秘封短編。リハビリとして1作。

題名の通り、終末系です。

ウマ娘短編の方も、近いうちに投稿予定です。

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世界の終わりを、貴女と

 昨日まで、存在するのが当たり前だった人や物。

 無くなるなんて、考えもしなかった事象。

 

 それは、例えばお気に入りの喫茶店だったり、世界的に著名な大企業だったり、よく顔を合わせる知り合いだったり。

 

 今までそこに在ることが当然だったから、なんて紙よりも薄っぺらい理由で、『だから明日以降も当たり前のように存在するだろう』だなんて浅はかな思考をしてしまう。

 

 物事の終わりなんて、あっけないものである。些細な予兆もなしに、人々の都合なんてお構いなしに訪れる。

 

 

 

 ・・・・・・たとえそれが、『世界の終わり』という大それたものでも、だ。

 

 

 

 「メリー~、こっちの道は通れそうよ。早く登っちゃいましょう」

 

 「あ、待って蓮子。その辺り境界の裂け目が発生しそうだから、注意だけはしてね」

 

 のんびりとした声が、上から降ってくる。

 

 なだらかな丘の中程、私より先行して進むのは、黒を基調とした服をまとった少女、宇佐見蓮子。

 

 帽子を団扇のようにして仰ぎながら、微かに顔に浮かぶ汗を拭っているその姿からは不安や恐れといった負の感情が全く見受けられない。

 

 よいしょ、っと不安定な足場を避けるように彼女の後を追う。

 

 この丘は、綺麗な夜景が見えると学生の間で密かに話題となっている、穴場スポットの一つ。晴れている日は星の輝きと相まって、より一層幻想的な風景を見せてくれる。

 

 私達もその景色に魅せられた1人(一組)であり、めぼしい活動がない日はそれなりの頻度で訪れている、お気に入りの場所だ。

 

 唯一の欠点は、京都の中心からやや(ほんとにやや)外れた場所にあるため、夜景を見る日は帰りの時間に気を配らなければいけないことだ。私はともかく蓮子のアパートは大学を挟んで向かい方向にあるため、夜遅くまで入り浸りすぎて結局私のアパートにお泊り、という展開も幾度かはあった。

 

 ただ、幸いなことに本日は帰りの時間を気にしなくても良い。

 

 何故って、単純なことだ。

 

 だって既に、歩いてきた帰り道があらかた消失しているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『境界の一斉具現化』

 

 昨日の夜頃、それは地球全域で起こった。

 

 災害、厄災・・・・・・そんな言葉で済むレベルではない。わずか半日で、地球は人間が、いや生物が住める場所ではなくなった。

 

 きっと人類の大半は、何が起こったのか分からないままその生涯を終えただろう。各国の主要人物であれば、あるいは現状起こっている事を認識しているのかもしれない。まだ消失していなければの話ではあるけど。

 

 朝起きたら、色々と様変わりしてしまった光景。幸か不幸か、異能を宿す私の目には起こっている事は理解できた。 

 

 『境界があらゆる場所で開き、現実世界と干渉している』

 

 境界の裂け目を認識する私の目。昨日までは天衣無縫の如き綻びの無かった境界が、本日はあちこちで開いている。

 

 裂け目一つ見つけるのに、県単位で探さなければいけないほど希少だったのに、本日の境界は出血大サービスと言っていいほどの大量発生。

 

 視界内だけでも天に地に数十、数百、いや数千はあるだろうか。これが地球全体で発生しているとなれば、逃げ場など在るはずもない。

 

 境界の先は、闇一寸。幾度となく冒険をしてきた私だからこそ、理解している。

 

 足をを踏み入れれば最後。場所も、時間も、世界軸さえもごちゃ混ぜの一方通行。万全の対策をしてようやく帰りの切符を確保できるかどうか、という危険極まりない行為なのだ。

 

 当然、前知識のない一般人が対処できるはずもなく、見えない境界に飲み込まれて次々と消えていった。どこに飛ばされたかなんて、分からない。

 

 人だけでなく、人類の叡智と言っていい創造物も、新緑生い茂る樹木も、余すことなく無くなっていく。

 

 『今』という事象が、急速に飲み込まれていく。何もかもが、平等に消えていく。

 

 アパートから飛び出した私は、そのスピードを見て悟った。

 

 (・・・・・・これは、今日一日も保たないわね)

 

 と。

 

 秒単位で増えていく、境界の裂け目。

 

 何故起こったのか、原因は分からない。ただ理解できるのは、この世界が終わるまでの、おおよそのタイムリミットだけ。

 

 悲鳴を上げる者。パニックに陥っている者。とにかく逃げようとする者。様々な人とすれ違う。

 

 人間、結末が分かっていれば案外落ち着くものだと、荒廃した道を蛇行しながら独りごちる。

 

 境界の裂け目ができてから開くまでには、それなりのタイムラグが存在する。それを認識できる私であれば、不意打ちの形で飲み込まれる心配はない。

 

 裂け目ができたらその場から離れ、開いている所には近づかない。端から見れば千鳥足のように変な動きをする少女に見えるだろうけど、まあこの状況では気にする人もいないだろう。

 

 この目を活かして、人々を束ねて少しでも消失の時間を遅らせようかと考えたけど、止めておいた。

 

 どの道、保って今日いっぱい。行き止まりの希望を見せる行為ほど、残酷なこともない。

 

 それに、どうせなら残された時間、私の望むように過ごしたい。

 

 そう、例えば・・・・・・

 

 

 

 「あ、メリー!おっはよ~!!」

 

 

 

 崩れかかった道を脳天気な声と共に駆けてくるような、そんな親友と一緒に過ごすとか、である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いや~、ほんとに突然ね。こんな事になるなんて。誰かの仕業なら、せめて事前に『〇〇日後に世界滅ぼしま~す』とか告知してくれれば良かったのに。そしたら見たかった映画、予定を前倒しにしてたのにさー」

 

 「そういえば見に行くって言ってたわね蓮子。シリーズものの最終作だったんでしょ。」

 

 「そうそれ。10年追ってたのに、今回に限って公開初日には行けなかったの。考査とレポートのダブルパンチは流石の蓮子さんも無視できなかったわ。あーあ、今から見に行こうかしら」

 

 「止めときなさい。奇跡的に辿り着けたところで、映画フィルムくらいしか拝めないわ」

 

 出会った時から微かに発生していた地の揺れが、実感できるほどに大きくなっているのが分かる。そんな中でも私達の会話は止まらない。

 

 緊張感のない、声音だけなら日常的に聞こえる会話。それ以外の人の声は聞こえない。

 

 今思えば、今日蓮子と出会えたこと自体が割と奇跡の域だ。

 

 起きるまで、そして出会うまで両者とも境界に飲み込まれずに、荒廃した道路を短くない距離歩いてばったりと遭遇する・・・・・・。

 

 もしかすれば、一生分の運を使ったのかもしれない。でも、それでもいい。終末を1人で鑑賞するのは少し寂しいから。

 

 朝まではかろうじて機能していたスマホも繋がらなくなった。世界各国はおろか、日本の情勢さえ分からない。

 

 出会った私達は、どちらからともなくお気に入りの丘に行くことを提案した。

 

 タイムリミットを考えた上での選択。駄弁り兼打ち合わせ場所となっていた喫茶店は既に消失し、次の活動、調査予定場所は他県であったため距離的、時間的に間に合わない。

 

 それならばと、広く見渡せる場所から一緒に終わりを見届けようという意見が合致した。

 

 運良く丘までの道のりは比較的無事だったため、いつもよりも遅いペースという表現で済む程度の時間で到着した。

 

 文字通り片道切符だったのか、歩いてきた道がとうとう飲み込まれてしまったので戻ることは不可能となった。

 

 でも、別段構わない。自分たちの意思で、この世界とお別れ出来る場所を選べただけでも満足である。 

 

 「よーし、到着!・・・・・・うわぁー♪」

 

 「・・・・・・蓮子?どうしたの~?」

 

 するすると歩いていった蓮子が、先に頂きにたどり着いた。同時に聞こえてきたのは、感嘆の声。

 

 声を上げて質問するも、返答はなし。私も、普段より疲れが溜まっている足に鞭打って、最後の道程を登りきった。

 

 ふぅ、と一息を吐き、街中で調達していたペットボトルの水で喉を潤す。いつもならともかく、揺れが起こっている本日はなだらかな斜面を登るだけでも割と堪えた。

 

 喉を潤し、呼吸を整えて顔をあげる。その視線の先には、先程の声音を裏切らない、目を輝かせている蓮子の横顔が見えた。

 

 つられて私も同じ方向に視線を向ける。

 

 彼女の隣に立ち、並んでその景色を見て・・・・・・

 

 

 

 「・・・・・・わぁ!」

 

 

 

 と声が出た。

 

 今まで幾度となく見てきた、幻想的な景色はそこに無かった。

 

 その光景はまさしく、『世界の終わり』だった。

 

 ここまで来る最中にも認識していたつもりだった。でも、見渡せる場所に立ったからこそ、よりはっきりと分かる。

 

 荒廃、という言葉すら生ぬるい。壊滅、という言葉すら優しい。

 

 京都という土地が、消えていく。僅かな抵抗も出来ずに、無数の境界によって時空の狭間に飲み込まれていく。

 

 空は見たこともない色に染まっていた。今も一羽の鳥が、見えなかったであろう境界に身体ごと入り込み、そのまま消失した。

 

 終末の鐘の音が、鳴り響く。

 

 改めて、実感した。この世界は、じきに終わりの刻を迎えると。

 

 「ああ・・・・・・」

 

 蓮子が、もう一度声を漏らす。この状況を見て、常人ならどうなるだろうか?

 

 膝を付き、呆然とする?

 脳が情報を拒否し、思考を放棄する?

 惨状を直視できずに、目を背ける?

 

 極めて真っ当な反応だろう。そのような行動を取るのが普通なのだ。当たり前なのだ。絶望を感じない人間の方が、異常なのだ。 

 

 ・・・・・・だからこそ、私たちは異常なのだ。

 

 「見て、見て!メリー!世界が終わる瞬間なんて、初めて見るわ!こんな空の色、初めてよ!どれほど秘密を暴こうとも、世界はこんなにも未知の景色に溢れている!!」

 

 蓮子の顔に浮かぶのは、心からの笑み。一点の曇もない表情。

 

 知らなかったことをまた一つ知れた、無邪気な子供のようにただただ輝いていた。

 

 そこに、強がりだとか虚勢といったものは一欠片も存在しない。彼女は心から、この景色に魅せられている。

 

 「絶望的な状況ね。このペースだと、今日いっぱいどころか、夜までも保たないかもしれないわ。」

 

 「そっか、残念。いつまでも見ていたいのにね。仕方ないし、今のうちに目に焼き付けておくわ。幸い、今日は貸し切りだしね♪」

 

 「ふふ、凄いわね蓮子は。普通だったら、絶望して目を背けたり、手で覆う所よ」

 

 「生憎、そんな感情よりも好奇心の方が上だからね。だってほら、二度と見れないであろう景色よ!手で覆うなんて勿体無いわ!」

 

 揺れが更に強くなる。地球の表面だけでなく、内部でも崩落、消失が起こっているのだろうか。詳しいことはわからない。

 

 笑顔の蓮子と共に、私も同じ景色をただ見る。

 

 恐らく、最期となるであろう秘封倶楽部の活動。だからこそ、手を抜きたくはない。

 

 私も蓮子も、そう遠くないうちにこの場所に開く境界によって、世界を去ることになる。

 

 そのまま死ぬのか、未来へ行くのか、過去に行くのか、はたまた別の世界へと飛ばされるのか。それは分からない。

 

 その行く先に、蓮子(あなた)がいるのかどうかも。

 

 ・・・・・・ただ、何となくの確信があった。どれだけ遠くへ離れようと、どれだけ輪廻をめぐろうと、貴女とはまた会えるということが。

 

 「蓮子。もうすぐ離れ離れになってしまうけど、また会えるよね?」

 

 疑問形での問いかけ。答えの分かっている問を、改めて尋ねる。

 

 「当然でしょ?貴女の目がなければ、私達の冒険は始まらないわ。あなたが何処へいようと、必ず見つけ出すわよ」

 

 「あら嫌だ、蓮子は私の目にしか興味が無いのかしら?悲しいわね・・・・・・」

 

 「もー、言葉のアヤよ!アヤ!」

 

 ぷくーと頬をふくらませる蓮子を見て、私も釣られて笑う。

 

 私だけじゃない。蓮子も、再び会えることを微塵も疑っていない。

 

 こんな時、映画のワンシーンなら手を繋いだりするのだろうか。でも、私達には必要ない。

 

 

 

 ・・・・・・だって、切ろうと思っても切れない糸で繋がっているのを実感しているから。

 

 

 

 

 

 

 

 『世界の終わりを、貴女と』

 


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