そこにやってきたのは、芸術の巨人、タローマン。そして地獄からの使者、スパイダーマン……!?
70年代の二大ヒーローが、全然対決しないお話です。
※pixivにも投稿しています。
時は1970年代。
奇獣である。
どこからともなく現れ、ビル街を練り歩く巨体。
巨大な横長の頭部には、ばっくりと口が裂けている。
口には大きな牙が並んでいるが、その奇獣の脅威はそこではなかった。
錐のような末広がりの身体には手が張り付いており、掌を外界へと向けている。
それはまるで、来るものを全て拒んでいるかのようだ。
「ノン!」
奇獣は短くそう叫ぶと、手の平を激烈に突き出した。
伸びた手の平は、ビルを殴打し、破壊する。
それを近くで見ていた、ビルのオーナーが絶叫する。
「ワシのビルがぁ~! タローマン以外に壊されるなんてぇ~!」
「シャチョ~!」
奇獣・ノン。
奇獣は別のビルに向かって、再び両手の平を張った。
舞い上がる粉塵や、飛び散る瓦礫。
逃げ惑う人々。
その頭上を飛んでいく、赤い影があった。
ストリングを巧みに操り、ビルの谷間を跳躍する、怒りの目。
「地獄からの使者! スパイダーマン!!」
スパイダーマンこと、山城拓也は疾走した。
鉄十字団が相手でなくとも、目の前の危機を放置することは出来ない。
彼は迷うこと無く、ブレスレットに向かって叫んだ。
「マーベラーッ!!」
すると、巨大なスフィンクスを思わせる要塞が、雲の向こうから飛来した。
マーベラーからは飛行可能な高性能自動車・GP-7が射出され、ビルの上から飛び出したスパイダーマンを回収する。
GP-7がマーベラーへと回収されて、コクピットとなる。
「マーベラー、チェンジ! レオパルドン!!」
彼の音声に合わせて要塞が変形し、機械の巨人・レオパルドンとなった。
奇獣はそれに気づき、レオパルドンに向かって両手の平を高速で突き出す。
「ノン!」
「くっ!」
直撃。バランスを崩しかけ、よろめくレオパルドン。
長引けば周囲の被害も拡大する。
そう考えたスパイダーマンは、レオパルドンの切り札を使った。
「レオパルドン、ソードビッカー!!」
号令とともに、レオパルドンは右脚から射出された巨大な剣を掴み取り、振りかざす。
そして投げ飛ばすと、ソードビッカーは奇獣に当たり、弾き飛ばされた。
「何だと……!?」
あり得なかった事態に、スパイダーマンは驚愕した。
数々のマシーンベムを葬り去ってきた一撃が、目の前のアバンギャルドな怪物には通用しないのだ。
「アークターン!」
「アームロケット!」
レオパルドンに搭載された他の兵器でも、奇獣に打撃を与える様子はなかった。
何度も飛び出す平手を回避しきれず、スパイダーマンはうめいた。
「マシーンベムを遥かに上回る頑丈さだというのか……!」
スパイダーマンにとっては知る由もないことだが、頑丈さで弾かれたわけではなかった。
奇獣・ノンは、拒絶の奇獣だった。
与えられるもの、投げ込まれるものを強固に退ける性質が、ソードビッカーすら拒絶したのだ。
だが、そこに、また新たな影が落ちる。
流星のように落ちてきて、ミキサー車を踏み潰し、立ち上がるその巨体。
白と赤で彩られた細身の体の上に、輝くしかめっ面の太陽が乗っている。
そんな姿だった。
スパイダーマンはそれを見て、感じた。
「何だこれは……!?」
そう、でたらめな巨人、タローマンである。
タローマンは、そこに向かって高速で伸びてきた奇獣の掌を見逃さなかった。
パァン!
と大きな破裂音を立て、タローマンの突き出した両手の平が衝突する。
奇獣の両手とタローマンの両手が合わさり、上へと弾かれる。
二合、三合、幾度となく打ち合わされる掌。
奇獣とタローマンとが、遊んでいるかのようだ。
スパイダーマンは困惑していた。
(何なんだ……何が起きている!)
タローマンは打ち合いに飽きたのか、そこから離れて瓦礫を使い、山を作り始めた。
その背中に向かって、奇獣ノンは痛烈な平手を激突させる。
ドゴォン!
反撃をすることもなく、吹き飛ばされるタローマン。
その光景を、スパイダーマンは操縦席から呆然と見ていた。
転倒したタローマンに対して追撃しようと近づく奇獣を見て、彼は我に返った。
謎の巨人が敵か味方か、確かなことは分からない。
だがスパイダーマンは、レオパルドンを動かして攻撃の軌道へと割り込ませた。
「させん!」
奇獣に対し、レオパルドンの攻撃が通用しない。
スパイダーマンは大きく自信を失っていた。
しかし、それでも逃げることは出来ない。
彼は自身を、復讐者だと定義していた。
だが、それだけの存在でもない。
見逃せないことが目の前で起きれば、自然と体が動く。
動いてしまうのだ。
タローマンは、そんな彼の心が分かった気がした。
人生、やりたいことばかりに取り組めるわけではない。
それでも目の前のことに命をかけて挑めるスパイダーマンの情熱と愛を、素晴らしいと思った。
しかし、そこに、鉄十字団の幹部、アマゾネスが姿を現した。
「今日こそお前の最期だ、スパイダーマン!
お行き! マシーンベム、プリント魔人!」
「プリィィィィィンッ!!」
彼女は箱から手足を生やしたような形態のマシーンベムを放つと、巨大化させた。
マシーンベムは体内の機械を作動させて、超高速で大砲や機関砲を製造した。
そしてそれを、奇獣を押し留めている最中のレオパルドンに向けて一斉に撃った。
衝撃と爆音に、スパイダーマンは苦悶する。
「ぐあぁぁぁあ!」
「プリィィィィン!!」
マシーンベムの猛攻は止まない。
さしものレオパルドンも、ダメージが蓄積し始めていた。
危うし、スパイダーマン。
だがその時、猛烈な勢いでそこに立ちはだかる者がいた。
「!?」
そう、鉄壁の巨人、タローマンである。
タローマンの肉体は砲弾の直撃を受け、次々と貫通されていった。
スパイダーマンはそれを見て、悲鳴を上げた。
「よ、よせ! 何てことを!」
タローマンは、これでいいのだと思った。
義理も義務もなく、ただやりたいと感じたことをやる。
それが善行だったとしても、自分の死に繋がったとしても、それは結果に過ぎないのだと。
するとレオパルドンの操縦席に、通信が入った。
コンソールの画面には、パイプをくわえ、髭を生やした眼鏡の紳士が映っている。
「スパイダーマン、聞こえていますか?
突然ですが、私は高津と申します。
タローマンはあなたにこう言いたいのでしょう。
――毎日の生活の中で、実はほとんどの人間は負けてばかりなのです。
自分はダメだ、思うような生き方ができないと、ガッカリしている。
実は、自分に自信を持っている人間など、いないのです。
自信を持っているように見えても、それは見せかけだけのこと。
人間とは、そのようにみじめなものなのです。
しかしそこで、そのみじめな状況に対して闘う。
その闘いの中にこそ、喜びが感じられるのです。
自信なんて気にするな!
岡本太郎も、そう云っていました」
「……そうか……!」
あまりの出来事に忘れかけていた、闘志。
スパイダーマンはそれを思い出し、奮い立った。
「うおぉぉぉぉっ!!」
レオパルドンの出力をレッドゾーンにまで上昇させ、奇獣を投げ飛ばす。
今度こそ勝利を確信していたアマゾネスは、驚愕した。
「何だと!」
「プリィィィィィン!!」
投げ飛ばされた奇獣が激突し、マシーンベムは悲鳴を上げた。
射撃が止み、奇獣とマシーンベムがもんどり打って、瓦礫の海へと転がる。
態勢を立て直し、レオパルドンとタローマンが並び立つ。
「レオパルドン、ソードビッカー!!」
「芸術は爆発だ!」
ソードビッカーがマシーンベムに突き刺さり、大爆発を起こす。
タローマンの全身全霊が奇獣に注ぎ込まれ、その身体を絵の具のように分解してしまう。
突如現れた奇獣と、鉄十字団の遣わしたマシーンベムは撃破された。
タローマンは何処かへと消え去り、スパイダーマンもマーベラーを帰還させた。
山城拓也は異様な巨人のことを、喉に引っかかった魚の小骨のように思い出していた。
(タローマン……何者なんだ彼は……)
彼は絶対に理解できない謎を反芻するのを止め、愛車のアクセルを踏んで帰路についた。
自信なんて気にするな――TARO