「エリゴールの狙いは定例会なの!!?」
「じっちゃん!?」
「おじいちゃんを…!?」
一旦駅の広場に戻ってきた一行。
グレイから
その説明をしたグレイは目の前にある魔風壁を苦々しく見つめる。
「ああ……。だけどこの魔風壁をどうにかしねえと、駅の外には出れねえ」
「出来ない」というグレイの言葉に歯噛みしたナツは力任せに魔風壁に突っ込む。が……。
「ぎゃあああっ!!!」
「な?」
虚しくも弾き飛ばされ、床をゴロゴロと転がされた。
ナツに加え、レアも魔風壁を突き破ろうと魔法を発動する。
しかし何度やってもバチィン!と音を立てて弾かれるだけであり、ナツとレアが傷つく一方だった。
「急がなきゃマズイよ! アンタの魔法で凍らせたりできないの?」
「できたらとっくにやってるよ」
一抹の希望を頼ってグレイに尋ねるルーシィだが、答えはNO。
ヤケクソからか、ナツは魔法も捨てて無理やり魔風壁を突破しようと突進する。
だが結果は体に無数の切り傷を作るに過ぎず、最終的にルーシィに引き離される。
「くそっ! どうすればいいんだ!!」
魔法は通らない。
かといって素で行こうものならミンチ。
頼みの綱であるカゲヤマは応急処置によって一命は取り留めたものの未だに意識は戻らない。
万事休すかと思われた時、ナツは自分を魔風壁から引き離す為に背中にくっついているルーシィに目をやる。
その次の瞬間、ナツは閃いたというかのようにルーシィの肩をガッ!と掴んだ。
「そうだ!! 星霊!!!」
「え?」
いきなりそんな事を言われてピンと来ないルーシィだったが、今の一言で全てを理解したレアが口を挟んだ。
「ルーシィ! エバルーの屋敷で星霊界を通って瞬間移動したアレ、今やるの!!」
興奮した様子でお願いするレアだが、ルーシィは無理だと言う。
普通星霊界に人間が入ると息が出来なくて死んでしまうという。
もう一つ言えば、星霊を召喚する為の
つまり、レアやナツの考える方法で魔風壁の外に出るには、最低でもルーシィの星霊を魔風壁の中に留め、ルーシィが魔風壁の外に出ている必要があるのだ。
「ややこしいな! いいから早くやれよ!!」
「できないって言ってるでしょ!!」
しかし難しい話が苦手なナツでは今の話を理解できずやれの一点張り。
隣でレアも頷いていることからナツと同様なのだろう。
理解しようとしているのかも疑問だが。
「そもそも、人間が星霊界に入る事自体が重大な契約違反!! あの時はエバルーの鍵だからよかったけどね」
星霊魔導士の決まり事をあーだこーだ説明するも二人は首を傾げるばかり。
ナツに至っては「意味わかんねえ」と零す始末。
「エバルーの…鍵……
あーーーーっ!!!」
すると、突然声を上げたのはここまであまり会話に参加して来なかったハッピーであった。
小さい体を跳ね上げてその声帯から想像もつかない大声を上げ注目を集めた。
「ルーシィ!思い出したよ!!」
「な…何が?」
「来る時に言ってた事だよぉ!!!」
ナツの気持ち悪いという言葉にハッ!と反応したあれである。
その後も、「ルーシィ変、魚おいしい、ルーシィ変、変、変……」と復唱していた中々失礼な極まりない内容だったが、ようやく本当に伝えたい事を思い出したようだ。
ハッピーは背中に背負っていた風呂敷を下ろし、ごそごそとある物を取り出した。
「これ」
「それは…バルゴの鍵!!?」
それは、エバルーが持っていたバルゴを呼び出す金の鍵…黄道十二門の鍵の一つ、処女宮の扉を開く為の鍵であった。
「ダメじゃない!!勝手に持ってきちゃー!」
「違うよ。バルゴ本人がルーシィへって」
「ええ!!?」
「あの後エバルーが逮捕されたから契約が解除になったんだって。それで今度はルーシィと契約したいって、オイラん家訪ねてきたんだ」
「あれが……来たのね…」
ルーシィはいつか見たあのメイドゴリラが家の前まで来たということを想像して少し震える。
何故召喚もされていない星霊が現実世界で行動出来たのか……そもそも何故ハッピー(ナツ)の家の場所を知って訪問できたのか謎ではあるが、この際それは些細な問題だろう。
「嬉しい申し出だけど、今はそれどころじゃないでしょ!? 脱出方法を考えないと!!」
「でも…」
「うるさいっ! ネコは黙ってニャーニャー言ってなさい!!!」
今は魔風壁をくぐり抜けることが最優先。
それでも尚バルゴの件を引っ張ってくるハッピーをいい加減煩わしく思ったのか、ルーシィはハッピーの口を両サイドからつねって黙らせる。
ドスの効いた瞳で睨みつけ、今度こそハッピーは静かになった。
その様子に、グレイは「こいつも時々怖ぇな…」と零し、エルザに対する恐怖と似たような物を感じて戦慄した。
しかし、膝をガクッとついて涙を流しながら垂れたハッピーの言葉に、事態は急変する。
「だって、バルゴは地面に潜れるし…魔風壁の下を通って出られるかなって思ったんだ」
「何!!?」
「本当か!!?」
「えっと…?」
「……なの?」
「そっか!!」
ハッピーの言葉に(双竜以外の)全員が驚愕をあらわにし、ルーシィはハッピーを抱き上げた。
「やるじゃないハッピー!! もう、何でそれを早く言わないのよぉ!!」
「ルーシィがつねったから」
「ごめんごめん!後で何かお詫びするから、しますから、させていただきますから!! とにかく鍵を貸して!!!」
「あい! お詫びよろしくね」
かと思えばさっきの態度と一変して今度は綺麗な土下座をハッピーにするルーシィ。
以前フリーシャが言っていた手のひらドリルはあながち間違っておらず、見ていて惨めになる。
あまりの豹変具合にナツ、レア、グレイは軽く引いていた。
気を取り直して鍵を受け取ったルーシィはさっそく鍵を空中にかざす。
「我、星霊界との道を繋ぐ者…汝、その呼びかけに応え、
契約前の星霊を呼び出す口上を唱え、辺りは光に包まれる。
ルーシィの家でプルーとの契約を見たナツたちだったが、あの時の輝きとは比べ物にならない程の光を放っている。
「開け!処女宮の扉! バルゴ!!」
鍵の先端から魔法陣が現れ、バフン!と白い煙が辺りを包む。
煙が晴れ、姿を現したのはルーシィの脳裏に浮かぶゴリラメイド……。
「お呼びでしょうか? 御主人様」
ではなく、乙女座に相応しい美しい女性だった。
背丈はナツやルーシィとほぼ変わらず、手首に着いている枷が目を引く。
メイド服に身を包み、丁寧にルーシィにお辞儀をする姿はまさに主に従える従者。
短髪の薄桃色の髪に色白の肌、パッチリと開かれた青い瞳。
ハイライトは無いが、レアと同様に儚げな美しさがあり、見る者を惹きつける何かがあった。
「……誰?……」
自分の記憶とは全く違う美少女が呼び出された事により、ルーシィの頭の中は混沌の渦を巻いていた。
そんな中、ナツとレアは久しぶりに会った友達に話しかけるかのように普通に接する。
「よおマルコ、激痩せしたなおめェ」
「ん、前よりずっと可愛いの。パルコ」
「バルゴです。あの時はご迷惑をお掛けしました」
「いや痩せたっていうか別人!!!」
我慢出来なくなったルーシィがそうツッコム。
確かに軽く背丈も変わっているのに、これは痩せたと言える次元の話では無いだろう。
というのもバルゴ自身、主人に対しては群を抜いて忠実な星霊であり、主人の望む姿にて仕事をするという。
あのゴリラメイドの姿はねじ曲がったエバルーの美的センスにより生まれた姿であった。
「時間がないの! 契約、後回しでいい!?」
「かしこまりました、御主人様」
「てか御主人様はやめてよ!!!」
御主人様呼びはむず痒いのか却下されたバルゴは、ルーシィの腰に下げられている鞭を一瞥する。
「では女王様と…」
「却下!!!」
「では姫と…」
「そんなトコかしらね」
鞭を見て女王様とは、このメイドは一体何を期待していたのか…。
そして姫と言われて納得したこの女も、一体何を期待しているのか。
グレイもルーシィに一言ツッコミをいれてから急かしの言葉を掛ける。
バルゴもそれに了承し、まるでプールに飛び込むかのように地面に飛び込む。
するとエバルーの時同様そこの地面が抜け、ガガガっと掘り進める音が彼らの耳に響いた。
「おお! 潜った!!」
「いいぞルーシィ!」ガシャッ
「硬っ!」
抜け道ができ、その能力に関心を示すグレイの後ろで、エルザがルーシィに抱擁を与える。
が、ナツとレアの時同様鎧に頭を打ち付けるだけで、ルーシィからすれば痛い思いをするだけで終わる。
皆が脱出しようと穴へ歩を進めると、何故かナツは倒れていたカゲヤマに肩を貸して持ち上げた。
「何してんだナツ」
「オレと戦った後に死なれちゃ後味悪ィんだよ」
その言葉に周囲もヤレヤレといった眼差しを見せ、カゲヤマも僅かながら意識を回復させた。
負けた相手に敵が手を差し伸べるという行為は、その者の自尊心を傷つけかねない行動であったが、この場にナツの行動を咎める者は誰一人と居なかった。
「出れたぞー!!!」
ようやく穴をくぐり抜け出た先は期待通り魔風壁の外であった。
しかし魔風壁の影響がその周囲にも及んでおり、物凄い勢いの風が辺りを吹き飛ばそうとしている。
「姫!下着が見えそうです!!」
「自分の隠せば?」
それは女性陣のスカートにも影響しており、自分の身を呈してルーシィの下着姿を隠そうとしているバルゴの下着がグレイの眼前で顕になる。
「無理だ……い…今からじゃ、追いつけるハズがねえ……。オ…オレたちの、勝ちだ…な」
ふと、そんな声が聞こえた。
声の方を見ると、相も変わらずボロボロのカゲヤマが地面に倒れ伏した状態で引き攣った笑みを浮かべていた。
だが、エルザがそれを見てある異変に気づいた。
「ナツはどうした?」
そう呟いたエルザに、他の者達も異変に気づく。
「あれ?レアもいない…」
「ハッピーにフリーシャもいねえぞ」
〜〜〜
一方、クローバーの町付近大渓谷上空。
「あの町だ。見えてきた」
あと少しでたどり着く。
そう思っていた時だった。
キィイイイン!!!
何かが空を切る音がエリゴールの耳に入る。
何かと思い振り向くと…。
「これがハッピーの……MAXスピードだぁ!!!」
ドカッ!!!
「ごぉあっ!?」
ハッピーに掴まったナツが足に炎を纏ってエリゴールの顔面に飛び込んできたのだ。
見事蹴りが顔面に命中したエリゴールは空中で爆発、運良く線路上に落下した。
続いてナツも線路に着地し、翼の無くなったハッピーを受け止める。
「もう…飛べない……です…」
「ありがとな、ハッピー! おかげで追いついた!!」
「キサマ…なぜこんな所に……」
ギロリと睨みつけるエリゴール。
それに対しナツはニヒルな笑みを浮かべながら両手に炎を宿して答えた。
「お前を倒す為だそよ風野郎!!」