ザレゴトリコイル 金色アランと戯言遣い 作:角刈りツインテール
今回はちょっと長めです。いつもの1.5倍はあると思います。
翌日。
「レジ締め終わりました。誤差なしでズレもありません」
「おう、お疲れ様。今日は終わりだし帰ってもいいぞ」
「はい、そうさせていただきます」
レジ締めを報告し、たきなは支度を始める。てきぱきと仕事をこなす彼女の姿を見たぼくは、ありがたいと内心で感謝をした。最初に一人が帰ることで、他の人も帰りやすくなる。何となく空気を読んでしまって帰りにくい———日本の休暇取得率が上がらないのもそれが原因であろう。日本人はどうも、波風を好む人種らしい。同様にぼくも博愛主義者で平和主義者で平等主義者なので、ここは「ぼくも上がります」と時代のビッグウェーブに乗ることにした。快く承諾してくれるあたり、ミカさんの人柄の良さが滲み出ているなと思った。
「えー、ちょいちょい! たきなもボードゲームやろうよー! いーちゃんも!!」
が、背後から悪魔の囁きが聞こえた。
頼みを断るのが苦手なぼくは(そのせいでぼくは今、ここにいる)、つい反射で立ち止まってしまう。
「いえ、遠慮させてもらいます」
おぉう、クール。どうやらこの人に従っていれば、これからも(これからも?)平和な生活を維持できそうだと、ぼくのサイドエフェクトが言っているような気がした。
というか、本当に今更だけど、どうして店員が客と遊んでいるんだ。客として来ていた頃ももちろん感じていたが、店員目線で見るとより一層奇怪で仕方がない。
店員が客と遊ぶ。
文面だけ見たらいかがわしすぎるな…。
「いーちゃんは?」
「いえ、遠慮させてもらいます」
ここはたきなさん———いや、先生。大先生に見習うことにした。バサリと言い切って、ぼくは店の裏へ回った。「えぇ〜」という呻き声が聞こえるが無視。無視。無視だ。
裏では必然、たきなさんと目が合うことになる。
しかし気まずい空気になることもなく、ただ「お疲れ様です」と一言交わすだけで会話などが始まる気配はなかった。ありがたい。ぼくのことをよく分かっているじゃないか。それだけで嫌いになるまでは無いが、グイグイ来られると少々困るのだ。そう、今客席で遊んでいるアイツのように。
「入らねーのか?たきな」
突然暖簾の向こうからクルミがやってきた。大方、千束とジャンケンで負けて呼んでこいという話にでもなったのだろう。可哀想だ。だけど、だからといって協力するとは限らない。
さて、先生はどう出るのだろう。
実に興味深い。
「そうすれば、DAに戻れますか?」
たきなは引くほどに拒絶した。……なるほど、それは得策だ。そんなことを言われてしまえば、心臓に毛でも生えていない限り言い返すのは至難の業。やれやれ、戯言遣いのぼくに言葉の使い方を学ばせるとは、なかなかやるじゃないか———なんて戯言を考えていると、たきなさんにキッと睨まれた。やべ、顔に出てたか。
「…………まぁ、それはなぁ」
クルミは俯いた。その反応から察するに、彼女自身も遊んでみたかったらしい。
「では失礼します」
「ちょ、おい……」
無機質な音を立ててドアが閉じる。
必然的にぼくとクルミ二人の空間が生まれる。
目線が合った。
さっと逸らす。
そして、話さざるを得ない状況に陥った。社交辞令のように、申し訳程度にクルミはぼくに尋ねた。
「……アンタはどうする?」
「そうすれば、DAに戻れますか?」
「死ね」
えぇ……?
♦︎♦︎♦︎
更に翌日。
ぼくは野外勤務をすることになった。当然、ぼくひとりではない。信頼に値していないぼくは、店関連の作業で単独行動を許されていないのである。まぁ、これに関しては働きたてのバイトくんに手取り足取り教えてあげているといったほうが正しいのかもしれないけれど、少なくともたきなさんが睨んでくるのだけは紛れもない事実だ。
そして一つ、気になることがある。
「あの、千束さん」
「なぁに?いーちゃん」
「今から何をするんですか」
「さぁーねー?本名教えてくれたらいいよ」
「哀川です」
「えっ見ない間に退化したな潤ちゃん」
知り合いなのかよ。
それにしてもこいつら———まじで何も教えてくれねぇ。
まさか自主性を重んじているわけでもあるまい。流石に遊び半分というわけでもないだろうし…いや、どうかな、可能性はありそうだな…まぁ何はともあれ、野外での活動ということは、これもリコリスの仕事なのだろう。今まで喫茶店は関係ないのだと思っていたが、どうやらこの営業も、隠密のための策らしい。
なんかどっかで見たことある話だな。アメリカのドラマだったか、スパイか何かで料理屋を営んだら大盛況になってしまった、みたいな…まさしく今、そういう状況じゃないのか?
いずれ転職でもするのでは———と思ったが、そういえば彼女らには戸籍というものが存在しないんだった。人生とは、つくづく上手くいかないものだ。と改めて実感した。
それにしても…。
一体、どこから戸籍のない少女を集めているのだろうか?
リコリス———彼岸花。
ちーちゃんとやらは一体、何の情報を欲している?
「じゃーん!ここでーす」
おっと、物思いに耽る時間も終わりか、と地面に向けていた首を上にあげる。
「え」
ぼくは絶句した。
視線に先にあったもの、それは———————
♦︎♦︎♦︎
「犬」
「「「「イッヌ!!!」」」」
外国の方たちが学びに来る、英会話教室だった。…何故?
「猫」
「「「「「「ヌコ!!!!!!!!」」」」」」
本当ににゃんで?じゃなかった——なんで?
英会話教室を出て暫く歩き、次の場所へ向かう。
———幼稚園だった。
「…………?」
———老人ホームだった。
「…………?」
———極道の本部だった。
「…………?」
いや、極道に関してはぼくも割とリコリスらしい仕事なのではないかと最初は思っていた。わくわくこそしないが、興味は湧いていたのだ。しかし未だ戦闘が起こる様子はない。むしろ仲が良さそうにワイワイしている。
千束が組長(なんだか親戚のおっさんみたいな雰囲気だ)に渡した紙袋も、最初は危ない粉薬かと思ったが、タネを明かせば簡単なことで、ミカさんがブレンドしているコーヒー豆だった。
それを見てニヤついていた千束さんは、当然、組を出た後ウザ絡みをしてくる。
「ねーねー危ない薬だと思ったぁ!?」
「思ってません」
「うわっはぁぁ引っかかったぁぁぁ!」
思ってねぇっつってんだろ。そんな珍しく感情的な言葉を飲み込みながら、「ほら早く行きますよ」というたきなさんの言葉に従って、ぼくは二人の後ろを歩いた。「えぇ〜ん待ってよたきなぁ〜〜」という声がなんとも風情がなくて、ただただうるさい。うるさいのに風情を感じさせてくれるセミの凄さを改めて実感した瞬間である。
今日一日外回りをして思ったことを言わせてもらうと、この人たちもそこまで仲がめちゃくちゃ良いという訳では無さそうだ。というよりも、たきなさんが拒絶していると言った方が正しいだろうか。一方、千束はいつも通りグイグイ行っている。仲良くなりたいのだろうが、なんとなくぼく目線でも、相入れない性格のような気がしてならない。
そう、ぼくと千束さんのように。
という戯言は置いておいて———それにしても、どうも今日は疑問が多い1日だ。
折角許可されている銃の発砲もしない。それどころか麻薬も闇組織も———いやヤクザは出てきたが想像していたものとは違った———何も登場していないではないか。これは一体どういうことだ。バトルものとしては由々しきじたいではないか。本当に意味がわからない…そろそろ解説をお願いしていただきたい。なんて思っていると、思いが通じたのか、突然くるりとこちらを向いた千束さんがようやくネタバラシをしてくれたのだった。
「うちはねぇ———個人専門リコリスなのだよ」
ここでぼくはようやく、これは一昨日ぼくらが千束さんを除け者にしていたことへの仕返しだということを理解したのだった。
感想とかー、そのー、ほしいなぁーって(リコラジ風)
わっかるぅぅぅう…!!(リコラジ風)
感想・評価などお願いします