トレーナーはオリトレということでお願いします。
慣れない地での睡眠はなかなか難しく、夜中に目が覚めてしまった。
手元のスマホを覗くと2時を刺している。スマホを閉じ、もう一度寝ようと目を瞑る。だが、どうにも落ち着かない。スマホのブルーライトを浴びてしまったからか中途半端に目が覚めてしまったようだ。
ただでさえ朝が弱く、この時間に起きていると朝が怖い。
私は参ったなと頭を搔いた。暫くじっと目を瞑っていても寝れる気配は無かったので、仕方なく寝ることは諦めてトレーナー君の邪魔にならぬ様夜風を浴びるために散歩にでも行こうかと考えた。
先程までは真っ暗で何も見えなかったが、目が慣れてきたのか少しずつ見えてくるようになった。部屋の様子は1箇所を除いて特に変わりはない。今日私たちが泊まっていた旅館の部屋だ。
寝る前と違う点は1つ、隣にトレーナー君が居なかった事だ。
辺りを見渡してみる。部屋は特に変わりないが、視界の端に蛍の光のようなボンヤリした優しい光が見える。私は眠たげな身体を動かしながらそこに近寄る。近付いていくと、それは障子を挟んでいるためぼやけた光り方をしていたことに気が付いた。障子の目の前に着き、障子に手をかける。
──何か良からぬものだろうか。
不穏な考えが過ぎり、身体に緊張が走り体が強ばる。…ふぅ。と一息付き、意を決し障子をそろりと開ける。そこに居たのは、
「こんばんは。ルドルフ。」
顔を綻ばせ、仄かに上気させたトレーナー君だった。
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「トレーナー君だったか…良かったよ。変なものじゃなくて。」
私はホッと安心し、トレーナー君の隣に座る。トレーナー君は私が邪魔じゃないのかと一瞬だけ不安になるが表情も変えず外の風景を眺めていて、安心して彼の横に鎮座した。
「ごめんな。起こしたか?」
彼はにへらと私に笑いかけ、グラスに入った飲み物を飲む。彼の顔から目を逸らし、チラリとテーブルの上を見ると水が入ったボトルとグラス、そして日本酒が入った瓶が置いてあった。
「晩酌中か。邪魔だったかな?」
「いや、丁度良かったよ。話し相手が欲しかった。」
彼は空になったグラスに水を7割、酒を3割という比率で注いでいく。
グラスに並々と注がれたその液体は照明に照らされ、酒自身が存在を誇張するようにキラリと輝いた。
それがなんとも綺麗で、つい最近まで酒は体を蝕むものでしかないと勝手に思っていたがそれが払拭されるぐらいに感動していた。
…呑んでみたいな。
「…ルドルフもなにか飲むか?」
トレーナー君は私に気を使ったのか尋ねた。これはチャンスだ。
「そうだな…では、私も同じ物を頂こうかな。」
トレーナー君は私の言葉を聞いた途端顔を曇らせる。
「…ルドルフって未成年だったよな?ルドルフは大人びてるからたまに忘れるんだけどさ…」
流石に止めておこう、と釘を刺され少しだけ私の耳が下がるのを感じた。だが、私とて未成年だからと身を引く程良い子ではない。
「何、未成年と言えどもう私は19歳だ。健康面も問題ないだろうしトレセンの卒業も近い。そして何より此処には君と私しかないない。推定無罪。バレなければどうということも無いんだよ。トレーナー君。」
私の屁理屈を聞いてトレーナー君は更に顔を曇らせた。…困らせたかった訳では無いのだが、少し悪い事をした。
彼ははぁ…と深いため息を吐いて頭をかいた。
「ったく…ルドルフをこんな悪い子に育てた奴はどこのどいつだよ…」
彼はもう一度溜息を吐き出しながらグラスをもう1つ出す。彼は慣れた手つきで酒を注いでいく。比率が少し違う気もするが、私が初めての飲酒だからと酒の比率を減らしてくれているのだろう。
如何なる時も厳しく、そして正しく私を律してくれたトレーナー君がお酒を飲ませてくれるなんて、やはり酔っているのか何時もよりもトレーナー君は甘い。それがいい事なのかかどうかは判断出来ないが、この場においてはお互いに甘くなっても問題ないだろう。
「ほい。ルドルフは酒初めてだろ?」
彼は私の前にグラスを置いて訊ねる。こくりと私が頷くと彼はまたニコリと笑った。
「とりあえず七三だと濃い過ぎるかもしれんから八二にしといた。飲むのキツいと思ったらすぐ言うんだぞ。」
目の前に置かれた無色透明の液体は、先程見たように照明に照らされてキラキラと輝いている。
普通、酒を初めて飲む時はフルーティな甘い酒を飲むらしい。そこからアルコールに慣れていくらしいのだが日本酒から入るのは少し珍しいのかもしれない。
少しだけ高鳴っている鼓動を抑えどんな味か想像も出来ないその液体を、少量口にしてみる。
口に含んだ瞬間、じんわりとした苦味と仄かな甘みが広がった。そして同時に独特の風味が鼻をつく。
少しの時間舌の上で転がし、味と風味を十分吟味して飲み込む。胃から体全体に優しい温かさが広がっていく。
「美味しい…」
「だろ?」
彼は得意げに笑い更に1口お酒を飲んだ。
「ふぅ…この酒、他と比べて甘いから酒を初めて飲む人でも案外飲みやすいんだよな。まぁ流石に一気で飲んでしまったらヤバいけど。ルドルフがそうならないで良かった。」
彼は笑いながら私の頭をわしゃわしゃと撫でる。ピリピリとした優しい快感が乱れた波紋のように身体全体に伝わる。…髪が崩れるからもう少し優しくして欲しいものだが。
「まぁ…そうだね。トレーナー君が1口づつしか呑んでいなかったから私も真似しただけさ。それが功を奏したという事だ。」
「あぁそうだな。」
トレーナー君の言葉を最後に静寂が訪れた。お互いに何処を見て何をする訳でもなく、只只この静寂を楽しんでいた。外からは鳩か梟か…どちらかは分からないが少し寂しさを感じさせるような鳴き声が聴こえてくる。
彼は突然、何も言わずに私の頭を撫でた。先程と違い優しく、髪の流れに沿って彼の手が流れていく。
少し驚いたが彼から進んで頭を撫でてくれた事が何も変え難い事だったので何も言わなかった。お返しでは無いが、私は彼の肩に頭を乗せた。柑橘系の甘酸っぱい匂いと少しのアルコールの匂いが鼻腔をくすぐる。撫でづらいのか、彼の体が少し揺れた。
細々とした彼の身体は少しばかり頼りないが、彼の本当の強さが身体と比例していないことを私は知っている。
密着したまま目を瞑ると彼の心音や体温が過敏に感じられる。少しこそばゆいが、不思議と不快感や羞恥感はなかった。
彼もまた、何も言わなかった。
…これだけ幸せな静寂は今後一生あるのだろうか。と少し不安になる。これが所謂ノスタルジーに浸るというやつなのかもしれない。
その静寂を破ったのはトレーナー君だった。
「なぁルドルフ。俺がなんでトレーナーになったのか分かるか?」
彼はあまり自分の事を語りたがらない。私としては彼の事を少しでも知りたいと思ってはいるのだが、彼がどうしても話したがらないので話してくれることを待つ事にしていた。それも相まってかハッキリ言って彼の事はあまりよく知らない。同じ部屋で一夜を過ごす仲だというのに何も知らないとは、皮肉にも笑ってしまう。
何故…と言われたので少し考えたが、やはり分からなかった。
「──皆目見当もつかないよ。」
彼は意を決したのか小さく息を吐いた。
「俺さ…天才になりたかったんだよ。」
「…………??」
…彼は何を言っているのだろう。天才になりたかった。という願望が何がどうやってトレーナーという職に就きたいという考え方に辿り着くのだろうか。
頭を捻り考える…が、やはり何も結論は出なかった。
「──いや、少し違うな。俺は『天才達が見る景色』が見たいと思ったんだ。」
彼はそのまま過去の自分に思いを馳せ、言葉を紡いだ。
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俺はトレーナーになる前に、ある夢を掲げていた。「天才達が見ている景色が見たい。」というまぁなんとも中学二年生が考えそうな夢だ。でも、その頃の俺は本気だった。どんな天才でもいいからそいつが見る景色に辿り着いてやろうって必死だった。
先ずは絵画から手を出した。ピカソやらゴッホやらモネやら、そいつらが見る景色がどんなものなのかハッキリさせてやるって死に物狂いで絵を描きまくった。結果は当然失敗。賞に何度も挑戦したがかすりもしなかった。
次に小説だ。江戸川乱歩やら太宰治やら、そいつらが見ている景色が見たかった。俺もその景色から見える情景を書きたかった。毎日毎日ペンだこが潰れてはでき、潰れてはできを繰り返すぐらいには書いて書いて書きまくった。
結果は…ダメだった。小説だけは挫けずやってやろうと高を括っていたが、親に殴られて止めた。
他のものにも沢山手を出した。毎日毎日天才達だけの事しか考えなかった。
でも結局、いつの間にか手を伸ばせば届いたものや時間を失って、空白の3年間が出来てしまっただけだった。
結局夢やら何やら全部諦めた後、何をする気にもなれなくて、2週間ぐらい怠惰な生活を続けた。
あまりに無気力で、この生活を続けたらいつか近いうちに死ぬんだな。ってなんとなーく考えていた。だがある日、散歩の帰りにふらりと東京競バ場に立ち寄ったことで止まっていた歯車が一気に動き出した。競バ場に立ち寄った理由は一切覚えていない。まぁ、俺のことだから大した理由はないだろうな。
その日ははちょうど重賞レースの日で、観客も熱量も相当なものだった。
チケットを買い、初めてレースを観た。
レースを見た感想は在り来りだが、人生で1番興奮した。
ターフの上での彼女達の高度な読み合い、スパートが掛かった時の歓声、最後の直線のデットヒート。心が震えた。心の内から声が出た。久しぶりに声が出た。その時点で、俺はトレーナーになる覚悟を決めた。
そこからは早かった。要領は或程度良かったようで半年間の勉強でトレーナー試験に合格出来た。その後チームでのサブトレーナー期間を終えて、やっとこさトレーナーになれた。
そして、あの時の選抜レース。あの時はとりあえず強い娘を引き抜こうとか考えていたが、俺みたいな新人には無理だろうなあ。とも考えていた。考えていたんだ。だが、あのレースの結果を見てその考えがひっくり返った。
完璧なレース運び、稲妻が走ったと錯覚させるようなあの末脚。そしてレースが終わった後とだというのに毅然とした態度。天才としか思えなかった。あれは誰だと俺は血眼になってゼッケンを見た。
彼女の名はシンボリルドルフ。もうその時俺は既に彼女に惚れていた。
彼女は必ず俺が担当する。どんな苦難が待ち受けていようとも。
俺は人知れず静かに覚悟を決めた。
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話が終わると、彼は羞恥心を誤魔化すかのようにグラスに入った酒を一気に飲んだ。
「─ルドルフにはいつか話さなきゃいけないとは思ってたんだ。だが、勇気が出なかった。半端なクソ野郎だった時期をさらけ出す勇気が出なかったんだよ。アルコールの力を借りないと自分の過去すら話せない俺が恥ずかしい。」
彼はグラスに先程と同じように注ぎ直し、呑む。心做しかその動きが少し粗雑で乱暴なものに見えた。
私は彼の話を聴いて頭の中で迷子だった全ての点と点が繋がった。胸の奥でこびりついていた違和感がきれいさっぱり取れた気がした。
「…なるほど。そこからあの誘い文句に繋がったのか。たしか──」
「『君が見る景色が…君の見る夢の行く末が見たい。君と同じ視線…いや、君と同じ視座に立って。』だったかな?」
私をスカウトした際、彼は私の夢を知らなかったはずだ。それなのに何故彼はそんなことを言えたのだろうかと不思議に思っていた。
だが私の夢を見たいと言ったのは彼だけだった。更に、その目に宿る覚悟と熱量に射たれて契約を結んだのだ。
それを聞いた瞬間、彼は顔を真っ赤にして掌で顔を隠した。
「やめてくれ黒歴史なんだよ…その誘い文句があったおかげでルドルフの担当になれたんだけどやっぱ恥ずかし過ぎる。記憶から消去してくれ。てかなんで一言一句覚えてるの?」
彼の力無い交渉に私は笑って答えた。
「流石に無理だ。記憶力は良い自信はあるが、記憶の消去は専門外だよ。残念だったね。トレーナー君。」
彼はだよなぁぁ…と力無くテーブルに項垂れた。
私は彼の過去を聞いて、彼を形作る礎が少し理解出来た気がした。
彼は天才になりたかったのではなく、天才達が見ていた景色が見たかっただけなのだろう。
だが、天才達はあくまで自分のしたいことや自分の好きなものを突き詰めた結果天才と言われるようになった。結局、天才の背中を追い続けるだけでそこまで到るのは厳しいものがある。
彼は、私を担当することで廃れかけていた夢をもう一度取り戻そうとしていたのだろう。
数々の人々から天才だと崇められ、畏敬の念を向けられたこの『皇帝』たる私と同じ視座に立つことで。
だが、私の考えが正しければ彼の夢は既に無事叶っている事になる。
──私はもう、お役御免なのだろうか。
私は気になり、遠回しに彼に訊ねた。
「なぁトレーナー君。君は私の視座に立って……私が見る景色を見て、どう感じた?」
彼は顎に手を当て考える。
「…まだ、分からない。」
「まだ、とは?」
「ルドルフの夢はまだまだ始まったばかりだからな。君が今見ている景色は俺にとっての答えではない。」
彼はまたへらりと笑った。
──そうだな。彼はそういう人間だった。
だが、と彼は一言入れ、さらに言葉を紡いだ。
「ルドルフと共有する景色は、他に変え難いものだ。」
そう言って彼は窓の外を見た。私も釣られて外を見る。
「おぉ…」
そこには、満月が2つ在った。いや、正確には空で地上を柔らかく照らす月の光を下にある湖が反射しているだけなのだが、あまりに綺麗に映しているものだから錯覚してしまった。
静寂に包まれた暗闇の中にポツンと在る月は、他の星々の光を我がものとして飲み込んでいる。だがそれは自ら他の光を奪っているのではなくそこに在るだけで、自分の使命を全うするだけで、奪ってしまうのだ。
…やはり月には、何故か切っても切れない縁を感じる。名前にせよ、境遇にせよ。
対になって辺りを優しく照らしているふたつの月は、やがて緩やかに地平に沈み1つに戻っていくのだろう。…それが少し寂しくて、儚さを感じた。
「綺麗だろ?」
言葉を失っていた私に対して彼は得意げに話した。
「この時期はこれが見れるから観光客が多いんだよな。しかも部屋代も高い。温泉旅行券を当てれてほんとに良かった。」
彼は相も変わらずへらりと笑い窓から景色を眺めた。
──もう、変な事は考えるのは止そう。彼の無邪気に笑う横顔を見てそう思った。
彼は、私に対して全てを打ち明けてくれた。
───ならば私は、それ相応の距離感で居ていいだろう。
「私の名前はルドルフだが…幼い頃、家族からは『ルナ』と呼ばれていた。」
彼は私が唐突に話すものだから少し驚いていたが、すぐに元の調子に戻った。
「あぁそうだな。2年前に教えてくれたのを今でも覚えてる。」
彼はあっけらかんと私の心境も知らず言葉を待っている。
…さぁシンボリルドルフよ。覚悟を決めろ。
「是非、君にもルナと呼んで欲しい。」
「はっ…?」
彼は砕けた笑顔から一変、口を開けたまま固まってしまった。
「ずっと前から考えていた事なんだ。君と去年の有馬記念を制してからずっとそう思っていた。タイミングが無かったからずっと言えなかったのだが…お願いだ。」
私は頭を下げた。拒否されたらどうしようという不安や焦燥の負の感情で頭が埋め尽くされる。額と掌に脂汗が滲む。
その不安は、彼の一言で吹き飛んだ。
「顔を上げてくれ。ルナ。」
顔を上げると彼はにへらとした笑顔では無く、全てを包み込むような優しい…陳腐だが、まるで聖母のような笑みで私を見つめていた。
「ルナって確か三日月って意味だったよな。なんつーか、好きだよ。ルドルフの幼名。ルドルフのどっしりとした感じも好きだけどルナっていう跳ねるような…まるで妖精みたいな名前。…是非、俺にも呼ばせてくれ。」
彼は手を差し伸べた。
…彼の一言一言が、私の心の柔らかい部分をギュッと握りしめる。
「今夜は満月だけど、今度は三日月の日にもう一度来ようか。」
──もし次にまたここに来た時、私はどうなってしまうのだろうか。男女の仲で泊まりがけで旅行なぞ皇帝として…生徒を模範として導く会長として、どうなのだろうか。
だが
「ーーもう一度、という言葉でここまで心躍る日が来るとは思っていなかったな。」
私は、彼の手を取った。
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「…さて、そろそろ寝るか。目当てのもんは 見れたしな。」
照明を切ると途端に部屋が暗闇に変わり、先程まで時間は夢だったのではないかと錯覚してしまう。
「んじゃ、寝るか。」
彼は先程までもぬけの殻だった布団に入った。私も先刻まで寝ていた布団に入ろうと思ったが…先程まで肌が触れ合う程近くで言葉を交わしていたのに、布団に入るだけで離れ離れに鳴るのは少々寂しい。私は、彼と同じ布団に入った。彼はやはり何も言わない。
「自分で入っておいてなんだが…今日の君、少し甘過ぎないか?」
私の言葉を聞いた彼は寝返りをうち、私の顔を見た。
一回り小さい私の体をチラリと見て、そのまま抱きとめた。
「別に…ちょうどいい抱き枕が自分から布団に入って来てくれたからな。拒む必要がなかった。それに、酒を飲んだ時ぐらい甘くてもいいだろ。」
何時もは厳格な姿勢を貫いているのにこういう時だけほんのり甘い…まるで先程まで飲んでいたお酒みたいだな。と苦笑する。
彼の顔は見えないが、相も変わらずへらりと笑っているのだろう。彼の少し早いぐらいの心音が、少し高い体温が、アルコールの交じった彼の匂いが、私の躰にやって来る。それが異常に心地が良くて、瞬く間に眠気に襲われた。
「ごめん。そろそろ寝るよ。限界みたいだ。」
彼は柔らかい、包み込むような声で答えた。
「ああ。ゆっくり寝よう。どうせ明日は休みだ。昼過ぎまで寝てくれて構わない。」
今は2時過ぎ。今から寝れば確実に朝食の時間は超えるだろう。まぁ、彼もいいと言ってるんだ。お言葉に甘えよう。
「明日までお別れか…なんだか寂しいな。」
「沈んだ月はまた登る。すぐに会えるさ。」
彼の言葉を聞いて、私は静かに目を閉じた。
明日は、彼の作品を見てみたいな。絵も、小説も、彼が生み出した色々なものを見てみたい。
いつか、彼と同じ高さの身長になってみたいな。彼が見ている景色を見たい。
そしていつか
───彼の視座に、立ってみたい。
それまで、
「おやすみ。トレーナー君。」
「おやすみ。ルナ。」
[完]
読んでいただきありがとうございました。
pixivでも小説を更新していますので宜しければどうぞ。