妖精の尻尾の双竜   作:uru1629

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鉄の森と接触します。


呪歌

 

「何という事だっ!!!」

 

 

オニバス駅の正面にて、エルザは自分の失敗を嘆いていた。

 

 

「話に夢中になるあまり、ナツとレアを列車に置いてきたっ!! あいつらは乗り物に弱いというのにっ!! 私の過失だっ!! とりあえず私を殴ってくれないかっ!!!」

 

「まあまあまあ」

 

 

脇目も振らずそう言うエルザをルーシィはとりあえず落ち着かせようとする。

しかしエルザは駅員に距離を詰めた。

 

 

「そういう訳だっ!! 列車を止める!!!」

 

「ど…どういう訳?」

 

 

しかし事情を知らない駅員はそう戸惑った。

そこからエルザの事情説明をするが、当たり前のように断られてしまう。

そんな様子を、ルーシィは遠い目をしながら見ていた。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の人はやっぱこーゆー感じなんだぁ……」

 

「オイ!オレはまともだぞ」

 

「露出魔のどこが!?」

 

 

露出魔(グレイ)の発言に常識人(ルーシィ)のツッコミが炸裂。

 

 

「仲間の為だ。わかってほしい」

 

「無茶言わんでくださいよっ!! 降りそこなった客二人の為に列車を止めるなんて!!!」

 

 

エルザはなんとか説得を試みようとするも、当たり前である。

駅員の発言は至極真っ当だ。

しかしそんな時だった。

 

 

ジリリリリリリリリリリ!!!!!

 

 

けたたましくベルの音が駅中に鳴り響く。

それと同時に周辺の人も事故か?と騒ぎ立てる。

何事かと思い、駅員と妖精達は駅員の後ろにあった緊急停止信号のレバーを見た。

 

 

「これで満足かしら?」

 

 

そこには下ろされたレバーに座ったフリーシャがいた。

 

 

「よくやったフリーシャ! 二人を追うぞ!! すまない、荷物を「ホテル チリ」まで頼む」

 

「誰……アンタ……」

 

 

エルザはフリーシャに短く賛辞の言葉を送れば荷物を "見知らぬ通行人" に託して駅の傍にあった魔動四輪の賃借手続きをテキパキと済ませた。

もうなんでもありなエルザにルーシィはゲンナリしてため息を吐いた。

 

 

「もう……めちゃくちゃ…」

 

「だな…」

 

「服!!!なんで!?」

 

 

いつまでたってもルーシィの気苦労は絶えない。

 

 

〜〜〜

 

 

フリーシャが緊急停止信号のレバーを下ろす数刻前のこと。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)って言えばさぁ、ミラジェーン有名だよね。たまに雑誌とか載ってるし、綺麗だよね」

 

 

ナツとレアの前の席に座った男、カゲヤマが一方的に話しかけていた。

 

 

「何で現役やめちゃったのかなぁ? まだ若いのにね」

 

 

しかし二人は酔いの影響でまともに返事を返せていなかった。

 

 

「あとさあ、名前知らないんだけど、新しく入った女の子がかわいいんだって? 君たち知ってる?」

 

 

尚も話しかけるカゲヤマだが、二人にそんな余裕は無い。

そんな二人を見て、カゲヤマはくすっと笑った。

 

 

「ほらあと、水竜(リヴァイアサン)…だっけ?火竜(サラマンダー)とのコンビで有名って聞いたんだけど、顔はよく知らないんだよねぇ。火竜(サラマンダー)女の子とコンビ組んでるんでしょ? 勝ち組だね、その人」

 

 

水竜(リヴァイアサン)火竜(サラマンダー)、この言葉で二人はピクリと反応を示す。

しかしやはり酔いの影響でカゲヤマの言葉を上手く聞き取れず、返事は出来なかった。

 

 

「正規ギルドはかわいい子も多いのかぁ…うらやましいなぁ。うちのギルド、まったく女っ気がなくてさぁ」

 

 

と、カゲヤマはナツの膝枕で横になっているレアを厭らしく見た。

 

 

「少しわけてよ。ま、答えは聞いてないけど…」

 

 

と、カゲヤマはレアの手首を鷲掴みにしてナツから引き剥がす。

その次の瞬間……。

 

 

「キーック!! ヒャハ」

 

 

カゲヤマは右の足をナツの顔面にめり込ませた。

その表情はさっきまでの穏やかなものではなく、黒い笑みを貼り付けた不気味なものだった。

 

 

「シカトはやだなぁ。闇ギルド差別だよ」

 

「あ?」

 

「何…を……」

 

 

「お!やっとしゃべってくれた。ヒャハハ」

 

 

ようやく口を開いたナツとレアにカゲヤマはおちゃらけて返した。

ナツは息切れを起こしながら顔面に張りつく足を手で退けた。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)っていやぁ、随分目立ってるじゃない? 正規ギルドだからってハバきかせてる奴ってムカツクんだよね」

 

 

ニヒリと口角を上げるカゲヤマは右手に掴んだレアの手を離さないまま続ける。

そのレアは何とか振りほどこうと力を込めるも酔いのせいで上手く力が入らず、掴まれた左手を置いて膝をついた。

 

 

「うちら妖精の尻尾(フェアリーテイル)の事何て呼んでるか知ってる? 妖精(ハエ)だよ妖精(ハエ)……ぷぷっ。と、お姉さん、君はこんな妖精(ハエ)とは吊り合わないよ」

 

 

そう言ってカゲヤマはレアを引っ張ってナツからさらに引き剥がす。

レアはそれを拒むように藻掻くが力の入らない彼女ではそれは完全に無駄な抵抗だった。

 

 

「てめ…レアから……手を…離せ…!」

 

「ナ…ツ」

 

 

我慢の限界のナツも立ち上がってカゲヤマを睨む。

手に火を灯して迎撃しようとする。が……。

 

 

「うぷ」フシュー

 

「ヒャハハッ!!何だよその魔法」

 

 

酔いの影響で上手く魔力を制御できず、火は無様に燃え尽きる。

 

 

「魔法ってのは……」

 

 

と、カゲヤマが呟くとカゲヤマの足元の影がぐいーんと伸び……。

 

 

「こう使わなきゃ!!」

 

「うごっ!」

 

 

伸びた影からナツに向かって拳が飛び出した。

まともに受け身も取れなかったナツは大きく吹っ飛ばされた。

そんな様子がよほど可笑しいのか、カゲヤマは腹を抱えて笑っていた。

 

 

「く……くそ……。ふぅー…はぁー」

 

「うっぷ……ナツぅ…」

 

 

ここまで煽られているのに、 "たかが乗り物酔い" のせいで何もできない二人は悔しさでいっぱいだった。

しかしその時……。

列車の警鐘がけたたましく鳴れば、ブレーキがかかり、車輪と線路の間に火花が散る。

その衝撃で車内はガタァン!と揺れ、全員もれなくバランスを崩す。

さらに加えカゲヤマが席に置いていた手荷物も床に転がった。

 

 

「止まった…ん?」

 

 

ナツが見たのは、三つ目のドクロがついた木の根のデザインのような笛だった。

 

 

「み……見たな!!」

 

 

カゲヤマはそう言う。

しかし……。

 

 

「うるせェ…さっきはよくもやってくれたな」

 

「ん…」

 

 

目の前の男を見ると、右手にはさっきとは比べ物にならない燃え盛る炎を灯しており、とてつもない覇気を纏わせていた。

カゲヤマはえ?と素っ頓狂な声を零す。

その時、バキッ!と鈍い音が背中から響いた。

痛みで視界がぼやける中、カゲヤマは後ろに視線を向けると、いつの間にか拘束を振りほどいたレアが足に水流を纏ってカゲヤマを背中から蹴り抜いていた。

その勢いのままカゲヤマはナツの方向へ飛ばされ……。

 

 

「「お返しだ(なの)ッ!!!!」」

 

 

ナツの拳がカゲヤマの顔面を捉えた。

ガコッガッバガッとボールのように跳ねていくカゲヤマ。

その勢いも衰えないまま、ズザアァ!と車両を繋ぐ扉をぶち破って前の車両の席に激突してようやく止まった。

 

 

「ハエパンチ」

 

「と、ハエキック。なの」

 

「て……てめぇら〜…」

 

 

殴られた怒りでカゲヤマは顔を顰める。

 

 

『先ほどの急停車は誤報によるものと確認できました。間もなく発車します。大変御迷惑をおかけしました』

 

 

と、車内アナウンスが三人の耳に入る。

ナツは「マズ」と零せば、レアは「逃げるの」と言って席の上の荷物棚からそれぞれの荷物を取った。

 

 

「逃がすかぁっ!! 鉄の森(アイゼンヴァルト)に手ェ出したんだ! ただで済むと思うなよっ!妖精(ハエ)がぁっ!!!」

 

 

カゲヤマは元の車両に駆け込めば、負け惜しみと取れる台詞を吐き捨てる。

ナツも負けじとカゲヤマを睨み返し、レアは冷たい目でカゲヤマを見た。

 

 

「こっちもてめェの(ツラ)覚えたぞっ!」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)をバカにしたこと、絶対に許さないの」

 

 

二人がそう言うと、列車のパドルが再び動き出す。

 

 

「今度は外で勝負してやボル…うぷ」

 

「うぇ…ナツ、早く……」

 

 

ほんのちょっと動き出した程度でこの酔い様。

もう救いようがない。

レアに催促され、ナツは列車の窓ガラスを破って外に飛び出した。

それに続くようにレアはナツがガラスを破った窓と同じ窓から飛び出した。

すると、ちょうどそこに魔動四輪車が一台やって来た。

 

 

「ナツにレア!?」

 

 

エルザ達が借りた魔動四輪車であった。

 

 

「何で列車から飛んでくるんだよォ!!」

 

「どーなってんのよ!!」

 

 

車の屋根に乗っているグレイが目をひん剥かせ、中に乗っていたルーシィが顔を外に出した。

ナツとレアは抵抗も出来ないまま車に吸い込まれるように飛んでいき……。

 

 

ゴチーン

 

「「ぎゃあああかあああああ!!!!」」

 

「うわっぷ」

 

「と、レア。見た目よりも軽いな」

 

 

ナツとグレイは互いの額をぶつけ合って派手に地面に転がった。

対してレアは綺麗にエルザの腕の中に収まった。

今レアはエルザにお姫様抱っこされている状態だ。

一方吹き飛んだ二人は既に復活していた。

 

 

「痛ーーーーっ!! 何しやがるっ!ナツてめえっ!!」

 

「今のショックで記憶喪失になっちまった! 誰だオメェ。くせぇ」

 

「何ィ!!?」

 

 

コントを繰り広げていた。

と、車から降りた一行がナツ達に近づいてきた。

 

 

「ナツー、レアー。ごめんねー」

 

「ハッピー!フリーシャ!エルザ!ルーシィ!ひでぇぞ!! オレたちをおいてくなよっ!!」

 

「ん! 酷い目にあったの!!」

 

「おいナツ……随分都合のいい記憶喪失だな…」

 

 

ナツとレアは置いてかれたことに憤慨し、各々謝罪した。

そんな中のグレイの呟きは誰の耳にも入らなかったのだった。

 

 

「無事でなによりだ。よかった」ガシャッ

 

「「硬っ!」」

 

 

と、エルザが二人を抱き寄せて抱擁を与える。

が、ナツとレアからすればエルザの鎧に頭を打ち付けられるという痛い思いをしただけだった。

 

 

「無事なモンかっ! 列車で変な奴にからまれたんだ!!」

 

「ん! 動けないナツを魔法も使って虐めて、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のことバカにしてきたの」

 

 

ナツとレアはエルザに離してもらい列車であった事を話した。

 

 

「あいつ、名前なんて言ってたっけ?」

 

「確か……アイゼン…バルト? だったと思うの」

 

 

ナツとレアが目を見合わせてそう確認しあう。

 

 

「バカモノぉっ!!!」

 

「ん? ごあっ!?」

 

 

と、エルザの平手打ちが "ナツだけに" 見事に炸裂し、地面を数メートル滑った。

 

 

鉄の森(アイゼンヴァルト)は私たちの追っている者だ!!」

 

「そんな話初めて聞いたぞ……」

 

「なぜ私の話をちゃんと聞いていないっ!!」

 

 

あんたが気絶させたからだとナツとレア以外の全員がそう思った。

しかし口に出せば飛び火の可能性があった為に全員心の中にその言葉をしまうのだった。

エルザは運転席に戻ると、手首にSEプラグという運転手の魔力を吸い取る装置を付けた。

 

 

「さっきの列車に乗っているのだな。今すぐ追うぞ!! どんな特徴をしていた?」

 

「あんまり特徴なかったなぁ」

 

「地味な顔、地味な服、黒髪を後ろに束ねてたの」

 

 

エルザに問われた二人はポンポンと答える。

そこでナツが思い出したかのようにポンッと手を叩いた。

 

 

「そういや、なんかドクロっぽい笛持ってた。三つ目のドクロだ」

 

「何だそりゃ。趣味悪ィ奴だな」

 

「三つ目のドクロの笛…」

 

「ルーシィ、どうしたのかしら?」

 

 

ナツが言った三つ目のドクロの笛。

それに他の者と全く違う反応を見せるルーシィ。

ブツブツと呟く彼女は小刻みに震えていた。

 

 

「もしもその笛が呪歌だとしたら…。子守唄(ララバイ)…眠り…死……。 !!!!」

 

 

やがてルーシィの中で一つの結論が導き出された。

 

 

「その笛がララバイだ!! 呪歌(ララバイ)…… "死" の魔法!!!」

 

「何!?」

 

「呪歌?」

 

 

ルーシィの言葉にエルザは目を見開いた。

グレイは聞き慣れない魔法に復唱する。

ナツとレアは事情を全く知らない為に頭の中で渦を巻いていた。

 

 

「あたしも本で読んだ事しかないんだけど………。禁止されてる魔法の一つに呪殺ってあるでしょ?」

 

「ああ……。その名の通り、対象者を呪い、 "死" を与える黒魔法だ」

 

呪歌(ララバイ)はもっと恐ろしいの」

 

 

ルーシィが続けるには……。

 

 

〜〜〜

 

 

その頃、オニバス駅のもう一つ先の駅、クヌギ駅では此度の列車が到着していた。

しかし乗客は悲鳴をあげながら次々と列車から降りていった。

その理由は単純明快。

『死神』とその仲間の襲来である。

 

 

「客も運転手も全部降ろせ〜〜い。この列車は鉄の森(アイゼンヴァルト)が頂く」

 

 

『死神』エリゴールの気の抜けるような掛け声に鉄の森(アイゼンヴァルト)の面々は乱暴して乗客を追い出す。

中には窓から放り投げている者もいた。

 

 

「この列車で戻ると聞いて待ちわびていたぞ。カゲヤマ」

 

「へへっ。何とか封印は解きましたよ」

 

 

中に歩を進めたエリゴールはナツ達に絡んでいた影を操る男、カゲヤマに話しかけた。

カゲヤマは人の良さそうな笑みを浮かべながら自身の鞄から例の物を取り出した。

 

 

「これです」

 

「ホウ……。これが…これがあの禁断の魔法。呪歌(ララバイ)か…」

 

 

三つ目のドクロの笛。

エリゴールがそれを手に取れば、鉄の森(アイゼンヴァルト)が湧いた。

 

 

「さすがカゲちゃん!!」

 

「これで計画は完璧になった訳だな!」

 

 

そんな中、計画を把握出来ていない鉄の森(アイゼンヴァルト)のメンバーの一人が小声で呪歌(ララバイ)について聞いていた。

話によれば、元々この笛は "呪殺" の為の道具にすぎなかったという。

しかし、魔法界の歴史上最悪の黒魔導士、ゼレフはこの笛を魔笛へと進化させたのだ。

 

 

「まったく……恐ろしい物を作ったまものだ。この笛の音を聴いた者全てを呪殺する……"集団呪殺魔法" 呪歌(ララバイ)!! 始めよう!! 作戦開始だ!!!」

 

 

笛を持ったエリゴールは雄叫びをあげ、列車は煙を吹いて再び動き出した。

 

 

〜〜〜

 

 

場所は戻って妖精たちの魔動四輪車。

エルザが運転し、常軌を逸したスピードでその道を進んでいた。

呪歌(ララバイ)の説明をルーシィから受けたエルザは焦りの表情を浮かべていた。

 

 

「集団呪殺魔法だと!!? そんなものがエリゴールの手に渡ったら……。おのれ!! 奴等の目的は何なんだ!!?」

 

 

車が通っていった道には大量の砂煙が舞い、タイヤ痕がくっきりと残っていた。

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