才能のある彼女には、悍ましい秘密があった。

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みなさんこんばんは。大遅刻をかました焼き鯖です。

今回はしぶころに参加させていただきました。

ホラーはワシにゃ難しかったな……


宝石箱

 

 才能とはすなわち宝石だと、美咲は常々言っていた。

 

 

 

 学校の誰もが振り返る美貌に、インターハイの一位を総なめするほどの運動神経。模試の成績は全国一位で春休みの宿題でやらされる作文やコンクールは、その全てを金賞で染めるほどの多彩っぷりを示している彼女の事だから間違いないだろう。

 

 

 

 全校生徒のあこがれの的である彼女は、その才能をひけらかしたりはせず、綺麗な長い黒髪を靡かせながらおしとやかに微笑む。

 

 

 

 友人である私は、それが少しだけ羨ましかった。

 

 

 

「でもさ、それだけの宝石をしまっておける場所なんて限られてるんじゃない?」

 

 

 

 夏休みが差し掛かったある日、私は教室で彼女にこう尋ねたことがある。間抜けとも取れるような私の質問に、彼女はにこりと笑って自分の頭を指さして答える。

 

 

 

「あるじゃない。頭って言う優秀な宝石箱が」

 

 

 

 美咲曰く、人間には無限の才能を習得できるようになっており、その気になればいくらでも才能を詰め込めるという。しかし、頭がその才能を全て収納出来るようにはなっていないらしく、大抵は一つか二つしか入らないようになっているらしい。

 

 

 

 しかし、その頭を大きく、頑丈にすることが出来れば、幾らでも才能を詰め込むことが出来るのだとか。

 

 

 

「そうは言ってもさ、そんなことしたら頭が宇宙人みたいになっちゃうじゃん。だけど美咲はそんなことにはなってないよ?」

 

 

 

 首を傾げながら尋ねると、美咲はまたにこりと笑って答える。

 

 

 

「確かに、貴方の言うとおりね。そんなに大きな箱は存在しないし、何よりそんな箱は()()()()。じゃあ考え方を変えてみましょう。片方が無理なら()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「そんなこと、ホントに出来るの?」

 

 

 

「出来るわ。貴方もやってみる?」

 

 

 

 笑顔のまま尋ねる美咲。その時、タイミングよくチャイムが鳴り、先生が入ってくる。

 

 

 

 どうしようかと迷った末、私はこくりと頷く。

 

 

 

「……うん。分かった。やってみたい」

 

 

 

「それじゃ、来週の土曜日、私の家にね」

 

 

 

 そう言って美咲は「楽しみにしているわ」と微笑んで自分の席に戻っていった。

 

 

 

 誘拐が続いているから注意するようにと語る先生を見つめる笑顔が、何処か取ってつけたようにわざとらしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 住宅街から少し離れた場所に立つ、綺麗な一軒家のインターフォンを押すと、中から美咲が姿を現した。

 

 

 

「いらっしゃい。待ってたわ」

 

 

 

 挨拶しながら微笑む彼女に、私も同じように笑顔を返す。

 

 

 

「美咲の家に初めて来たけど、綺麗な家だねー」

 

 

 

「でしょ? さぁこっちにいらっしゃい。宝石箱を丈夫にする場所はこっちよ」

 

 

 

 笑顔を浮かべたまま、美咲は私を連れて廊下を歩く。

 

 

 

 彼女の後ろを歩きながらあちこちを見て回るうち、私は違和感を覚えた。

 

 

 

 長い廊下の両脇には、途切れることなく背の高い棚が続いており、その中には空っぽの瓶が隙間なく並べられていた。

 

 

 

 それ以外には本当に何もなかった。大きくて広い外観の家だったけど、長い廊下以外には部屋も、窓も、階段もない。普段家にある筈のものが、美咲の家には一つもなかった。

 

 

 

「もうすぐよ、そこの階段降りればもうすぐだから」

 

 

 

 美咲がそう言うと、目の前に地下へと続く階段が現れ、私は言われるがままに下っていく。

 

 

 

 心なしか、胸騒ぎがしてならない。

 

 

 

「……これ、友人である貴女だから打ち明けるのだけど」

 

 

 

 不意に美咲が口を開いた。

 

 

 

「実は私ってね、才能なんてなかったの」

 

 

 

「……え?」

 

 

 

「両親は両方とも医者だったけど、私は二人から何も受け継がなかったみたい。勉強も出来なかったし、スポーツも下手だったし、絵も描けない楽器も出来ない文章も書けない、ホントにダメな子供だった」

 

 

 

 歌うように美咲は語る。しかし、私には美咲に才能がないなんて、私は到底思えなかった。

 

 

 

「両親はそんな私を責めずに受け入れてくれたけど……私は違った。悔しくて、失望して、絶望して……何か出来ることを探したの。おかげで色んなことをやったわ。その全てが徒労に終わったけど」

 

 

 

「……た、大変だったんだね」

 

 

 

「同情されたくはないけど、確かに大変だった。でもある時、私偶然見つけたわ」

 

 

 

 過去を語る美咲の姿は、後姿だけでも鬼気迫ったような執念を感じ、とても異様に見えた。少し気まずく思い、思わず棚の方に目を向ける。

 

 

 

「──ひっ!?」

 

 

 

 その時、私は見てしまった。

 

 

 

 液体が入った瓶に浮かぶ、白くてピンク色をした脳みそを。それが両の棚一杯に置かれており、ずっと先まで続いていることを。

 

 

 

 知ってか知らずか、美咲は話を続ける。

 

 

 

「本に書いてあったんだけど、空っぽの頭の中に他人の脳みそをそのまま入れ込めば、その才能を得ることが出来るんだって」 

 

 

 

 美咲が足を止める。いつの間にか最下層についていたのか、目の前には重苦しい鉄の扉があった。

 

 

 

「で、でも、私前に言ったけど、その──」

 

 

 

「えぇ、貴女の言う通りよ。人の頭蓋骨はそこまで大きくないし、広げようとすることも出来ない」

 

 

 

「で、でしょ? そしたら──」

 

 

 

「でも、宝石箱を開いて宝石を付け替えるように、アクセサリーの箱を開いて今日の服に似合うアクセサリーを選ぶように、何回も頭を開いてその度に脳みそを取り替えたら、それは無限に才能を得られることと同義じゃないかしら?」

 

 

 

 そう言って美咲は扉を開く。

 

 

 

 赤黒いシミと、二つの手術台。傍らに転がるうっすら人間の形をしたいくつもの茶色い袋が、視線の端に見えた。

 

 

 

 私の顔はサァッと青ざめ、胃の中の物が逆流する感覚に襲われた。

 

 

 

「記憶は私の脳みそから取り出してもう一回流し込めばいいし、課題は手術に何回も耐えられるようにする体の丈夫さだけ。それには私、自信あったから、上手くいくって確信があったわ。両親の説得には時間が掛かったけど、最終的には二人とも協力してくれるって()()()()()()。後は今の私を見れば分かるわよね??」

 

 

 

 振り返った美咲は、そう微笑みながら私の腕をがっと掴むと、人間じゃないような力強さで私を部屋へ引っ張り込んだ。

 

 

 

 ガチャリと鍵がかかる音がした瞬間、美しかった彼女の黒い髪が、私の腕を撫でて地面に落ちる。

 

 

 

 いくつもの手術痕が皮膚に走った、つぎはぎだらけの悍ましい美咲の頭が目の中に飛び込んだ。

 

 

 

「ま……まさか先生が言ってた誘拐事件って……」

 

 

 

「ええ、そうよ。あれは材料を集めるためにお父さんとやってたの」

 

 

 

 悪びれもせず、あの張り付いた笑みを浮かべながら答えた美咲を見て、私の中で何かが壊れた。

 

 

 

「い……イヤだぁああああ! 帰る! 私帰るぅううううう!」

 

 

 

 何とか彼女の腕を振り払い、脱出しようとドアノブを回すが、幾ら回しても一向に開かない。

 

 

 

「無駄よ。開けられるのは私だけなの。それに、私みたいになりたいって言ったのは貴女でしょ?」

 

 

 

「誰か助けてぇえええええええ! 誰か! 誰かぁあああああ──」

 

 

 

 やけくそになって扉を叩くうち、何かに刺された感触がして、私の意識はぷっつりと途切れた。

 

 

 

「まずは貴女の苦手な事を伸ばせる脳みそにしてあげるね」と、楽し気に美咲が呟いたことが、私の最後の記憶だった。

 

 

 

 

 


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