救国軍事会議編になります。
宇宙暦797年 旗艦アトラス ユーリ・クーロ
ハイネセンまであと数日といった時に緊急通信が入った。
ハイネセンで救国軍事会議の支配に反発した市民のデモが行われた。
これは先に行われた選挙で議席を伸ばした反戦派首魁のジェイムズ・ソーンダイク氏、協力関係にある中道派を中心に反戦・反クーデターを掲げる民主派議員や民衆が参加した集会がハイネセン記念スタジアムで行われたそうだ。
20万人を越え、30万人に近い数が集まったそうだ。
その集会を解散させようとしたドワイト・グリーンヒルがクーデター派のクリスチアン大佐率いる部隊が派遣され、暴力的な対応でソーンダイク氏が殺され、その対応に激怒した市民がクーデター派の部隊に襲い掛かった。
パニックや武力弾圧によって多数の市民が犠牲になり、クーデター派の軍人3000人近くが殺され、市民が4万人が死んだ。
被害が大きくなった理由は装甲車や戦車が対人用の散弾を装備していた事が大きく影響した。
クリスチアン大佐が集会の人数を聞き、万が一に備えた装備だ。
『我々はどうすればいいかお伺いしたく思います。』
ハイネセン郊外にある旧ローゼンリッター駐屯地を拠点とし、抵抗を続けている後方勤務本部長ウィルコック中将から定期報告とスタジアムの虐殺の話を聞いた。皆が言葉を失っている。
ハイネセンから追い出される形になったが私のシンパの部隊と合流し、グリーンヒル率いる救国軍事会議と睨み合う形になっている。
「このままの形でいい。」
『よろしいので?』
「仕方ないだろう。市街地戦をすればどこまでの被害になるか分からん。」
『しかし……!』
ウィルコックは市民の反クーデター感情がこれまでにないほど悪化している現状を危惧しているのだろうが、どうしようないだろう。打つ手がない。
「当初の計画が潰えた今、第一艦隊の圧倒的兵力による電撃戦しかないだろう。」
準備も整っている。あとはハイネセン近郊に艦隊が行けば片が付く。なのにこれほどの犠牲が出ている。頭が痛くなるばかりだよ。
『分かりました。閣下の来援を待ちます。』
「その時にはそちらからも部隊を出してもらう。準備に怠りがないようにな。」
『ハッ!』
そう言って通信を切った。
「中々計画というのは上手くいかないものだな。いや…上手くいかないから計画というのかもしれんな………。」
「4万人も亡くなるなんて………。」
カリンがスタジアムでの惨劇にショックを受けている。確かに惨い事態だが、デモ隊もクーデターを起こしたバカ達を甘く見過ぎだ。軍の過激派などキチガイに刃物位のレベルだ。
それを反戦デモ、反クーデター集会などするからこうなる。
「チュン総参謀長、例の準備は?」
「ハッ、予定通り12機全て準備を完了させております。」
「…………。」
「いかがなさいましたか?」
「いや大金を払って用意した装飾品も一度もお披露目することなくゴミ箱送りとは、と思ってね。」
私の自嘲に男連中皆が苦笑する。
「しかし、電撃戦でハイネセンをクーデター派から解放するにはこうするのが一番だろう。」
「はい。敵が放心状態の間に降下し、一気に重要目標を制圧する。これが早くケリがつき、一番味方の被害が少ないはずです。」
だな。
「降下部隊には装備のチェックを怠るなと伝えろ。それと制圧目標の内部構造のチェックもな。」
「「「ハッ!!」」」
全く。帝国の2分する内乱を高みの見物する予定がこんな事になるとは思いもしなかった。
それだけローエングラム伯とオーベルシュタインの計画が見事だったということか。
宇宙暦797年 ハイネセン近郊 旗艦アトラス カーテローゼ・フォン・クロイツェル
「あの……クーロ大元帥はアルテミスの首飾りの攻略手段をいつ用意されたのです?」
明日ハイネセンをグルリと守るアルテミスの首飾りを攻略し、そのままハイネセンに多数の降下させ、一気にクーデター派を鎮圧する作戦が行われる。
その作戦が始まる前に聞いておきたい事を聞いておこうと思い、声をかけた。
「士官学校の教官を務めた時に、そこにいるワイドボーンやラップ、ヤンが生徒だった時に課題としてだした事がある。勿論その前から考えていた。幾つか方法があるが正解を出してきたのはヤン1人だったな。」
「ヤン提督が………。」
「他の者は外からのハッキングや前もってプログラムに細工をしておくなど内的要素の答えだった。ヤンだけが外的要因での破壊のレポートを書いていた。そこでアイツの目の付け所が他の士官候補生と違うと思った。」
「「「「「………………。」」」」」
そんな昔からヤン提督は異才を放っていたんだ。
「大元帥がアルテミスの攻略法を考えられたのは?」
「私も士官学校の時だ。私は変わっていたからな。堅牢堅固な防衛システムを破ってみたいと思った。」
そんな時からこの状況を想定していたのかと、彼が怖くなった。そんな私の思考を読んだのかクスクスと笑い出した。
「この状況を読んだのではない。ハイネセンの首飾り、本当に難攻不落か証明したかった。この世に難攻はあれど、不落はないと証明したかった。子供ながらの稚気だよ。」
周りを見ても、皆が思い思いの表情をしている。畏怖、感嘆、憧憬など様々な感情に彩られている。
「さて、そろそろ私も休むとする。皆も周囲を交代で休息を取るように。」
そう指示を伝え、立ち上がり自室に戻ろうとした。
クーロ大元帥を見送ると、チュン総参謀長、ラップ参謀長、スールズカリッター少佐が溜息を漏らされた。気持ちは分かる。
「彼がもっと早くに軍の全権を握っていれば………そう思わざるをえんな。」
「はい。士官学校の教官を務められたのは早すぎる出世を警戒しての事と聞きました。それがなければあの馬鹿げた帝国領遠征もなかっただろうし、今回のクーデターも彼に従う者達で抑えられたはずです。」
ウランフ提督、ホーウッド提督、ルフェーブル提督、アル・サレム提督、アップルトン提督と帝国領で亡くなられた諸提督方の名をあげられた。
チュン総参謀長が首を横に振り、大きな溜息を吐いた。
「過去を振り返っても仕方ない。私もチェックをしたら休むことにする。皆も自身の仕事を終わらせて、順番に休んでくれ。」
「君も休んでいいぞ。」
ラップ参謀長が私に休むように気遣ってくれる。“ありがとうございます”とお礼を言ってから艦橋を後にした。
常日頃から勉強になる事が多い。ヤン提督のところのユリアンだったかしら?彼もヤン提督の側にいることで勉強になる事が多いのかしら?
宇宙暦797年 旗艦アトラス ユーリ・クーロ
「さ〜〜て、始めようか!」
ぐーーーっと交互に重ねた手を上にやって、伸びをしてから告げるとブリッジが動き出した。
「ハイネセンに繋がりました。」
緊急災害通信のラインを用いた通信だ。ハイネセンにいるウィルコックが掌握し、回線の遮断を図ろうとするクーデター派からラインの維持をする。
「ハイネセンの皆さん。私は自由惑星同盟軍統合作戦本部長兼宇宙艦隊司令長官ユーリ・クーロ大元帥であります。今日は皆様にお伝えしないといけない事があり、緊急災害放送の通信ラインを用いて皆様の前に、こうして出ています。」
横にある端末のキーを押すと、画面横に文書が公開された。
エル・ファシルでのリンチ少将の逃亡事件の真相だ。当時の政府、軍部のお偉いさんが揉み消しを図った証拠の文書だ。
「今ご覧になられたようにリンチ少将は軍の命令として、エル・ファシルを離れ、迫っていた帝国軍艦隊を引き付ける役割を担ったのであります。これが英雄ヤン・ウェンリーの陰に追いやられ隠された真実なのです。」
今も思い出すと頭に、鼻に、胸に、心にくるものがある。あの時の彼らの覚悟を思うと頭が下がる。
そこからは彼らの家族の生活の援助をしたこと。そして先だっての捕虜交換で帰還した彼らが私の下で働きたいという旨を伝えてきたことを同盟市民に伝える。
そして、ここからが一番重要な事実。
「そして今回のドワイト・グリーンヒルを首魁とするクーデター。これは帝国軍元帥ラインハルト・フォン・ローエングラム伯の計画なのです。」
恐らくはクーデター派もハイネセン市民も、いや同盟市民全員が驚いているだろう。
横の端末を操作し、リンチ少将から渡されたクーデターの計画書を表示する。
正直、見事な計画だ。私が読むことも、備えることも織り込んだ綿密で緻密なものだ。ローエングラム伯とオーベルシュタインの謀略の才には驚かされる。
真っ当で真人間な私には到底思いつかない悪辣さだ。
「リンチ少将達、エル・ファシル守備隊の人達はローエングラム伯に寝返った振りをして、私に今回のクーデター計画書を引き渡しました。そして私はそれに対し対策を講じたのですが、クブルスリー元帥襲撃事件でハイネセン残存艦隊が機能不全に陥り、その隙を突かれた次第です。」
一旦、話を止めて間を作る。そして空気を変えて雰囲気を出す。
「しかしそれももう終わりにする時が来ました。これよりハイネセン解放作戦を実行します。」
ハイネセンの市民もクーデターを起こした救国軍事会議の馬鹿どももヒリヒリ、ピリピリしているだろう。
「黎明の夜明け作戦を開始する!」
バッと手を前に突き出してポーズを取ると、アルテミスの首飾りに向かって12個の物体が向かっていく。言いたいことは言ったし、伝える事は伝えたから通信を切った。
若干時間が余ったから適当につけた作戦名を言って時間を調整して、帳尻を合わせた。
艦隊がハイネセンに向けて動き出す。もともとイエローゾーンの半ばに入っていた。10分も前進すれば危険区域のレッドゾーンに入る。そして2時間も前進すれば惑星ハイネセンの上空に到る。そうなれば降下作戦に移れるだろう。
パッと艦隊を追い越し、氷塊がアルテミスの首飾りにぶつかり壊れた。何度か高威力の攻撃をするも氷がジュッと微かに湯気を立てて終わる。
そしてぶつかり、壊れると一瞬間があってから爆発する。
それはハイネセンをグルリと配置された首飾り12基同時に白く輝く爆発なのでハイネセンに住む者達も分かっただろう。
今日でこの茶番狂言も終わる。そして明日からまた人事調整や組織改編の日々が一ヶ月は続く。溜息しか出なかった。
宇宙暦797年 ハイネセン 統合作戦本部 カーテローゼ・フォン・クロイツェル
今、私は後悔している。大元帥もチュン総参謀長とラップ参謀長も、分艦隊司令官の方々も止めておくようにと言われたのを振り切ったのを。
現在私はクーロ大元帥が直接指揮する陸戦隊の最前線にいる。ハイネセンのクーデター派が押さえている施設の制圧が行われている。
ボロディン提督、カールセン提督、ワイドボーン提督、リンチ提督は勿論。チュン総参謀長やラップ参謀長も陸戦隊を指揮し、関係各所の制圧を進めている。
そして統合作戦本部はクーロ大元帥自らが陣頭指揮を取るように通達がされたと思ったら、先陣をきって突入していった時は目を疑った。
先ず最初に降伏勧告をすると、統合作戦本部を6つの入口から部隊を突入させる手筈を整え、各部隊に“武器を持っている者は殺せ。武器は有罪の証だ”と命を下した。
各部隊は凍りついたが、誰も異論反論を言わず、翻意も促さなかった。
そして彼は突入作戦が始まると一切の躊躇なく、次々と同じ同盟軍の兵を撃ち倒している。
各セクション、各部屋へ突入前に降伏勧告をしてから突入する。そして抗戦の意思ある者は躊躇なく撃ち抜いている。
飛び散る脳漿、鮮血。撃ち抜かれたことにより発せられるうめき声に絶叫。私は今軍人になったという事実を叩きつけられている。
一階から順に上へ攻略していく。他の部隊よりもハイスピードで攻略していく大元帥。10階の攻略を終え、小休止をとる。
他の攻め口の攻略を待って、上層階は攻める。水とゼリー飲料だけ口にする。固形糧食は腹部に負傷を受けた際に手術や手当ての邪魔になるから食べないように言われた。
一個小隊を偵察と警戒に当て、休んでいる。
「夕方には終わるかな?」
「今までの時間でいけば。」
陸戦隊の大隊長の会話している。午前中に攻略し始め、今は昼を過ぎて14時になったところだ。
「夜間の攻略は不必要な犠牲を双方に出す恐れがある。」
「同意します。しかし上層階は今回のクーデターの主犯格が多数いるはずです。抵抗も激しくなると予想されます。」
「いや、これより上は抵抗が少ないはずだ。」
閣下の予想に私も含め、皆が戸惑う。何を根拠にそのような事を言われているのだろう?ここは救国軍事会議の本営。守りも硬いと予想していたのに。
「奴らは数が多くないからな。此処にそこまで兵力を詰めておくわけにもいかんさ。主だった連中とその側近と連絡要員くらいだろうさ。」
なるほど………確かに説得力のある意見だ。陸戦隊の大隊長、中隊長、小隊長も頷いている。
「さて、そろそろ行こうか。のんびりして日が暮れても困る。」
やれやれといった感じで立ち上がる。皆も戦闘準備を始めた。
宇宙暦797年 ハイネセン 統合作戦本部 ドワイト・グリーンヒル
バカな……バカな……っ!何故こうなった。クーロ大元帥が戻ってくる前にハイネセンを政軍共に掌握するはずが、軍上層部の拘束に失敗し、血みどろの暴虐なる騒動を起こし、市民からの反発を招き、難攻不落を誇ったアルテミスの首飾りが何の役にもたたず破壊され、今やここ一室に追い立てられている。
プシィーーーッという音と共に扉が開いた。バカなっ!ロックをかけていたはずなのに。
1人の男が堂々とした佇まいで入ってきた。クーロ大元帥だ。
何人かが銃を抜いて撃ち殺そうとしたが、手に持った銃で手を誤る事なく撃ち抜いた。
「まさか生きていたとはな。自分の始末は自分でつけていると思っていた。」
そうしようとした。だが最期に………。
「最期に君と話したかった。」
「左様で。私は特に話すことはないんだがな。」
素っ気なく返されたが構わず訊ねた。
「私は何を間違えた?」
私達の崇高なる意思が間違っていたとは思えない。だが何一つ上手くいかなかった。それはクーロ大元帥という男が居たせいなのか。私達の計画、いやローエングラム伯の計画が甘かったのか。
「全てが悪かったのさ。」
バッサリと切り捨てるように言われた。――全て………か。
「指導者の能力も、それに従う部下の能力と人数。救国軍事会議だか何だか知らん物の中身、対した相手。その全てがな。」
そうか………全てか……。そうだな。
「ついでに言えばハイネセンでクーデターを起こせたのも、私の目溢しがあったからだ。ハイネセンに私が居ればあんた達は立たなかっただろう?だから私が鎮圧部隊の指揮を直々にとってハイネセンを離れた。あんたらが暴発するようにな。」
「……最初から………、全て想定内だったのか………。」
彼が冷笑を浮かべている。
「帝国領遠征の失敗で主戦派は根こそぎ責任を負わせて刈り取った。後は同盟内にいる不平分子の一掃だけだった。でも貴方達は味方だから立ちが悪い。罰しようにも大した罪状がないですからね。」
「だから私達の背を押すようなことをっ…………!?」
「決断し、実行したのは貴方方です。私のせいじゃない。」
ギリリと歯が軋む感覚を感じる。どこまでいっても彼の手の平の上だったのかっ!?
「権力闘争など頻繁にやるものじゃない。纏めて一気にやるものです。」
負けた。私は、私達は負けたのだ。肩どころか全身から力が抜けた。椅子に深くもたれ掛かる。
「自分のケリは自分でつけることにしよう。」
懐から銃を取り出す。手元で確認しながら、残すことになった娘を思い出した。赤ん坊の頃、子供の頃、士官学校に入る頃。
走馬灯のように駆け巡る。
不意をついて銃をクーロ大元帥に向けようとした瞬間、眉間を間髪入れずに撃ち抜かれた。
感情が一切に籠もっていない冷徹な瞳を彼が此方に銃と共に向けていた。遠く薄れゆく意識でそれだけ確認できた。
宇宙暦797年 ハイネセン 統合作戦本部 ユーリ・クーロ
救国軍事会議の起こしたクーデターを鎮圧し、ハイネセン及び同盟内に平穏な時が戻った。
しかし統合作戦本部、後方勤務本部は地獄の様相になっている。クーデターの発生から半月も業務が止まっていたので、その処理に追われながら、組織の改編にも取り掛かる。
膿は大半取り除いたが自由惑星同盟全体の調整になるので時間がいくらあっても足りない。
とりあえず降伏した第11艦隊の大半はボロディン提督に預け、一万五千隻で第12艦隊を再発足させ、訓練をハイネセン近郊でさせている。第1艦隊が訓練相手を務めている。
私も、療養中の副司令官クブルスリー元帥もいないのでチュン総参謀長とラップ参謀長が艦隊司令官代理をしている。
トリューニヒト議長が地球教の人達に匿われ、無事だった。テレビでその事を話している。そして今回のクーデターを問題視し、私に首輪を嵌めようとしている。
前々から軍も自身の統制下に置きたいと思っていたのだろう。
椅子を180°回し、後ろを向いた。下は日常を取り戻したのか多くの人が歩き、エレカが走っている。上は所々雲があるが青空が広がっている。風があるのかゆっくりと雲が動いているのが分かる。気持ちよさそうな事だ。
もう1週間も帰れていない。カリンには付き合う必要はないと言ったが、従卒としてお仕えしているし、私が居ないと帰っても一人だからと此処で寝泊りしている。
はぁ〜、仕事辞めたい。溜息しか出ない。
銀英伝の更新はしばらくお待ちください。
続きを全く考えてないので旧、ノイエを観ながら考えます。
帝国の内乱を飛ばすか、閑話的なのを帝国で作って書くか考えます。
今年中に一話更新出来たらいいな………と思ってます。
次の更新予定はアオのハコを予定してます。文化祭とU-17合宿と試合を予定してます。