普段百合を読まないよって人でも大丈夫そうな緩めの表現にしましたので気楽に読んで頂けると幸いです。
よろしくお願いします
初投稿
「こころの事が……好き。あたしと付き合って欲しい」
あたし、奥沢美咲はほんの数週間前、そんな風にこころに自分の想いを伝えた。
お世辞にも素直とは言えないあたしにしては珍しく、真っ直ぐで正直な言葉。
もちろん緊張はした。心臓の鼓動が激しすぎて爆発してしまうんじゃないかって思うくらいには。
だけど、その甲斐あってかあたしのこころへの告白は成功した。こころの胸に届いたのだ。
本当に嬉しかったなぁ。嬉しくて、嬉しすぎて、今思い出しても色褪せる事なく、あの時のこころの仕草、声、香りを
……まぁそんな風に喜びを噛み締めるのはここまでにして、あたしはあたしが今抱えている
その悩みというのが、付き合い始めて数週間経った今、こころへの態度がぎこちなくなってしまっているという事だ。
別にそうしたくてそうしている訳ではない。せっかく出来た大切で可愛い彼女だ。出来ることなら今すぐにでもいちゃいちゃしに行きたい。
だけどそうはいかないのがあたしの恋愛経験の無さからくる不器用さだ。
しかも、あたしとこころはつい数週間前まで普通の同性の友人だった訳で……接し方がうまく掴めていないというのが現状である。
そんなあたしの苦悩などお構い無しに、現実はまたあたしに新たな問題を突き付けてくるらしい。
つまりどういう事かと言うと……
「奥沢さん、希望調査出してないのあなただけですよ? 早めに提出お願いしますね」
そんなセリフをあたしに吐くのは、メガネをかけた、少し厳しそうな担任の教師だった。
……そう、進路希望調査。どうやらあたしは、この高二の夏にして自分の進路を決めないといけないらしい。
まぁ、調査用紙に書いたとして、必ずしもその職業に就かなくてはいけない訳ではないだろうが……ピンとくる職が一つも無いのだ。書けなくても仕方ないだろう。
そんな思春期の学生にありがちな悩みを抱えて、学校の廊下を歩きながらうんうんと唸っていると、一つ上の先輩である花音さんが視界に映る。
花音さんは同じバンドメンバーでもあるので、あたしとこころが付き合う事になったのを知っている。
あたし達がバンドの皆に交際する事になった旨の報告をすると、花音さんも含めて、皆快く祝福してくれた。
そんな花音さんは優しくて、ちゃんと自分の芯があるような頼もしい先輩だ。
なので、あたしは花音さんに放課後、相談したい事があるので話を聞いて欲しいという風に、学校の近くにある喫茶店に誘う事にした。
そして現在、その喫茶店にて、あたしの向かい側に花音さんが座っていた。
「それで、相談したい事ってなぁに? 美咲ちゃん」
そのように花音さんから話を切り出してくれる。
もちろん相談したい事というのは、進路希望調査の事だ。
また、さりげなく、こころとどういう風に接したら良いのか分からない、という事も聞いておいた。
「……美咲ちゃん、最近ちょっと様子がいつもと違うなぁって思ってたけど、色々悩んでたんだね……気づいてあげられなくてごめんね?」
「いやいや、花音さんが気に病む事無いよ。あたしが勝手にあれこれ考えちゃってるだけなんだから」
「でも……分かるなぁ、美咲ちゃんの気持ち」
花音さんはそう呟いて、さっき運ばれてきた紅茶を口にし、また話を続ける。
「私も千聖ちゃんと付き合い始めた時とか、同じような事考えたりもしたんだよ。もちろん嬉しくて、幸せだったんだけど、うまくいかない事が多かったりしてね」
花音さんは昔の事をしみじみと思い出すようにそう語る。
そしてその言葉から分かるように、花音さんと白鷺千聖先輩の二人は恋人関係にあるのだ。
「あんなに仲良さそうに見える二人なのに、そんな時期があったんだ」
「千聖ちゃんは芸能人だから、その関係で色々とね」
そうだ、白鷺先輩は女優であり、パスパレというアイドルバンドのメンバーでもある。二人の関係は公にこそなってはいないが、交際を続けていく中で色々な苦悩があったという事は、あたしでも分かる。
「でも、二人はいつも幸せそうだった。どんな事があっても」
「美咲ちゃん……」
「だからあたし達も、そうありたいんです。こころの事が大好きだし、幸せにしたいから」
これまた、あたしの素直な気持ちだった。少し照れくさくなるような言葉だったけど、不思議と花音さんの前でなら何でも言えるような気がした。
「……あんまり良いアドバイスにはならないかもしれないけど、私から美咲ちゃんにお願いしたい事は、二人の時間をうんと大切にする事」
「……二人の、時間?」
「そう。二人でいっぱい話したり、遊びに行ったり。あっ、せっかく恋人同士になったんだし、もっとデートっぽい事とか良いんじゃないかな?」
二人の時間か……確かに付き合い始めてから、これといってデートという物をした覚えが無い。この夏休みに、何処かに誘うのも良いかもしれないな。
「そうやって二人で話していく内に、お互いの事をもっと知ったり……もしかしたら、新しく自分の事も知れたりするかも」
「自分の事?」
「うん。私は千聖ちゃんの事ばっかり見てて、意外と自分の事は見てなかったんだなぁって、気づけたから。……そうしていく内に、自分のやりたい事も見つかるかもしれないしね」
確かに自分のやりたい事が分かっていないあたしは、まだ自分の事を理解し切れていないんじゃないかと、花音さんの話を聞いて考える。
「ちなみに、花音さんのやりたい事とかって聞いてもいいですか? 高校を卒業した後の進路とか……」
「私のやりたい事かぁ……やっぱり、どんな形でも千聖ちゃんを支えたいって思うかなぁ。あんまり具体的な事じゃないけど、とりあえず卒業した後は千聖ちゃんと同じ大学に行きたいな」
「……素敵な目標ですね」
「えへへ、ありがとう。なんか照れちゃうなぁ」
率直にそう思った。そのような目標を持っている花音さんも素敵な人だし、やっぱりいつになっても、花音さんはあたしの頼れる先輩だ。
少し真面目すぎるような話が続いてしまったので、その後はたわいもない話をして時間を過ごした。主にあたし達両方が惚気話をしていた事に気づいて、後になって少し恥ずかしくなった。
────
それからあたしは、こころを花火大会のある夏祭りに誘ってみる事にした。
花音さんの言葉を聞いて、こころともっと話をしようと思ったのもあるけど……何より、大好きな恋人と遊びたい、一緒に夏の思い出を作りたいと思った。
早速こころに誘いの連絡をしたのだが、これがまた、聞いていて気持ちよくなる程の快諾だった。
あたしが何気なくした事に、目一杯喜んでくれるところ……これもまた、こころの好きな所だ。
現在は夕方の六時前くらいで、祭り会場の待ち合わせ場所にて、こころを待っている所だ。
手持ち無沙汰になったあたしは、整えてきた髪の毛をいじったり、お母さんに着付けをしてもらった浴衣に目をやったりしていた。
そんな風にして時間を潰していると、聞き慣れた足音が近づいてくるのが分かる。音のなった方へ目をやると、こころがこちらへ飛び込んできているのを視認する。
「美咲──!」
あたしの名前を呼びながら飛び込んでくるこころを、あたしはいつもの様に受け止める。この様な物も、もはやあたし達の間では日常と化していた。
「ごめんなさい美咲……浴衣の着付けをしていたら少し遅くなってしまったの」
「大丈夫、全然待ってないよ。浴衣……綺麗だね」
こころの着ている浴衣は、元気なオレンジ色に綺麗な花柄といった、なんともこころらしい浴衣だった。
「ありがとう美咲! 美咲が着ているのも、とーっても可愛くて素敵よ!」
「……ありがとね、こころ」
こころのストレートな褒め言葉に、自分でも分かるくらい頬が紅く染まっていく。
「それじゃあ美咲! 早く行きましょ!」
美咲はそう言って、あたしに手を差し出す。あたしも何の躊躇いも無く、こころの手をとり、恋人繋ぎにして歩き出す。
この賑わっている夏祭りの雰囲気は、こころに対してぎこちなくなってしまっていたあたしの背中を押してくれているようだった。
その後、あたし達は花火を見るまでの時間を潰す為に、祭りの出店を楽しむ事にした。
こころは早速食べ物を色々買ったようで、今は隣でたこ焼きを頬張っている。
「んん──っ! お祭りの食べ物はみーんな美味しいわね!」
「ほら、ほっぺたにソースついてるよ。浴衣に零さないようにね」
そう言ってハンカチでこころの頬を拭きながら、食べ物を頬張って可愛く膨らんだこころの顔を見つめる。うっかり見とれてしまう程の綺麗で可愛らしい顔だった。
「あっ! あっちに射的屋さんがあるわよ! 一緒に行ってみましょ!」
そんなあたしとは裏腹に、こころは元気にそう言って射的屋に向かって走り出す。
「こころは本当に元気だなー。そういう所も好きだけど」
こころには聞こえないくらいの声でそう呟いて、こころを追いかける。
このいつもと変わらないやりとりをしていると、花音さんが言っていた
そんなこんなで出店を堪能して時間を過ごした後、花火を静かに見れる場所を探すために、あたし達二人はたわいもない話をしながら歩いていた。
その会話の中であたしは、ずっと気になっていた話題をこころに振る。
「こころってさ、将来の夢とかってある?」
「夢?」
「そう。具体的な事じゃなくてもいいからさ。目標とか、高校卒業したら何したいかとかでもいいし」
「そうねー……やってみたい事は色々あるけど……」
こころはそう言った後、目をキラキラさせ、声のトーンを一つ上げて、いつもの言葉を言う。
「もちろん、世界を笑顔にする為に、ハロハピの皆と色んな所でライブをしたいわ!」
「やっぱりそう言うと思ったよ。こころらしいね」
「でも……最近はもう一つ、あたしの夢ができたの!」
こころのそんな言葉に少し動揺してしまう。こころが新しい夢を持つことなんて今まで無かったから、尚更だ。
「それはね、美咲とず──っと、一緒にいることよ!」
「あ、あたしと?」
「ええ! 美咲があたしに告白してくれた時、とーっても嬉しかったの! 胸が温かくなって、でもドキドキしてて……これが美咲の言う、
「こころ……」
こころがそんな事を言うとは思なかったので、照れてしまったと同時に、少し涙腺が緩んでしまう。
「あ! ここからなら花火が綺麗に見えそうよ! 美咲!」
「そうだね、ここにしよっか」
流石にこんな所で急に泣いてしまう訳にはいかないので、涙を抑えながらこころが見つけてくれた場所に座る。見晴らしが良くて静かな場所だった。
そしてまた少しこころと話していると、空に一つ、花火独特の音を上げながら舞い上がっていく物を見つける。
「あっ、花火始まったよ。こころ」
あたしがそう言った次の瞬間、花火が大きな音を立てて弾け散り、綺麗に咲いていった。
「凄いわ! とっても綺麗ね! 美咲!」
「ほんと、すっごいね……」
そうして次々と空に打ち上がっていく花火を見ながら、色々な事を思案する。
例えば、ついさっきのこころの言葉だ。
世界を笑顔にするって……相変わらず、こころの言う事はいつでもスケールが大きいな。
そして、そんなこころがあたしとずっと一緒にいたいと言ってくれた事を脳内で反芻する。あたしの頭の中はこころの事を考えすぎて、それだけでパンクしてしまいそうだった。
付き合い初めて数週間しか経っていないけれど、惚れ直すというのはこういう事を言うんだろう。
あたしが一方的に感じていたぎこちなさは、いつの間にかこころの力によって簡単にとっぱらわれてしまったようだ。
そのような事を考えていると、あたしはいつだってこころに支えられていると感じる。
そして、こころに支えられているあたしもまた、こころの支えになりたい。
そんな風にお互い支え合って、あたしはこころの隣に立てるようになりたい。
……あたしの夢とか目標だとかいう物は、いつの間にか見つけていたようだ。
花音さんの言う通りで、あたしは全然自分の事を分かっていなかった。
あたしはこころの隣に立ちたい。そうやっていつまでも、こころと一緒にいたい。
そんな風に想いを巡らせていると、いつの間にか花火は終わってしまっていたようだった。今思い返すと、ほとんどこころの事を考えながらこころの事を見ていたような気もするけど……
「花火、とーっても凄かったわね!」
そんな事が気にならないくらい、こころの笑顔はとても綺麗だった。