皆を救ったら二次災害が起きてた件について(最低速度投稿) 作:カツオ節太郎
「……懐かしい、まではないか」
気がついたら見知った部屋にいた。
安物のソファー。シンプルな内装。
……シンプルというかソファー以外何もない。周りにダンボールが積み上がっているのを除けば空き部屋そのもの。
元のまま…ってのは無理か。
……先ずは荷解きだね。
「……何が入っているのやら」
あ、保険証とかどうすればいいんだろ。
原付の免許もあったし……愛用していた単車とかキャッシュや通帳も。
全然聞いてなかったなぁ。
関与しないと言われた以上は確認する術はないんだけど。
手始めに足元に置かれた大きなダンボールを開ける。
これは━━
△
▽
「…………」
薄暗い部屋。ほとんど付けっぱなしのパソコンは電源が落ちている。
……13時くらい、かな。
「………んっ」
背中が、痛い。
……動きたくない。
動いたところで意味はないもの。
……そう、意味がないんだ。
「悠…………悠……」
『おはよう奏……また散らかしっぱなし……ちゃんとご飯食べてる? 穂波ちゃんが居ない日ぐらいはしゃんとしなさい。……で何食べる? 作るよ』
『カップ麺をベッドにぶちまけたって…簡単に男の家に上がるもんじゃないよ。……ベッド貸すからゆっくり寝て。大丈夫……傍にいるから』
『……もしかしてみんなと会話中だった? それじゃ俺は……招待? いいよいいよ。乙女の中に男一人はちょっと苦しいかなぁ』
……もう居ない。
もう会えない、見えない、話せない、触れられない。
思えば思うほど……叶わないのに…。
分かりきってることなのに……。
会いたい……会いたい……会いたい。
「……悠…」
とうに枯れたと思っていた涙が溢れ出す。最後のお別れも言えなかった……。
最後まできれいな顔だった悠が頭の中に浮かぶ。……どの顔よりもきれいだった。
……ああ…そうだ。
わたしは悠に甘えていたんだ。
……依存していたんだ。
誰かを幸せにしていたつもりなのに……。
……幸せにしてもらっていたんだ。
悠が傍にいたから幸せだったんだ。
いないだけでなにも出来なくなるくらい。
…………好きだったんだ。
「あはっ……あははは…」
着信音。だれかからの電話。
光の点滅が眩しい。
……絵名、かな。それとも瑞希。
まふゆ、かもしれない。
……どうでもいい。
動きたくないし……。
「このまま……死ねば…」
悠に、会えるかな━━
……チャイムが響く。
…………あれから家事代行は断ってる。
でも望月さんなら……。
…関係ない。
今のわたしには━━
死ぬことし━━
「……すいませーん!」
「…ぇ……?」
男性の声が外越しから聞こえる。
知ってる声……知ってる声だ。
聞き間違えるはずがない。
悠の声、だ。
……幻聴まで聞こえるようになったんだ。
「あの! いませんか!」
幻聴は私に呼びかける。
……幻聴でもいい。悠の声が聞こえるなら……。
「……居ない? 鍵は開いて…る。……仕方ないか」
ガチャ…と、金属の擦れる音。
ドアノブをひねる音。……少しずつ足音が近づいてくる。
「……幻聴じゃ…ない…?」
……悠は死んだ。わたしはこの目で見た。看取ることもできず……。
だけど……ありえないはずなのに心のどこかで期待している。
悠が生きていることを……。
認めたくないだけ……それだけ…だけ、ど。
「暗い。………は確か……………っ……」
今だけは認めない。
だって……目の前に悠が立っている、から。
「……ゆ、悠…」
暗い部屋の中。それでもわたしは確信した。
目の前に立つ人が悠だって……。
「悠…」
体を起こして立ち上がる。
力が入らない。……あれからずっと動いてなかったせいで動く度に悲鳴をあげる…。
フラつきながらも立ち上がりヨロヨロと前に進む。悠は動かない……。
微動だにしない。
人形みたいに……そう人形みたいに。
人形でも……いい…。
幻でもいい…。
「悠」
抱きつく。……悠、だ。……悠だ。
離さないように…ギュッと…ギュッと抱きしめる。
……絶対離さない。
△
▽
ダンボールの中にはメモが一枚だけ入っていた。……宵崎奏に会え、とただそう書かれていた。
誰が書いたかは一目瞭然。
関与しないと言っていたけど……。
この際助言として受け取っておくことにする。
お隣さんだから挨拶には行こうと思っていた。流石に変装をしてから……だと思ったんだけど。
……気になった。
死に顔を晒してしまったんだ。
一番ショックを受けているのは奏だと思ったから。
自惚れるつもりはないんだ。
身内であれ他人であれ目の前の死というものは大なり小なり精神にダメージを与える。
みんながいるから大丈夫だと思うけどね。それでも心配なのには変わらない。
それで来てみたは来てみた……けど。
俺はこの時ばかりは神様に怒りを覚えた。
「……悠……悠……っくぅ…」
ゾンビのように抱きついた奏。
綺麗な髪はボサボサに……赤く腫れた目には隈……涙の痕。
開いた口が塞がらない。
小枝のように細くなった腕は必死に離すまいと服を握り締めている。
声を抑え泣く。服が涙で濡れていく。
……そっか…こんなに……。
割れ物を扱う様に……優しく、優しく…背中を擦り頭を撫でる。
「悠……悠…っ…」
「…目に隈ができてる。ちゃんと寝ないとダメだよ?」
「…う、ん……うん…っ……」
「……ベッドに行こう。ね」
抱え上げる。
とても、軽い…………。
「……悠…」
ベッドの前に立つ。
降ろそうとした…けど、降ろせない。
ずっと服を握り締めているんだ。
…………バレなければいい。
そう、これは夢。
ベッドに横になる。
「……大丈夫。傍にいるから」
嘘つきで、ごめんね。
「…うん……」
「だからちゃんと寝るんだよ」
「……わかった……ちゃんと……」
あれだけの隈。
奏が寝息を立てるまで時間はかからなかった。
「さて、と……」
奏を剥がしてベットを下りる。
119に電話……。
スマホ……も無かったな。
…着信音。
「奏のスマホ……っ!?」
通知が凄いことになってる。
もしかして誰とも……。
着信相手は……。
「……」
「やっとでた! 奏! いい加減に……」
「……奏をお願い」
「は? …なんで奏のスマホ━━」
これ以上は不味い。
電話を切り奏を見る。
絵名の性格上大丈夫。
……全く冗談じゃない。
他の皆も心配だけど……。
奏程じゃない…と慢心したら痛い目を見そうだね。
ああ…もう、本当に……。
「またね、奏」
鉢合わせる前に出てしまおう。
次会うときは……はじめまして、か。
△
▽
「……なんで俺が行かなきゃなんねぇんだ」
「仕方ないでしょ! 奏の電話に男が出たんだから」
面倒くさいとため息を吐く弟の手を引きずり街を駆ける。
祝日で彰人が家にいて助かった。
何かあったら彰人に対処してもらえるし。
「男だろ? 彼氏とか」
思わず立ち止まる。
彰人はやべっ……と口をこぼす。
「本気で言ってる?」
「……悪い」
奏のこと知ってるでしょうに…。
悠……。
あんたが死んで奏はナイトコードに顔を出さなくなった。
電話をしてもメッセージを送っても……。
彰人も彰人で悠と面識がある。
なんなら私よりも先に知り合って仲のいい先輩後輩だった。
冗談でも言わないとやっていけないのは分かるけど。
奏や彰人ほどショックは無い。
でも辛いものは辛い…。
……あっという間だった。
ほんとあっという間よ。
こっちの気も知らないで。
気持ちよさそうな顔で……逝って。
そういえば……電話の男。
悠の声に似てたな…なんて。
「って急ぐわよ!」
「分かったからひっぱんな!」
あれから奏と会ってない。
まふゆが奏のところで家事代行サービスをやってた子に聞いたらしいけどあれ以降は断られて行ってないみたいだし。
なにより奏の電話に男が出た。
……悠に続いて奏まで……やめてよね。
あああああああ。
トラブルが多かったみたいなので神様のせいで変装するタイミングを逃しました。ある意味ナイスなのかもしれないですが……。
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