「・・・右京さん!!」
しばらくして。
ホテル玄関前。
「・・・」
『容疑者、死亡』との報を受け、コナン達と別れ急ぎホテルに戻ってきた冠城。
玄関前で、未だ混乱が収まらない様子を見ていた杉下を見つけ、駆け寄っていく。
「・・・右京さん。枡山さんは・・・」
「・・・えぇ。頭の真ん中を一発。犯人は相当な腕でしょうね・・・」
「まさか『奴ら』が・・・」
「・・・恐らく」
「一体どこから・・・そうだ!まさか向かいのビルから!!」
「えぇ。僕もそう考えましたが、確認しに行った時にはもぬけの殻。早々に逃げられたようですねぇ・・・」
「くそ、出入りしている所は見ていたのに・・・まさかこんな事になってるなんて思いもしなかった・・・!」
「・・・ところで冠城君。コナン君達は?」
「連絡を貰ってすぐ別行動を。阿笠博士に取り敢えず連れて帰ってもらいました・・・このままずっとこの場に留まり続けるのは危険すぎるかと判断しまして」
「賢明でしょう。どうやら・・・この会場には『彼ら』が他にもいたようですしね」
「えぇ!?」
突然の杉下の話に、思わず辺りを見回す冠城。
「・・・今はもう大丈夫でしょう。事件の関係者も続々と帰宅し、今ここにいるのは僕たち警察官とマスコミくらいですから」
杉下のその言葉に一安心すると、ふと冠城は杉下の様子がおかしい事に気づく。
冠城と言葉をかわしつつも、ずっと現場を見つめ続ける杉下。
冠城には、その背中がこれまで見てきた杉下の背中の中で、一番小さく見えた。
「・・・右京さん」
「・・・冠城君。どうやら、僕は・・・とんでもない『ミス』を犯してしまったようです」
「ミス?」
「僕は、心のどこかで『彼ら』を甘く見ていたようです・・・『まさか、仲間の口封じなどしないだろう』と・・・」
杉下の言葉に言葉がでない冠城。
「強い結束を持つ『彼ら』は、むしろ助け出そうとするのでは無いかと・・・ですが冷静に考えれば分かる事。
秘密が漏れることを恐れない訳がない・・・
ミスを犯したものを許す筈がない・・・」
杉下は、耐えきれず深いため息をつく。
「僕は何と愚かなのか・・・連行するにも何かもっと方法があったはずなんです・・・結果みすみす枡山さんを死なせてしまい、罪を償わせることもできなくなってしまった・・・」
「右京さん・・・そんな事」
居た堪れない気持ちになる冠城。
しかし杉下は、ふうと息を吐くと、その顔を上げ決意のこもった光を目に灯す。
「冠城君。僕は絶対に『彼ら』を許しません。必ず、『彼ら』を逮捕し、自らの罪を償わせてみせます。・・・必ず」
「・・・お供しますよ」
先ほどとは打って変わって背中が大きく見える杉下に、冠城も決意表明をするのだった。
***
安室は、今回のバイト先のリーダーであるホテルチーフから帰宅許可を貰い、従業員入口よりホテルから去っていた。
駐車場に止めていた自身の愛車RX-7に乗ると、スマホを取り出しどこかへ電話をかけ始める。
『もしもし、風見です』
「僕だ。今現場から出た」
『お疲れ様です降谷さん』
「あぁ・・・何とか枡山憲三、いやピスコを失脚させ、その功績に食い込むことには成功した。これで組織の中でもまた立場が上がるだろう」
『・・・惜しむのは、呑口を捕まえられなかったことですね』
「あぁ・・・隙があれば助け出そうと考えていたんだが・・・ピスコやベルモットがどうにも呑口から離れなかった・・・」
『我々公安の捜査員も潜入して様子をうかがってはいたのですが・・・』
「外にはアイリッシュ達もいたからな。うかつに動けば我々の存在がバレるところだった。仕方ない」
『それで、これからどうされるのですか?特命係は・・・』
安室は、会場で杉下と話した時の事を思い出す。
「・・・しばらく様子見だ。今回の件で、やはり杉下右京は上手く使えばかなりの戦力となる事が確認できたからな」
『・・・分かりました。充分気を付けてください』
その後二三、連絡事項を交わすと、安室は通話を切る。
(・・・『仕方ない』?・・・何が仕方ないんだ)
その心中を推し量れる者は、どこにもいなかった。
***
「答えろジン!!!何故ピスコを殺した!!!!!!」
また別の場所。
首都高速を走る黒いワンボックスの中で、アイリッシュは電話の向こうにいるジンに食って掛かっていた。
『何度も同じことを言わせるな。『あの方』直々の命令だぞ。まさか『あの方』に逆らうって言うのか?』
「そんな事は言ってない!!だが・・・!!」
『ならそれで良いじゃねえか。ピスコの子飼いだったからってあまり喚くんじゃねえよ』
「くっ・・・」
『大体あんなどうしようもねえミス・・・俺なら恥ずかしくて自分から死にてぇくらいだぜ・・・クク』
「ジン・・・貴様ぁ・・・っ」
ジンの暴言とも言える言い草に、怒りで震え出すアイリッシュ。
『さて、お前らの今後だ。EUの方が人員不足になっているからそっちへ移動してもらう。準備しておけ』
「・・・」
『返事は?』
「・・・了解した」
事実上の強制命令を断る訳にいかず、ぶっきらぼうに返事をするとジンの回答も聞かずにアイリッシュは電話を切った。
(おのれ・・・ピスコを簡単に切り捨てやがって・・・ジンめ、この恨み絶対にいつか返してやる・・・!!)
父親同然に慕っていたピスコを殺された恨みを募らせるアイリッシュ。
憎たらしいジンの顔を思い浮かべていると、ふと一人の刑事の顔が頭の中に蘇ってきた。
(そうだ・・・そもそもあいつらが邪魔をしなければ・・・ピスコも『あの方』の怒りを買う事が無かったんじゃないのか・・・)
今回の計画を最後の最後に全て解き明かし、思惑を全てつぶした男。
ピスコが警戒していた男。
ピスコが興味を示した子供を、早々にガードをつけて守った慧眼を持つ男。
そうだ。
あいつらさえいなければ良かったのに。
いつか必ず日本に戻ってきて、あいつらに・・・奴に・・・
「杉下・・・右京・・・!!」
***
「やれやれ・・・困ったもんだな奴にも」
都内を走る黒のポルシェ356A。
その中で、ジンは先ほどまで癇癪を起されていたアイリッシュとの電話を終え、呆れたようにため息をつく。
「随分ピスコを慕っていやしたからねぇアイリッシュ」
「ったくあんな老いぼれのどこが良かったんだ・・・」
と、ジンは後部座席に座る女に声をかける。
「悪かったなベルモット・・・あの老いぼれをサポートするためにお前ほどの女をわざわざ呼んだっていうのに・・・」
「ホント・・・とんだヘマに付き合わされたわ・・・折角バーボンに頼んで参加者からくすねて貰ったハンカチを渡してあげたのに・・・死んで正解だったわね・・・」
その女こそ、パーティー会場にいた容疑者の一人。クリス・ヴィンヤードだった。
「また米国に戻るんですかい?」
ウォッカがベルモットにそう尋ねる。
「いや、女優はしばらく休業・・・こっちでのんびりするつもりよ。ちょっと気になる事もあるしね・・・」
ベルモットの脳内に、二人の子供の姿が思い出されてくる。
(あの少年・・・似ている・・・『彼』に・・・それにあの少女・・・シェリーそっくりだった・・・
まさかあの『薬』の効果だとすれば・・・確かめる必要があるわね・・・)
そして更に、子供たちの側にいた男たちの姿を思い出す。
ピスコの計画をほぼ全て推理した男とその部下。
(もしあの少年が『彼』なら・・・やけに信頼を置いてそうだった様子。『銀の弾丸』に頼られる刑事・・・
興味がそそられるわね。杉下右京・・・)
ベルモットはジン達にも悟られず、一人計画を練りだしたのだった。
「対決Ⅰ~Pisco」編 完。
次回、「魔術師」編。
本話をもって「対決Ⅰ~Pisco」編、最終回です。
いやぁ・・・大変時間がかかり申し訳ない。
対決編1話を投稿したのって2023年の今日なんです。
つまり丸3年かかってこの章を終えたという事に・・・
時間かかりすぎだろ!!!
プライベートや仕事のあれこれが影響したことは勿論ですが、大筋だけは一緒だけど展開をまるで変える事がこんなに大変だとは思いもよらず・・・
割と「摩天楼」編はすらすら書けたんだけどなぁ・・・(遠い目)
そしてこの展開変更が、「魔術師」編以降でも影響してくる訳でして・・・(ネタバレ)
切り良く章を跨ぎたかったのでまだ書いてない事があるんですよね・・・
なお「魔術師」編ぶっちゃけマジでどうしよう・・・ってなっております。
ぶっちゃけ魔術師編も少々テコ入れするかもって感じです。
大まかな道筋は決まっているのですが、細部のつじつまを合わすのがかなりの大作業になる予感。
また1年開かないよう鋭意執筆しますので気長にお待ちくださいませ。
映画コナン見てきました。
何書いてもネタバレですが今年も大変良かった...早く千速と重吾出したくなっちゃった笑
来年も期待できそうだし本当一年頑張ろうと思います。
最後に謝辞を。
本当に長い間更新が止まり申し訳ございませんでした。
そんな中、更新のたびに読みにきてくださる皆様がいてくださり大変うれしく思っております。
皆様が居てくださるお陰で、続きを書くモチベーションが生まれます。
これからもどうか優しく見守っていただければと思います。
それではまた。
餌屋TwitterID @esaya_syosetu