ザレゴトリコイル 金色アランと戯言遣い 作:角刈りツインテール
——————あれから二ヶ月ほど過ぎた某日のこと。
ぼくは再び、『喫茶店リコリコ』に来ていた。
「……おかしい」ぼくは呟く。
どうして物語が続いているんだろうか。確かに戯言シリーズの界隈は先日、続編の刊行が決定されて……。
ん、今の、いい響きだ。もう一度。
だけど、乗りかかった船だ。
それがたとえタイタニック号だとしても諦めるしかあるまい。
沈む運命が定まっているとしても、ぼくは惨めにも哀れにも、這うようにゆっくりと、前へ進ませてもらう。
そのほうが実にぼくらしい。
「……ぼくらしい、ね」
なんて、戯言だ。
らしさなんて、曖昧不明瞭なものを一体どうやって測ろうというのか。
閑話休題。
では僭越ながら、ここで本題へ入らせていただこう。
本題、とは具体的には『何故ここにいるのか』———いや、実際はコーヒーを飲みに以前にも何度かお邪魔しているのでここにいることはなんら不思議ではないのだが、ここで大事なのは何故『今』ここにいるのかということだ———事はついさっき、二時間前に遡る。こちらがその時の玖渚友の会話である。ご覧いただこう。
♦︎♦︎♦︎
「ねぇいーちゃん。いーちゃんって、『リコリス』っていうグループを知っているかな」
「えーと……あぁ、知ってる知ってる。あれだよね、見て呉れの可愛さから近頃SNSを中心に流行ってるよね」
「そう?ならいいんだけど……えっとねいーちゃん。≪ちーくん≫からのお願いで内状が探りたいんだって」
「ふぅん。ちーくんっていえば、確か刑務所にいるっていう」
「おー、いーちゃんが人の名前を覚えるなんて珍しい」
「そうかな」
「で、いーちゃんが潜入捜査してきてくれない?」
「嫌です」
「ちなみにリコリスは女の子だけが入れる秘密組織なんだよ」
「嫌です」
「いーちゃんの女装———そこにあるよ?」
♦︎♦︎♦︎
一生忘れられる気がしない、世にも珍しい、友のニヤケ顔。
トラウマになってしまいそうだった。
こういうのは哀川さんに依頼されるのがいつものだったのに、友からお願いされるなんて珍しい。先程は知ってるなどと大層な虚言(戯言?)を口にしてしまったが実際は一ミリも存じていない……。一体どんな非合法な機関なのか、男子禁制とは一体何故か訝しみながら町中を歩く。ええと、恐らくはこの辺り—————
『喫茶店リコリコ』。
ここ?
本当に?
「戯言だよ、ったく……」
意味が分からない。外観はどう見てもただの喫茶店だ。玖渚いわく、拳銃を扱うことが許されているJKの集う秘密組織だって?有り得ない有り得ない。哀川さんの存在より有り得ないわ、んなもん。
「けどまぁ…入るしかないよな」
ぼくは———≪女装姿の≫ぼくは。
カララン、と鈴の音と共に店内に入り———友から教わったある一言を口にするのだった。
「失礼します。本日からここで転属になりました。……井伊遙奈です」
たとえ偽名(しかも妹の名前)でも、名前を名乗るのは久しぶりのことである。
今まで徹底してきたこと———例えば、シャープペンシルの消しゴムを使わない、とか———を全てぶっ壊されたかのようで少々不快ではあった。別に死人をもてあそぶことがどうとかとコンプラ批判したいわけでは無いことをここに明記しておく。
が。
「おー!君が例のリコリスだね!」
既に顔を見合わせているはずなのに、全く気付かない千束さんを見て、なんかもう、全部どうでもよくなった。
本当に、正真正銘の戯言だ。
あるいは、傑作。
ノーベル文学賞か平和賞でも取れそうだった。
♦︎♦︎♦︎
「えっとーこれがーここの服ねー」
そう言って渡されたのは、『ザ・和』といった雰囲気の、たきなさんや千束さんとおそろの色違い(水色)だった。思えば誰かとお揃いの服を着るなんて、それこそ学ラン以来なのではないだろうか。別に、だからどうした、という話なのだが。
「それにしても、まさか女装から女装に着替えることになるとはね…」
やれやれ。現実は小説よりも奇なり、とはまさにこのことなんだなぁと強く実感。
「いーさんですよね」
ぼくが着替える寸前に着替え室に現れた彼女———少し前にここで働くようになった井ノ上たきなさんはそう言い放った。
うわぁ。
早速バレてやがる。
……いや、まぁ、思えば当然なんだけど。
恐らく気付いていないのは千束さんだけのはずである。友がデータをいじってくれたとはいえ、人の記憶までは変えられない。こればかりは僕の仕事である。やれやれ、本当に面倒な仕事持ってきたやがったな、あいつ。いや、だからこそ嫌がらない僕に頼んだ、というのもあるのかもしれないが……。
さて、どうするかな。
「意義あり!」
と論破、もとい言い訳するのは簡単だが、どうせバレる気しかしない。ならば今のうちにたきなさんを仲間に入れた方が得策か……。
よし、決めた。
「うん。ちょっとした任務でね。大丈夫。君たちの悪いようにはしないから」
「……………。」
おぉう、疑ってる疑ってる。
「正直なところ、私は貴方のことをいっっっっっっっさい信用していません」
「え、嘘」
思わず本気の疑問文が漏れた。
いっっっっっっっっさいだって?おいおい冗談はよしてくれよ。知らない関係でもなし流石に少しくらいは信用してくれていてもいいじゃないか。
なんてこれも戯言だ。僕も別に一店員を信用する程お人よしではない。
「だって貴方、他人に興味なさそうだし死んだ魚みたいな目をしてますし」
おや、まぁ。
これは、なかなか、辛辣。
今までここであんなに会話したのに、一体どうしてそこまで言えるのだろうか。……いや、今思い返せば全て千束経由のものだった気もする。
なんだそれ、切ないな————とか言って、これも戯言だ。
「まずは———様子見させてもらいます。それと後ほど話をさせてください」
「了解」
「もし敵のスパイなら私は迷わず撃ちますよ」
「……了解」
こうして、ぼくのリコリス勤務が始まった。
短い間ですが、クソお世話になりますので、どうかよろしく。
って……あれ、これってもしかしてスパイ行為では?
…まぁ、敵じゃないから。大丈夫だよね。
大丈夫だよね?
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