ザレゴトリコイル 金色アランと戯言遣い 作:角刈りツインテール
未来変えちゃいますか———なんて、どこかの戦国時代へタイムスリップした挙句織田信長に成り代わることとなった男子高校生のような大層なことを口走ったものの、そううまく簡単にいくことではないと思っているし、なんなら不可能とさえ思っている。先述した通り、姫菜真姫の占いの結果が事実と異なっていたシチュエーションをぼくは見たことがない。ぼくの想像力の問題かもしれないが、彼女がミスをする想像さえつかない。
占い、というより予言。
予言は虚言になんてなり得ない。
それが天才。
それ故に、姫菜真姫はここに———鴉の濡れ羽島にいる。
「でもな〜死ぬって分かってる人を放ってはおけないよねぇ」
二人もそうでしょう———千束は自分に言い聞かせるようにそう言って、決意を固めている。
が。
水を差すようで悪いが、そもそもぼくは姫菜さんが死のうとも死なずともどうでもいいのだ。むしろ、ここで死ぬことが当然というか、自然の摂理というか……タイムパラドクスとまではいかないが、それを回避することで矛盾を生み出しているように思われて不愉快にさえなる。
きっと、それは姫菜さんの占いへの信頼。最も、彼女自身は全く信用できないけれど。いつも全て理解った上でニヤニヤと傍観者に徹している。
気味が悪い。まるで球磨川禊だ。
「たきなは〜?どう思う?」
千束はたきなへ話を振った。そうですね、と吟味する風を見せる。
「私はどちらでも構いませんよ。今さっき会ったばかりの人に命を懸けるのは躊躇われますが———その点、長い付き合いのいーさんはどうなんですか」
今度はたきなさんがぼくに振った。この人、自分は中立に立って様子見に徹してやがる。こうなってしまえば、ぼくが決定的な何かを言わざるを得なくなるじゃないか。苦手なんだよな、そういうの……。
別に長い付き合いってわけでもないんだけどね、と枕詞のような言い訳めいた何かを呟いてから、なんとか返答を捻り出した。
「ぼくは助けなくていいと思うんです」ぼくはあえて、はっきりと言った。「まず、姫菜さん自身が助けを求めているわけでもない」
「なんでなんで?見ただけでわかんの?」千束が尋ねる。
「こう見えて人間観察が趣味でして……」
「ふぅん、すっげー」
「戯言ですけどね」
「いや、ぽいですよ実際。結構」
……そんなやべー奴だと思われてたのか、ぼく。
まぁ間違ってはいない。遠からず、近からず、って感じかな。
一体どういう意味なのかと問われると、ここで絡んでくるのは哀川潤さんだ。彼女に関係する話で、ヤバくない話はない。
宇宙人に月面探検、ホムンクルス———未だに意味が分かっていないが、どうやら本とも戦ったことがあるらしい。
まぁ、それは置いておいて。
つまり、こういうことだ———彼女の108のスキルのうちのひとつである読心術を直近で見てきたぼくは、哀川さんには及ばないものの、読心術を獲得することができたのである。
なんて戯言だ。
ちなみに、声帯模写は、まだできない。
「それはそうかもだけどさぁ〜本当にそうだとしてもやっぱり見殺しにするには気分悪いよねぇ」千束が、ぐでー、とぼくのベッドに座ってだらけながらも、自分の意思を告げた。それはともかく、人のベッドによく座れるな、と思う。しかも異性の。そんなことが出来る人間、それこそ哀川潤くらいなものだと思っていたけれど。
ちなみにぼくは、普通に座れる。
恐らくたきなさんも然りだろう———このメンツには、恋愛に無頓着な人間しかいない。
「『いのちだいじに』だよね、やっぱ」
ボソリと呟いた言葉。いつだったかにも聞いたことがある台詞だったが、彼女のポリシーなのだろうか。そこには何か意味があるのか。ないのか。心臓が機械であることにも関係していそうだ。
自分は機械に生かされている身で、本当は死んでいた自分。
命の尊さを知っている私は、それを大事にしなければならない———か。
なんとまぁ分かりやすい感動物語だ、と思ってしまうのはぼくが捻くれているからだろうか。
「ねぇぇぇえたきなぁぁぁお願いだよぉ〜」
「はぁ……分かりました」
とうとう千束がたきなに抱きついて懇願を始めたとき、とうとうたきなが折れた。どちらでも良いとは言っておきながら、内心面倒だという気持ちもあったのだろう、苦虫を噛んだような表情を見せている。ほんとぉ!?と嬉しさのあまり飛び跳ねている千束とはまるっきり対照的だ。
で、賛成派、中立派、反対派とバランスが取れていた空間が、2:1というアンバランスな状況へ変化した。となれば……当然、2人の目はぼくに向かう。
嫌です、とデジャブを感じる拒否行動を起こしたとしても、どうせ行く末は目に見えている。陽は陰には逆らえない。世の中の鉄則だ。ぼくは千束という少女に、あまりに明るすぎる光を見てしまっていた。
いずれ誰かを焼き尽くすのではないかとさえ思われるような、強い光。
焼かれない為の、防衛反応。
「分かりましたよ、もう……」
が、それが不可能だと分かってしまえば無駄な抵抗をするつもりはない。それこそ面倒だ。
「ですけど、そう簡単にはいかないと思いますよ。未来を変えるというのは」
「まぁねぇ……」
「それに、姫菜さんの占いを覆すというのがどういう意味か千束さんは分かっていますか」
「へ?」
分かんない、といった素振りを見せたのでシンキングタイムも与えず答え合わせ。
「彼女は人生を占いに捧げて生きてきました」
それこそ百発百中と呼ばれるほどまでには。しかし、もし今回で予言が失敗したとなれば———未来が変わってしまったとするならば。
百発九十九中。
ぼくからしてみればそれはほんの小さな誤差だが、彼女にとっては———天才にとっては見過ごせないはずだ。
なぜなら、玖渚友だって、そうなのだから。
小さなバグさえ、腹立たしい。
だからもし彼女を救ってしまえば。
「———姫菜さんを、『占い師としての』姫菜さんを殺したも同然」
たきなさんが答えを示した。まさしくそういうことだ。うん、聡明な人は話が早くて助かる。いちにちのうちであれば忘却探偵以上に忘れっぽいぼくは一度自分が言ったことはすぐに忘れてしまうので聞き返されても答えられないのである。
「千束さんには、そういう才能ありませんか。アイデンティティというか、なんといいますか」
「んー私の才能ねぇ……弾避ける才能?」
だろうな、と思った。ただ細かく知らないだけかもしれないが、彼女の才能と聞けばまず最初にそれが思い浮かぶ。
圧倒的動体視力。
視力。
それで、どうしますか———ぼくが尋ねようとしたとき、ノックの音が部屋に響いた。どうぞ、と声をかけてすぐに中に入ってきたのは、三つ子メイドのうちの一人・千賀あかりさんだった。
「イリア様がお呼びです」
おっと、そうだった。
早めに挨拶をしておこうと言いながら、ここまで引っ張ってしまっていたためにイリアさんも痺れを切らしてしまったのだろう。いや、班田玲さんと言うべきか……まぁ、まだあの遊びをしているとすればバレたくないだろうし、ここは空気を読んでイリアさんと呼んであげることとしよう。
「じゃー……とりあえず行くか!」
「そうですね」
千束とたきなが同意し、立ち上がって扉の向こうへ歩き始める。
たきなさんはともかく、千束さんは礼儀とか持ち合わせているのだろうか。まぁ、イリアさんが礼儀を気にするとも思えないけれど。
「帰りてぇなぁ……」
1人きりになった部屋で静かに呟いて、ゆっくり彼女らの背中を追いかけた。
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