ザレゴトリコイル 金色アランと戯言遣い 作:角刈りツインテール
「ときに千束さん、大事な話があります」
「え、何急に。告白?」
「はい」
「………ひぇ?」
「いや、それは戯言で……まぁ、告白と言えば告白ですかね…ちょっとぼくの髪引っ張ってみてください」
「えーほんとになんなの……?何何?もしかしてヅラだったりした?全然大丈夫だよぉ!私は君のその髪の毛が偽物だったとしてもずっと友だえええええええええええいーちゃん!?!?!?!?」
時刻は午前八時。それは開店前の店内にやかましく響き渡る、予想以上の千束のリアクションだった。やはりこいつ、巫女子ちゃんに激似である。こういったタイプの人間に、ぼくはもう二度と関わりがないと思っていたのだが、というか関わりたくないと思っていたのだが、人生というものはどうもうまくいかないものらしい。その声はむしろこちらがひっくり返りそうになるほどの音量で、ぼく含む全員が鼓膜を指で守った。まだ開店前で本当に良かったと思う。もし客が入っていたらちょっとした事件だったぞ、これ。しかしまぁ、なんというか、これほどまでに驚いてくれるとは思っていなかった。これでこそ芸人冥利に尽きるってものだろう。
有り体に言えば、うるせぇ。
「え?え?なんで?」
千束さんが困惑しないように、と昨日は千束さんを除いた喫茶店リコリコのメンバーで緊急会議が開かれたわけだが、言われてみればこの子は超感情お化けだった。裏で何をしようと、どのみちこうなるに決まっていただろうに。
「えっとですね」
しかしながら、これはぼくの責任だと思い重い腰を上げて説明をしようと試みたのだが
「いえ、ここは私が」
と先ほどからぼくを睨みつけているたきなさんが手を挙げた。やれやれ、信用されてないな。まさか、このぼくが嘘をつくとでも思っているのか、この子は。どれほどの正直者か、今までたんとここで見てきただろうに。
「たしかに、あなたのことは見てきましたよ……これがその結果です」
なんと。
「ふぅん、スパイだったのか……くそっ気付かなかった、不覚」
「なぁにが不覚だ。そりゃアンタは絶対気付かないだろ、アホ」
「んだとコラァ!」
「アホだな」
「クルミお前もか!」
「アホですね」
「たきなまでぇぇぇ……!?」
「アーホアーホ」
「テメェは許さねぇぞいーちゃん!!」
そして、今にも全方向に向かって殴りかかりそうな千束をなだめるミカさん。それは客として今まで見てきた風景と寸分変わらない光景だった。
おかしいのは自分だけだった。
何故か女性ものの服を着ている、ぼく。
もちろん、男性。
制服の次は着物か———誰にもバレない程度にため息をついた。が、千束が目敏く「なんか大変そうだねーどんまいどんまい」と宥めてきた。肩を叩くな。いや照れているとかではなく、普通に痛い。
「で、どういうこと?」
「今更かよ」
クルミがパソコンをイジりながらツッコむ。
カタカタ、カタカタ。
なんだか異様にタイピングが早いが、この容姿でどうしてそこまで早く打てるのだろうか。英才教育、というかそもそも指の長さが足りないと思うのだが。僕よりも早いぞ…。
で、事情説明。
「ふぅん……そっか、悪い奴ではないんだね?」
「はい、そうです」
「それも含めて調査させてもらいます」
まじで信用ゼロだな……まぁスパイに信用なんて無縁の言葉かもしれないけれど…いや、そうでもないか。相手とも信頼関係を築くことで、情報を得ることもできるし、難易度も格段に下がる。ただ一つ言えることがあるとすれば、それはスパイだとバレる前の話であるということだけだ。
「まぁ何にせよ?手が増えるのはいいことじゃな〜い?」ミズキさんが楽観的にそう言った。まさかとは思うけど、朝っぱらから酔ってるのか?
「まぁとりあえず…よろしくね?いーちゃん?」
「えぇ、そうですね……一応リコリスに所属していることになっているので、そちらの方でもお世話になります」
「あ、そっか…頑張って!」
適当だな。ぼくが死んだらどうするつもりなんだ。
———人殺しのグループ。
そういえば、以前そう揶揄されていたのをどこかで聞いたこのを思い出した。果たしてそれは本当なのだろうか。ここは組織の端の部署だと聞いていたが、本部になるともっと残忍なのか。あるいは、もしくは、ひょっとしたらここも。
僕が死んでも何とも思わないような人たちのグループとは、どうしても思いたくない…というのは戯言だ。
自分が一番、どうでもいいと思っているだから。
誰が死のうと。
ぼくが死のうと。
小説の中の人物を見ているかのよう他人行儀で。
腫れ物に触るようで、よそよそしくて、どうでもいい。
だけど。
だけど、とりあえず、今だけは———友からの任務を遂行する前には死ねない。
珍しくやる気に満ち溢れた戯言遣いのぼくは、ついそう思わずにはいられないのだ。
やる気なんてものがぼくの中に存在していれば、だけど。
「それこそ戯言、か」
「よーーっっし!じゃあ開けるね!!!!では元気に一丁よろしく、」
新人くん———千束さんはそう言って、鈴の音を鳴らしながらドアを開けた。
やはり人気店らしく、朝から待っている客もいたようだ。3グループほどが店内へわらわらと入ってきた。
1人目は、金髪の男性一名様だった。ミカさんが「あ」という顔をしているので恐らく顔見知りだと思われる。実写版すみっこぐらしと言われるほどに人見知りなぼくだが、そもそもそう言ってくれる友人さえもいないぼくだが、ご好意でスパイさせてもらっているのに(不思議な日本語だ)隅で陰険にじっと座ってこの店の食べモグのレビューを下げて恩を仇で返すような真似は、流石に出来まい。
昨日は何もさせてもらえなかったので、実質これが勤務初日だ。精々張り切らせていただくとしよう。
ということで。それじゃあいっちょう、言ってみますか。
息を合わせて———せーの。
「「「「「「いらっしゃいませ」」」」、ご主人様」
「「「「「え?」」」」」
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