だからこそ、大事なのはその後だ。
考えることもするべきことも、色々とある。
裏側からでは見えようもないけれど。
大喜くんは可愛いだけじゃないですよね、あれは良い表情。
「ちー……、大丈夫?」
隣にいた幼馴染みの問いかけに、私は答えを返せない。顔は正面を向いたまま、身体が石になったかのように固まっている。目の前で繰り広げられたその光景は、確かに信じがたい物だった。それ以上に私は、自分自身の考えが信じられない。
あの瞬間、私は確かに見た。大喜くんと蝶野さんが本当に――キス、したのを。そしてそれを
そうじゃない、そこじゃない。私が戦慄するべきなのは、くす玉が大喜くん達を直撃した事の筈だ。未来ある後輩達にもしもの事があったらどうしよう、と考えて気遣うのが
それなのに私は、私は――!
体育館にいる観客達にそれぞれ混乱はあれど、幕が降りアナウンスが流れる頃には平生を取り戻せていた。多分、私以外は。
大喜くんと蝶野さんが付き合っているのかいないのか、それは私には分からない。私達の距離感では気軽にするような話題ではないし、たとえ聞いたとしても意味はない。大喜くんは笑って否定するだろう、どっちであろうとも。そしてそれに対して、私がなにか感傷を抱いたりするべきではない。……と思う。
でも私は大喜くんに、近くにいて欲しいと願っている。だからこそ、
本当にズルい女だな、私は。本当なら可愛い後輩たちを見守るべき立場なのに、ワガママばかりだ。
だけど、だけど、だけど。
私だって、私だって。――私だって、……なんだろう。
私にとって大喜くんは、頼りたいときに寄り掛かれる相手。隣にいてくれると安心する、そんな人。
じゃあ大喜くんにとって、私はどういう存在だろうか。蝶野さんと二人きりで花火に行った事を「謝りたい」と言ってきたし、王子役になった――白雪姫とキスをする――事もそんな感じで伝えてきた。つまり蝶野さんとそういう事になっている、と思われたくはない、か。
はて、それは一体。大喜くんは私を、もしかして。
……まさか、なあ。
あんな事故を見ておきながら色恋沙汰へ繋げてしまうような、こんな私を誰が好きになんかなるものか。
きっと全部、悪い勘違いだ。もし二人が大怪我でもしていたら、と狼狽しているからこんなおかしなテンションなんだ。
大丈夫、きっと大丈夫。救急や警察に通報した気配も無い、ただのアクシデント。だから心配しなくて良い、心配しても仕方がない。
強張っていた身体は少しずつ解れ、愛想笑いくらいならできるくらいにまで回復した私は心配そうな花恋へと遅まきながら返事をする。
なんでもない、と。
「いま、キスしてたよな」「蝶野さんと確か、バド部の……猪股くん。よく一緒にいるよね」「つきあってるんじゃなかったっけ?」「えー、違うでしょ」
体育館を後にする人々のざわめきをぼんにゃりと聞きながら、私は考える。
他人のそういう事を軽く口にするのは、やはり良いことではないな、と。そもそも声高に喧伝する事じゃないし、外野が触れるべきじゃない。洒落で扱えるほど簡単な話じゃないんだから。
それにこうして客観的になると、やっぱりこんなのは薄情な感じだな。すぐそばで事故が起きたって言うのに、まるで心配していない。そこで何も反論もせず言うに任せて通りすぎている辺り、私の薄情ぶりも相当だけど。ああ、こんな先輩で申し訳ないですハイ。
そう言えばSASUKEで怪我人が出た、というのも
斯く言う私も、大概だけどね。重ね重ねそう思うよ、本当。
花恋達と別れて帰り際、ふと考えた。そう言えば大喜くんに言ったっけかな、明明後日からまた住まわせてもらうって。……いや、言ってないかも。
参ったなあ、全く。私は今日一日ずっと迂闊だ、学園祭だからって浮かれすぎ。余計なことばかりで、肝心な事が何も出来てない。
まあ、良いか。どうせ明日は振り替え休日、荷物を運びに猪股家へ行こう。その時にでも大喜くんに同居再開の事を話せば良いや、あと怪我してないか心配だし。
たった一ヶ月なのに、随分長く経った気がする。学校以外で大喜くんと会うこともあまり無いから、余計にそう思うんだろう。
これからまた、色々と起こるんだろうな。夏の終わりからこっち、想定外の事ばかり。でもそれは決して不快ではない、むしろ楽しいくらいだ。
バスケ一色だった私の日々は、少しずつ変わりつつある。良くも悪くも。
吹く風は秋の匂いを連れてくる、移り行く季節の中。私はなんとなく、感じている。この先やって来るであろう、幸福な未来を。
さてでも、どうなることやら。
あーあ、余計なこと考えるとお腹が空くったら無い。こう言うのは柄じゃないから、どうにも疲れてしまうな。
まあ、明日だ。明日になってから、あれこれ考えよう。