シンフォギアVC 閑話 le suo raC 作:サリッサ@無期限休止
原作:戦姫絶唱シンフォギア
タグ:戦姫絶唱シンフォギア マリア・カデンツァヴナ・イヴ マリア・カデンツァヴナ・イヴ生誕祭 オリキャラ 二次創作 シンフォギア
それは楽しい楽園なのか、
はたまた異形蔓延る魔窟となのか。
覚醒とのハザマを回りながら、
少女は揺り籠で夢をみる。
誕生日、誠におめでとうございます。
再びお祝いできることを嬉しく思います(*´ω`*)
さて、
一年後越しながら、再び書かせていただきました…
時系列AXZ前、いつも通り勝手な妄想で作らせていただきました。
今回も、オリキャラと捏造のオンパレード。
独自設定や曖昧表現てんこ盛りの平常運航で参ります。
このお話、
ラストのシーンが見たくて気が付いたら書き始めていました…
それゆえ結構いろんなところに穴があると思われますが、
ご容赦の上、楽しんでいただけると幸いです。
※こちらはpixivにも投稿しております、
吐息。
静寂の中、小さく木霊する。
反響した音が、消えては生まれ、また、消える。
「姉さん」
どこからか、音ではないオトが届く。
覚醒を促され、身体を少し揺り動かす。
「マリア」
「マム?」
霞む目を擦りながら、彼女は起き上がる。
次第にはっきりしていく情景に、未だ思考は眠りの中に居座ろうとする。
「起きて」
彼女はようやく立ち上がり、あたりを見渡す。そのどれもが、彼女の馴染みのない、異様ではないが、奇妙な感覚を誘発した。
「……ここは?」
喧騒。誰もが楽しげに、思い思いの場所へ向かっていく。風船、洋菓子、様々な彩りを見せる屋台たち。
マリア・カデンツァヴナ・イヴ。
彼女は今、移動式遊園地に居た。
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「——ということだ。現状外郭からのアプローチは一切寄せ付けず、内部の状況は全くわからん。現地に着けば何かわかるかもしれんが、それ以上のことは、な」
漆黒の空をきり裂く一台のヘリ。轟音の中、向かいに座り、端末を操作する男。伴成蘭堂。
旧友であり、部下の報告を聞き、風鳴弦十郎は一層顔を顰めた。
『形状や現地の分析官さんの報告から、ほぼ間違いなく哲学者の卵、錬金術の一端であることは間違いありません。賢者の石の生成に古来より用いられていた物品です』
彼の持つモニタに映像が映し出される。科学の実験や創作物で見受けられる、筒と球体を接合したようなモノ。
問題は、その大きさだ。突如平原に発生したソレは、東京ドームと同等の大きさを有していた。
「エルフナイン君。今回の用途や目的の推測は可能か?」
弦十郎の問いかけに、モニタの左下部に映し出された少女は首を振った。
『錬金術の基礎的なもので、用途は多岐に渡ります。これだけの情報だけでは…』
「単純に賢者の石を錬成している可能性は?」
蘭堂の言葉に、弦十郎は少し緊張する。そうであった場合、中で一体何が起こるというのか。
『可能性は捨てきれませんが、大きさが異常です。これほどの規模で錬成をするのなら、時間も労力もかかり過ぎるはずです…だからこそ、目的が絞りきれず…』
モニタの向こうで拳を握る少エルフナイン。同じ錬金術師として、悔しさはひとしおだろう。
「形状で判断がつかないのなら作成者の身辺から探る手があるか。先日捕縛された錬金術師からの供述から、該当しそうなやつをピックアップした。掴めるものかもしれない。と、言っておこう。当初の予定取り現着後、詳しい情報は送る」
「蘭堂」
弦十郎が、向き直る。緊急性を感じさせない素振りをしていた男は、少し小首をかしげた。
「本当に、あの中に、マリア君が?」
「ああ」
ヘリは全力で進んでいく。
異様な球体。とはいえ付近には誰もいない牧草地帯だ。
そんな中に、捕らえられている仲間がいる。
「間違いない。イヴは、‟あの”中にいる」
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マリアは、まだ少しぎこちなく、賑わう人々をかき分けて進んでいく。
輪投げや菓子の掴み取り。電飾が辺りを煌々と照らし、簡易的ながらもちゃんとした遊具たち。そのどれもが、彼女自身、実際に体験したことのないものだった。
「あ、あの…」
道行く女性に、声をかける。子連れで、まだ幼い少年の手を引いている。
「はい。どうされました?」
「え…えっと…」
まだ意識がはっきりとしない。ここはどこなのか、何日なのか。聞かなければならないことがあるのに、言葉にできない。
「どうしたの、お姉ちゃん」
子どもの方が、首をかしげながら問う。
「大丈夫、大丈夫よ」
マリアは努めて笑顔を作りながら、屈んで少年の頭を撫でた。あまりこの親子を引き留めてはいけないと思い至り、彼女は立ち上がった。行く宛などないが、そのまま歩き出す。
「気を付けてね」
後ろから女性の声が聞こえた気がした。道行く人より、店を出している誰かに問うた方がよいだろう。マリアは比較的手が空いていそうな店を探して歩いていた。
「……マリア?」
誰かとすれ違う。名前を知っているということは、音楽活動を知っている者だろうか。音楽チャートで首位を取ったこともあるのだ。自身が有名人であったことを思い出す。懸命に意識をはっきりさせようとし、振り返った。
「やっぱりマリアだ!!!」
途端、衝撃。誰かが彼女に抱き着いたのだ。驚き戸惑う彼女の前に、満面の笑みが現れた。
「久しぶり!!マリア!!!」
「……シンディ?」
思わぬ遭遇。それはかつて、彼女が幼少期に身を寄せた、『白い孤児院』。決して良い思い出ばかりとは言い難い、あの場所で出会った存在。
「元気にしてた?もう、本当に大きくなって!!」
「…同い年でしょ。貴女だって十分成長しているじゃない」
身長はマリアと同じか、少し大きい。黒いロングコートを羽織った大人の女性。容姿と不釣り合いに思うほどの、咲き誇った破顔。
その様子に、マリアは困ったような、呆れたような、それでも嬉しさを滲ませながら笑顔を浮かべた。
「いつ来たの?どこまわった?あそこのキャンディ屋さん行った?おいしいんだよあそこのキャンディ!!」
怒涛の勢いで話しかけ、手を引き歩き出そうとする。聞きたいことは山積みだったが、こうなってしまうと、どうも止まることを知らないらしい。
仕方なく、マリアは彼女に手を引かれるまま、人込みの中に埋もれていくのだった。
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「どう?エルフナインちゃん」
同僚の友里あおいに声を掛けられ、エルフナンは後方へ視線を向ける。停泊した潜水艦内部に作られた、S.O.N.Gの指令室。
現在、マリア救出のために、船内は慌ただしく動いていた。
「一人、気になる人物が出てきました。藤尭さん」
エルフナインに言われ、藤尭が端末を操作する。モニタに映し出されたのは、一人の女性の空港のカメラよりスナップされた写真。大きなスーツケースを持ち、年は二十代後半らしいの女性だ。
「名前はドローレス・チャーノック。この国に三か月前に入国されたことが確認された、パヴァリア光明結社の一員だ。表向きには医学生として行動していたらしい」
藤尭の説明を受け、友里は改めて写真の人物に目をやる。その印象は正直、平凡の一言だった。
資料上ではあるものの、少なからず、敵組織や過激派集団を見てきた彼女。どことなく纏うオーラのようなものが、とても裏組織の構成員とは思えない。
「彼女は、古くから続く錬金術師の家系で、捕縛した面々の四割が知っていました。ただ、優秀という意味ではなくて…」
映し出されたのは、先日、諜報部によって占拠された地下施設。そして取り調べを受ける構成員の姿だった。下部にはパラメータもあり、彼らが嘘をついていたかどうかがわかるようになっている。
「実績のない古株一族という印象で、目立った結果を残したことはなかったようです。だからこそ、組織内では単独で行動していることが多く、何を専門に活動していたかも、仲間内での共有はなかったもようです」
「エルフナインちゃんから見ても不可解な装置を利用する可能性の高い人物、ということね。でも、尚更あの装置の意味が分からないわね…」
眉を顰める友里。同僚二人も沈黙してしまう。しばらく思案した後、友里は言葉を続ける。
「そもそも、マリアさんの直前の行動も不明瞭なままだったわね。翼さんはどう?」
友里の声掛けで、藤尭はモニタを切り替える。映し出されたのは、ライヴ会場。終盤に差し掛かったらしく、観客の盛り上がりは最高潮で、そしてその中心にいるのは。
「現在も地方遠征のライヴ真っ最中。緒川さんにはこの件は連絡済みだけど、数日前から連絡が取れなくなっているのは、翼さんは知らないはずだ」
「そう…」
友里は同僚二人に改めて向き直る。
「今度はマリアさんの動向を含めて調べてみましょう。もしかすると、何かしらの糸口になるかもしれないわ」
その言葉を聞き、両者は頷いて、端末へと向かう。監視カメラの映像、購入履歴、通信内容。今は、どんな些細な情報でも必要だ。
「無事でいて…」
小さくそう呟くと、友里も提供された映像情報へ目を移した。
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「ホラ!ここのアトラクション、こども向けだと思ったら結構スリリングでしょ!あっちにあるティーカップも凝ってて面白いから、次に行こ!」
両腕にカラフルな飴を持ったシンディ。勢いに引っ張られ、マリアは困ったように笑いながらついていく。先ほどからまともな会話ができないまま、次々と彼女たちは屋台とアトラクションを満喫していた。
「ちょっと、待って」
マリアの声も、この人込みと賑わいの中でかき消されてしまう。追い付こうとするだけで、精一杯だ。
「早く早く!こっちにおいでよ!」
先を行くシンディは構わず引っ張っていく。
心なしか、どんどん人で賑わっている場所へ入って行っている。
「こんな子だったかしら…」
「ちゃんとついてきて!!」
お構いなく誘うシンディ。マリアは酸欠のせいか、再び意識が曖昧になっていく。
渦に飲み込まれていく感覚。
己と言う存在が、まるで鍋の中の具材のように、溶けて、解けて。
このまま溶けてなくなってしまえば、きっと。
ニャァ
猫の声。猫の声だ。
喧騒の中、しかしマリアの耳は、しっかりとその声を捉える。テントの端、注視しないと見つけられないような暗がりに、猫がいる。茶と白の毛並みの、小柄な猫。
「あなたは…」
マリアの方をじっと見、綺麗な姿勢で座っている。意識が再び戻って来、疑問が湧いてくるのを感じる。この猫を、マリアは知っている気がした。
「あな——」
マリアが声を掛けようとすると、すぐさまテントの裏へ行ってしまう。
「待って!!」
彼女は、覚束ない足取りで、その後ろ姿を追った。テントの脇を次々とすり抜け、猫はすすんでいく。時たま振り返り、ちゃんとマリアが付いてくることを確認しながら。
「…抜けた」
一層密接したテントの隙間を脱出した。そこに、猫が座って待っている。
「あなた、あなたは……」
猫に話しかけようとしたマリアだった。
が、自身が置かれている状況に驚愕し、言葉を詰まらせた。
空が、回転している。
催しの中では、全く気付かなかった。天空の星々が、あり得ない速度で移ろっていく。
しし座、さそり座、オリオン座。それぞれの季節で見えるはずの星座たちが、まるで回転抽選機のように現れては消え、現れては消える。通常あり得ない光景に、顔面が蒼白になっていくのを感じる。星々を散りばめられた漆黒の天球は、その暗さでまるで彼女を飲み込んでいく感覚すら覚える。
「そうだ、私は……私は!!!」
突如、彼女の記憶のふたが開けられる。走馬灯のように、しかし強引に流される映像の数々。ここにくるまでの動機、探すべきモノ、何も告げなかった後ろめたさ。そして。
「あ、あぁ……」
しかし、それ以上は無理だった。眼前の異界と記憶の再生。両者の押し寄せる情報の濁流に、
「マリア」
彼女の思考は、意識を手放す。
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ニャァ
猫の声だ。不思議とその声が、再び彼女の意識を引き戻す。強く激しいものでなく、ゆったりと優しく、しかしはっきりとした音。
「……ッ」
立ち上がろうとした彼女は、何かに阻害される。手錠だ。地面に鎖でつながれており、中腰までしか立ち上がれない。あたりを見渡せば、重苦しいコンクリートの壁が四方を囲っている。その中央に、彼女は手錠で留められていた。
「…こんにちは」
手錠の開錠は困難と判断し、マリアは目の前の存在に目を向ける。猫、テントの合間をぬっていった、あの茶と白の子猫。今は行儀よく座って、マリアを見上げている。
「不思議ね」
猫への印象が、自然と口から出ていた。家で大事に育てられていると思われる、綺麗な毛並み。その行儀良さ。それよりなにより、懐かしい、という感覚。
「こっちに、おいで」
手錠で自由の利かない手に、猫がすり寄ってくる。喉を鳴らしながら、愛らしい仕草を振る舞うこの子猫。
「こんなところに居たのね!マリア」
シンディの声。いつのまにか、部屋の中に入っている。はぐれた時と変わらないいで立ちで、真っ直ぐにマリアの前に立つ。
「心配したのよ、急にいなくなっちゃうから。でも見つかってよかった」
彼女は笑顔のまま、手を差し出した。
「さ、こっちにおいで」
その目に見据えられ、またマリアの思考が霞がかる。微睡の中へ落ちてゆく感覚と共に、その手が。
鈍い痛みを感じた。
手を反射的に引くマリア。見れば、猫だ。あの子猫が、彼女の手を小さく噛んだのだ。
口から手を離すと、噛んだ場所を一生懸命に舐めている。血は出ていない。
「…ありがとう」
マリアは小さく、言葉を紡ぐ。
「そいつのせいだね?」
シンディが言う。その顔には、依然として笑顔が張り付いたままだ。
「そいつのせいでマリアが迷っちゃったんだ。処分しないとね」
シンディが猫へ手を伸ばす。マリアは繋がれている手で、子猫を隠した。
「あなたじゃ、ない」
「?」
不思議そうな顔をするシンディ。屈んだため、両者の目線が真っ直ぐに交差する。
その目を見、改めてマリアは確信する。
「あなたじゃない。シンディは、少なくとも殺生を好む子ではなかった」
「……別に、殺すなんて、言ってないよ?」
「目を見れば、わかるわ」
マリアの、そしてその仲間たちが歩んできた道は、そう易いものではなかった。血生臭く、時に虚偽と罪悪感にまみれた、茨道であった。その中で、失ったものも多分にあったが、得たものも少なくはなかった。
「あなたの目には、私すらも、映っていない。黒く黒い、闇。私が吞まれかけ、あの子たちに救い上げられなければ沈んでいた、闇がある」
「違う……」
シンディは、マリアの目から逃れようと、一歩退く。手錠を外せぬマリアはその場にとどまるしかないが、それでも、真っ直ぐと、一直線に、旧友のはず者の目を見た。
「何があったの?貴女も他の孤児たちと同様に、善良な施設に送られたはずなのに。貴女は施設から逃げ出して、これまで行方不明だった。一体、貴女の身に何があったの?」
「私は…私はッ!!!!」
錯乱し、頭と体を激しく振るうシンディ。マリアは苦しむ彼女の元へは行けない。
「私はッッッ!!!!!」
「ざぁ~んねん。上手く、いかないわね」
何処からか声が聞こえた。その声は、掠れた、落ち葉をこすれ合わせたような、力のない声。しかし、その声を皮切りに、現状が激変する。
コンクリートだと思われた壁が、まるで玩具の家の扉のように、倒れ伏す。その先に広がっていたのは、サーカステントだ。円状に観客席を配置した、大きな舞台。その中央に、彼女たちはいた。
「ア……ア………」
シンディ、だったものは、短く声を発するのみで、その身体を硬直させている。眼球を上に向け、口は半開きになっている。空中で固定されているかのように、けいれんこそすれ、倒れることも、膝をつくこともできない。
「お疲れ様。やっぱり中途半端だったから崩れちゃったわね。あとでまたお願いするから、今は休んで頂戴」
シンディの影、その背から手が伸びる。そしてゆっくりと、シンディの目を覆った。
「シンディ!!」
目隠しをされた彼女は、けいれんをしながら、微かに笑う。そして、
一瞬にして泥と化し、地面へつぶれ伏した。
「ッッ!!??!」
突然の出来事に、声が出ないマリア。しかし、歯を食いしばり、眼前のモノを睨みつける。
「ご機嫌いかが?マリア・カデンツァヴナ・イヴ」
「ドローレス……チャーノック!」
泥と化したシンディと立ち代わり、別の女性がそこにいた。くすんだ金髪を後ろに伸ばし、その風体はとことどこと汚れている。不敵な笑みを湛えたその顔を、マリアは瞬時に思い出す。
「貴女が、私をここに呼んだ…」
記憶を手繰り寄せるように、マリアが呟く。
「そうよ。シンディの行方を知っていると連絡したら、すぐに食いついてきたわね。よほど白い孤児院のお友達が恋しかったのかしら?」
その言葉に、マリアは食い下がる。
「あの子は、セレナを失った私を献身的に支えてくれた。私が闇に飲まれなかったのは、調と切歌、そしてシンディがいてくれたからよ。事変が終わって、孤児院のメンバーの行く先を調べたのも少なからず、あの子を探す為だった——」
「でも、見つからなかった」
ドローレスが、見透かしたように、笑みを浮かべて言葉を潰す。
「あの子は、何処?!」
「何処、ね」
ドローレスは手で顔を覆いながら笑う。この状況が、何もわからぬマリアがいかに滑稽か、溜まらないといった風体で。
「それを教える必要も、意味も、ないわ。貴女はここで私たちの材料になるんだから」
ドローレスはそう言いながら客席へと歩いていく。背後より掛けられるマリアの声には一切反応を示さない。
そして、無人の観客席に向かって両手を広げた。
「レディースアンド、ジェントルメーン!!」
無人のはずの客席から、歓声が聞こえる。マリアは再度サーカステントを見渡す。不明瞭な人影が、何処からともなく客席にあらわれている。
「お待たせいたしました!今宵のメインイベント!!世界を救った乙女が、原形をとどめぬほどに無残な有り様へと変えられる、最高のショーをお見せ致しましょう!!!」
マリアの前方、テントの合間に、スポットライトが当たる。固唾を飲むマリアの前に、ソレらが現れた。
パーンという種が、西洋神話には登場する。
人間の身体に、羊の要素を含んだ存在だ。頭には角が生え、特徴的なのは下半身であり、蹄のある山羊の脚を備えていたという。
それであれば、どれだけよかったか。
「なんて……」
悍ましいのか。マリアは本能的に、嫌悪した。幕間から現れたのは、そんなおとぎ話の生物を、より醜悪に恐ろしく造形し直したようなモノだった。
手足は四足獣のごとく体毛で覆われ、飛び跳ねるように動き、その指先は邪悪に尖った爪と蹄を備えている。黄色く鈍く光る瞳と、肉を喰らうためだけに付けられたような牙の揃った咢。
鼻を欠いていながらも、その姿はどことなく人間を思わせ、尚更君の悪さと恐怖を湧き立たせた。
「ッ!!」
本能的に後ずさりしようとするも、手錠がそれを阻害する。焦りが隠せぬ彼女の手の中で、子猫が心配そうに顔をあげた。
「逃げて!」
子猫を地面に戻し、眼前から迫る化け物を見据えて告げる。子猫は逃げない。それどころか、マリアの手錠を外すためか鎖に噛みつこうとまでしている。
「ありがとう。でもあなたまで巻き込むわけにはいかないわ。逃げて!お願い!」
今度は強く、そしてはっきりと言い放った。猫は、迷っている。
「逃げなさい!!
二度とあなたを失うなって…」
何故、そんなことが口をついて出てきたのか、彼女にはわからなかった。
しかし思案の後、子猫は、化け物と逆方向へ走っていく。その姿がテントの向こうへ消えたことを確認し、改めてドローレスへ目をやった。
「満足かしら?」
「いいえ、全く」
ドローレスは笑いながら、客席に座っている。手には屋台のお菓子が抱えられており、あおるように咀嚼する。
「これで終わるのも、つまらないわ」
そう言い終わると同時に、手錠が外れる。マリアは勢い余って後方へ倒れ伏してしまった。
「?!?」
その上へ、化け物が飛び掛かる。寸前のところで身を翻したマリアが見たのは、
一秒前に自分がいた地面。そこへ深々と突き刺さる蹄であった。彼女の額を、汗がつたう。
「逃げなさいよ。マリア・カデンツァヴナ・イヴ。逃げて逃げて、逃げまどって。シンフォギアを持たない自分が、いかに弱くて脆い存在なのか。それを噛み締め後悔しながら、お行きなさいな。
そうすれば、少しは、私たちの気持ちがわかるでしょう」
化け物の形容しがたい叫び声がテント内に広がる。それに呼応する黒い影ドモの歓声。悪趣味なショーの舞台上で、マリアは深く息を吸い込んだ。
「ひとつ、教えてあげる」
化け物も観客も通り過ぎ、ドローレス・チャーノックただ一人に向かって言葉を紡ぐ。件の女性は、勝ち誇っていた笑顔を歪ませ、その言葉を聞いた。
「何があっても、何をしてでも、
私が‟弱さ„に、屈することは
ない!!!」
マリアは、走った。後方でも、左右の観客席でもない。前へ。
化け物が腕を振るう。しかし、彼女はすでにそこにいない。人体に近しい形状であるが故に、彼女のこれまでの訓練が活かせる存在だった。懐に入り込み、渾身の蹴りを放つ。
「?!」
化け物が、虚を衝かれ、後ずさる。その場の誰もが驚いている状況。無理に蹴りぬいた足の痛み。
それでも、真っ直ぐに立つ。気高く、力強く。
「かかってきなさい!!私の鼓動―ウタ―は、そう簡単に止まりはしないわ!!!」
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「中のエネルギー波が、急激に上昇しています!!一体何がッ!」
スタッフの声を横で聞きながら、弦十郎は眼前の光景に歯を食いしばる。
発光するフラスコ。現地にたどり着き、調べようとするや否や、そのような状況に、動揺が隠せない。
「どうだエルフナイン」
背後で蘭堂が確認する。
『これはッ!この波形は…まさか!!』
「殴るぞ!!!」
聞き終わる前に、弦十郎は構えをとる。一刻の猶予もないのは明白だ。しかし、蘭堂の手が肩に置かれる。
「やめておけ。この内包量は扱いきれん。お前の拳なら、こんなモノどうせ紙切れ同然だろうが。ただやってしまえば、この辺一体か、上手く行くとこの国一帯が焦土になってもおかしくない」
「だが!!」
弦十郎は苦悩する。蘭堂はPCに向かったまま、フラスコの方すら見ていない。
「今手を出すのはやめておけ。往々にして、儀式の途中中断すればしっぺ返しを食らう。それをばら撒くのは本意ではあるまい」
『蘭堂さん!!このエネルギーは…まるで世界の創造を小規模に……』
画面越しのエルフナインも、驚きと戸惑いが隠せない。
「尋常ではないな。そのおかげで、俺がイヴの追尾用に使っていた端末とも連絡が取れん。なるほど、面白いことを考えるな、錬金術師は。さて、肉を得て出てくるか、爆散するか、中の対応次第だな、と言っておこう。」
意味ありげにつぶやきながら、蘭堂はそれでもモニタから目を離さない。
「蘭堂、この光は、」
弦十郎は、未だ何が起きているのかはわからない。不穏なワード、世界の創造、肉を得て出てくる。そして眼前の光。問いに対し、ようやく蘭堂が顔をあげる。
「古来より、カミの降臨には光がツキモノ、だろう?」
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彼女は国連組織、S.O.N.Gのメンバー、以前には秘密組織F.I.Sの一員として、戦闘訓練を続けてきた。しかし、良くも悪くも、人間の想定の範疇で、である。
「ハァ…ハァ……」
まだマリアは生きていた。肩で息をし、四肢に切り傷や打撲の跡が見えたが、それでも戦闘不能には陥っていない。
「Gruru……」
対する化け物には、それらの様子はなかった。彼女の懸命の抵抗を、うっとおしいとしか感じていなようにすら、思えた。ただ一つ、初手で叩き込んだ鳩尾の辺りを、しきりに気にしている素振りはあった。が、それだけだ。
「正直、少し驚いたわ」
ドローレスはマリアを見る。
「私よりも…強い人なんて、いくらでもいるけどね」
マリアは疲労を滲ませながら、不敵に笑った。脳裏に浮かぶのは、戦いに秀でた者たち、だけではない。
共に並び立ち、苦楽を共にした彼ら。その後ろ姿が、再び彼女の心を奮い立たせる。
「でも、これでもうおしまい。充分よ」
悲劇は続く。先ほど化け物が現れた幕間より、更に二体の化け物が現れる。せき込むような、しわがれたうめき声をあげながら、三体はマリアへ迫る。三匹が特徴的な、カンガルーのように飛ぶ移動法でもって、ついに彼女の逃げ道を全て塞いでしまう。
「さようなら」
ドローレスが笑う。マリアは敵意を眼前の三体に向け、それでも脱出の、一万と一つ目の手立てを模索する。そして、ついに化け物どもの
「やれやれ、ようやっと、ついた」
隊列が乱れた。中央にいた手負いの一体。その鳩尾に深々と何かが突き刺さった。丁度飛び上がる寸前のカウンター。狙いすましたその一刺しは、容易に化け物の腹を串刺しにし、化け物は声を上げることもなく倒れ伏した。
跳ねる瞬間を狙われ、残った二体はその場で硬直し、動けない。
「まさか…ね」
マリアは、既に包囲を脱している。二体は得物を探す素振りをし、既に離れた位置にいたマリアを見とめ、再び牙を剝きだした。
正確には、その隣にいる者たちに対しても、含めて。
「どうやって、ここへ?」
息を切らした彼女の隣に立つ、ガスマスクの姿。そしてその肩には、あの子猫が立っている。
「今お前に話している暇はない。企業秘密だ。とでも言っておこう」
蘭堂はマリアへ手を差し出す。その手には、見知ったものが握られていた。
「反撃と行けよ、イヴ」
「ええ…そうさせてもらうわ」
突然の来訪者に、ドローレスは思考がまとまらない様子で、言葉が出ない。一体何が起きているのか、この場を支配しているはずの彼女にはわからなかった。
「…お前は誰だ?!?!どうやって…ここへ!!?!」
その問いに、蘭堂は鬱陶しそうに顔を向ける。
「伴成蘭堂、‟夢”を渡ってきた」
「夢?」
マリアが聞き返す。蘭堂は、肩を竦める。
「オイ経験者、わかるだろう。そういうことだ。渡したそれも、よりイメージを強くするためのものだから、リンカーはいらん。
思いっきり歌うといい」
「Seilien coffin ariget-lamh tron」
純白の装いが発生する。その様子に、子猫はとても嬉しそうに跳ねる。
アガートラーム。
漆黒を塗りつぶす白銀の即興歌が、夢の舞台に響き渡る。
二体の残った化け物が、瞬時に飛び掛かる。一体減ったとはいえ、その鋭い爪は容易に彼女たちの命を刈り取るだろう。
マリアは纏ったギアに意志を伝える。左腕部より生じた煌びやかな短剣。彼女の頭部を引き裂くべく振るわれた腕を受ける。
しかし、
「ッ!」
やはり、単純な腕力では、ギアを纏ってしても、化け物に軍配が上がる。軌道をずらし、事なきを得たマリア。判断が間違っていれば、彼女の身体は真っ二つになっていた。
「なら!!」
手にした短剣を、眼前にて展開する。枷を外された蛇のごとくのたうつ刀身。驚く化け物どものへ、渦を巻きながら振るわれる。
「Gyaaaaaa!!!」
しわがれたけたたましい声。切りつけられた体を見、化け物どもは更に叫んだ。尚更殺意を持ってマリアに迫る。
ぶつかり合う刃と爪。蹄が地面をたたき、白き装いが力強く、舞う。
「シンフォギアがあったからといって」
ドローレスはつぶやく。
「真に闇の住人に敵うはずがないわ。どうして…」
「わからないのか」
彼女は驚きで席を立つ。その手に持ち、優位を見せつけるための菓子が床へ散らばる。
「確か…ラン、ドウ」
ガスマスクで口元が覆われた者が、その真意の読めぬ目で、彼女を見ていた。
「どうして…」
「簡単だ。俺がいてはイヴの独奏、歌に水を差す。別にお前をどうこうするつもりも、ない」
席についながら、そう答える。
「ハ!随分な余裕ね。簡単に彼女が勝つとでも?」
問いに対し、しばし思案する。
「いや、そう簡単にも、いかんだろうな。だが、負けることもあるまい」
隣の席に、猫が登る。猫の方は、居心地が悪そうに、身体をゆすっている。蘭堂は横目で猫を見た。
「あそこにいても、今の君では何もできない。ここで待っていろ」
「ここは私たちが作り上げた、私の空間!私の夢の世界!!ようやっと、私たちが手に入れた楽園への切符!!!ここで、終わるわけがないわ!!」
そして、彼女は天幕を、そのさらに向こうに向かって叫ぶ。
「‟シンディ‟!!もっとよ!もっとガースト共を!!」
戦闘の最中ではあったが、その言葉を、マリアは聞き逃さなかった。確かに今、主犯たる女性の口から。しかし、彼女の意識は疑問から引きはがされる。
「ガッ?!?」
背部への衝撃。成すすべなく前方へ吹き飛ばされる。勢いを身体操術で打ち消す。臨戦態勢のまま向き直り、歯ぎしりをする。そこには四体の化け物が立っていた。
「そうよ、必要なのは‟水銀„。抵抗する身体は無用よ。剥ぎ取ってしまいなさい!!」
ドローレスの声掛けにより、四体が雄たけびを上げる。額を伝う汗を、振り切るようにマリアは大きく身体を捻る。
「増えたところで…」
左腕部新たに射出される短刀たち。回転の勢いに乗せ、化け物どもへ真っ直ぐに飛んでいく。だが、その刃程度では、化け物どものには届かない。一方は爪で弾かれ、一体はその獰猛な牙で嚙み潰してすらいた。
「どうなのかしら?」
ドローレスの問いかけに、マリアは笑う。瘦せ我慢にも見えるが、それとも。
「だったら!!」
持っていた短剣を、再び展開し、蛇腹剣が、一層激しく空間を走りまわる。化け物どもは、小さく己を切りぬいていくそれらに対し、嫌悪の声をあげ、爪を振るっている。決定打にはなっていない。
だが、
「上手く、集まったわね」
蛇腹剣が上空へと立ち上る。まるで天に突き立つ一本の糸。マリアの手首が捻られ、再び複雑に絡み合う。気づけばその先端に、刀身の絡み合いで輪が生じていた。
「こんなのは、どう?!」
カウボーイのように投じられた剣の輪が、化け物どもへ向かう。四体は各々四方に逃げようとするも、内二体が、輪によって捕らえられた。暴れる二体。完全に両腕を塞がれ、激しく地面を蹴り逃れようと藻掻く。
「まずは!」
再び剣を射出するマリア。今度は他よりも長身のものだ。その両側から、逃れた化け物どもが飛び掛かる。
「二体!」
挟撃を掻い潜り、マリアは大きく跳躍する。そして、二体を縛る剣の握りを思いきり引く。刀身はまるで鋸のように、化け物の身体を削り裂いていた。
「?!?!」
痛みにくぐもった声をあげる。だが、その痛みを感じている隙が、命とりだった。
「GYE?!?」
その身体に、剣が縫い立てられた。マリアが、生じさせた剣を蹴り飛ばしたのだ。研ぎ澄まされた刀身は、二体の胴中央を貫き、二体は縫い合わされたまま倒れ伏した。
「ザババの二人を参考にしたのか。面白い」
蘭堂が呟く。
「ッ!!」
それでも、まだ残っている。着地の寸前を狙って、一体がその蹄を彼女へ叩きつける。ガードしたものの、大きく吹き飛ばされるマリア。二体は時間を与えず、鋭利な爪で彼女を引き裂かんと迫る。爪と刃が交錯し、火花が散る。時には手で地面を押し飛ばしながら、マリアは懸命に化け物どもの強襲を交わしていく。
マリアが再び、短刀を生み出す。二体に向かって振るわれたそれは、逃げながらの投擲だったからか、ズレたところへ飛んでいく。脅威にならぬその刃に、化け物たちは気にせず攻撃を続けようとした。
「?!?!?」
突如、化け物どもの動きが止まる。意思ではない。何かに留められたかのように、ぴたりと制止する。その身体が作り出す影に、先ほどの短刀が突き刺さっていた。
「翼や緒川さん程、上手くはないけどね…」
その言葉通り、動きを止められたのは、一瞬だった。化け物どもは強引に技を振りほどく。だが、意識を外すには十分だった。
「私なりの、狙い撃ち!!」
既に彼女の左腕は、装いを大きく変えている。大きく砲門を展開し、羽のように、数本の刃が背部に広がる。
HORIZON♰CANNON
迸る光柱に、飲み込まれる二体。その姿が光の中へ掻き消えた。砲撃が終わると、化け物は舞台の壁にもたれ、事切れていた。
しかし、一体だけ。
「!!!」
全身を焼かれた化け物が、彼女の側面より迫る。目を血走らせ、恐ろしい形相と雄たけびを上げる。
「無駄よ!ここに取り込まれた時点で、貴女の命運は尽きている!大人しく、大人しくしてよ!!」
ドローレスの叫びに呼応するように、化け物がその身体を膨れ上がらせた、かに見えた。
マリアは後方に一旦跳躍し、砲門を格納する。
「だと——」
左腕部に取り付けられた一本の刀身が、彼女の意志により、大きく拡張される。
「しても!!!!!」
射出された剣を、指の間で挟む。
さながら、拳に備えた一本の槍。
「GYAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」
「うおおおおおおオオオオオオオ!!!!!!!!」
両者の叫びが重なり、そして交差する。
「私が、諦めることは、無いわ」
化け物に突き立てられた、白銀の剣。
崩れ落ちる化け物を見送り、マリアは片膝をついた。息を切らしながら立とうとするも、上手くいかない。連戦と技の連発。流石に疲労が隠せなかった。
「…どうして、どうしてよ…アンタは、アンタたちは…どうして……」
放心状態のドローレス。しかし、その表情にすぐに怒りの火が燃え上がる。
「負けるはずがない!この場所は、この空間は私のもの!!思うままに!望むがままに操れる幻夢境!!私が止められる通りはないわ!!」
三度、彼女の手が天幕へかざされる。テントが振動し、影の観客ドモの歓声もあがる。
「いい加減にしないか」
静かに、短い言葉がドローレスの耳に届く。蘭堂だ。彼女同様、客席にいながら。目線は上を見、傍らの猫はマリアの方を見ている。
「…うるさい!次はもっとバカげたモノよ!シンディ!!」
「貴女!!」
膝を支えに立ち上がるマリア。息は完全に戻ってはいない。
「さっきから、どうして、シンディの名を…」
その問いに対し、ドローレスは一瞬固まる。そして、狂気的な笑みを浮かべながら、マリアを見下した。
「これが彼女の思いだからよ、マリア・カデンツァヴナ、イィヴ」
ドローレスは指をさす、マリアの背後を。
「マリア」
反射的に振り返ったそこに、彼女がいた。
「シンディ」
「全部貴女のせいよ、マリア」
シンディは消えた時と同じ、歪な笑顔をみせていた。
「孤児院で、私たちは共に育った。一緒に訓練を受けて、一緒に食事をして。私、きっと貴女と同じくらい…いえ、少なくともキリカとシラベほどには、役に立てたはずよ」
笑顔の裏側にある、煮えたぎる黒い感情。直に触れてしまったかのような感触に、彼女は身を震わせる。
「でも、どんなに頑張っても、いい子にしても、マムは私を見てくれなかった。いつもキツく接していたけど、結局は貴女たちを見ていたのよ」
「待ってシンディ。マムは——」
「わかっているわ。全員を安全な居場所に移したことでしょ。知っているわよ。私がその一人だもの。貴女たちとは違う。私は置いて行かれた内の一人だもの!!」
シンディの顔が更に歪さを増す。そこには、憎しみと怒りが溢れ出ていた。
「私だって!役に立てた!別の手段を提示だって出来たはず!なのに!!なのに!!マムは貴女を選んだ!そして死んだ!!死んでしまった!!!」
言葉をぶつけられ、マリアの表情が苦く軋む。想起されたのは、闇と夥しい数の点の光が覆う、無風空間。そこに打ち捨てられた、女性の姿。
「貴女たちのせいよ!!貴女たちのせいで!マムは、お母さんは……貴女の!!!」
激昂したシンディの手が、真横に振り上げられる。マリアは動けない。
振り上げられた右腕は、内側から膨れ上がる。黒い皮膚が覆い黄色く光る線が、走っている。まるで化け物のソレ、いや、正しくそれはネフィリムの腕だ。
「消えて!!消えてしまえ!!!」
絶叫と共に、振り下ろされる凶手。
『いきなさい、マリア』
微かに響く、言葉が。
『いって私に、あなたの歌を聞かせなさい』
あの時のように、再び彼女を突き動かす。
「?!」
シンディの凶手は、マリアを捉えない。左の前腕で、それをしっかりと受け止めた。大きさの関係であれば、吹き飛ばされるサイズ差だ。しかし、マリアは微塵も押されていなかった。
「これは、私の心、ね」
シンディの腕は、いつのまにか普通の女性の腕に戻っている。驚きたじろぐシンディに対し、マリアは受け止めていた左腕を、そのまま前へ伸ばす。
「自分の中で、大切な人を救えなかった、後悔。そして、」
左腕が、そっと、シンディの頬に添えられる。優しく、静かに、そっと。
「贖罪を求める気持ち。でも、もう大丈夫。痛みも、嘆きも、涙も、力に変えると決めたから」
シンディの幻影が、掻き消えていく。その一部が、マリアの中に入っていく。違う、戻ってきたのだ。此処に囚われてから、かけかけていた彼女の一部が。
「マリア」
はっきりと、声がする。意識を失う前に、あの聞いた声。
彼女はゆっくりと、振り返った。
「久しぶりね。シンディ・ロックハート」
「ええ、お久しぶり、マリア」
ローブを纏った清らかな出で立ちの女性が、シンディが、そこにいた。
「どうしてよシンディ!!何故そっちにいるの!貴女は私の味方でしょ!!」
髪を掻きむしり、喚き散らす女性。その様子は、どこかマリアが倒した化け物たちを思い起こさせた。
「どうして!!どうしてこうも上手くいかないの!!不完全な化け物しか生み出せず!!ディーンハイムにも!サンジェルマンにも!!ヴァイスハウプトにも届かない!!!」
天幕を仰ぎ見る。口からは涎が滴り、涙には血が混じっている。
「いいわ!!ぜんぶ壊してあげる。壊してあげるわ!!!」
野犬のような鋭い爪を備えた、右腕が、幕の間から現れる。続くもう一本。
しかし、その生身のモノではない。機械仕掛けのもう一本の右腕。強引に生体に取り付けられたかのような腕が、左右に一本ずつ、軋みと煙をあげながら現れる。合わせて計四本の腕。
続いて、何かが幕を押しのける。まるでコウモリの耳のように頭部に備わった、左右の器官。かと思えば、皮がめくれ上がった。耳ではない。
肥大化し飛び出た目。その二つの眼が、マリアを捉える。
「ッ!!?!」
それ以上に、マリアを慄かせたものがあった。
口だ。口が、縦に裂けている。
鋭く夥しい牙が連なる、恐ろしく生物らしからぬ形相。長い舌をくねらせ、ゆっくりと黒い体毛に覆われた体をテントに納めていく。
「これならどう?!私の思い描く、どうしようもない化け物の姿!!!勝てるかしら?ねぇ!勝てるかしらねぇ!!」
ドローレスは笑い転げる。地面をたたき、笑い、叫ぶ。
「何が来ようとッ!」
マリアはシンディを背に、化け物に向き直る。先の五体のモノとは明らかにスケールが違う。
「マリア…」
奇怪な機械の腕が、上空へ伸びる。天幕を押しのけんほどに高く振りかぶられた腕。
「大丈夫!!!」
シンディの声に、振り返らずに答える。そうとも。胸に、歌が。友たちと奏でた歌がある限り。
「私は、何があっても足掻いてやる!」
轟音と共に、振り下ろされた腕が
「やめろ、充分だ」
その一言で制止する。
何が起きたのか、理解できなかった。マリアの前に、いつの間にか伴成蘭堂がいた。変わらずガスマスクで口を覆い、その目線は化け物に向けられいていた。
化け物は、動かない。
「……は?」
一番驚愕しているのは、間違いなくドローレスだった。先ほどまでの凶行はもはや消え去り、顔は蒼白になり、何も、言えなかった。
化け物はゆっくりと、腕を元の位置に戻す。そのまま、膝をつき、首を垂れる。
まるで、神に傅く信者の様子だった。
「どうし…て?」
幾度となく発せられた言葉が、再びこぼれる。
完全に敗北した女性の顔を真っ直ぐに見、蘭堂は答えた。
「わからないのか、わからないだろうな。お前は…、いや、貴方は、初めから、この世界の主導権など握ってはいなかった」
テントの中がざわつく。マリアは、事の成り行きを見守るしかできない。
「確かに、この空間を作ったのは、貴方だ。成人女性の血肉の全てを用いて、世界の全てを一から創造してみせた。だが——」
食い下がるように、言葉を遮る。
「そうよ…それでは駄目だった。創造主となったはずの私。閉じられた幻夢境を生み出し、その神の如きモノとなったはずの私に、神域の知識は降りてこなかった。だから、完成させる必要があった。この世界を錬成し直し、硫黄と水銀を用いて、私の世界を、私自身を完成させる錬成炉とするはずだった」
蘭堂は頭を振る。
「まずもって、そこが間違いだ。この世界の創造主は、神と成り得たのは、貴方ではなかった。貴女ではなかったんだ」
その言葉を受け、自然と、ドローレスの目は、一点へ注がれる。
「貴方は、助けられていただけだ。貴女の願いを聞き、それをかなえようとする神がいただけだ。そして、
「神が生じうる空間に、引き寄せあれるモノドモが、来た」
空間が黒い風を纏う。天幕が吹き上がり、天空を露わにする。星々がまるで早送りのように移ろい、明滅する。控えていた化け物が、その星々に向かって咆哮する。
「もうそこに居る。己の故郷、居心地の良い場所を目指して、かの地より放浪する蕃神どもが」
客席には、いつのまにか、影だった観客たちは黒いほの暗い光を纏った、ナニモノかが次々と変貌していく。人型のモノもあれば、不定形にうごめくものまで。
「もう充分だ。良い加減だ。さ迷う貴様らにとって、この地は安住の場所ではない。
とっとともらうものを貰って消え失せるがいい」
蘭堂の言葉を受け、一層世界が加速する。その光と闇の狂乱に、マリアは自身の存在が塗りつぶさせる感覚に堕ちる。
「シンディ…逃げ……」
おぼつかぬ手で、友を探す。しかし、その手は空をきるだけだった。
「あまり見るな」
彼女の顔を、誰かの手が覆う。動きを封じられ、何とか脱しようともがく。せめて、友人だけは助けたいと、振り払おうと、力なく足掻く。
「シンディ…どうして?」
最期に、ドローレスは呟いた。渦の中心たる女性。最早その顔には絶望しか浮かんでいない。信じたものに裏切られた、悲嘆の色が見て取れた。
「……貴女を、」
シンディは答える。静かに、どこか。
「愛しているから」
マリアが垣間見たのは、渦に飲み込まれる寸前の、ドローレスの姿。
群がるナニモノかに覆われながら、最期に見せた姿。
愛する者から告げられた、その言葉を聞き、
寂しく、悲しい笑顔を、浮かべた姿だった。
──────────────────────────────────────
サーカスは閉幕。活気づいていた出店やアトラクションに、もうヒトの姿はない。
「ありがとう。来てくれて」
その一角に、彼女たちはいた。出店の裏、木箱が幾つか置かれた、野原とサーカスの境目。シンディは、その純白のローブを纏ったまま、草原に座っていた。彼女の膝には、安らかな寝息を立てるマリアが横たわっていた。
「俺…私よりも、この子に言うべきだ。この子が私を呼びに来なければ、介入することは出来なかった」
木箱に座った蘭堂が、傍らにいる猫の頭を撫でる。猫は嬉しそうに喉を鳴らし、その手にすり寄った。
「あの子はね…」
シンディが呟く。
「あの子の家系は、古くから続く由緒正しい錬金術師の家柄。けれど、誰も大きな偉業を成せなかった」
それはどこか遠くへ想いを馳せる言い方であった。
「彼女の母親は、錬金術黎明期に多くの偉業を成した女性の名前を与えられ、一族の思いを背負って奮闘した。けれど」
マリアの顔にかかった髪を優しく払いながら、シンディは続ける。
「それでも、思った成果を残せず、母親は己をすり減らしていった。そのやる瀬無さと憤りの矛先は、娘であるあの子に、向いてしまったわ」
「無下に扱われる日々、もしかしたら、望まぬ出産だった…のかもしれない…」
彼女は顔をあげない。その表情がどのようなものかは、眠っているマリアにしか見ることはできなかった。
「マムの隣にいることができなかった、‟あの‟私も私に違いない。FISから遠ざけられ、マムに捨てられたと思った私が出会ったのが、あの子だった。同様に母親の愛を…」
声が震える。
「ねぇ、知っている?ドローレス。スペイン語では『悲しみ』を意味するそうよ。そして、『悲しみの聖母』…。彼女の母親は、どうして、この名をあの子に与えたのかしらね…」
どうして、と、彼女たちは言い続けた。それは解を求める対象を失い、そして決して返ってはこない疑問符。求めるだけの、幼稚な行為。それでも。
「……」
彼女たちは、求めずにはいられなかった。だからこそ、愛されるために、己の完成を、己の一切を道具として扱った。そんなことをしても、解が返ってこないことは、わかっていたはずなのに。
「私も、マムから、お母さんから、愛されていたの…かしら」
「それは、‟私たち‟では、わからないわ」
蘭堂が静かに言葉を紡ぐ。
「でも、名の由来たる『悲しみ』の根底にあったのは、深い愛、だったはず。
母親の意図は、それこそ時間を遡らなければ、わかるはずもない。
ただ一つ、言えることがあるとすれば…」
「それでも、貴女は、貴女たちは、互いを愛していたのでしょう?」
眠れる少女の頬に、雫が落ちる。
「…そうね」
シンディは、空を仰ぎ見る。星々が瞬いているように見えるソレらは、知る者にとっては別の姿を見せる。
「そろそろ、行かなくちゃ。彼らをこの地に放置するわけにはいかない。誰かの血肉を奪って表出しないとも限らないし。誰かが先導して、元の場所へ帰してあげないと」
そして、蘭堂の方を見る。
「一緒に、来る?」
しばし思案した後、首を振った。
「途中までは、イヴを送る必要がある。もう‟私‟は依り代には戻れない。夢の空間は在り様を変質させやすい。正直ここまで変わるとは予想外だったと、言うべき、かしらね」
蘭堂だったモノは、自嘲気味に笑う。
「どこへ…行くの?」
マリアが、まだおぼろげな意識の中で呟いた。シンディは、彼女の頭を撫でる。
「少し、遠いところ」
「待って。行かないで。ここに居て」
その姿は、まるで幼気な少女。それは、本来平等に与えられるべきだった、しかし彼女たちが取り上げられた期間の姿なのだろう。困ったような、寂しいような、そんな表情で、シンディは彼女の頭を撫で続けた。
「マリアも、此処にいたせいで、変質を始めている。もう、長く居てはいけない。宛ては、ある?」
そう問いかけるシンディに対し、蘭堂は、頷いた。
「問題ない」
「あとは、任せるわ」
頬に触れる。別れを惜しむ指先に、手が添えられる。
「行かないで…」
マリアは再び、そう告げる。
「きっと、また、会えるから。だから…ね。今はお休み」
精一杯の笑顔と、言葉を送る。マリアはまるで吸い取られるように、眠りに戻った。
「じゃあ…」
マリアを草原におろし、立ち上がろうとするシンディ。その傍に、猫が歩いてくる。そして寂しそうに鳴くと、彼女の膝に身をこすりつけた。
「本当にありがとう。貴女が応えてくれなければ、私もマリアも、ドローレスも、きっと永遠に死に続けることになっていた。ありがとう
……セレナ」
猫に笑いかけ、そして立ち上がる。彼女はサーカスを背に歩き出す。境界を越え、アチラ側へ。空を漂っていたモノドモが、星と渦を纏って彼女の方へ近づいてくる。
恐れはない。
ただ、名残惜しさがあった。
「さようなら。マリア」
眠れる友に別れを告げ、
神とナった少女は掻き消えた。
「………ッ!!!」
マリアは飛び起きる。直ぐに、立ち上がり、周りを見渡す。そこは、真っ黒の闇が支配する世界。彼女の周囲だけが、微かに光を灯していた。
「シ…シン……どこなの?!」
言葉に詰まりながら、懸命に呼びかける。しかし、
「誰…誰なの…シ……どうして!どうして……」
彼女は苦しみに顔を歪める。消えていく。そう直感する。
「バラルの呪詛すら寄せ付けぬ、紛うことなき理想郷。神へと昇華される際に、彼女は文字通り己の全てを一度焼却している。ゆえに、」
暗闇の中から、伴成蘭堂が現れる。足元に猫を伴っている。
「元の世界へ戻れば、彼女に関する記憶は、その存在を許されない」
「ランド!!!」
マリアは縋る。涙を流しながら、嗚咽まじりの声で。
「あの子が!!あの子が消えてしまう!!私を助けてくれたのに!!セレナを失った私を励まし、一緒に居てくれたあの子が!!!」
「……」
蘭堂は、動かない。ただじっと、マリアを見ている。
「消えて欲しくないのに!私は!!あの子に何も返せていないのに!!」
「きっと、慰めにもならないけれど」
そう言ってから、
「返せたはずだ、と言っておく」
蘭堂はいう。
「彼女を助ける為にドローレスの誘いに乗ったからこそ、彼女たちは、もっとひどい結末にならなかった。蕃神どもが彼女の血肉を得て暴れだすこともなかった。死んでいながら生き続ける永劫の苦しみに、囚われずにすんだ。お前のお陰だよ。イヴ」
‟彼‟を知る者ならば、おおよそ想像もしない声音で、そう告げる。
「だから、お前は充分やったんだ。だからね、もう、起きる時間だ」
尚も泣き続けるマリアの足元に、何かがすり寄る。
「?」
猫だ。茶と白の毛並みの、小柄な猫。
ニャァ
可愛らしく一声鳴いて、暗がりの中へ溶けていく。自然と跡を追う彼女。
「まって…」
猫が足を止める。その先にあったのは
「カルーセル…」
日本でいう、メリーゴーランド。煌びやかに彩られた、回転木馬がそこにあった。
猫はまるでマリアを誘うように、後ろを都度振り向きながら、中に入っていく。
「あ……」
左を向いた馬たちの中を、猫とマリアは進む。中には様々な馬の立像があった。そのどれもが、躍動的で一心に前へ前へと進んでいる姿だった。そして、
「?!」
猫が馬車の形の椅子に飛び乗った時、突如アトラクションが動き出す。条件反射的に近くの馬にまたがるマリア。
「え、えっと…」
困惑するマリアに、猫は一鳴きすると、嬉しそうに座席で跳ねる。その様子を見、マリアも自然と口元が綻ぶ。
「忘れてもいいんだ」
離れたところから見つめる、蘭堂だったモノ。電飾によって煌びやかに咲き誇り、優雅で楽し気な音楽が聞こえる。猫は楽し気に走り、マリアは笑う。
「そうしなければ、前に進めない時もある。そう、言うべき、かな」
ガスマスク越しの顔は、表情を読み取るのは難しい。そして、いつからか、その隣に誰かが来ていた。眼帯をした、老年の女性。何も発さず、彼女らの様子を見ている。それはきっと、在りし日に、見たかった光景だから。
「だから、もし立ち止まってもいい日が来たら」
蘭堂だったモノは、横目で女性を見、再び回転木馬へ目線を移す。
「草花の先を見てごらん。きっと、そこにいる。
ふき抜ける風の中に、彼女たちは息づいている」
回転木馬は、ゆっくりと闇の中を走っていく。
明暗の‟ハザマ”で、蘭堂だったモノと女性は動かず、ただ見守っている。
猫と笑い合いながら、マリアは笑顔で、
楽し気で、
少し、
泣いていた。
「さあ、起きる時間だ」
──────────────────────────────────────
「マリア!!!!」
身体を揺すり起こされる。こうして覚醒するのは何度目だろうと、おぼろげな意識で瞼を開ける。
「つ…ばさ?」
「マリア?マリア!!!」
地面に身体を横たえているようだ。草の感触がある。仰向けで、星雲を背景に、戦友の顔がそこにあった。
「あなた…ライヴは…?」
「もう終えてきた!!それより、大丈夫か!!身体は何ともないのか!!」
よく見れば、風鳴翼はライヴの煌びやかな衣装のままだ。そばに立っていた緒川が、誰かを呼びに走っていく。
「着がえる時間くらい…あったでしょう…」
その返しに、翼は胸を撫でおろす。
「共に夜のロンドンを走った仲だろう?気にするな」
「マリア君!!!」
そこに大柄の男性が現れる。
「風鳴…司令、ご迷惑を…」
頭を振る、弦十郎。身体を起こそうとする、マリアを手で制止する。
「そのまま、休んでくれ。直ぐに担架を持ってくる。蘭堂!!手伝ってくれ!」
マリアが横に顔を向けると、少し離れたところで、口元を覆ったガスマスクが特徴的な男が、立っているのが見えた。
「蘭堂!!」
弦十郎の問いに手を掲げて答えつつ、彼はしゃがんで茂みに手を入れる。遠くで見えなかったが、何か黒い石の破片のようなものを、拾ったように、彼女には見えた。
「抜けている…どこかへ行ったのか…フム…」
何かを呟きながら歩みより、男の顔を正面に捉える。
「よく無事だったな。イヴ」
声掛けに対し、マリアは遠くの星々を見つめた。
「誰かに…助けられた、気がする……」
「そうかい。まぁ詳しいことは精密検査を受けてからだな」
素っ気ない対応で、男は視界から遠のいていく。
「まるで別人ね…」
自然のこぼれた言葉に、マリア自身、思い当たる節がなかった。記憶が酷く曖昧で、はっきりしない。
「どうした?マリア」
翼の問いに、首を横に振る。
「いいえ。それより、あの子たちになって謝ろうかしら…」
「そうだな。暁も月読も、もちろん、立花雪音も、皆日本で心配している」
そういって翼は続けた。
「なんなら私も一緒に考えてやろう。取材や熱烈なファンを掻い潜る術は身に着けている」
「それ、ニンジャ流の物理じゃなくって?」
二人は同時に噴き出した。今この場所で、互いに笑い合えるこの時間に、事実に、安堵する。ほどなくして担架がやってきて、彼女を運ぶ。ヘリに向かう最中、あたりを見渡すが、何もない、ただ広い草原だということ以外、なにもわからない。
「……」
自分に何があったのか、何をされ、何をしたのか。そして、どうして。
そこまで考えた彼女の頬を、風が撫でる。懐かしい感触。そして、
ニャァ
猫の鳴き声。視界の端を何か、白いものがよぎった気がした。
「猫?」
「どうした?」
担架を持つ二人の声が微かに聞こえる。
もう戻ってこない、辛くても、苦しかったとしても、彼女たちがいたあの日々。去って行った人々は、もう戻らない。
「ありがとう」
静かに、優しい笑みを浮かべ、
瞼と耳にかすかに残る、キラキラ輝き、楽しく、少し悲しい余韻に浸りながら、
彼女はゆっくりと眠りについた。
今度は、己の安らかな夢へ。
改めて、マリアさん誕生日おめでとう(*'ω'*)
そして稚拙な拙作を読んでくださった貴方
有難うございますm(__)m
最後にメリーゴーランドに乗る笑顔のマリアさんが書きたかったッ!!
でもどことなく寂しさの交る終わり方です。
本来はもう少し熟考した上で進めたかったのですが、
如何せんドリームランドへも錬金術へも理解度も低いまま、勢いだけで突っ走ってしまいました…
今回の登場人物、マリア、シンディ、ドローレスは
結構対比というか、近い境遇だけど違う生き方をした者たちと設定してかかせていただきました。
マリアのと同じ孤児院のシンディ
シンディのように母親の愛を受け止められなかったドローレス
ドローレスと同様の何度も挫折を経験したマリア…
いやぁ構想が上手い事まとまらず、荒い作品で恐縮です。
もしかすると、今後イベントで…なんてことも考えたりww
ともあれ、この日を皆様と祝えたことに最大の感謝を。
そして、
絶ステ乗り込むぞおおおおおお!!!!
有難うございました!!
PS.本編もじんわり進めてますよ~(;^ω^)