年齢操作:学年進級、2年生設定
当然のようにいるオリ主
ヒロインからの好感度が高め
モニカの他メンツは出てこない
以上の事柄が容認できる方のみ、ご拝読ください。
短いですが、どうぞよろしくお願いします。
ーー7月。
梅雨が明けつつあり、日本各地で雨が降らなかったり降ったりする時期。
世間は夏だ何だ、暑いと騒いで、また期末考察がどうとか、夏季休暇の課題がどうとかとか言っている。
と、他人事みたいに語ってる俺も、夏季休暇の課題や期末考察について考え、頭を悩ませていた。
「......テストが二週間後......範囲がここまでで......」
俺の名は
ちょうど入学する年に共学化した元女子学園、月ノ森学園の外部生徒。
自分で言うのも憚られるが、そこそこ頭は良い方だと勝手に思っている。
「はぁ......なんだよテストって」
ボヤいても仕方ない、しかし現状愚痴ったところでテストが延期にもならなきゃ中止になったりもしない。
やるしかないかと密かに覚悟を決め、そうと決まれば学校からの帰り道がてら通る図書館に寄ろうと考え、荷物をまとめて席を立った所で、隣の席に呼び止められる。
「あ、海翔くん」
俺を呼び止めたはいいものの、何を話していいかわからずといった様子で、目線を右往左往させる彼女は、倉田ましろ。
白髪、というと聞こえが悪いから、月白色と言っておこうか。
その色の髪に緑の目、肌の色も白い彼女も、同じく外部生の身。
俺も倉田も外部生であるが故、すぐに打ち解けた。
2年の今でも、クラスが同じであり、また隣であると安心するというのは、お互いの意見。
もっとも、1年の5月ぐらいまではそこまで仲良くはなかったのだが。
「どうした倉田」
「帰るの?」
「あぁ。まぁ部活とかも入ってないし。そういう倉田は?」
倉田はバンドに所属している。
名を「
青い蝶の「モルフォ蝶」とドイツ語で変化の意味を持つ「
倉田がこれを言い出したらしい。
「瑠唯さんが、『期末考査で赤点が出たら音楽活動に支障が出るでしょう?』って」
「随分と柔らかくなったな、あの人」
倉田の所属するバンド、通称モニカのヴァイオリン担当、八潮瑠唯は2年にして生徒会副会長。
1年のころは何でもバッサリ切っていく機械のような人間だったが、今はずいぶんと許容しているようだ。
バンドとの出会いがそうさせたのか、それとも他の要因があるのか、俺は知ったこっちゃないけど。
「で、それは遠回しに自主練ってことになって、表向きは勉強しとけよって言うこと?」
「う、うん。二週間前なんだけど」
「十分試験勉強期間範囲内だぞ?ボーカルが赤点でしたは笑えないぜ?」
「うっ......今回は頑張るよぅ......」
そうやっていじけてはいるが、実際彼女の頭は悪くはない。
仮にも月ノ森の外部試験を超えていて、かつ2年に進級できているのだ。
これで悪いわけがない。
「実際倉田の地頭は悪くないんだし、今回の範囲だって......まぁ、広いか。まあでも、ちゃんとやってれば赤点はないだろ」
「でも、1年の時の最後は海翔君に教えてもらったし......」
「そこまで教えることなかったような気がするけどな」
「で、でも心配だから......海翔君、また、教えて?」
......顔がいい女子に上目遣いで教えてと言われて、断れる男がいたら俺はそいつと友達になりたい。
「......わかった。確認だけど、今日からバンド練ないんだよな?」
「うん」
「じゃ、帰り道にある図書館行くぞ。家に帰ると暑くてやる気起きないからな」
「はーい!」
「あっつ......朝そこまでだったじゃねえか」
「暑いね......」
首に提げたハンディ扇風機に向かって「あー」と言いながら言われても説得力はないが。
温風でも何でも、風が吹けば多少は涼しく感じる。
まぁ、掻いた汗が冷えて涼しく感じてるだけだけど。
「そういや」
ふと思い立って、倉田に聞く。
「なに?」
「倉田の言う『特別』って、見つけられたか?」
「......ううん、まだかな」
「......そうか」
こいつは月ノ森に入学し、またバンドを結成した理由を『私も特別を見つけたい・輝く景色にたどり着くため』と言ってた。
まだ2年、もう2年だが、そろそろ見つかってもいい頃合いだろう。
まぁ、本人にわからんものだから、口を出す道理もないけど。
「だけど」
「あ?」
「少なくとも、海翔君といるこの時間は、特別かな?」
そう言ってこちらに満面の笑みを向ける。
「っ......こいつめ」
知り合って1年少し経つが、この笑顔にだけは勝てる気がしない。
「そ、それより早く行こうよ!」
「なんでお前が照れてんだよ......つかもっとゆっくり行こうぜ」
早歩き、というか走ろうとする倉田の腕を無意識的に掴んで、ゆっくり歩かせる。
「転ぶと危ないからな」
「......いきなり掴む方が、危ないと思う」
「あぁ、いやまぁ......そりゃごもっとも」
「ん~......お、ちょうど2時間だな」
「うぅ......疲れた......」
「お疲れ倉田。頑張ったな」
範囲のさわりと、少し踏み込んだ部分をすべて詰め込んだ。
今回の期末考査、範囲は普通校が3年かけて学ぶ大学受験に必要な範囲全て。
1年の最初の頃にはもう普通校の中盤の部分をやってた。
だから驚かないが、もう正直言って怖い。
さっきも言ったけど、俺や倉田含め、外部生としてここに入ってこれた人間は誇っていいと思う。
その辺の高校とは頭のレベルが違う、おかしい。
茹蛸の様に真っ赤になった顔の倉田を見ながら、そんなことを考える。
言い方はよくないが、特別を見つけるためだけに入学を決意し、あの頭がおかしいレベルの試験を乗り越えてきてるんだなぁと思うと、なんだか守ってやりたい気分になる。
「倉田、頑張ってんだな」
「ぇ......?いきなり、なに......?」
頭の使い過ぎで溶けてる倉田の頭に手を置き、撫でる。
「ぅ......ふにゅ......」
「溶けるなら家で溶けろな。ここじゃ迷惑になるから」
使った参考書を戻す。
やはり図書館というのは偉大だ。
季節によって適切な温度で勉強ができる。
家だとどうしても暑いor寒いの両極端だからな。
「さて、と。倉田、帰ろうか」
「んん......はぁい......」
......大丈夫だろうか。
「おーい倉田。歩けるなら歩いてくれないかな」
「海翔君の背中がいい......」
「暑いし汗すごいぞ?」
「降ろさないで......」
困った。
何で俺は同級生の女子をおぶって帰っているんだろうか。
理由はある。
あまりにも思考が溶けすぎてる倉田の足取りが、ものすごく危なっかしく見えたから、許可を取っておぶっている。
......この状態の倉田に許可を取ったところで、それは許諾と取っていいのかは疑問だが。
泥酔状態の人間に許可を取ったら、反射的に肯定するらしい(自分調べ)から、それと一緒じゃないかなと思うが。
「ねー......海翔君」
「ん?どうした?」
「海翔君は、私のこと、好き?」
......甘えた声でなんてことを聞くんだ、この女は。
好きでもない人間をおぶって帰るものか。
図書館で一緒に勉強したりするものか。
けれど、そんな直球に好きとは、とても言えない。
だから。
「......どうだろうな」
こうやって、濁してしまう。
「教えてくれてもいいじゃん、ケチ......」
拗ねてるようで、からかってるような、そんな声だ。
「あー......なんか飲むか?」
話題を変えたくて、丁度目に入った自販機を見ながら問いかける。
「奢ってくれる?」
「出してやるから好きなの選べ」
流石にずっとはおんぶしてられないので、近くのベンチに下ろして座らせる。
「ほれ」
「う......ありがと」
ミルクティーを受け取って、倉田は暗い顔をする。
「どうした?」
「......迷惑、かけちゃったなぁって」
「気にすんなよ。別に迷惑なんて思っちゃいないよ」
少し間を開けて隣に座り、当たり障りのない言葉を投げかける。
俺はどうしても乙女心だとか、女心って言うのが分からないから、人間として真っ当な返事しかできない。
「海翔君は優しいね、私をこんなに気遣ってくれて」
「......優しい、か。どうなんだろうな」
好きな女を連れまわして、連れまわされるこの感覚は、決して悪いものではない。
と、虚空に投げた目線に、ある張り紙が入る。
「花火大会......『夏祭り』?」
「え、どこ?」
張り紙を指さしてやる。
「ほんとだ。日付は......今日、だね」
その目は、なぜか知らないがキラキラしていた。
「......行きたいか?」
「......!うん!」
「じゃあ、一回着替えてからにしような。制服じゃ目立つから」
月ノ森の生徒が祭りに行ってるって、先生にでも知られたら大変だしな。
......別に、行くこと自体に問題はないけど。
さっきの公園で落ち合うことを決め、一旦家に帰ってきたはいいが。
(あれ?冷静に考えたら、これ、デートってやつでは?)
夏祭り、男女がだれも誘わずに一対のペアとして出かける。
これは、紛れもなく。
「デート、だよなぁ......」
いや、それはあまりにも早計じゃないか?
倉田のことだ、きっとモニカの皆も誘ってくる。
「祭り、かぁ......」
長らく行ってなかったが、もし倉田と回れるのなら、楽しいものになるだろう。
と、携帯が鳴る。
『そろそろ公園着くよ!』
おっと、まずい。
女性を待たすのは申し訳ない。
早く出るとしよう。
公園に着くと、さっきまでとは違う装いで、なおかわいいと思える倉田が座っていた。
「悪い、待たせた」
「ううん。大丈夫だよ」
そう言ってふわっと笑う。
やっぱり、俺はこの笑顔に弱い。
「そういや、モニカの皆はいるのか?」
「わかんないけど、透子ちゃんとかはいそうだね。どうして?」
「いや、もしバッタリ会ったら気まずいなって思って」
「なんで?」
どうしてこいつは男といるのに「なんで?」というコメントが浮かぶんだろうか?
「いや、男女が二人で歩いてたら怪しいだろ」
「怪しいの?」
「怪しいだろ」
こいつ天然か?
「付き合ってないような奴らが二人で祭りにいるんだぞ?」
「うん」
「......恥ずかしいとか、ないのか?」
「ないよ?海翔君だもん」
「なんだそれ......」
ホントにこいつのペースはわからん。
けど、それが好きで付き合ってる部分はある。
「それより早く行こうよ!」
「あぁ分かった......わかったから引っ張るなおい!」
祭り会場に着くと、すでに大勢の人でごった返していた。
「うわ、めっちゃ人」
「わ、すごいね......」
人が一人通れるかどうかの隙間を見つけるが、少しでも気を抜いたらもみくちゃにされそうだ。
「倉田、手貸して」
「......?」
「はぐれたら危ないだろ」
「あ......そ、そうだね」
遠慮がちに上げられた手を取り、隙間を縫って進む。
こうなると屋台の一つも見つけることすら難しそうだ。
「大丈夫か?」
「うん、何とか」
俺も倉田も体力があるほうではないから、そろそろマズい。
「ちょっと開けた場所に出るから、そこでいったん休もうか」
気を抜かずとも無事にもみくちゃにされた俺たちは、少し離れた場所で休憩する。
「何でこんな人多いんだ......?」
「もしかしたら、もう夏休みなのかも」
「いやそれはないだろ。俺らが期末対策してる中普通の中高生が夏休みなんて......」
「あ、今日が金曜日だから?」
「それだ」
金曜であれば、こんな大人数いても納得はできる。
明日は別に早起きしなくていいわけだし、遅くても問題はないからな。
そうだとしても多すぎるけど。
「何か食いたいもん、見つかったか?」
「ベビーカステラ」
「可愛いなおい。わかった、行ってくる」
席を立とうとすると、袖を掴まれる。
「......おいて、行かないで」
「......わかった」
再び手を取り、人混みの中に潜る。
どの屋台も混んでる中、目当ての店と周りの屋台は比較的空いている。
......あくまで比較的なだけで、混んでることには変わりない。
「手、離すなよ」
「うん」
力を込めてなお力が弱い彼女の手を握り返す。
「......力入れてるか?」
「入れてるよ?」
さらに握りこまれるが、たいしてかかる力が変わってない。
改めて女の子だなとか場違いなことを考えながら、ベビーカステラを購入。
「すぐ買えたな」
「そうだね」
「せっかくだしなんかプラスで買うか」
「うん」
というわけで、いろいろ買ってさっきのベンチへ。
「ごめんね、全部出して貰っちゃって」
「気にすんなよ、俺がやりたくてやってるんだから」
この「気にすんなよ」で始まる会話も、1週間のうちに3回以上はやってる気がする。
それほどまでに倉田は自意識が低く、俺が自己犠牲型過ぎるのだろう。
まぁ、今更直そうとも思わないし、直す気もないけど。
「か、海翔君」
「ん?」
「あ、あーん......」
ベビーカステラを持って差し出してくる倉田。
......警戒心、どうなってるんだ?
まぁ、特に断る理由もないので差し出されたものを食べる。
「え」
「ん......うま。倉田も食えよ。はい、あーん」
「ふぇ!?わ、私はいいよ......」
「遠慮すんなよ。ほら、口開けろ」
お返しを建前、仕返しを本音にあーんをやり返す。
しかしこれ、なかなかに恥ずかしい。
倉田、よくこれやったな。
「ほら、どうした?」
「うー......あむっ」
「な、うまいだろ?」
めっちゃ恥ずかしい。
なんだこれ。
とか考えてたら、倉田の顔が赤い。
「どうした?」
「な、なな何でもないよ!?」
「なんかあっただろ。まあいいや。冷めないうちに......」
取り出したるは祭りと言えばの代表格、「じゃがバター」。
俺には馴染み深いし、倉田も知ってるんだろうけど、俺らが小学校の時から月ノ森にいるような奴らはどうなんだろうか。
「その辺、どう思う?」
隣でハムスターみたくベビーカステラをもきゅもきゅしてる倉田に聞いてみる。
こうして眺めていると、本当にペットみたいな感じがしてくるが、頭を振ってその考えを払う。
「うーん......私のお弁当に入ってたタコさんウインナー見て初めて見たーって言ってたから、お祭りとか、行かないんじゃないかな?」
「お金持ちにお祭りの良さは分かんないかぁ......」
「ダメだよ海翔君。そんなこと言っちゃ」
「まああれだ。ジャンキーなもんは食わないんだろ」
「そうだね」
ちょっとした疑問が解決したところで、黙々と食い進める。
時々自分が手に取ったものがおいしければ、相手に半分をシェアしながら。
「海翔君!これおいしいよ!」
「良かったな」
こうしていると、倉田と付き合ってるみたいな感覚になってくる。
少なくとも俺は倉田のことを好いているが、向こうはどうなんだろうか。
そもそも女の子って、気許した異性とはいえ二人きりで出かけるのってどうなんだ?
いや、さっきの公園で「私のこと好き?」とからかってきたが、もしかするとそれが本心......?
「海翔君?」
「っ......?どうした倉田」
「ううん。なんだかぼうっとしてたから」
「いや、何でもないんだ。悪いな」
......いっそのこと、俺は倉田の保護者として偽って過ごしていた方が、倉田も楽じゃないのか?
とか考えていると、倉田が顔を覗き込んでいたことに遅れて気付いた。
「やっぱり、何か隠してる」
「......倉田にバレるようじゃ、俺のポーカーフェイスもまだまだってことだな」
混ぜ返すと、倉田は首を振る。
「ううん、顔には出てなかったよ。その、雰囲気がね。街灯のない夜道、みたいな」
倉田の発言は詩的で、伝わることがほとんどないのだが。
「......珍しくちょっと伝わったよ。そんなに暗かったか?」
「なんだか、悩んでる感じだった。よかったら、話してほしいな」
そこまで言われたら、話すしかなくなる。
彼女の優しさは、無下にはできない。
「じゃあ、ちょっと移動するか。花火ももうすぐ始まる時間だし」
「わ、わかった」
俺たちは人気のない公園にやってきた。
この辺でやる花火は、ここが一番よく見える。
「......と、着いたな」
「ここが、おすすめ?」
「あぁ。ちょっと座ろうぜ」
我ながら、良い場所を見つけた気がする。
花火までまだ少しあるが、特等席は早く取るに限る。
「それで、悩みって?」
「あぁそっか、それ話すために来たんだったな」
白々しい言い訳、ホントは覚えている。
「あー......倉田はさ、今楽しい?」
「今って、この時間?」
「そう。俺なんかとじゃなくて、モニカの皆と回ればいいのにって、そう思ったんだけど」
言うと、なぜか倉田はちょっとムスッとしている。
正直可愛いから威圧感は少しもないのだが。
「な、何で怒ってるんだ?」
「俺『なんか』って言わないで。私は海翔君と回れて楽しいのに」
「......そっか。楽しいならいいんだ」
「どうしてそんなこと聞くの?」
真っ当な疑問。
「いや、気になっただけだよ」
「嘘だよ。海翔君、そんなこと普段は絶対聞かないもん」
「......倉田には隠し事できないな」
「1年一緒だから、それなりにわかるよ」
バレてるなら、話した方が楽になるだろう。
「倉田に聞かれたこと、分かんなくて悩んでた」
「私、なんか聞いたっけ?」
「さっき「私の事好き?」って聞いたろ?」
「そうだっけ?」
ま、覚えてないのも無理はないか。
ほぼ泥酔のそれだったからな。
「まぁ、言ってたんだよ。それでふと思ったんだ。好きな人ってなんだろうなって」
「なんだろう......?」
「この時間がずっと続いてほしい、離れたくない、って感じるときがあるなら、それが好きじゃねえかって、俺は思うんだけどさ、どう思う?」
と、ちょっと矢継ぎ早に喋ってしまったせいで、ましろがフリーズを起こしている。
「悪い、喋り過ぎたな」
「う、ううん。大、丈夫。そう、だね」
「それは大丈夫じゃない奴が言うことだ。今のは」
忘れてくれ、という言葉は、ましろの指が俺の頬に添えられたことで消えた。
「本当に、大丈夫。海翔君の言いたいこと、わかったから」
「わかった......?」
「うん。海翔君には、そういう人がいる、んでしょ?」
そういうましろの顔には、影がかかっていた。
「......あぁ。今、出来た」
「今?」
さっきの動作を返すように、ましろの頬に手を添える。
「俺は、ましろが、好きだ」
「え、えぇ!?」
ましろが叫んだ瞬間に、花火が上がる。
「お、始まったぞ」
「なんでそんな冷静でいられるの......?」
「冷静じゃないよ。断られるかもって、花火で気紛らわしてるんだぞ?」
「そう、なの?」
「あぁ。今じゃなくてもいいけどな」
今じゃないなんて、どの口が言ってるんだ。
今すぐにでも返事が欲しい。
けれど、ましろを気遣う言葉が先に口から出る。
「ううん。今、言わせて?」
「え?いいのか?」
「うん。......私も、好き」
「......さては、俺がおぶったの覚えてるな?」
「......ううん。忘れた!」
笑顔で言った。
こいつ、自分の可愛さが分かってない。
そうやって満面の笑みを浮かべるときが一番かわいい。
「......花火、綺麗だね」
「あぁ。そうだな」
「来年も、一緒に来ようね」
「もちろんだ。その前に、まずは今回の期末、頑張んないとな?」
掘り返してみると、朝と同じ表情で、しかし声色は明るく、
「うっ......ちゃんと、頑張るから。......その、教えてね、海翔君?」
なんて言うので。
「......仰せのままに、マイマスター」
って、混ぜ返してやった。