催眠系幼馴染   作:アライ

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この話で終わりです

要素は薄め


お祭りデートに行きたい話

 

「ここを○ックスしないと出られない部屋とする!」

「直球すぎる……」

 

 渚に変な夢を見せられてから土日が過ぎた。そして時は月曜の昼下がり。

 

 場所は渚の自室である。

 

 普段からよく手入れがされているのだろう、純白を基調としたインテリア。その透いた色が部屋を彩るなか、暖色である薄桃色のベッドが確かな存在感を放っていた。

 

「まあ、試験頑張ってたからな」

 

 

 今日は丁度、期末試験の答案の返却日だった。言うまでも無く、渚の成果が(つまび)らかにされる時である。

 

 試験後はとてもいい結果だったと満足げに語っていたが、実際にどれだけの手応えが有ったのかは本人にしか分からない。

 悪いをまあまあ、そこそこをかなり良い、といった風に勝手に上方修正する渚の癖を知っていたので、コイツまたやらかしたんじゃないかと心底気掛かりだったが──

 

 結果はなんと全体的に良く、語学に至っては平均点越えだった。勿論、催眠には一切頼っていない実力で出した結果である。

 一夜漬けの効果も有るとは言え、かなりの進歩だ。

 

「うん! いや~血を吐きながら続ける悲しいマラソンみたいで……とっても大変だったよ~! ふふん。これで私の事、見直してくれた?」

「ああ見直したよ。でも、まだまだ上澄みには及ばないけどな」

「あ~っ! そうやっていつもの様にマウント取ろうとする~! まあ、今日は代わりに私がマウント取らせて貰うから良いけどね♪」

「上昇志向が強いんだな、渚は」

 

 実際はまだまだなのだが、それでも現時点では最良の結果と言えるだろう。幼馴染はそれはもう満面の笑みを浮かべていた。

 

 中々に上機嫌なので、このまま次も頑張れよと遠回しに伝えるつもりだったが、どういう訳か渚の思考は違う方へと移行してしまった。ピンク色の思考である。

 

 何たるこじつけ力。

 

「何を言っているのか、すぐに要約出来てしまったこの身が辛い」

「これぞ以心伝心! しょーちゃんも、徐々に私色に染まってきたね♪」

「ここ最近、だいぶ変な雑学に詳しくなった実感がある……」

 

 主にそういった方面の雑学である。

 

 その知識を渚から無理やり教え込まれた時、『こんなん将来のどこで役に立つんだよ』と学校でよく謳われる格言が脳裏をよぎったが、すぐ幼馴染のニコニコした顔が浮かんできたので諦めた。

 まあ、教え受けた物の中には一見(いっけん)、これ間違ってるんじゃないかと思われる物も少なからず有ったが、それは実際に身体で確かめてみれば分かる話だと秒で返され、更に諦めた。

 

 経験に勝るものは無いらしい。

 

「な、なあ……少しだけ聞きたい事があるんだが」

「なぁに?」

「渚ってそんなに性欲が強いタイプだったのか……?」

「なに変な事を言ってるの、しょーちゃん。催眠術師は性欲が強いと相場が決まってるものだよ」

「知らなかったよ……」

 

 紙の上で多種多様な世界観を描いていたかの先人達も、いったいどれくらい有り余っているんだと思わず心配してしまう程にやりたい放題その欲を発散していた。催眠術が己の欲を開放するものだと定義するのならば、それは本心としてずっと前から心の奥底に溜め込んでいた欲求。

 

「しょーちゃんのせいなんだよ? こちとら、約十年間と一ヶ月焦らされてるんだから」

「よ、幼稚園の頃からか?」

「うん♪」

「馬鹿な……早すぎる……」

 

 最高の笑顔で覗き込んでくる渚を見上げて、そう呟いた。

 

 流石に脚色を加えているのだろうが、同年代の平均と比べると圧倒的に性知識の学習が早かったのは間違いない。保健の教科書を何度も読破していそう。

 

 

 

「……まあ。そう、だよね」

 

 そんな感じで恋仲である幼馴染へ容赦の無い偏見を作り上げていれば、何故か当の本人の動きが止まった。

 

「分かってるよ。しょーちゃんが言いたい事は。やっぱり、女の子がここまで性に積極的なのは、変だよね?」

「それは──」

「えいっ」

 

 すると。

 

 返答に困ろうとする前に、どういうわけか渚が抱き付いてきた。

 それも思い切り。ぎゅっ、と。

 

「えいっ!」

「な、渚?」

「えいえいっ! 当ててんのよ! えいえいえい!」

 

 状況に困惑していれば、渚は更に密着してきた。

 わざとらしく声をあげながら、やたらめったらその身体を押し付けてくる。

 

 

「どう……?」

 

 そして、どうなのかと聞かれた。

 話の流れがよく分からないが……これは多分、感想を聞かれているのだろう。

 

 渚は今、部屋着を着ている。

 カジュアルなワントーンの配色がなされたオフショルダーに、確かダスティーピンクと言うんだったか、控えめな大人っぽさを演出するハーフパンツの組み合わせ。渚の部屋に置かれていた雑誌でこれに近い物を見た様な気がするので、流行を取り入れたものなのだろうか。

 鎖骨を通る小さな黒い紐の対は……何だろう、分かりませんね。

 

 とても似合ってて可愛いと思うが、今は流石に服の感想を聞いているわけではあるまい。

 

 となると──

 

 

「渚は中々にスタイルが良いな」

 

 

 これ以外は有り得ない。

 

 暑い夏をしのぐ服なだけあって、渚が着ているものは身体のラインが浮き出やすいモノとなっている。こうして抱きつかれでもすれば、否応無しにソレを感じざるを得ないだろう。

 

 頭に回るはずの栄養が胸に回ったんじゃないか、という理不尽な物言いが出来るくらいには渚の発育は良い。彼女が触れると同時に、まるで低反発の枕を抱いている時の様な深く奥へと沈み込む感触がした。

 疲れている時にこの柔らかさが有れば、よーく眠れそうだ。

 

「とても心地が良かったぞ」

「ちがーう! 嬉しいけど、違います!!」

 

 これだろうといった確固たる自信を以って感想を答える。

 が、求めていたものとは違った。

 

「えっ。胸の感想を問われてるんじゃないのか?」

「違うの。私が聞きたいのは、ドキドキするかって事!」

「あー……」

 

 そう言われて、ハッと気が付いた。

 渚に抱き付かれて、そういった感想が出ていない事に。

 

 別にドキドキしていないワケでは無いのだが、それよりも別の感情が脳内を支配していたのだろう。

 言うなれば、その思いは──

 

 

「実家の様な安心感」

「やっぱりぃ!!」

 

 何というかこうして渚と触れ合うと、ときめきといった恋愛的な情緒よりも先に、強い安心感を悟ってしまうのだ。

 側に居ると心安らぐ存在として、この身が覚えてしまっているのだろう。

 

「渚と居ると、とっても安心するんだ」

「それって、刺激を感じないって事? 私と居て、つまらないって事……?」

「いや、そうじゃなくて……とりあえず、変なオーラを出すのはやめなさい」

 

 渚は今にも地下室に監禁してきそうな──いわゆる愛に病んでる少女の真似をしていたが、しかし日頃の行いのせいで絶望的に似合っていない。

 

「渚は普段の様な、快活な人柄が一番似合ってて可愛いぞ」

「くっ……私の事、分かったような言い方しやがって……! 嬉しいよ!」

「好きな人とは、対等な関係でありたいからな」

「こ、このっ……」

 

 渚は昔からよく笑い、よく泣く女の子だった。

 やっぱり元気な方が一番似合っている。うん。

 

 ……そんな渚との付き合いだが、当時はやたらと距離を詰めてくる性格もあって、いつもドキドキしていた覚えがある。

 しかし、今は安らぎの方が勝っていた。

 

 多分、色々慣れてしまったのだろう。

 

「私はね、そんなしょーちゃんの事をドキドキさせる為に積極的になってるの。慣れていない初めての事なら、きっとそうさせられると思って」

「そうだったのか……」

「うん。初めてデートした恋人同士の様に、初々しい思いをしてくれたらなー……なんて」

 

 渚は少しはにかみながら、そう言った。

 

 

 ……自分は、渚の事を強く誤解していたのかもしれない。

 彼女の本質は、一人の純情な少女──ただそれ以外の何者でも無いのだろう。今までは催眠術大好き♡な性欲魔神か何かだと思っていたが、実態は違った。

 好意の向け方がちょっとばかり変なだけの、普通の女の子。

 

 それが、渚だ。

 

 

 前にも考えた様な気がするな、これ。

 

 

「もうちょっと早く付き合い始めたかったな~。まったく、いつまで経っても私の想いに気が付いてくれないんだもん」

「あれは本当に、済まなかった……」

「そーだよ! あぁん、もっと早く──具体的に言えば、小学生の頃から恋人に成れれば良かったのに」

「逆にそれはちょっと早すぎる気がするな……」

 

 渚は物事に対して誇大表現をする事が多い。その理由は、好きという感情を相手へと効果的に伝えられる一番の手段だと思っているから、と察したのはつい最近の事である。

 どうにも面倒くさい幼馴染が居たからだと渚本人は語っているが、まさにその通りだ。こういうヤツに対しては、逃げられない様にして強くものを示さないと、はっきりと想いが伝わらない、そういう事を渚は言いたいのだろう。

 

 流石に今まで鈍感すぎたと強く自省した。 

 

 

 

「じゃ、そろそろ。補習も無しに夏休みを迎えられた所で」

「はい」

「……しよ?」

 

 ベッドに座った渚が、招き猫の様にこちらへ手招きを行ってくる。催眠術を使って襲われそうになった時とは違い、今回はちゃんと合意が有ってのお話。

 お調子者な普段とは全く違うそのしおらしい態度に、少し胸が高鳴った。

 

 ……ついに、夏休み前の約束が果たされる時が来たか。

 

 自分としては勿論望むところなのだが、渚が予め口に出していた事が少し怖い。

 彼女いわく、足腰立たん様にしたるとの事だが……本当にそこまでやられたら翌日、過労で仲良くぶっ倒れてしまうだろう。

 

 ……まあでも、心配しなくても大丈夫か。渚はそこまで体力が有るほうでは無いのだから。昔はテニスといった運動系の部活を嗜んでいた時期もあったが、今ではもう立派な帰宅部。持続力もそれほど高くは無いに違いない。

 多分、夕食前には疲れ果てて解放してくれるだろう。

 

 だから、大丈夫。

 

 

 

 

「いっぱいセ……じゃなかった。夜が明けるまで休憩無しで耐久プロレスごっこして、一緒に朝チュンをキめようね♡」

「──えっ」

 

 と、思っていたのは甘かった。

 

「あっ、そうそう。シーツはちゃんと替えを用意してるから、ナメクジみたいにぬちゃぬちゃしても大丈夫だよ♪ 存分に汚してもいいから、そのつもりで♡」

「……?!」

「もちろん催眠もオプションで追加可能だよ♡」

 

 なんと、一日中ヤるつもりだった。

 

 それに加えて、次の朝まで。

 まだお昼の時間なのに。

 しかも、食事といったつかの間の休憩も無しで。

 

 う、嘘でしょ。せめてお風呂くらいは……!

 

 ……い、いや、お風呂の時間を設けても、結局押し切られて一緒に入る事になってしまえば、あんまり変わらないのかもしれない。

 

 なるほど。これは絶体絶命のピンチですね。

 本当に耐久戦をしかけてくるとは思わなかった。

 

「今日はね。お父さんとお母さん、いないんだ」

「お、お前また催眠使ったな?! そろそろ、実の両親を操る事に罪悪感を持ったらどうなんだ……」

「違うよ。お部屋に彼氏を連れ込んでチョメチョメするよ~って言ったら、喜んで家を空けてくれたの」

「フットワーク軽いな!」

「あっ、そうだ。ちゃんと付ける物もたくさん用意してあるから安心してね。一緒に選んだやつだけじゃ足りなさそうだったから、増やしておいたよ♪」

「ひぇっ……」

 

 空調が効いていて心地良い程になっていた室温が、渚の言葉を皮切りにがくんと下がった様な気がした。背筋が思わずぞくりとする。

 

 流石に死ぬ。

 今の時刻から次の朝までおよそ20時間くらいだろうか、そんな時間ぶっ続けでヤってたら、確実に死ぬ……!

 何でもするとは言ったが、死ぬまでというわけでは……。

 

 

 

 か、斯くなる上は、奥の手を使うしか無い……!

 

「ふっふっふ♪ 私の事が欲しくて欲しくて堪らない程に、骨の髄まで溶かし尽くしてあげよう~♪」

「そ、そうなのか~。今日は明日の朝までずっとイチャイチャするのかー……」

「そうだよ♪」

「とても嬉しい……んだけど、このままだと用意していた予定が潰れちゃうなー……」

「んー? 予定って?」

 

 

 これぞ、窮地を脱する為の秘策。

 

「渚と、行きたい場所があるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敷き替えられたばかりなのだろう、昔よりも幾分規則正しく並べられた石畳を、何となく小さな溝を避ける様にして歩く。すると横から、血気盛んな呼び声が響いてきた。屋台の上に掲げられた看板に目を向けずとも、何が売られているか分かってしまう程に美味しそうな匂いが、威勢の良さに続いてどんどん溢れてくる。

 真っ只中をこうして辿っていれば、途端に腹が空いてくるというのだから不思議な物だ。

 

「わぁ~久しぶりだな~。しょーちゃんとお祭りに行くの!」

「だいぶ小さい頃に一回行ったきり、だったか。久しぶりだ」

 

 そんな道を、渚と共に二人で往く。

 

 今日は納涼祭──いわゆる縁日が、近くの神社で行われる日だ。

 ここで遂行されるのが、ずっと温めていた秘策。

 

 事のおおまかな内容は、こうだ。

 デートで渚を色んな場所へ連れ回す。

 

 

 以上。

 

「そうだね。大きくなってからは、行かなくなっちゃったんだっけ」

「誰かさんの補習期間が、毎年この期間と被ってたからな」

「……もう! しんみりとした空気だったのに~」

 

 屋台に吊らされた白熱電球のせいか、それとも祭りの熱気に当てられたのか。

 火照って少しだけ暑さを感じる頬を、今しがた通り過ぎた冷たい風に撫でさせる。

 

 この作戦によってもたらされるメリットはとても大きい。

 なにせ、お祭りを一緒に楽しめるし、渚の無尽蔵にも近いスタミナも削る事が出来るのだ──

 

 まさに一石二鳥と言える。

 

 お祭りに帰ったら勿論お約束の時間が始まるのだが、渚の持久力が良い感じに減れば、お互い疲れ果てて良い感じに区切りを付ける事が出来るに違いない。間違えて朝までしっぽりヤっちゃった、という事はもう起こらないのだ。

 

 なんて完璧な計画なんだろう──

 これで腹上死の、後顧の憂いは取り除かれた。

 

 懸念事項は渚にバレないかどうか、それくらい。

 

「……さっきから何か考え込んでるよーだけど、しょーちゃんの思っている事ぐらい簡単に分かるよ?」

「えっ」

「何年幼馴染やってきたと思ってるの? まったくもう、顔に出過ぎだよ~♪」

 

 嗅覚を幽微にくすぐる炭火焼の匂い。それを楽しんでいた筈の余裕が、一瞬で消える。

 屋台のりんご飴を買って貰ったのか、嬉しそうに駆け回る小さな子供たちがとても眩しく見えた。

 

 まあ、にわか仕立てじゃ無理か……。

 

「……本当か? な、なら当ててみろよ」

「うん! お望みとあらば、当ててみせるね♪

 

 しょーちゃんがなぜ、突然私をお祭りデートに誘ったか。

 

 それは──」

 

 

 すぅ、と渚が小さく息を吸う。

 

 

「帰った後に流れで、浴衣えっちする為でしょ? もう、しょーちゃんったら変態なんだから~」

 

 大輪の芍薬が咲いた淡い柄の浴衣。それをいやんいやんと、大層作為的に揺らすのはこの幼馴染である。渚は縁日のデートに浴衣を着てくれたのだった。

 

「……どうかな? 浴衣姿の彼女が見られて嬉しい……?」

「それはもう。何というか、こう大人っぽい渚を見ると、普段とは違うギャップを感じてグッとくるモノがあるな。とても似合ってて、綺麗だよ」

「お~! 良いね、95点の解答だよ♪」

「残りの5点は?」

「着付けの大変さも言及してくれれば良かったかな~。準備はとても難しいからね」

「ちょっと、急すぎたよな……」

 

 今回のデートプランは速攻で立てた物であり、その計画性は余りにも御粗末だ。

 普通こういう事には色々と用意が必要で、遅くても一週間前にお互いでその内容を共有すべきである。特に浴衣の様な特別な衣装を着て来る時は、もっと前からプランニングが要るだろう。

 

「別にいいよ。で、改めてさ。ふふ~ん♪ どう、この完璧な着こなしは?」

「……やはり凄いな。女物の浴衣は男物と比べて相当着付けが大変だとは聞くが、それを一人でやってしまうなんて……。正直な所、普段着で縁日に行くつもりだったからびっくりしたぞ」

「色々する機会が有るだろうから覚えておきなさいって、お母さんに教えて貰ってたんだ。しょーちゃんも浴衣、着てくれて嬉しいよ」

 

 一方が浴衣を着ているのに、もう一方が着ていないのは示しがつかない。

 

 一応、土用の日に一着虫干しをしていたのが功を奏し、間に合わせる事には成功した。

 男物は身に纏うのがそれほど難しくはないので、自分としては助かるところ。

 

 

「あ、そうそう。それで、浴衣えっちの話なんだけどね」

「……あーそんな話してたな」

「ごめんね? 多分、しょーちゃんの夢を壊してしまう事になっちゃうから、予め謝っておくよ」

「突然どうした」

「これはとっても悲しいお話なの」

 

 話に合わせて数刻前の事を想起していれば、突然話題が180度違う方向へと入れ替わる。

 渚はいつも突拍子も無い事を言っているので慣れているが、流石に今回ばかりは意味が分からなかった。

 

「私の浴衣を脱がしてもね、最初に出てくるのはタオルなんだ」

「えぇ……?」

「女の子の浴衣ってのは、基本的に寸胴の方が映えるからね~」

 

 渚が浴衣を見せびらかしたいのか、その場でくるりと一回転する。

 しかし、草履が慣れないのか途端によろよろとし始めた。

 

 コケられては困るので、とりあえず支えておく。

 

「ありがと♪ それでね、胸が大きい子が浴衣を着る時はサラシを巻く必要が有るの」

「よく太鼓を叩く人が巻いているヤツか?」

「んー。少し違うけど、だいたいそんな感じかな。で、私も巻いているワケだけど潰しきれなくって。合わせる為にタオルの補正もウエスト側に要るんだ~」

「そうだとしたら結構窮屈そうに思えるのだが、大丈夫なのか?」

「少し気になる程度かなぁ」

 

 渚が着ている浴衣の帯を見やれば、僅かに胸が乗っかかる程度だった。

 これでもかなり補正が効いているほうなんだろう。

 

「良いではないか~ってくるくる帯を回すアレ、現実だと上手く行かないんだ」

「遠心力でタオルが放出されるのか……」

 

 そもそも帯の長さ的に無理そうなのだが、この場で脱がすわけにもいかないので真実は闇の中である。でも、ちょっと……ちょっとだけ気になるので、後で確かめさせてもらう事にしよう……。

 

 

「ふーっ。だいぶこの靴も慣れたかな。……それで、今日はどこを楽しむの~?」

 

 そんな事を考えていれば、渚にどの屋台を回って行くのか尋ねられる。

 こちらを伺う顔には、何故か挑戦的な笑みが浮かんでいた。いつもの様なニタニタとした表情でありながら、それでいてどこか期待している様な目をもっている。

 それを見て、すぐに察した。

 

 これは、間違いない。

 間違いなく、試されている。

 

 渚と恋仲になってから一ヶ月が経つ。その間には何度か休日にデートへ行く事も有ったが、ほとんどが渚に駆り出される形となっていた。情け無い事に、全てのデートプランが渚に考えられていたのである。

 しかし、今回のお祭りデートを言い出したのはこちらのほう。主導権が委ねられているというわけだ。

 おおよそ思考の予想はつく。大好きな彼女とのデートをうまく盛り上げられるのかな~?と言いたいのだろう。コイツは。

 中途半端な事をしたら煽られる。絶対、煽ってくる。

 

 ……良いだろう。

 そこまで言うなら、やってやろうじゃないか。

 

「渚が好きそうな場所を回ろうか。勿論、すでに目星は付けてある」

「あっ……」

 

 渚の手を取って歩こうとしたら、小さく口から声が漏れた。

 

 本当は詳しく決まっていないのだが、まあ楽勝だろう。

 渚の反応はとても分かり易いし、何より幼馴染としての好みは全て知り尽くしている。

 未だ付き合っている期間は短いこそすれ、一緒に居た期間は誰よりも長いのだ。

 

 そうやすやすと、マウントを取らせるわけにはいかない。

 

「……ふふっ。じゃ、楽しみにしてるね」

 

 そう思っていれば、心を読まれたのか、渚がおかしそうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかしい。私の好みを知っているとはいえ、どうしてここまで手慣れているの……? くぅっ! ま、まさかっ……! そんなっ!」

 

 参道から少し外れた場所にある休憩用の腰掛け。そこに浴衣の裾を整えて座った渚は、何故か途端に嘆き始めた。

 嘆きながら、屋台で買った綿飴を頬張っている。器用な食べ方だ。

 

「私以外の女の子と……?!」

 

 だいぶ屋台は回り終えたのだが、なかなか上手くエスコート出来たのではないかと思う。さり気ない気遣いを、更に無意識的に行う。これは少し大変だった。

 

 予め与えられた経験が、良く生きたのだろう。

 

「いや、無いけど」

「な、ならどうして……!」

 

 しかし、それは別に難しい物では無い。

 こまめに様子を確認して休憩を取ったり、人混みが多い所を通る時は先行して手を強く繋いだりと、基本的な事ばかり。

 

 後は、屋台の食べ物を買う時は半分こを心懸けるぐらいだろうか。

 焼きそばだのタコ焼きだの、お祭りの食べ物は脂っこい物が多いので、自分から食べたいなと言い出す女の子は少ないらしい。渚もその様な例に漏れず、屋台の側を通っても目で追うだけだった。

 

 本当はこういう物が大好きなのに、こんな時だけしおらしい態度に成るのだから面白い。

 

「一年前の夏、丁度今と同じ頃だったか。友人達にお祭りに誘われた時、覚えとけって教え込まれたんだ」

「えっ、グループデート……だよね? そ、そのお祭りは行ったの……?」

「いや。お前の幼馴染に悪いからやっぱやめとくわ、みたいな事言われて前日に外されたぞ。酷い話だ」

「よし、完全勝利ッ!!!」

「当時は意味が分からなかった」

「まあ、そうだろうね……」

 

 その時、渚は補習期間中だったので居なかった。

 

 今となっては、流石に理由は分かる。きっと気を回してくれたのだろう。

 

「私の知らない所でそんな事が起こっていたなんて。危ない危ない。もしお祭りに行ってたら、他の女に取られてWSSの流れだったよ。マーキングしてて良かった」

「WSSって何の事だ?」

「私が先に好きだったのに、っていう言葉の略だよ。創作では、NTRと共に脳破壊の一種として恐れられている! 我々は、芸術の世界からそれらを追放しなければならない……!」

「そういうのはあまり読まないから知らないな……」

 

 いわゆる失恋を描いたお話なのだろうか? それなら何度か読んだ事は有るが……。

 しかし、どうして渚がここまで感情移入しているのか、理由が分からない。

 

 そこまで敵視しているのなら読まなければ良いのに。

 

「そのお顔、分かっていないという様子だね?」

「はい」

「考えてみれば分かるよ。そうだね……じゃ、話をしようか。例えば、私に双子の妹が居たとする」

「え、妹?」

 

 そんな事を考えていれば、突然何かが始まった。

 いつの間にか、綿飴は食べ終えていた。早い。

 

「その妹は私にとっても似ていて──しかし、私よりも学業優秀で運動神経バツグンの才色兼備である」

「デフォルトで容姿端麗扱いなのか……」

「それはもちろん♪」

「そ、そうか……」

「話を戻そう。そんな妹は外面とは違い、昔から欲しがり屋で欲しい物は何でも親にねだっていた。普通は分別を付ける為に断られそうなもの。しかし優秀が故に、その願いが断られる事は無かったの。飽くなき欲求から増長した妹はやがて──」

 

 渚は大きく息を吸った。

 

 とても、強く。

 朝を告げる鶏にも負けないほどの肺活量を持っていた。

 

「姉の想い人へと目を付けるのであったッ!!! そう、私が好きな相手にぃッ!!!」

 

 渚の足元にあるふっくらとした土に、草履の裏模様が強く象られている。

 無意識のうちに力を込めているのだろう、渚がソレに気が付く事は無い。

 

「妹はその日から、姉のフリをして入れ代わり始めるの。それはもう、ミステリ物の双子の様に」

「何か、良からぬ事が起こりそうだな」

「幾度なく繰り返される入れ代わりの交流。それはまやかしとはいえ、確実に彼の心を奪っていった──想い人は、姉の上位互換である妹に骨抜きにされ堕ちていき……そして、いつの間にか姉の元から居なくなってしまうの。それで」

「それで?」

「ある日、姉へ一通の手紙が届くの。そこには親しげな男女の写真と共に、こう書いてあった──」

 

 渚が、震える。

 

 

 

 

【イェ~イ! お姉ちゃん見てるぅ~?】

 

「うわぁぁっ!」

「えぇ……」

 

 そして、頭を抱えて発狂した。これが幼馴染が言う脳破壊というヤツなのだろうか。

 やけに具体的だが、過去にこういう話の本を掴まされてしまったのかもしれない。可哀想に。

 一人で芝居をして、一人で勝手に苦しんで。渚も大変だ。

 

「ちょ、見られてるぞ」

「……え、声抑えたのに?」

 

 その叫びはちゃんと周りに配慮された小さなもので、祭りの喧騒にすぐかき消され無くなった。

 しかし、渚の奇行を見た者は居るのだろう、道行くカップルと思われる二名の男女がこちらを怪訝そうな目で見ていた。

 とても、恥ずかしい。怖い話をしていたと誤解してくれれば良いのだが。

 

「渚。今、凄くドキドキしてるぞ」

「おかしいな。私の浴衣姿に欲情してもらうつもりだったのに」

 

 永遠にも思われる時間降り注がれる奇異の目に戦々恐々としていれば、やがて見知らぬ二人は完全に興味を失ったのか、祭提灯の影に揺られながら楽しそうに去っていた。その姿はまるで、ひと夏の恋を楽しむ初々しいカップルそのものである。

 

 ……ああいうの、イイな。

 渚も変な事言わずにちゃんとしていれば、とても格好が付くのに……。

 

「ふぅ~。危うく通報される所だったよ」

「人前で変な行動するのやめような……」

「それはともかく。しょーちゃんも、かの創作物がいかに邪悪か分かったでしょ」

「まあ、そうだな……。渚がそういうのを受け付けないのはよく分かった」

 

 親の仇かの様にソレを語る渚。つい最近まで色々有ったばかりだから、懸念材料も多いのかもしれない。まったく、心配性なヤツだ。

 不安がらずとも、勝手に離れて行く事なんてしないのに。

 

 そんな事を言おうとして──口の奥へと飲み込んだ。

 

 ここで口に出したら、調子乗って騒ぎ出しそうな気がする。

 その様子が容易に想像出来て、思わず心の中で苦笑した。すまん、渚。

 

 家に帰ってから、ちゃんと言ってあげる事にしよう。

 

「時間もまだまだあるな。せっかく神社に来たのだし、お参りしに行こう。願いたい事もあるからな」

「えっ、なになに? 何を願うの? だいたいの事は催眠術で叶うと思うんだけど」

「身も蓋も無い事言うなコイツ……」

 

 渚の手を取って参道を歩き始める。

 祭りはまだ半ばを過ぎたあたり。屋台から漂う焼き菓子の香ばしい匂いや、純度の高い炭火焼独特の食欲そそらせる匂いを横に流しながら、社へ続く道を辿っていく。

 行き交う人達はやはりお祭りの屋台が一番の目当てなのか、店の設置が制限される石段の近くでは自然と人通りも少なくなっていった。

 

 そして、少しの間石段を登っていけば、綺麗に掃除の行き届いた厳かな社が姿を表した。

 新年の始まりやお盆では行列が出来る程の賑わいだが、今日はどうしてかお祭りなのに空いている。

 

 手水舎でお清めをした後、社の元へと辿り着いた。

 

「まあ、ここまで来たら願い事してみるかな~。一応、昔から願ってた事は叶ったからね」

「昔から願ってた事?」

「うん。鈍感な誰かさんを振り向かせたいな~って、そんな感じの事をずっとね……」

 

 そう言って渚は財布から賽銭を取り出し、箱へと入れた。恐らく五円玉だろう、ことりと小さな音がした。

 そして鐘を鳴らし、二礼、二拍手。そして最後に一礼。身体に染み付いているのだろう、淀みなく遂行された動きだった。

 渚にしては、珍しくまともである。

 

 その様子をしばしの間遠目で見守っていれば、渚が戻って来た。

 

 そうか。渚はずっと、こうやって同じ願い事をしてたんだな……。

 

「どう? 中々綺麗な作法だったでしょ♪」

「ああ、とてもキレイな礼だったぞ」

「でしょでしょ~? やったー♪」

「まあ、間違ってるんだけど」

「えっ」

 

 しかし、悲しいかな。

 それは間違っていた。

 

「この神社では、二礼四拍手一礼が正しい手順だ」

「う、嘘……! えっ、拍手の回数は二回じゃないの?!」

「普通はそうだけど、この神社だけが違うんだ」

「そ、そんな……」

 

 渚はガクりと項垂れ、失意からか膝を地へと落とそうとした。

 しかし浴衣を汚しては家に帰って気持ちよくプレイ出来ない事を思い出し、再び立ち上がった。

 

「今までずっと間違った作法を続けていた……ってコト!?」

「多分そうだな」

「だから今までずっと叶ってなかったんだ?!」

「うーん……それは、だな」

「余りにも叶わなすぎて、今年の初詣ではふざけて『しょーちゃんと変態的なプレイを沢山したいです!』って、願っちゃったよ!」

「なんて酷い願いなんだろう」

「ちなみに今回も同じ様な願いをしました!」

「あまり聞きたくなかったな……」

 

 まさか、そんな願いをしてたなんて。

 聞いた神様も呆れているに違いない。もし、叶っていたらどんな目に遭っていたか。

 

 

 

 ……あれ?

 この願いってもしかして……。

 

「ふ、深くは考えないでおこう」

「ふかく……? そうだよ、一生の不覚だよ……」

「……そうだな。じゃ、今度はこっちの番だ」

 

 暗い顔をしている渚は放っておいて。

 社へと参拝をする事にしよう。

 

 賽銭を入れて、二礼。そして四拍手。最後に一礼。

 この神社の参拝では、正しいとされている参拝方法だ。

 

 ……渚にはああ言ったが、本当はこれが完全に正しい作法かと問われれば、不確かで分からない。いつ誰がそう取り決め始めたのか、そんな情報は残っていないのだから。

 古来より様々な諸説があり、普通の神社では一般的な二礼二拍手一礼でも、別解があるとされている。更にそれすらも違って、行うのは神社に赦された神職だけだとされている場合も。

 これではもう、何が何だかさっぱりだ。

 

 結局の所、願いが叶うかどうかは本人次第という事なのかもしれない。

 

「よし、終わった」

「おぉ~なるほど、そうやるんだね。……私ももう一度やろっかなあ?」

「良いと思うけど、ここでは何度も願いをすると効果が無くなるって噂が有るな」

「な、なんだってぇ?! じゃ、やめよっと……」

 

 これはここいらでは有名な話だが、あくまで噂。当然、不確定の事である。

 現実はどうなのか、定かではない。

 

 まあ、願掛けはそういう適当な物だ。

 

 

 たまに渚に対しては、こういった風に嗜虐心が湧くので困る。

 

「あーあ。しょーちゃんをもっとドキドキさせたいとか、そんな無難な願いにしておけば良かった。やっぱり真面目に勉強するしかないのかな」

「勉強? どういう意味だ?」

 

 用も済んだので、登ってきた石段を引き返す。

 行きは辛く、帰りは楽な神社の道だが、浴衣や草履など色々慣れない状況。一応注意したほうがいいだろう。

 

 隣に居る渚の手を、強く握った。

 

「私の語彙力が鍛えられれば、しょーちゃんがドキリとするポエムが紡ぎ出せるかもしれないの……」

「なんて遠回りなんだ……別にいつも通りで良いと思うんだけど」

「だって、時々心の底から温まる様な最高のセリフをはいてくるんだもん。まさに会話ソムリエって感じで、私疼いちゃうの」

「か、会話ソムリエ……?」

「そういうの、普段から語彙力鍛えてないと中々出来ないよ」

 

 それらしい言葉を組み合わせてよく分からない造語を作る方がよっぽど難しそうなのだが、果たしてどうなのだろう?

 

 そんな適当な事を考えながら、渚と共に石段を降りていく。

 高台から見下ろす景色は、なんとも不可思議だ。まばゆい暖色が一直線上に並んでいて、その間を貫く様にして人々がごった返している。統率の無いその姿は都会の喧騒と変わらないのに、どうにも湧き上がる想いが止まらない。

 

 普段とは違う賑やかさの熱に当てられているからか、それとも……。

 

「もう頃合いだな」

「うん。十分楽しんだし、家に帰ろっか」

「そうだな」

「まあ、お楽しみはこれからなんだけどね。ぐへへ」

「……そうか」

 

 雰囲気ぶち壊しの台詞なのだが、これが渚の平常運転である。

 いつものほうが良いと言ったので、こうなるのは必然。

 

 しかし、これはこれで気兼ねなく会話の応酬が出来るので心地が良い。

 

 

「そういえば、しょーちゃんはどんな願い事をしたの?」

「聞きたいか?」

「うん」

「渚に関する事だよ」

「私に? ま、まさか、私と一緒に大人の階段を気持ちよく登りたいとか、そんな感じの願いを……?!」

 

 渚の馬鹿みたいな質問に対して、今は降りてる途中だぞという酷い返しが浮かんでくるが、何とか奥底へと抑え込んだ。こんな事を言ってたら、自分まで馬鹿に……。

 

「そうか、一緒か」

「んん?」

 

 それを聞いて、何となく昔の事を思い出した。

 昔から自分と渚はどういうわけか似た者同士扱いされる事が多く、その度に何でこんな馬鹿と一緒にするんだと心の底で憤慨していたのだが、その理由が今になってやっと理解出来た。

 きっと方向性が僅かにずれているだけで、根本的な物は同じなのだろう。

 

 

 大切な幼馴染で、気の置けない友人で、大好きな恋人で。

 

 それでいて──

 

 

 

 

 

 

 

 

「二人一緒で。ずっと、いつまでも楽しく過ごせますようにって。そう、願ったんだ」

 

 少しだけ見栄っ張りで馬鹿だという事だ。

 お互い、いつも一緒でおんなじ。

 

 それが、渚との関係だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ!」

「ん? どうした、渚?」

 

 そんな願いを言霊にして言い表せば、何故か渚の歩みが止まった。

 顔を下に向けていて、暗闇に紛れていた。表情はよく分からない。

 

「あれ、家に帰るんじゃ無かったのか?」

「……だよ?」

「えっ」

「そういう、とこだよ?」

 

 すると、突然渚がガッと肩を掴んで来た。その勢いや、とても強烈なモノだ。

 

 え、怖い。

 石段を降りてる途中に変な事されると怖いんだけど……。

 

「今日はオールで付き合って貰うからね」

「そ、そうか。渚は元気だな……。まあでも、流石に朝までは……」

「するよ?」

「えっ……?」

「スイッチが、入っちゃったんだ♪」

 

 危機的状況にも関わらず、それはヤる気スイッチでしょうか、なんて更に馬鹿みたいな返しが浮かんでくる。

 これは酷い。だいぶ渚に毒されているな。

 

 ……じゃなくって。

 

「今日の夜は、忘れられない一生の思い出にしようね? いや……しようねじゃなくて、する。します!」

「ひぇっ……」

 

 渚は今にも襲いかかってきそうな様子だった。しかも元気いっぱい。

 

 あれ、これもしかして。

 渚のスタミナを削る作戦、失敗したのでは……?

 

 それどころか、逆にこっちが消耗したまである。

 

 

 

「おかしいな、どこで間違えたんだろう……」

「いずれ分かるよ♪」

 

 少なくとも日が変わるまでは解けそうも無いその疑問。それを解くために頭をこねくり回して考えるが、答えは一向に浮かばなかった。

 

 渚に手を引かれながら、家への帰路を辿る。

 なんて力強いんだろう。行きとは逆になってしまった。

 

「私ね、今までわざと告白場所にこだわって無かったんだ」

「どうしてでしょうか……」

「もっと相応しい場所が有るからだよ♪ ねぇ、どこなのか教えて欲しい? それはね……ベ」

 

 まだまだ熱気残る参道を、駆け足で抜ける。

 神社から家まではそこそこ距離はあるが、今ならすぐに辿り着くに違いない。

 

「み、みなまで言わんくていい……」

「そう♪ じゃ、楽しみにしてるね♪」

 

 果たして、無事に明日を迎えられるのだろうか。

 その問いの答えはもう、神社の神様ですらも教えてはくれなかった。

 

 

 




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