天使狂信者のいるナザリック地下大墳墓   作:セフィム

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第5話 口論と驚愕

 至高の御方のご帰還。その話を聞いて真っ先に動いたのは、〈転移門(ゲート)〉の使えるシャルティアだった。

 踵を返すのと同時に大地から影が膨らみ吹きある。影はそのまま扉のような形を取ろうとするが、それよりも先に天使が呪文を謳った。

 

「〈次元封鎖(ディメンジョナル・ロック)〉」

 

「ちょ、ガブリエル! 一体何をするでありんすか!? ペロロンチーノ様が! ペロロンチーノ様がご帰還されたと言うのに!?」

 

「そ、そうだよ。いきなり転移阻止の魔法を使うなんて」

 

「ぼ、僕たちもぶくぶく茶釜様に会いたいのに」

 

 転移を阻止したガブリエルにシャルティア、そして双子のダークエルフ、男装女子アウラと女装男子のマーレが抗議を上げる。声を上げてはいないがコキュートスもガブリエルの行動に少しばかり敵意を向ける。

 そのことについてガブリエルが口を開こうとするよりも早く宝物殿の守護者、パンドラズ・アクターが口を開いた。

 

「皆様、今モモンガ様たちと会うのは良くないかと」

 

「何故ダ!? 武人建御雷様モゴ帰還サレタト言ウノニ!?」

 

「ただでさえ至高の御方が困惑するほどの事態に、我々が赴けば余計に混乱させてしまう可能性があります」

 

「パンドラズ・アクターの言う通りよ。それに今回の指揮権は、ガブリエルが預かっているのよ。勝手な行動をして状況を悪化させればエルゼル様やモモンガ様たちへの反逆行為になるわ」

 

 ガブリエルを擁護するパンドラズ・アクターとアルベドの言葉に、今すぐにでも生みの親であり至高の御方であるペロロンチーノたちに会いたいシャルティアたちは渋々納得する。

 それでも残念そうに、悲しそうな顔をするシャルティアにガブリエルは聖母のような慈愛に満ちた笑みを零して語りかける。

 

「シャルティア様、そんな顔をしないでください。今ペロロンチーノ様たちはナザリックの施設を堪能していて、お酒も飲まれているので今会いに行っても感動の再会など出来ません。なので今はナザリックのために働き、そしてペロロンチーノ様と再会して褒めていただきましょう」

 

「ッ! はいでありんす! それで何をすればよいでありんすか!」

 

 一気にやる気を出したシャルティアに続きアウラたちもやる気を見せ、ガブリエルの言葉を一語一句逃さぬように耳を傾ける。

 その姿に微笑を浮かべるガブリエルは、守護者たちを見渡すとゆっくりと口を開いた。

 

「まずは確認いたしましょうか。私たちが自我を表せる以外に異変はありませんでしたか? 些細なことでも構いません」

 

「第七階層や他の下僕たちに異常はなかったよ」

 

「第六階層も同じくなかったよ」

 

「う、うん。お姉ちゃんの言う通り、です」

 

 デミウルゴスから次々と異常無しと各階層守護者たちが答えていき、続いてナザリックでも重要な場所の一つ宝物殿の守護者パンドラズ・アクターに視線を向ける。

 視線を向けられた宝物殿守護者はカツンと踵を合わせて鳴らすと、オーバーなアクションで右手を帽子に添えて敬礼する。

 

「宝物殿にも異常はありません!」

 

 パンドラズ・アクターの大袈裟な動きと異様にテンションの高い言動にデミウルゴスたち男性陣は無言、女性陣は目に見えて引いていた。

 しかし、今回指揮を任されているガブリエルは、シャルティアたちのように引くことは無く微笑を浮かべたまま「そうですか」と頷く。

 

「第四階層もミカエルたちから聞いた限り異常はありません。第八階層は……」

 

「それだったら私が行くわ」

 

「ではアルベド様にお願いします」

 

 第八階層をアルベドに任させると、己の創造主に褒めて頂くために仕事が欲しいシャルティアがガブリエルに進言する。

 

「では地表部分はわたしが」

 

「いえ、それはエルゼル様の命によりセバス様とミカエルたちに探らせ終えました」

 

 玉座の間に居たアルベドの顔に驚きはないが、他の守護者の顔には動揺が浮かぶ。

 

 ナザリック地下大墳墓にて、肉弾戦では最強レベルのNPCは五人居る。

 武器を持たせれば最高の攻撃能力を持つコキュートス。重装甲に身を包み、守護するという意味では他を寄せ付けないアルベド。純粋な格闘戦では最も優れ真の姿込みでは先の二者を凌ぐだろうセバス。

 

 そしてこれら三人を凌駕するナザリック地下大墳墓NPCにおいて一、二を争うNPCが二人。

 

 そのうちの一人が第一から第三階層守護者のシャルティア・ブラッドフォールン。真剣(ガチ)職業(クラス)構成に加えて凶悪な神器級(ゴッズ)アイテムを所有する最強の存在、他のNPCでシャルティアに勝てる者はいない。ただ一人を除いて……

 

 それがガブリエルと同じくエルゼルによって作られた第四階層領域守護者の一人、四大天使の肉弾戦を担当するウリエルだ。

 シャルティアと同じく真剣(ガチ)職業(クラス)構成に加えて天使への愛に一切妥協が無い天使狂信者(エルゼル)によってミカエルたち四大天使には入手方法が面倒なレア職業やスキルを獲得、シャルティアや他のNPCですら一つか二つしか持っていない神器級アイテムを全身に装備している。

 因みにこの事についてギルメンはエルゼルの努力にある意味関心しつつドン引きした。

 

 守護者たちが驚愕したのはそんな搦め手無しの真っ向勝負において無類の強さを誇るセバスと、ナザリックにおいて最強の戦力部隊である四大天使を起用して偵察という簡単な任務に出した。

 それだけ命令を与えたエルゼルが今回の異変についてとても強い警戒心と危機感を理解した。

 

「では、セバス様。外の状況をみんなにも」

 

「わかりました。まず周囲一キロですが、草原です。人口建築物は一切確認できませんでした。生息していると思われる小動物を何匹かは見かけましたが、人型生物や大型の生物は発見できませんでした。ただ、ミカエル様達が上空で周辺を確認した所、南西に十キロほど離れた森の先に小さな村があるとのことです」

 

「ふむ。セバス、その村に何か対応したのかな?」

 

「はい、デミウルゴス様。ミカエル様の提案により影の悪魔(シャドウ・デーモン)を数体潜らせています。それ以外は特にしておりません」

 

「なるほど……」

 

 セバスの報告に何か思考を巡らせているデミウルゴス。その様子にガブリエルは、険悪な雰囲気になる前に話を進めようと口を開く。

 

「毒の沼地から草原へ転移。そして自我を持ちつつも自由に動けなかった私たちが突然動けるようになった事と言い謎は尽きません」

 

「だけど、この事についてエルゼル様は予見されていたのよね。だから、貴女に予め指示を与えておいた」

 

「えぇ、その通りです……」

 

 アルベドの言葉に答えるもその顔に一瞬影が射す。

 その影にアルベドを含む階層守護者たちは誰も気がつく様子はないが、ただ一人周りの空気を読むことができ瞬時に相手の心情を察することのできるドッペルゲンガー、宝物殿の守護者が気が付いた。

 

「一つよろしいでしょうか、ガブリエル様」

 

「何でしょうか、パンドラズ・アクター様」

 

「エルゼル様はご帰還されているのでしょうか?」

 

「ッ!」

 

 パンドラズ・アクターの質問に思わず言葉を詰まらせてしまう。

 すぐに返答しない。それだけでアルベド以外の階層守護者たちは察してしまった。

 

「ま、まさか! エルゼル様がナザリックを去られたでありんすか!?」

 

「そんなことは絶対にありません!」

 

 シャルティアの言葉に今まで聖母のように優しく落ち着いた口調だったガブリエルが初めて言葉を荒げた。

 その姿に心の何処かでモモンガと共に最後までナザリックに残り続け、見かければ自分達に声をかけてくれた最も慈悲深いエルゼル・セフィロトスが去られたのだとわかってしまった。

 

「エルゼル様は、必ず帰ると仰ってくれました! 何か……!」

 

「落ち着きなさいガブリエル!」

 

 取り乱し今にも泣き崩れそうになっているガブリエルをアルベドが抱き留めながら宥める。

 他の守護者たちも心配そうにガブリエルを見守る中、パンドラズ・アクターはゆっくりと言葉を発した。

 

「ガブリエル様の言う通り、エルゼル様が去られたとは考えにくいと思われます!」

 

「それは、何故だい?」

 

「はい。ここ一か月、エルゼル様は毎日宝物殿に来られ大量の金貨を持ちだされておりました。何でも市場で希少レアアイテムが叩き売りされており、それを買い占めていたそうです。今の宝物庫にはエルゼル様が買い占めたレアアイテムで溢れかえっており私的にはとぉっても喜ばしいぃことで……!」

 

 高めのテンションとオーバーアクションで話すパンドラズ・アクターに守護者たちからの冷たい視線が突き刺さる。

 オーバーなアクションを止め、テンションを戻したパンドラズ・アクターは咳ばらいをして一度場を仕切り直すと続きを口にする。

 

「今日もエルゼル様は宝物庫で大量の金貨を持って私にお土産を期待していてくれと仰って市場に向かわれました。ですので他の至高の御方のようにナザリックから去られたのでは無く、ナザリックが転移してしまったため戻れないまたは、何らかのアクシデントによりナザリックに戻ることができない。と私は考えます」

 

「……そう、ですね。エルゼル様は私にも市場に行ってくると仰って出かけられましたから、今回ナザリック転移という異常事態。もしかしたらエルゼル様も転移して何処かに居るかもしれません」

 

 何とか立ち直り涙を拭って支えてくれたアルベドに礼を言うガブリエルは、己の創造主が自分達と同じく何処かに転移していると信じて与えられた命令を遂行しようと今一度決意する。

 階層守護者たちの顔を今一度見ると与えられた命令と今すべきことを伝える。

 

「最優先でやることは主に二つです。一つ目は、ナザリックの警備レベルを最大に上げ敵に備えること。二つ目は、情報の確保。幸いにも近くに村がありますのでそこで情報を入手しましょう」

 

「なら、情報収集の役割を私がやっても?」

 

「デミウルゴス様……因みにやり方は?」

 

 恐る恐る聞くガブリエルは、ニヤニヤと笑みを浮かべ眼鏡のブリッジを上げるデミウルゴスを見て嫌な汗が流れる。

 それはセバスも同じようでデミウルゴスに対して少し目つきが鋭くなる。

 

 そんな二人を無視してデミウルゴスは自信気に己の計画を語りだす。

 

「そうだね。まずその村を襲い、見せしめに何人か殺したあと拷問しながら情報を吐かせる。痛みや恐怖を与えて手に入る情報は信憑性がかなり高い、それに死体はナザリックで有効活用できる」

 

「却下です」

 

「? 何故だい? これほど効率的な方法はないと思うんだがね。緊急事態である今、早く情報を集めることに越したことはないと思うんだが」

 

「そうでありんす、何が不満なんでありんすか?」

 

 計画を否定するガブリエルに理解できないと肩をすくめるデミウルゴス、彼だけではなくカルマ値が低いシャルティアたちも不思議そうにガブリエルを見る。

 そんな彼らを見てガブリエルは、思わず頭を痛めてしまう。

 

「確かにデミウルゴス様の方法なら信憑性の高い情報を早期に手に入れることができるでしょう」

 

「だったら何故?」

 

「私情を抜きにしてもデミウルゴス様、貴方様の案は不確定要素が多すぎます。その村にエルゼル様たちと同等の強さを持つ者がいたら? 拷問、殺害によって相手の逆鱗に触れナザリックを危機に晒してしまうなど危険です」

 

「確かに君の話にも一理ある。だけどね、その程度私たち僕が対処すればいい。それにウルベルト様たちと同等の存在などいない」

 

「それは慢心です。常に最悪の事態想定して、何万、何千万の予備の計画を作ってから行動する。また相手の情報をとにかく収集して勝負を付ける。それがエルゼル様とぷにっと萌え様の考えであり、教えなのです」

 

 互いに一歩も譲らない言い合いをする二人の状況は、至高の御方二人の考えと教えを出したガブリエルが有利。デミウルゴスも至高の御方の考えと教えを否定することは絶対にできない。

 ヒートアップする二人に他の階層守護者たちはどう対処していいかわからず余計な飛び火が起きないように静観を選んでいる。

 

 険悪な雰囲気が場を支配する。もしこの場を原作を知っているエルゼルが見れば驚くだろう。

 NPCたちの性格は基本的にフレーバーテキストによって形成され、一部創造主の性格が反映される。例えばアウラ、ユリ、ペスト―ニャは創造主であるぶくぶく茶釜様とやまいこ、餡ころもっちもちが親友同士だったためか、アウラたちも仲が良い。逆にたっちとウルベルトの仲の悪さは、互いの創造したNPCにしっかりと受け継がれている。

 

 では現在言い争いをしているガブリエルとデミウルゴスの創造主、エルゼルとウルベルトの仲はというと実は悪くはない。むしろかなり仲が良くかなり頻度でウルベルトはエルゼルに悩み相談をしていた。

 では、何故創造主の子供であるガブリエルとデミウルゴスが言い争いを起こしているのか。それは単に己のフレーバーテキストによって形成された性格と考え方、カルマ値による弊害である。

 お互い別に相手のことをを嫌っているわけではない。ただ、ナザリックのため、至高の御方のために役に立ちたい。その奉仕をどう遂行するか己の語彙力を持ってメリットとデメリットを言い合っているのだ。

 

「ーーン! ガブリエル様! デミウルゴス様! それ以上言い合っていても時間が過ぎるだけかと。情報収集の手段はモモンガ様たちに己の計画を提示して、どちらが良いか選んでもらいましょう!」

 

「パンドラズ・アクターの言う通りね。各階層の警備レベルを上げつつ、タブラ・スマラグディナ様たちの指示を仰ぎましょう」

 

 未だに終わらない言い争いにパンドラズ・アクターとアルベドが止めに入り、お互い渋々とした感じで引き下がる。

 

「……お見苦しい所を見せました。パンドラズ・アクター様とアルベド様の言う通り情報収集の件は至高の御方に委ねましょう。それでいいですね、デミウルゴス様?」

 

「あぁ、もちろんだよ。ここで無意味に時間を浪費しても平行線のままだからね」

 

「では、今できることを各自行いましょう」

 

 ガブリエルの言葉に頷いた各階層守護者たちは、踵を返して自分の仕事を全うするために動き出した。

 

 

◆◇◆

 

 

 ローブル聖王国の北部にある国内で最も強固に作られた城塞都市カリンシャ。

 アベリオン丘陵に隣接するその都市は、要塞線を超えた亜人種たちからの被害を真っ先に受ける場所でありながらも他国に最も近い大都市ということもあって他国から多くの貿易人や商人たちが往来する首都ホンバスに並んで賑やかな都市である。

 

 そんな大きな賑わいを見せるカリンシャの城下町を一人の男が走っていた。

 

「ッ! 痛ってぇな、何処見て……ひぃ!!?」

 

「すまない! だが急いでるんだ!」

 

「どど、どうぞ!! お進みくださいぃ!!」

 

 男が柄の悪い人物とぶつかり、啖呵を切るも男の顔を見るなり怯えて急いで道を譲った。彼だけではない城下町の住民たちは男の凶悪な目つきに急いで道を開けていく。その光景はまるでモーセの海割りのよう。

 

 男の名前は、パベル・バラハ。アベリオン丘陵の任務中に危ない所をエルゼルによって二度も救われた人間である。

 

 そして、パベルを追うローブル聖王国の軍服を身に纏う二人の男。

 一人は筋骨隆々の大男、軍服の上に魔獣の皮を使った重装革鎧と八本の同じ剣を装備した九色の一人であるオルランド・カンパーノ。

 もう一人はオルランドに比べれば細身だが、軍服の上からでもわかる鍛えられた肉体にぱっつんとした前髪が特徴の聖王国聖騎士団副団長のグスターボ・モンタニェスだ。

 

「……バラハ兵士長が急ぐ理由は分かりますがどう思いますかカンパーノ班長」

 

「旦那が帰還してから三日(・・)だぜ。しかもそいつは冒険者の駆け出し、銅級(カッパー)で相手はバザーなんだろ? 望みは絶望的だぜ?」

 

「そうですね……」

 

 三日。そう、パベルがエルゼルによって助けられてから既に三日経過している。

 

 殿(しんがり)をエルゼルが務め、バザーから無事に逃げ切ったパベルは直ぐに亜人たちが徒党を組み聖王国を攻め込もうとしていることを報告した。

 

 この報告はパベルの上司である聖騎士団団長や副団長であるグスターボたち騎士団だけではなく聖王国の君主カルカなど国の上層部や貴族たちの耳にまで入った。

 九色というこれまで聖王国のために、危険な任務や度々襲撃してくる亜人種達の迎撃などをして国家に貢献してきたパベルが持ち帰った情報を偽りだと思う者は一部の馬鹿貴族以外おらず、すぐさま対策会議が開かれた。

 

 会議にはもちろん報告をしたパベルも参加した。

 ポーションにより後遺症も無く復帰できたパベルは、破損した装備を整え助けてくれたエルゼルを救出に行きたかったが情報を持ち帰った当人であり、九色の一人でそれなりの権力を持っていたがために身動きが出来なかった。

 部下たちに向かわせるという手もあったが、遭遇したのは十傑で豪王のバザーだ。下手に部下を動かしてバザーに遭遇すれば無駄死にさせてしまう可能性もあって捜索隊は出せなかった

 

 そんな事情などがあり、三日間パベルは全く動けなかった。

 だが今日、何とか時間を取ることができたパベルは時間的要因や今更バザーと遭遇した場所に行っても無駄だと思いバザーから何とか逃げ切って帰還していると限りなく薄い希望に懸けて冒険者組合に向かっていた。

 

 因みにパベルの後を追うカンパーノはもし生きていれば腕だめしをしたいと思い。グスターボは、カンパーノとは少し異なるが生きていれば何か亜人の情報を得ていないかと思い同行したのだ。

 

 足を進めること数分。パベル達は城下町に連なる建物の中でも一際大きな建物、目的地でもある冒険者組合に辿り着くと年季の入った木製の扉をバンッ! っと勢いよく開けた。

 大きな音に建物内に居た従業員やまだ依頼に出ていない冒険者達は挙って扉の方へと目をやり、入って来たのが九色の人間であるパベルとカンパーノ、聖騎士団副団長のグスターボだとわかって余計に驚いた。

 

 冒険者組合の中でゆっくりしている冒険者たちを正しく射殺さんばかりの眼力で見回したパベルは、受付嬢が座っているカウンターへと進んで行く。

 

 相手がいくら聖王国の軍人で九色の黒を授けられるほど国に奉仕し、信用信頼されている善人だとわかっているとは言えどいつにも増して凶悪な目つきに怯えない人間などいない。

 また後ろに立つカンパーノとグスターボの存在が組合、または自分が何かしてしまったのかと怯える一つの要因になっていた。

 

 怯える受付嬢に構うことなくパベルは、机を叩き口を開いた。

 

「ここにエルゼル・セフィロトスという冒険者はいないか!!?」

 

「ヒィ!!」

 

 極悪人顔が迫り小さく悲鳴を上げてしまう受付嬢だが、彼女は怯えながらもパベルの言葉の中にあった名前を記憶の中から掘り起こす。それはくつろいで居た周りの冒険者たちも同じだった。

 

 エルゼル・セフィロトス。その名前を受付嬢は誰よりも早く思い出すことができた。

 

 素人目から見ても上質だとわかる真っ白なロングコートに南方から伝わる刀と呼ばれる剣を三本身につけ、仮面で素顔を隠した最近冒険者になったばかりの男だ。

 怪しげな格好もさることながら受付嬢がエルゼルのことをよく覚えていたのは、他の冒険者と比べてかなり異質だったからだ。

 

 基本的に冒険者はチームを組んで依頼をこなしていく。報奨金の分け前が減るというデメリットはあるが、チームを組むことによって単独だけではできない事をカバーしてくれる。そして何より生存率の上昇という大きなメリットがある。

 

 だが、エルゼル・セフィロトスは違った。

 たった一人で複数の依頼を同時に受け、その全てを完遂する実力から上は階級を上げるべきなのではないかと度々議題に上がっている。

 

「えっと……彼なら三日前にゴブリン小隊と山羊人の殲滅など複数の討伐依頼を受けてまだ帰っておりませんが……」

 

 受付嬢の言葉にパベルの顔はより険しくなり、目つきも鋭くなる。

 怯える受付嬢をよそにパベルは豪王バザーと思わぬ邂逅をしてから三日が経過してなおエルゼルが帰ってないことに最悪な考えが頭の中を支配する。

 

「バラハ兵士長、少し落ち着いてください」

 

「そうだぜ、旦那。ただでさえ旦那の目つきは凶悪なんだ、その目つきと勢いじゃ周りの奴らを怖がらせちまうぜ」

 

「カンパーノ班長!」

 

「……いや、大丈夫だ。確かに冷静ではなかったな」

 

 自身の目についての冷やかしのような言葉に少しだけ冷静さを取り戻したパベルだが、脳裏には先ほど考えてしまった最悪な想像が頭にこびりついて払拭できない。

 それでも、もしかしたら自分同じようにと負傷しながらもなんとか逃げてバザーと遭遇した場所の近くで助けが来るのを待っているかもしれない。

 エルゼルは、まだ生きているとあまりにも薄すぎる希望を自分に言い聞かせる。

 

 冒険者組合に帰っていないとわかった今、今度はバザーと遭遇した場所の近くに向かおうと踵を返したその時、冒険者組合の扉が開かれた。

 

 緊迫めいた空気が支配する空間で扉の開閉音がやけに大きく響き、組合に居た誰もが例外なく扉の方へと目を向けた。

 そこには白を纏った人物が居た。真っ白なロングコートを翻し、腰には三本の刀を携えている。フードを深く被り、ただでさえ窺えない顔は仮面により完全に隠されている。一見不審者にも見えなくもない人物だが首に掛かった冒険者プレートが彼の身分を証明する。

 

 そして何故か、その人物の両隣には服がボロボロの幼い少女たちを連れていた。

 

 どうして幼い少女を連れているのかは、わからないがその外見はパベルが聖王国に帰還してからずっと生きていて欲しいと願っていた人物、エルゼル・セフィロトスの格好だ。

 

「セフィロトス殿ッ!!」

 

「……パベルか? 何故冒険者組合にいる?」

 

 発せられる声音は、初めて出会った時と全く同じで別人ではない。

 涙を流して物凄い勢いでエルゼル達に近寄るパベル、強面の男がいきなり近づい来たことにエルゼルの両隣にいる少女たちは「ひぃ!」っと小さな悲鳴を漏らし、ロングコートの裾を握り後ろに隠れてしまう。

 

「大丈夫だ。パベルは悪人ではない」

 

「セフィロトス殿、そちらの少女たちは?」

 

「話は後だ。その前にこれを換金させろ」

 

「その包みは一体?」

 

 エルゼルはずっと手に持っていた黒い布に包まれた巨大な風呂敷をパベル達に見せると、パベル達の横を通り過ぎてドロップアイテムの換金をしてくれる従業員の所まで赴きガチャリと音を立たせながら包みをテーブルの上に置く。

 中身が気になるのか、パベルたちだけではなく組合の職員や冒険者たちも動きを止めてエルゼルと包みに注目する。

 

「お前達は目を閉じていろ。醜いものを見る羽目になる」

 

 一歩たりとも離れようともしない二人の少女の頭を撫でると、少女たちはエルゼルのいい通りに目を閉じる。

 

 職員は恐る恐ると言った様子で風呂敷の結び目を解く。

 ふさぁ、っとゆっくりと布が解かれ包みの中身が露になる。その瞬間、職員の悲鳴が室内に響いた。

 悲鳴をきっかけに組合職員は逃げる体制を取り、冒険者たちはいつでも戦闘準備ができるように構える。パベルたちも直ぐに構えるが風呂敷の中から出てきたものを見て思わず硬直してしまう。

 

 風呂敷の中にはマジックアイテムである剣や鎧などがある。

 だがしかし、それよりも圧倒的に存在感を放つモノがあった。ソレを見て冒険者たちと同じく得物である剣を構えるオルランド・カンパーノがその名前を呼んだ。

 

「豪王、バザー……」

 

 ソレは豪王バザーの生首、だがその顔は王の名前からはほど遠く、相応しくない恐怖に染まっていた。




 何とか年内に最新話を更新できました。

 いや、本当に更新が半年ぐらい止まってしまって本当に申し訳ございませんでした! 止まってしまった理由としては作者が少し公務員試験を受けておりまして勉強や試験で更新できませんでした。

 本当に申し訳ございませんでした。

 そして更新が止まっている間に感想や誤字脱字報告をしてくださり本当にありがとうございます。
 次回はもっと早く更新したいと思いますので応援よろしくお願いします。

 それでは皆様よいお年を
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