妖精の尻尾の双竜   作:uru1629

12 / 70
死神は二度笑う

 

「いきなり大鎌を持った男たちが乗り込んで来たんです!!」

 

「ワシは知っとるぞ!! あいつ等はこの辺にいる闇ギルドの者だ」

 

 

列車が出発して数刻経ったクヌギ駅。

魔動四輪車にて遅れて到着した妖精たちは離れた丘から追い出された乗客の喧騒が目に入った。

 

 

「あいつら…列車を乗っ取ったの!!?」

 

「みたいだね」

 

 

現状を確認したルーシィだったが、鉄の森(アイゼンヴァルト)のその行動に理解しかねていた。

 

 

「馬車や船とかならわかるけど列車って…」

 

「確かに…。レールの上しか走れないから奪ってもそれほどのメリットは感じられないかしら」

 

 

ルーシィの疑問にフリーシャも重ねて返した。

 

 

「ただしスピードはある」

 

 

そう言ったのは羽織っていた上着を何故か脱いだグレイだった。

 

 

「何かをしでかす為に奴等は急がざるをえないという事か?」

 

「なぜ脱ぐ」

 

 

上着だけでは事足らず、グレイは着ている服を次々と脱ぎ、半裸になろうとしながらそう言った。

 

 

「もう軍隊も動いてるし、捕まるのは時間の問題なんじゃない?」

 

 

グレイにツッコミを入れたルーシィはこれ以上厄介事に首を突っ込みたくないが故の希望的発言を零した。

しかし誰もそれには答えなかった。

ここまで話を聞いていただけだったエルザは「だといいがな」と小さく零して、再び車に魔力を注ぎ始めた。

 

 

〜〜〜

 

 

妖精(ハエ)だぁ?」

 

 

場所は現在進行形で移動中の鉄の森(アイゼンヴァルト)が奪った列車内。

カゲヤマが座っていた場所へ入れ替わるようにエリゴールが笛を片手にどっかりと座っていた。

 

 

「さっきまでこの列車に乗ってましてね。まったく…ふざけた奴らっスよ」

 

 

そうカゲヤマは先ほどのことを思い出しながらそう苦言を零す。

その頬にはナツに殴られた証である黒い血の跡がほんのり残っていた。

エリゴールはギリッと歯ぎしりを一度行う。

と、スパァン!とカゲヤマの横をつむじ風が通り過ぎる。

そのつむじ風はカゲヤマの耳を掠るように通り過ぎており、小さくも浅くない傷をピッと作った。

 

 

「いぎぃぃぃっ!!!」

 

 

突然のことにカゲヤマは両耳を抑えながら膝をついた。

傷を作った張本人であるエリゴールは気にもとめず続けた。

 

 

「まさか感づかれたんじゃねェだろうな」

 

 

痛みに耐えながらカゲヤマはエリゴールを見ながら必死に答えた。

 

 

妖精(ハエ)なんかに感づかれたところで、この計画は止められりゃしないでしょうがっ!!」

 

「当たり前だ」

 

 

カゲヤマの若干怒気を混ぜたような叫びはエリゴールの冷静な声に一瞬で掻き消える。

 

 

「しかし邪魔はされたくねえ。わかるな?」

 

 

短い言葉だが、一つ一つにエリゴールの覇気が纏われてあり、鉄の森(アイゼンヴァルト)のギルドメンバーもごくりと喉を鳴らす。

くるくると笛を回すエリゴール。

しかしすぐさまピタッと止めた。

 

 

妖精(ハエ)か……。飛び回っちゃいけねえ森もあるんだぜぇ」

 

 

そう言ったエリゴールは『死神』と呼ぶに相応しい影を纏っていた。

 

 

〜〜〜

 

 

場所は戻って妖精たちの魔動四輪車。

 

 

ギャギャギャ!!!

 

 

猛スピードで街に突っ込んだ車は直角の曲がり角をドリフトを決めながらスピードを落とさずに曲がりきる。

しかし周辺への被害は考えておらず、テーブルやら椅子やら、挙句の果てには店の商品もぶっ飛ばしながら街の中を進んでいた。

 

 

「エルザ!とばしすぎだぞっ!! SEプラグが膨張してんじゃねーか」

 

 

天井にしがみついているグレイはそうエルザに忠告した。

グレイの言う通り、エルザと車を繋ぐプラグは幾つかコブが出来ている。

魔動四輪車は運転手の魔力を吸い取ることで動き、吸い取る量に比例してスピードも増す。

しかしセルフ(S)エナジー(E)の名の通り、消費し過ぎは運転手の魔力問題にも影響してくる。

だというのにも関わらず、エルザはスピードを落とさず、寧ろ最初よりもスピードは増している。

 

 

「あの笛が吹かれれば大勢の人が死ぬ………。音色を聴いただけで人の命が消えてしまうんだぞ」

 

 

グレイもそこは理解していた。

しかし鉄の森(アイゼンヴァルト)の目的もハッキリしてない状態で無理に魔力を消費する事は得策では無いこともグレイの頭の中にはあった。

 

 

「一戦交える可能性もある。そんなにスピード出したら、いざって時におまえの魔力が枯渇しちまうぞ」

 

 

続けて忠告を投げかけるグレイ。

しかしエルザは「構わん」と忠告を一蹴した。

 

 

「いよいよとなれば棒切れでも持って戦うさ」

 

 

そこで一度切ったエルザはそれにと続ける。

 

 

「おまえたちがいるしな」

 

「む…」

 

 

グレイももう何も言えなくなった。

グレイたちを信用した上での車への全力魔力投下。

それを理解したグレイは気恥しい表情を浮かべ、何も言わなくなった。

一方、車の中では五人。

酔いつぶれているナツとレア。

レアの背中をさすってそれを和らげようとするフリーシャ。

何か言う事があったけど忘れたとルーシィに話しかけるハッピー。

 

 

「気になるじゃない。思い出しなさいよ」

 

「う〜〜ん…。フリーシャ知らない?」

 

「私に聞くんじゃないかしら! アンタの事でしょ!?」

 

「キモチ…悪…」

 

 

どうしても思い出せないハッピーはフリーシャに振るも第三者が当事者の事を知るはずも無く、レアの介護に一生懸命なフリーシャは強めに返した。

一方介護の無いナツは窓から身を乗り出した。

 

 

「キモ…チ…ワ…ル……。ハッ!」

 

「それかいっ!!!」

 

 

ナツの言葉を復唱したこの猫は思い出したかのようにルーシィに指を指した。

が、わざわざ気持ち悪いと言われるとは思わずルーシィはツッコミを返す。

と、ふとナツの方を見ると余りにも身を乗り出しすぎており、今にも落ちそうになっていた。

 

 

「ナツ!!落ちるわよ!!!」

 

「う゛お゛お゛……落として…くれ……」

 

「レアも……落として…なの…。うえっぷ」

 

「しっかりするかしらレア!」

 

 

相変わらず双竜組は乗り物では大変なご様子だった。

しかし、ナツを戻す為に窓から身を乗り出したルーシィと運転手のエルザがふとあるものに目が入った。

 

 

「何だあれは…」

 

 

遠目で分かりにくいが、何やら煙が上がっていた。

確認の為、エルザはさらにスピードを上げ、その場を駆けていった。

 

 

〜〜〜

 

 

オシバナ駅。

城と言われても違和感がないその巨大の駅の中からはモクモクと煙が上がっていた。

現状を確認すべくと、街の住人は駅の前に大量に集まっており、人だかりが出来ていた。

 

 

『みなさん! お下がりください。ここは危険です。ただ今列車の脱線事故により、駅へは入れません!! 内部の安全が確保されるまで駅は封鎖します』

 

 

駅員がスピーカーで即興のアナウンスを流す。

脱線事故と言っていたが、喧騒に耳を澄ませばテロだという事がバレているらしい。

 

 

駅内(なか)の様子は?」

 

 

人だかりをくぐり抜け、エルザは駅員に聞き込みを開始する。

 

 

「な…何だね君!!」

 

 

しかし突然そんな事を聞かれれば聞き返して警戒するのがオチ。

しかしエルザはそんな事で止まる女では無い。

駅員の肩をガッチリと掴むと……。

 

 

ゴッ!

 

「うほっ!?」

 

 

頭突きを食らわせて気絶させた。

それでも止まらず、エルザは次の駅員を捕まえて同じ質問をする。

これまた聞き返したり、即座に答えられなければ、ゴッ!と鈍い音を立てて駅員を気絶させていく。

その様子を見た他の駅員はビビり散らかし、仲間のルーシィやグレイでさえ戦慄していた。

 

 

「即答できる人しかいらないって事なのね」

 

「だんだんわかってきたろ?」

 

 

グレイの言葉にルーシィは否が応でも頷いた。

 

 

「てかこれ(ナツを運ぶの)ってあたしの役!!?」

 

 

ルーシィがそう叫ぶも、全員見事にシカトして駅内に突入した。

ちなみにレアはフリーシャが運んでいる。

 

駅員から聞いた話では、軍の小隊が突入したが、まだ戻っていないとの事だった。

テロリストこと鉄の森(アイゼンヴァルト)の面々もまだ出てきていないとの事だったので、まだ中で戦闘が行われている。

そう思っていたが……。

 

 

「ひいいっ!!」

 

「全滅!!」

 

 

目に入ったのはボロボロになってそこら中に倒れている軍の人間だった。

 

 

「相手は一つのギルド。すなわち全員魔導士」

 

「ん。軍の小隊では話にならないの」

 

「レア! 復活したのね!!」

 

 

フリーシャに掴まれて飛んでいるレアがエルザの言葉に続けるように発した。

ただ今レアが復活した事は小さな事だ。

グレイは手を振って急げと急かす。

レアも地面に降りて走り出す。

階段を登り終え、改札の前で彼らは足を止める。

 

 

「やはり来たな。妖精の尻尾(フェアリーテイル)。待ってたぜぇ」

 

そこには物凄い数の魔導士鉄の森(アイゼンヴァルト)が集合していた。

ざっと見ても百は超えていた。

 

 

「貴様がエリゴールだな」

 

 

エルザは列車の上に乗る大鎌を持った男、エリゴールを睨みつけた。

ルーシィは背負っていたナツを降ろすも、未だに酔いから回復しておらず、ルーシィに揺すられる。

 

 

「ナツ起きてっ!! 仕事よ!!!」

 

「無理だよっ!!

列車→魔動四輪車→ルーシィ 3コンボだ」

 

「あたしは乗り物なのっ!?」

 

 

揺するルーシィだがハッピーの発言に割かしショックを受ける。

ルーシィで酔うのにハッピーでは酔わないナツを不思議に思いながらも、ルーシィは目の前の敵と対峙する。

 

 

妖精(ハエ)がぁ〜〜。おまえ等のせいで……」

 

「おちつけよカゲちゃぁん」

 

「ん? この声……」

 

 

そう言って他のメンバーよりも一際強めに睨んで言葉を発したカゲヤマ。

その声にナツはピクリと反応するが、まだ本調子では無く再び静かになった。

 

 

「貴様等の目的は何だ? 返答次第ではただでは済まんぞ」

 

「遊びてぇんだよ。仕事も無ェしヒマなモンでよォ」

 

 

エルザの問いかけにエリゴールは自虐混ざりに答える。

しかしふざけていると分かっているからか、鉄の森(アイゼンヴァルト)の内の一人が吹き出せば、ぎゃはははっと爆笑に包まれる。

と、エリゴールの体がフワリと浮かび上がった。

 

 

「まだわかんねぇのか? 駅には何がある」

 

「飛んだ!」

 

「風の魔法だっ!」

 

 

フワフワと風に乗って宙を漂うエリゴール。

それを見たレアは手に水を纏い……。

 

 

シュバッ!

 

 

水刃をエリゴールに向けて飛ばした。

しかし見え透いた攻撃はエリゴールには通用せず、フワリと避ける。

だがレアの狙いは最初からエリゴールなどでは無かった。

水刃はそのまま真っ直ぐ飛んでいき、ドゴーン!と何かぶつかって煙を上げる。

 

煙が晴れるとそこには、ボロボロになったスピーカーが電線などを剥き出してバチバチと音を立てていた。

 

 

「つまり、こういう事?」

 

 

レアの意図を妖精の中でただ一人理解したエルザは目を見開かせる。

 

 

呪歌(ララバイ)を放送するつもりか!!?」

 

「ええ!?」

 

「何だと!?」

 

「ふははははっ!!! やるじゃねぇか女! 妖精(ハエ)といえど少しは見直したぜ!」

 

 

エルザの答え合わせにエリゴールは高らかに笑うことで花丸を与えた。

 

 

「この駅の周辺には何百・何千ものヤジ馬どもが集まってる。いや……音量を上げれば町中に響くかな…。死のメロディが」

 

「大量無差別殺人だと!?」

 

 

エリゴールが嬉々として語る目的にエルザのみならず、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の(ナツを除く)全員が顔を顰める。

 

 

「これは粛清なのだ。権利を奪われた者の存在を知らずに、権利を掲げ生活を保全している愚か者へのな。この不公平な世界を知らずに生きるのは罪だ。よって死神が罰を与えに来た。 "死" という名の罰をな!!!」

 

「そんな事したって、権利は戻ってこないのよっ!! てゆーか元々自分たちが悪いのに……あきれた人たちね」

 

 

子供の癇癪とも取れるその理不尽な物言いにルーシィは抗議の声を上げる。

しかしエリゴールは笑って返す。

 

 

「ここまで来たらほしいのは "権利" じゃない。 "権力" だ。権力があれば全ての過去を流し、未来を支配する事だってできる」

 

「アンタ、バッカじゃないのっ!!」

 

 

本当に理不尽なそれに言葉も発せない。

しかし先に動き出したのは鉄の森(アイゼンヴァルト)の方だった。

 

 

「残念だな。妖精(ハエ)ども」

 

 

カゲヤマは地に手を付き、自身の影をぐいーんと伸ばす。

伸ばされた影はグレイとエルザの横を通り過ぎ、二つに別れては地面を飛び出して手の形となり、片方をルーシィ、もう片方を猫二匹を襲う。

 

 

「闇の時代を見る事なく死んじまうとは!!!」

 

「しまった!!」

 

 

突然の奇襲にエルザも反応出来ずに遅れを取る。

しかし……。

 

 

「やっぱりオマエかぁあぁぁあっ!!!」

 

 

攻撃を許さなかったのは双竜だ。

ナツは右手に、レアは左足に水流を纏って襲いかかる影を引き裂いた。

奇襲を防がれたカゲヤマは渋い顔をする。

 

 

「今度は地上戦だな!!」

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々は復活が遅いがよくやったとばかりにため息を吐いては笑みを見せる。

守られたルーシィ、ハッピー、フリーシャもニッコリだ。

しかし鉄の森(アイゼンヴァルト)の方はいい顔をしていない。

エリゴールもその一人で、散々笑っていた顔は消沈していた。

 

 

「お! なんかいっぱいいる」

 

「敵よ敵!! ぜーんぶ敵!!」

 

 

突然の流れ込む情報にナツは混乱しながらも構えた。

そんなナツの背にルーシィは身を隠す。

戦う気が無いのか……。

しかし、そんな中不敵に笑う者がいる。

エリゴールだ。

 

 

「(かかったな……妖精の尻尾(フェアリーテイル)。多少の修正はあったが…これで当初の予定通り。笛の音を聴かさなきゃならねえ奴がいる。必ず殺さねばならねえ奴がいるんだ!!!)」

 

 

二度目の笑みを浮かべたエリゴールは、より一層不気味なものだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。