いつも駅入り口の柱に向かって寄り掛かる駅員がいる。
 柱の方を見つめているからか顔は見えないが、何故か周りの人はその人に対して話しかけたりはしない。それは恐ろしいからかそれとも…見えているのは自分だけなのか。
 ある日私は、その駅員に話しかけてみることにした……。

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あの駅員

 日常のありふれた風景に一つだけ違和感があるとかえって不気味に感じるものである。

 

 この話は私が先日体験したものなのだが、私はあれ以来駅の入り口の真ん中の柱を見ることが出来なくなってしまった。

 

 現実にまさかあんなものがあるとは思ってはおらず……詳しい話をしようと思う。

 

 

 

 ***

 

 

 

 あの日はとても蒸し暑い日であった。夜中に大雨が降ってからの快晴。地上におりた雨が一気に蒸発したからか蒸し返すように湿気がこもっていた。そんな中で外は三十六度近くまで気温が上がっているのだからたまったものではない。

 

 私は足早に駅で涼もうと思い、中に入ったのだが……。

 

 

 

 ふと、駅の入り口に気になるものがいた。

 

 それは駅員だった。何故か駅の入り口の広間にある柱に向かって顔を向けて立っている駅員。ずっと柱の方を見ており、顔は見えず微動だにしない。

 

 実はこの駅員。最近よく見る。

 

 自分は電車で会社に通勤しているのだが、必ずと言っていいほどあの位置に立ちつくしているのだ。勿論駅員ならば、そんな事をしていれば仕事をしていないわけで叱られるはずなのだが。特に付近の駅員に触れられることもなく、また他の人々も彼に対して近づいたり気にしたりする様子はなかった。

 

 まるで彼がいないように扱われているのだ。

 

 そうもなると自分は幽霊でも見ているのかと頭を疑いたくなるものだが、私は幽霊など信じない性質で逆に気になってしょうがなかった。

 

 だから……その駅員に声をかけてしまったのだ。

 

 

 

「あの……貴方いつもここにいますけど、何されてるんです?」

 

 

 

 私は彼に近寄り、肩をトントンと叩く。

 

 しかし、彼が振り向くことは無かった。不気味なほどに静かに彼は柱の方を向いたまま固まっている。

 

 私は彼の顔を見てみようと横からそっと回り込む。

 

 一瞬、恐ろしく歪んだ顔があるのではないかと恐れを覚えたが、それよりも好奇心の方が上回っていた。

 

 彼の顔を覗き込むと…。

 

 

 

「……あれ……」

 

 

 

 そこにあったのは普通の横顔だった。ごく普通の男性の顔。しかし、その顔は何故か狂気を感じるほどの笑みを浮かべていた。

 

 これは……やばいものなのだろうか。何を笑っているのか想像も出来ず、異様な状況にうろたえていたが、ふと彼は何を見ているのか気になった。

 

 

 

 …今思えばあれは見なければよかったのかもしれない。

 

 

 

 その柱の壁にあったのは、不気味なほどに口角を吊り上げわらっている顔だった。男性か女性かは分からない。ただ顔だけがそこにあり、にたにたと歯を見せながら彼を見つめていたのだ。

 

 彼はこちらに視線を向けず、こう私に言った。

 

 

 

「こういう仕事なんです」

 

 

 

 私はそれ以上彼の事について触れることはやめた。あれが何の意味があるのかは分からない。

 

 しかし、この駅は昔よく人身事故が多発していたらしい。最近はあまりその話を聞かないが。

 

 彼の仕事はもしかしたら……そういうものに関わる何かを抑える役目を担っていたのかもしれない。

 

 今となってはその詳細は分からないが。その日、その駅で人身事故が起こった。

 

 私は彼の仕事を邪魔してしまったのかもしれない。

 

 今度からよく分からぬものには触れないようにしようと思った。

 

 もしかしたら……その弊害が自分に来るかもしれないのだから。


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