久しい顔のやつが、玄関に立っていた。
実に三年振りに会う友人の姿であった。

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あの日来たのは

 

 あれは秋口のことになる。

 残暑も過ぎ去ってすっかり枯葉も舞うようになった夕暮れの頃。その日は暫しの休日をゆっくり寝て過ごし、家で晩酌でもと用意してた時の事だった。

 ピンポンと、甲高いチャイムが鳴る。カメラ越しに玄関を見てみれば、そこには懐かしい顔が映っていた。

 

「よっ、清水か? 俺だよ、武本だ」

 

 武本は大学サークルで知り合った仲の良い友人で、たまにだが卒業してからも連絡は取り合っていた関係だ。ただお互いに歳を重ねるごとにその頻度も減っていて、このときばかりは実に顔を合わせるのも三年振りくらいだった。

 ボクは間髪入れずに、武本を招き入れる。

 

「お前久々だなー、連絡来れれば色々用意したのに。というか急にどうしたんだよ?」

 

 そんな感じで理由を聞いたが、実をいうと大学の時から武本はたまにケタ外れな行動力を見せるときがあったので、このときも急に彼が訪ねてきたことに内心疑問を抱かなかった。

 

「いやさ、この家の近くまで来たら久々に会いたくなってよ。それで表札とか何も変わってないからまだ居るんじゃないかと思ったんだ」

「それはいくらなんでも無茶が過ぎるだろう」

「ははっ、悪いって。それで今暇か? 良ければ久々に飲まないか」

 

 そう言って武本は盃を傾ける所作をする。

 唐突とはいえ三年振り親友に、ボクも気を良くして自宅に招き入れた。

 

「悪いな、お邪魔しちゃって」

「この辺りの居酒屋はもう埋まってるところが多いからね。安い缶ビールで良いなら全然飲んでくれよ」

「ははっ、すまないね。本当にありがとな」

「おいおい、ボク達はそう遠慮するような仲じゃないだろう」

 

 カシュッという音と同時に、口を開けた。

 武本が缶ビール片手に、長く思い出すような表情を浮かべる。

 

「……そういや清水と顔合わせって、もう三年振りくらいになるのか。最後に会ったのも飲み会だったかな?」

「いやあ、その後に貸別荘でバーベキューして、それが最後だろ。あの頃はまだ社会人成り立てで、休みも合わせやすかったからな」

「そうだったか……いやもうその辺りの記憶がごちゃごちゃになっててさ。バーベキュー行った記憶は確かに覚えてるんだよ!」

「三年前ともなりゃあ、そんなもんだろう。お前も忙しかったらしいし、正確に覚えてなくても無理はないさ」

「いやはや、お互いに歳取ったものだ」

「おいおい歳の話は止めてくれ───そういやお前知ってるか。笹木のやつ結婚したらしいぞ」

 

 笹木というのはボクと武本との共通の友人で、実際のところ大学時代は武本だけではなく、笹木を含めた三人でよく出掛けることが多かった。

 

「ああー……笹木、ね」

「何だその反応───まさか忘れたのか?」

「いやいや、パッと思い出せなくてよ。俺あいつとも三年くらい連絡取ってないからさ」

「そう、だったのか。ボクは半年前に笹木から結婚報告されたから、それでお前の方にも連絡行ってるもんかと」

「半年前かあ……それは悪いことしたな」

「お前もしかして喧嘩でもしたの? 確かに大人になってから疎遠になることあるけど、そこが離れると友人としてボクの立場がキツくなるんだよな」

「いやいや何もしてねえって。半年前なんかはちょっと、その、色々あってよ。実際にあいつから連絡来ても気付けなかったかもなって」

 

 そう言われると確かに。

 武本は大手IT企業に就職した関係で、ニ年ほど前からかなり忙しいらしいと噂で聞いていた。

 もしかすれば笹木も知ってて文句を言わないだけかもしれない。

 

「じゃあようやく落ち着けたのか」

「まあ落ち着いたといえばそうなんだよ」

 

 すると武本は噛み合わせが悪いような、何かモゴモゴとした口調になる。

 そして思い切ったように溜息を吐くと、気まずそうな目線のまま話し始めた。

 

「俺、もうあそこの社員じゃないんだ」

「えっ…………あ、辞めたの?」

「会社に居ないからそういうことになるかな」

「ああ───そっかあ、忙しいって言ってたもんな。毎日残業して終電帰りだっけか」

「そう、だったな」

「いやはやどれだけ給料が良いとしても健康が一番だし、そういう意味でお前は悪くないって」

 

 確かに会社を辞めたのに驚きはしたが、ボクは武本が無事で居てくれたことのほうが嬉しかった。

 

「なあ、清水よ。俺と笹木が最後に顔合わせたのもバーベキューか?」

「そうだな。二人一緒にいるのを最後に見た記憶はバーベキューだったと思うぞ」

 

 三年前のバーベキューは俺と武本、そして笹木の三人で卒業以来に遠出したからよく覚えてる。あの時から笹木には付き合ってた彼女がいたし、そのまま二人は結婚したことになる。

 

「青臭いなりに仕事の愚痴とか色々言ってたよね。笹木なんかは彼女───今の奥さんとちょうど付き合って間もなかったし、惚気話がどんどん出るわ」

「清水、お前ってよく覚えてるよ」

「そりゃ当時は楽しかったし、逆にお前のほうが忘れすぎなんだって。いやでもお前がこうして落ち着けたとしたら、また三人で飲みたいよな。笹木も奥さんに許可貰えれば来るだろう」

 

 久方振りの親友と話したせいか、ふと気が付けば下戸ではない筈なのに軽く酔っていた。

 

「そうだ、バーベキューのとき写真撮ったんだよ。確か実家のアルバムにまだ残ってた筈だし、今度三人集まったときにでも見るか───」

「なあ、清水」

「どうした?」

 

 顔を向ければ、武本は憑き物が落ちたようにすっきりとした表情を浮かべていた。

 

 

 

 

「お前と会えて良かった」

 

 

 

 

 瞬きをするとそこに武本は存在せず、冷えた缶ビールだけが残されていた。

 

 まるでよく聞く怪談話みたいだった。仮にオチを付けるならこの辺りだろう。

 ただ現実は違うもので。

 ボクはなんだか嫌な予感がして、笹木にも武本の家族にも連絡をした。

 どちらも連絡着かないことに焦りながら休日も終わってしまい、結局そのまま悶々としながら日常生活へと戻ることになる。

 

 それから数日後、両親からボクの友人が亡くなったとの知らせが入った。

 

 詳しく尋ねると、息を引き取ったのは武本の訪ねてきた日で、かつ時間帯も同じであった。

 電話越しにやはり既に武本は亡くなってたのかと早合点してしまったが───全くそんなことは無かった。

 

 あの日武本が訪ねてきた時。

 ()()()()()()()()()であった。

 

 それどころか武本は生きていた。

 仕事を辞めていたのはあっていたが、連絡着かなかったのも単に出掛けていたらしい。

 ボクの家に武本が来ていた時間、その本人は家族で外食をしていたそうだ。

 

 ただ、そうなると疑問が残る。

 死者の知らせというのならどうして武本の姿なのか。

 どうして武本が仕事辞めたとこまで合致してるのか。

 あれが武本自身じゃなければ、本人と辻褄の合うこと自体が可笑しくなる。

 何一つ納得できないままだ。

 加えて。

 

 その更に二週間後、()()()()()()()となったことで、この話は終ぞ話せず終わることになる。

 

 真相は何一つ分からない。

 妄想は膨らむが、どれも要領得ないまま消えてしまう。

 まるで一連の出来事すべてが夢幻のようだ。

 (ああ)

 結局ボクは。

 

 旧友が二人も消えてしまった事実だけが、虚しく残ることとなった。

 

 


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