その一言は咲夜を冷たく突き放すものだった。
彼女の心にはガラスの破片が刺さったような痛みが走り、世界から拒絶された感覚に落ちていく。
「つ、つまらない冗談はやめなさい…。ただでさえあなたは物覚えが悪いのに私の顔まで忘れるなんて笑えないわよ…」
「俺にメイドの知り合いなんていないぞ。誰かと勘違いしてないか?」
蒲公英は噓をついているのではなく、彼女のことが記憶にないのは本当だった。
咲夜は普段の彼を知っているためにそれが本心で喋っていることに嫌でも見抜いてしまっていた。そのせいで今までの思い出が無くなったような喪失感で体温が奪われていく。
「咲夜、あれはもうあんたが知ってる奴じゃないわよ」
「―――っ!元はと言えばあなたが…!!」
咲夜は霊夢にやり切れない怒りをぶつけそうになるが、寸前で冷静さを取り戻す。霊夢は霊夢で彼女の仕事をこなしただけだ。これで彼女が悪いと決めつけるのはあまりにも直情的過ぎであった。
「あの、私達には話が見えてこないのですが………もしかして彼とお知り合いなのですか?」
早苗は咲夜の口ぶりから何かしらの関係性があることは察していた。
「知り合いもなにも、
「「「あれが!?」」」
彼ほどに力があり、それも妖怪を敵対視する思想であるのにレミリアの所で執事をしていたとは予想を遥かに超えていて三人は揃えて驚愕の声を上げた。
「し、信じられません…」
「彼が大人しく仕えていたとは到底思えませんが?」
「妖夢の言う通りだ!あんだけ強いのに誰かに従っているなんておかしな話だぜ!」
「寝言は寝て言えー」
最後にやかましいのが続いたが三者三葉に驚きを隠せなかった。魔理沙にいたっては彼が誰かに従っていたという事実が許せなかった。
咲夜は彼女達の反応を気にかけずに蒲公英へ向き直り、縋るような声色で口を開く。
「本当に何も覚えてないの?私だけじゃない……お嬢様のことも……妹様のことも……」
「悪いがそいつらも知らねえな」
彼は容赦なくそれを切り捨てた。
そもそも拠り所がないから漂泊者なのだ。自分に帰る場所がないのはよく理解しているつもりだ。
何故か胸の奥で感じる痛みを押し込めて咲夜に向かい合い、そして藍を指差した。
「いいからそれを大人しく渡せ。お前も痛い目に遭いたくないだろ?」
「そう……………よくわかったわ」
咲夜は妖夢に抱えている藍を預けると、ナイフを手に持ちゆっくりと彼へ歩みだした。
彼女の瞳には既に動揺の震えは消えており、強い意志と覚悟で定まっていた。
「悪いけど今のあなたを妹様に会わせられないわ。私に手を煩わせるなんて躾が足りなかったようね」
「俺に歯向かってくるのか?いまさら羽虫が一匹増えたところで変わりない」
「ま、待て咲夜!一人で戦うなんて危険過ぎる!ここはみんなで―――」
咲夜は魔理沙の制止を聞かないどころか、ナイフの刃先を向けて無理矢理言葉を止めた。
「これは私とあいつの問題よ。一人で十分」
そう言うと今度は蒲公英へ刃先を向けた。
そして無駄に整っている彼の顔を様々な想いが駆け巡りながらも真っ直ぐに見つめる。
こちらは胸が張り裂けそうになるぐらいに心配をしているのに彼はそれを一切気に留めない。言うことすらまともに守らない、少し目を離せば何かやらかすどうしようもない男だ。なのにこんなにも心が揺り動かされている。
その振り回されている事実が咲夜に沸々と湧き上がる怒りをせり上げさせてきた。
「大体あなたはいつもそうよ…。人の気持ちを分かったつもりで全然分かってない。だからあなたは馬鹿のままなのよ!」
「馬鹿じゃないお茶目なだけだ」
「あと裸にはなるなと何度も言ってるでしょ!服を着なさい!」
「服なんてそんな女々しいもの俺は着ないぜ。筋肉こそが男の一張羅!」
蒲公英の返答は全て咲夜の神経を逆撫でしていくものだった。
ヒートアップして声を大きくする彼女の様子に霊夢たちは目を丸くする。
普段の彼女ならば氷を体現したような凍てつく冷静さを見せていたのに今ではそれが一切ない。その姿はいつも自身で称していた完全で瀟洒なメイドでなく、熱い感情のままぶつける少女だった。
その言葉を蒲公英は右から左へと流すだけで少しも心には届かなかった。初対面の女性に説教をされる筋合いはないようだ。が、もしかしたら彼女は自分の知らない何かを知っているような気もしなくはなかった。
熱くなっていく彼女をよそに、蒲公英はおもむろに右のひじを曲げて二の腕に力こぶを作り上げる。そして自らのその筋肉の盛り上がりに「着るのかい着ないのかいどっちなんだいっ!」と語りかけ、筋肉ルーレットを回し始めた。
「ヤー!!」と叫び始めたところで、それはただでさえ限界の近かった咲夜の怒りの器を決壊させるのには十分過ぎる行動であった。
彼女の額に血管がはち切れんばかりに浮かび上がる。舌打ちをして黙ったまま懐中時計を取り出した。
「ぐへぇッ!?」
止まった時間の中では超人的な反射神経を持つ蒲公英も反応することはできず、身体中のいたるところが一瞬で切り裂かれた。
だが彼もただやられているのではなく、彼女の能力によって攻撃されたことをすぐに理解した。
「舐めるなよ!」
二度目の咲夜の能力の発動に重ねるように“否定する程度の能力”を発動させた。黒い霧が舞い上がり、咲夜の作り上げた静止した時間の世界を一瞬にして崩壊させ、彼女の姿を曝け出す。
無敵にも近い能力を無力化したのだ。呆気に取られて隙を晒しているはずだと蒲公英は当然のように考え、特に警戒もせずに右の拳を彼女に繰り出した。
「同じことが通用すると思ったの?」
しかし彼女はそれに少しも動揺することなく、目を閉じたまま拳を躱した。そして伸びた腕の内側に滑り込むと片手を彼の腋の下に入れる。
蒲公英の体勢が崩れると彼女は腰を曲げ、肩を軸に回転して背負い投げを決めた。彼の身体は弧を描いて宙を舞い、背中から地面に叩きつけられた。
「がはぁッ!?」
「忘れたのなら思い出せて上げるわ。私の恐ろしさを」
咲夜は仰向けになった彼の身体に馬乗りになり、間髪入れずに平手打ちを彼の頬に叩き込む。
「ほびゃあッ!!」
頬に手形跡が紅葉のようにくっきりと残る程に強い威力だった。
彼は乗る彼女の首を掴もうと手を伸ばすが、見透かされていたように軽く跳躍して避けられてしまう。
即座に立ち上がると彼女を追いかけ、真っ直ぐにタックルをぶつけにいった。大型トラックのような重厚感を纏った当たれば無事じゃ済まない一撃だ。
「その大雑把な攻撃も変わらないわね」
咲夜は闘牛の突進を赤いマントでいなすようにそれを難無く躱すと同時に、足をかけて彼のバランスを崩させる。が、蒲公英はよろけながらも宙返りから体勢を立て直して彼女の方に振り返った。
それも読み通りと言わんばかりに咲夜は表情一つ変えずに彼に接近して両方の太股にナイフを容赦なく突き刺した。
「痛゛ぇッ!?」
蒲公英は痛みに顔を下げるが、彼女はその下がった顎を指で軽く持ち上げて正面を無理矢理向かせた。そして無防備な左右の頬に連続で掌を打ち付ける。
右、左、右、左、と息を吸う間もなく頬が弾かれ続け、往復ビンタのガトリングガンと化していた。
「く、くそがぁ!」
両頬を腫らしながらも苦し紛れに大きく腕を振ってみせたが、距離を取られて空振りに終わってしまった。
困惑を隠す余裕もないまま、蒲公英は咲夜に抑えきれない声で問いかける。
「お前……お前一体何なんだよ!」
「あなたの上司よ」
「狂ってやがるこの女!」
目の前にいる少女は力量自体は霊夢たちとあまり変わらない。なのに自分の攻撃を全て知っているかのように対応してくる。
なぜなら蒲公英の能力も戦い方も咲夜は既に経験しているため、その情報のアドバンテージは計り知れないものであった。彼を圧倒する程に。そして忘れてしまった上下関係を再び叩き込むためにその
「えぇ………もうあの人ひとりで良くないですか?」
もはや蹂躙と言っても過言ではないその光景に早苗は頬を引きつらせていた。
自分たちがやっとの思いで彼にダメージを与えたというのに、彼女は単独でそれ以上のことをしている。
「あいつってあんなに強かったか?」
弱点である脇腹以外に対して攻撃が通用しなかったのに、咲夜のナイフは豆腐でも切るかのように蒲公英の身体に傷跡を残していく。
そこに魔理沙は自分と彼女で何の違いがあるのか疑問に思わずにはいられなかった。嫉妬心はあれど、強さへの探究心が上回って食い入るように咲夜の戦いを観察していた。
すると彼女たちの傍にスキマが開き、紫が体半分を乗り出して姿を現してきた。
「でもどれも決定打にはなってない。やっぱり彼女ひとりには厳しいわね」
「ゆ、紫様!?」
妖夢は突然に現れた紫に驚いて声を上げる。
その様子に紫は小さく苦笑し、彼女が抱えている藍を預り安全なスキマの中へと運んだ。そしてすぐに真剣な表情に変わって咲夜と蒲公英の戦いに目を移す。
それはちょうど蒲公英が霧を纏い始めて身体中の傷を再生させているところであった。
「咲夜さん!右のお腹にある傷口を狙って下さい!そこが弱点です!」
「嫌よ」
「そんなっ?言ってる場合じゃないですよ!」
咲夜は早苗の助言を受け入れる気はさらさらなかった。
あの傷がどうやって出来たのかは彼女はよく覚えていたからだ。もとを辿れば、フランから自分を庇ってその深い傷を負ったのだ。そこを狙うだなんて彼女には出来なかった。
再生が終わった蒲公英は負けじと咲夜に拳を向けて挑んでいく。終わらない戦闘の根競べに持ち込まれたらジリ貧になり、どちらに軍配が上がるのかは想像に難くない。
「紫。紅魔館の連中は納得しているの?」
「………」
何も話さないということはそういうことなのだろう。仮に蒲公英を倒せたとしても、次に揉めるのは予想できた。殺すのか生かすのかを。
「彼を止めることで一時的には話は着いたわ。現状、
紫は霊夢、魔理沙、早苗、妖夢、そして咲夜にそれぞれ目を向けて託すように口を開いた。
「私は一度戻って破られた結界を修復しながら否定の能力の対抗策を模索するわ。その間だけでも彼を止めてもらえないかしら」
彼女たちは当然のように二つ返事で頷いた。
そして蒲公英について何かを知ってそうな紫に魔理沙は我慢できない様子で尋ねる。
「おい、蒲公英について教えてくれ…!あいつの強さの秘密を!」
紫は顎に指先を当て、少し考えをまとめてから話を始めた。
「"想いを辿る程度の能力"………その力で彼は身体を失って心だけで世界にしがみついている状態よ。倒せる鍵があるとしたらそこよ」
「想いって……なんだかはっきりしないな」
魔理沙は一応はその説明に納得はしたが、腑に落ちることはなかった。心の領域について深くは考えてこなかったからだ。
「ようは心をこめて攻撃すればいいんですね!」
「そんな短絡的な…」
早苗のすぐに結び付ける考えに妖夢は素直に賛同することが出来なかった。
藍を含めた五人がかりでも蒲公英ひとりに押されていたというのに彼女たちは戦意を失くすどころか彼を打倒するやる気に満ち溢れていた。
その心強い様子を見て紫は自分の想いを託せると信じ、大切なものを預けるかのように静かに頼み込んだ。
「ここからは個人的なお願いになってしまうのだけど……彼をもう休ませてあげて。ただ人間と妖怪の長い因縁に巻き込まれた男の子なの。彼が戦っていることに私にも責任があるの」
紅魔館の住人との繋がりを肌で感じてきて、彼を妖怪の敵ではなく隣人として迎え入れるべきだったと後悔していた。従者である藍がここまでボロボロの状態になってしまったのも自分のせいだと負い目を感じていたのだ。
しかし、いまさらどれだけ悔やんだところで時計の針は逆に進みはしない。
「あんたがそこまで言うなんて珍しいわね。思い入れでもあるの?」
「なにも夢を想うのは人間だけの特権じゃないのよ」
その表に出てしまいそうな感情を誤魔化すために扇子を開いて口元を隠す。いつもの飄々とした余裕ある雰囲気と違った彼女に霊夢たちは不思議な思いであった。
「幸運を祈るわ」
紫がスキマを閉じて姿を消したすぐ後、空気を押しつぶすような大きな音が響き渡り、霊夢たちは反射的にそちらへ視線を向けた。
「どうやらお前の言う蒲公英は俺じゃないみたいだな。なんたってお前のことは一切知らないんだからな」
そこには蒲公英の重い一撃を喰らってしまって片膝を着く咲夜の光景が目に映った。しかし、彼女を見下ろす彼も息を切らした様子でどこか苦しそうであった。
咲夜の攻撃が身体に響く度、心が引き裂かれるような痛みに見舞われていた。そのことに微かな苛立ちすら覚え、彼女を早く始末しないと自分がどうにかなってしまいそうだった。まるでもう一人の自分が泣き叫んでいるように。
「けほっ……」
決して油断をしていたわけではなかった。蒲公英の適応速度が人智を超えようとしていたのだ。
岩をも軽く砕く怪力を喰らってしまった咲夜は呼吸を取り戻すので精一杯であった。そこに苦虫を嚙み潰したような表情のまま蒲公英は容赦なく手刀を振り下ろそうとした時、
「危ないっ!」
早苗の放った蛇を模した光弾が彼の腕に巻き付きその勢いを無理矢理止めた。
「邪魔しやがッ―――」
早苗の方へ振り向いた蒲公英に死角が生まれたのを利用して妖夢は脇腹に白楼剣を突き刺した。小柄な体躯を活かした接近に刺されるまで気付かず、黒色の液体がドボドボと腹から零れだす。
「おのれ小癪なッ!」
「あ゛ぁ゛っ!」
蒲公英は白楼剣を妖夢の手首ごと掴み上げて抜き取り、そのまま握り潰そうとする。彼女は痛みに耐え切れず手から刀を落とし、抵抗することが出来なかった。
「ふんっ!」
「うごぁッ!?」
そこに霊夢が滑り込みように間に入り、彼の顎を蹴り上げて妖夢を離し助ける。そして彼女は妖夢を担いですぐにその場から離脱した。後から来るその攻撃に巻き込まれない為に。
「さっきはよくも私の弾幕を食ってくれたな!そんなに食いたきゃ食わせてやるよ!たーんとお食べ!!」
「むごぉ?」
魔理沙は蒲公英の頭に跨るように肩へ乗ると、彼の開いた口に八卦炉を突っ込みマスタースパークを放った。
「喰らいやがれぇぇぇ!!!」
頬を水風船のように膨らませ、左目を大きく見開きながらも数秒間は口内への光線に耐えていた。
「あれも耐えるなんて冗談が過ぎますよ…」
妖夢は魔理沙の口に直接マスタースパークを撃ち込むことに少し目元を歪めたが、それ以上にその攻撃を耐える蒲公英に顔をしかめた。
流石にこれを喰らい続けることは不味いと判断したのか、蒲公英は魔理沙の腕を掴むと霊夢たち目掛けて力いっぱい投げ飛ばした。
「手応えはあった…!」
「あんたねぇ」
魔理沙は霊夢に受け止められながらも目を輝かせて蒲公英へ視線を向ける。彼女は彼に少しでも手が届けたことに嬉しさを覚えていたのだ。だからといってあんな向こう見ずな行動に霊夢は呆れるしかなかった。
蒲公英の顔色は海よりも青く染まっており、食べ過ぎてしまった直後のように口を両手で抑えたままゆっくりと重い足取りで数歩だけ歩いた。そしてついに限界を迎え、両膝と両手を地面につけて這いつくばった。
「オロロロロロロロロロロロ」
星色に煌めく吐しゃ物をマーライオンのように地面へ吐き散らした。これだけの量を一度に消化することは不可能であったようだ。
「あなたたち、手出しは………」
「今はそんな意地を張っていていないで全員でいかないと駄目ですよ!」
咲夜は早苗の肩を借りながら立ち上がって、霊夢に容赦なく頬を蹴り飛ばされている蒲公英へ目を向ける。
咲夜だけはここにいる少女たちと違って蒲公英を救いたかったのだ。このまま彼を暴れさせてしまえばもう一度殺されてしまう。それは自分としても、主人としても望んでいない。だから霊夢たちとは足並みを揃えていくことが前提から異なっており、土台無理な話であった。
一度崩れた城壁というものは実に脆いものであった。脇腹の弱点が露呈した瞬間から以前の頑強さを保つことができていなかった。このまま全員で攻め続けていれば蒲公英の壁を押し崩せそうな程に。
今が攻勢に出るべきだと少女たちが各々の武器を構えた時である。
「ははは……いいだろう!そんなに命が惜しくないのなら俺のとっておきを見せてやるよ!想像の果ての進化を!」
蒲公英は殺気と霊力を混ざり合わせた気迫で少女たちを遠ざけ、舞い上がる霧で身を覆い顔を右手で隠し始めた。
そして自然界から逸脱した何かが生まれるような神秘が訪れる感覚。見る者には「畏れ」を抱かせる底知れぬ深さを与えた。
その行動が生み出す意味と結果はこの目で見ていたために霊夢たちの顔に焦りが浮かび上がる。
「存在を変えるつもりよ!絶対にさせちゃいけないわ!」
「なんで知ってるの」
絶対にその変化を行わせてはいけないという本能的な使命感から霊夢たちは弾幕の集中砲火を蒲公英に浴びせた。変身中に攻撃しないというヒーローもののお約束は彼女たちには通用しなかったようである。
霧で姿が隠れているために当たっている感触はあるものの効いているのか目で確かめようがなかったが、それでも撃ち続ける他なかった。
そして弾幕の雨を浴び続ける濃い霧の奥から
はじめにそれに反応したのは魔理沙だった。なぜならその光は自分が一番知っている光であったからだ。
「みんな避けろぉ!!」
『“恋符”マスタースパーク』
少女たちの弾幕を全て塗りつぶす特大の光線が霧に身を包む蒲公英
今の放たれた光線は魔理沙の、………いや、その数倍以上の威力を誇っていた。
「ずっと、ないものねだりしてきた人生だったからな。他人のものが眩しくて…羨ましくて仕方なかったんだ」
霧のカーテンをそっと押しのけるように現れた蒲公英は前方に突き付けていた手のひらをゆっくりと下す。
その姿は先程までとは違って無色であった髪が金色に染まっており、左目から覗かせる瞳も金色に変化していた。
星色に輝く光線に加えてその瞳と髪の色。この場にいる一人の少女を指し示すかのように連想させる。
「“存在転化”霧雨魔理沙」
“種族”としてではなく、“個”としての存在を写し取った者がそこに立っていた。