ゆるく始めてゆるく終わる。そんな感じで行きます。
ふるえる指にふるえる足。視界なんてグラグラで、見つめる天井が遠くにいったり近くに来たり、とても立ってはいられない。
頭はぼうっとしてちゃんとしたことは何も考えられず、「今日のあたし気分最悪だー」なんて呟いてみても、喉がひりひり痛いだけ。
……まぁ、うん。なんていうか。
風邪を引きました。
——しかも。
「……水、飲めるか?」
あたしが風邪だとわかってから、ずっとそばに居てくれてるヒッキーのせいで、熱はずっと上がりっぱなしだ。
『すまん、今日そっち行けなくなった。俺達——オイ葉山。なんだ「なるほど」って。別になんもしちゃいねーよ。そっちがその気なら、お前のアドレスを平塚先生に教え……理解が早くて助かる。で、俺達2人は今日はホテルにいるから。それじゃあな』
……ええと。
ヒッキーとあたし、ゆきのん、さいちゃん、隼人くん、優美子、戸部っち、姫菜。
あたし達奉仕部のメンバーに、隼人くんグループのメンバーでスキーに来ています。
学生のうちにヒッキーとスキーできるなんて思ってなかったから、ちょっとドキドキするね。
……ドキドキし過ぎて風邪を引いちゃったなんて、ママにも言えない。
ホテルのベッドの中で1人悶々としてると、電話が終わったヒッキーが戻ってきた。
「……とりあえず、葉山達に連絡はしといた。もうすぐしたら雪ノ下が来てくれるらしいから、それまでは部屋の中に居るわ」
「……あ、ありがと……げほっ、ごほっ」
むせるあたしを心配そうに見つめるヒッキー。
「……だ、だいじょぶ。少しむせただけだよ」
子犬のように寂しそうな視線を送ってくる彼に笑って返すと、彼は「そうか」と言って水を取りにいってくれた。
コップをもらって、ひと息つく。……うん、咳は治まったみたい。
ベッドの近くにある椅子にヒッキーは座る。さっきよりも少し距離が近くてドキドキ度が上がった気がする。
「しかし、災難だったな。楽しみにしてたんだろ?」
「あ……うん。楽しみにはしてたけど、しょうがないし。それよりごめんね、迷惑かけちゃって。ヒッキーも楽しみにしてたのに」
前と違って、最近の休みは戸部っちや隼人くんとも遊びに行くようになったヒッキー。
今回のスキー旅行も、ヒッキーを誘ってついて来てくれたのは正直意外だった。
「俺は元々インドア派だから気にしてない。それにスキー場ってリア充共の聖地みたいなとこだから、俺には合わんしな」
……まぁ、口ではそう言うんだけど。
「……無理に付き合わせちゃったのかな。小町ちゃんに聞いたら是非って言ってたからさ」
それを聞いたあたしがしゅん、てして見せると、
「……や、来てみたら来てみたで景色とか結構綺麗だし。持ってたより楽しいぞ」
そっこーで手のひら返すし。
「そっか。……よかった」
「おう。……」
ヒッキーの、素直じゃない捻くれたところも好きだけど。時々、こうゆうふうにあたしを気遣って意見を合わせてくれるところも好き。
本人曰く「腐ってる」らしい目。確かにキラキラ輝いてはいないけど、ヒッキーの顔つきもあるから、安心できる視線で、あたしにはすごく魅力的に見える。
そんな彼の視線を、もう少しだけ独り占めしたかったのかもしれない。
気づいたらあたしは、ヒッキーを呼んでいた。
「……ヒッキー」
「ん?」
あたしの小さい声に、ちゃんと気づいてくれるヒッキー。
だけど呼び止めて気づく。
……なんで呼んだんだっけ?
「……ヒッキー、えと、ヒッキー……?」
ああ、そうだ。ちゃんと〝ありがとう〟を言わなくちゃ。
「なんだ?」
……あれ、でもさっきありがとうは言った、から……?
ああそうだ。きちんと、ちゃんと言わないと。
「あのね」
あの時からずっと、変わらないあたしの気持ち——
「……だいすき、だよ」