン、ズシン、ズシン、ズシン

 

 

 足音がリズムを刻むたび、目の前に君臨する女王が、虫共の羽音が、鳥獣共の鳴き声が、他の事象が、すべて消えてゆく。足音しか耳に入らなくなる。他のすべてが些事となる。

 

 

「───お前ら引け」

「え?」

 

 

 呆けた声を返すガントレットへ、俺は怒鳴り返す。

 

 

「さっさと引け! 邪魔だ!」

「「アッハイ」」

 

 

 俺の剣幕に体をびくりと震わせながらも、彼らは文句ひとつ言わず指示に従った。出来た弟子たちである。

 引き下がった彼らと入れ替わって前に出てくるのは、いつもの二人。俺と同じく事態を把握しているようで、二人とも戦闘準備はばっちりである。多少緑色で異臭が香るが、みじんも気にした素振りもない。

 

 

「ギギィ……?」

 

 

 訝るように女王は首を傾げた。俺の行った行動が不可解のようだ。もっとも彼女がそれを気にする必要はない。

 

 

 何故なら。

 

 

「ギシャアアアアアアアアアア!!!」

 

 

 すさまじい咆哮を上げながらそれは女王の真後ろから現れた。壁めいて展開するランゴスタが、それこそ羽虫さながらに砕け散って四散する。

 城壁に穴をあけて現れたのは、緑色の外殻と全身に生えた硬く鋭く毒々しい赤い棘が特徴の、大型の竜であった。

 

 

「ギギィ!?」

 

 

 そいつは親衛隊ごとクイーンランゴスタを粉砕し、地面をドリフトしながら急停止した。

 

 

「グルグル……!」

 

 

 闖入者は女王の遺体を怒りの赴くままにバリバリとかみ砕き、飲み込んだ。それでもなお怒りが収まることはなく、まるで茨を竜の形にしたかのようなその竜は、憤怒に燃える瞳で周囲を睥睨した。

 

 

 〝うるさああああああああああい! 〟

 

 

 怒り狂った密林の覇者『茨(いばら)竜エスピナス』が、咆哮を上げながら、全く無関係な俺たちに向かって突っ込んできた! 

 

 

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