妖精の尻尾の双竜   作:uru1629

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続きました!


ようこそ妖精の尻尾へ!

 

「ナツ、ハッピー、おかえりなさい!!」

 

 

帰ってきたナツとハッピーを最初に言葉でもてなしたのは、白髪に真っ赤なドレスが印象的な妖精の尻尾(フェアリーテイル)の誇る看板娘……名を『ミラジェーン』

ギルドメンバーからは『ミラ』の愛称で万人に慕われている。

そんなミラに遅れて、他のギルドメンバーもナツのやらかしたハルジオンの一件の新聞を片手に揶揄いながら迎え入れる。

……が、次の瞬間。

 

 

「テメェ! 火竜(サラマンダー)の情報嘘じゃねぇか!!」

 

「うごっ!?」

 

 

ナツが笑っていた男の一人に飛び蹴りを喰らわせたのだ。

どうやらハルジオンに火竜(サラマンダー)が出たという噂を流した張本人らしく、ナツからすれば噂に流されて酷い目にあったという認識のようだ。

これは彼なりの八つ当たりなのであろう。

そこからはあれよあれよという間にギルド内は喧嘩する者でいっぱいになる。

売り言葉に買い言葉の妖精の尻尾(フェアリーテイル)

ナツが片っ端から売っていく喧嘩をほぼ全員が買っていき、至る所で酒瓶や皿、挙句の果てには椅子や机なども宙を飛び回っている。

 

 

そんな様子を、ナツと共に門を潜ってきた金髪美少女は感極まった様子で眺めていた。

 

 

「すごい……。あたし、本当に妖精の尻尾(フェアリーテイル)に来たんだ…!」

 

 

一切の曇りを知らないその笑みはまさに自分はココに来た。

たったそれだけの事だが、その事すらとても貴重な一瞬だと感じ、この瞬間を心に留めようという心情がいとも簡単に読み取れた。

しかし、少女が現実を知る2秒前。

ドッドッド!という中の喧騒に負けないくらいの足音が彼女の耳に劈く。

 

 

「ナツが帰ってきたってぇ!?」

 

 

次に聞こえてきたのは怒号。

驚いた少女は肩を震わせ、怒声の聞こえた方向に視線を向けると……絶句した。

 

 

「テメェ!! この間の決着(ケリ)着けんぞ!!!」

 

「グレイ……アンタなんて格好で出歩いているのよ」

 

「はっ! しまった!!」

 

 

少女の目に映ったのは、パンツ一丁の黒髪の青年である。

パンツ一丁である(大事なことなので二回言いました。)

当の本人……名を『グレイ・フルバスター』も本当にたった今気づいたような反応を見せるが、次の瞬間にはそんなことも忘れたかのようにナツに突っかかっていった。

そんな様子を見ていたグレイに一言入れた女性……名を『カナ・アルベローナ』は呆れたようにため息を吐いた。

 

 

「全く……これだから品のない男どもは、イヤだわ」

 

 

そう吐き捨てたカナは持っていたワイングラスを置き、そばに置いてあった大樽を担ぎ上げては直接グビグビと酒を飲み始めた。

露出の多い水着のような格好をした女性が大股開いて酒を飲む姿のどこに品があるというツッコミが聞こえたのはここだけの話。

 

 

「くだらん」

 

 

カナのその男勝りな姿に呆気に取られていた少女だったが、逆立った白髪に学ランと呼ばれる珍しい服装、そして下駄というかなり奇抜なファッションの大男……名を『エルフマン』の野太い声によって現実に引き戻された。

 

 

「昼間っからビービーギャーギャーガキじゃあるまいし……」

 

 

しかし外見からは予想がつかないくらいの冷静な物言い。

もしかしたら、この男が目の前の喧嘩を止めてくれるのではないか。

少女がそう思ったのは時間にしてたった数秒だった。

 

 

「漢なら拳で語れェ!!」

 

「結局喧嘩なのね……」

 

 

結局エルフマンも見た目に違わずの脳筋思考だった。

拳を振り上げては喧嘩の渦の中へ突っ込んでいく。

だがその次の瞬間。

 

 

「「邪魔だ!!!」」

 

「しかも玉砕!?」

 

 

エルフマンはナツとグレイのダブルアッパーによって吹き飛ばされてしまった。

見事な速落ち二コマである。

いい意味で期待に応えてくれている。

 

 

「ん? 騒々しいな」

 

 

そう言って現れたのは短く刈り込んだ茶髪にブルーのサングラスをかけた爽やかイケメンだった。

この人物に関しては少女も見覚えがあった。

 

 

「あ!! 『彼氏にしたい魔導士』上位ランカーのロキ!!」

 

 

このチャラ男……名を『ロキ』は少女の愛読する週刊誌『ソーサラー』のランキング掲示板の一つの『彼氏にしたい魔導士』ランキングの上位を常にキープしている。

その証拠というやらなんやら、彼の両隣には美女が一人ずつ。

文字通り両手に花である。

だがしかし、彼も妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士である。

当然のことながら彼も一癖も二癖もある人物の一人である。

 

 

「混ざってくるね〜♡」

 

「「頑張って〜♡」」

 

「(はいッ! 消えた!)」

 

 

彼の場合、こんな具合に女に甘い。

彼の女に弱い性格故に、ナンパの数は両手では数えきれない。

さらに彼女の数も数えようものならば、それだけで一日が終わるのではないかと思う。

 

少女は自分の中の理想と現実にての妖精の尻尾(フェアリーテイル)の差にぐったりと項垂れた。

 

 

「な……何よコレ……まともな人が一人もいないじゃない…」

 

 

現在少女の頭の中では妖精の尻尾(フェアリーテイル)=変人の集まりという方程式が半ば成り立ちつつあった。

そうやって落ち込む少女の前にまた新たな人(?)が現れる。

 

 

「理想と現実のあまりにも大きすぎる差という名の炎によって真っ白に燃え尽きた遺体かしら?」

 

「って誰が遺体よーー!!!」

 

 

あまりにも失礼な物言いに少女は憤慨して目の前の誰とも知らない誰かにツッコミを入れる。

すると少女は自身の目をパチクリさせた。

目の前にいたのは赤いワンピースを纏い、金色の毛色をした二足歩行の猫だったからだ。

しかも背中には翼が生えている。

少女は最近、というかほんの数分前にも目の前の存在と似た人物……というより猫と話していたので思わず口にした。

 

 

「え? メスのハッピー!?」

 

「あんなだらしなくて情けない兄と一緒にしないでほしいかしら。リーシャはフリーシャ。リーシャの名前は覚えておくといいのよ」

 

「よ……よろしく…」

 

 

かなり高圧的な態度を取られ、少女は身を一歩引いた。

しかし、少女は再びその目をパチクリさせることとなる。

というのも、彼女には、フリーシャのある言葉が胸に引っかかったのだ。

 

 

「(え!? 兄!!? この子がハッピーの話していた妹!? 全然似てないじゃない!!)」

 

 

そう。実は彼女、ここ(ギルド)に来る途中、ナツとハッピーと三人でだべりながらここまでやってきたのだ。

その際に、ハッピーから妹の存在は聞かされていた。

しかし、あまりにも似ていないのだ。

性格にしろ容姿にしろ、目の前の猫からはハッピーと感じ取れる部分が皆無に等しかった。

そんな少女の心の中の疑問に答えたのは、驚くほど抑揚の少ない平坦な声だった。

 

 

「ハッピーとフリーシャに血の繋がりは無いの。ただ、小さい頃からずっと一緒に育ってきてるから、お互い兄妹として認識しあっているの」

 

 

少女は驚いて声の方向……フリーシャの後ろの方向へと視線を飛ばした。

目に映ったのは、水色の髪を靡かせた少女だった。

 

右側にサイドテールにした髪は腰まで届いており、表情は一貫して無表情だ。

ジト目の蒲公英色の瞳はじっと金髪少女を見つめていて離さない。

服装は水兵のような白いセーラー服に白いベレー帽と、中々コスプレのような姿だが、その無表情も相まってフランス人形のような儚げな可愛さがある。

フリーシャの後をついてきた『レア・ギルティ』だった。

最初こそ、レアのその抑揚の少ない声や感情の読み取れない無表情は少女にとって恐怖であったが、今ではもうそんな感情は無くなっており、逆にその少女の容姿に惹かれていた。

魔性の魅力があるのかしらと少女は心の中で呻いた。

 

 

「レア・ギルティ。よろしくなの、金髪さん」

 

「……あ! こちらこそよろしく、レアさん! 新入り……って自分で言っていいのかな……? あたし、ナツに誘われてここまでやってきた、ルーシィって言います」

 

 

一瞬反応に遅れてしまった少女……名を『ルーシィ』だったが、慌ててそう言った。

新入りという言葉を聞いたレアはうんうんと数度頷き、後ろを振り向いた。

 

ガンッ!!!

 

その瞬間、鈍い音が響き渡る。

 

 

「……」

 

「れ…レア……さん?」

 

「誰なの! 誰がハッピー投げてきたの!? 流してあげるから素直に挙手しろなの!!!」

 

 

鈍い音の正体は、レアとハッピーの互いのデコをぶつけ合って鳴り響いた音だった。

結果ハッピーは完全に意識が飛んでおり、人知れずフリーシャに連れられて介抱されていた。

しかし、問題はこれからだった。

レアはハッピーをぶつけられたことに憤慨し、野郎どもが右往左往へ飛び回る喧嘩のなかに突っ込んでいってしまった。

その無表情もほんの少しだけ崩れており、眉がちょびっとだけ吊り上がっていた。

ルーシィはそんなレアを見て『レアまで!?』と心の中で嘆き、再び地面に突っ伏した。

 

 

「や…やっぱり……このギルドにまともな人はいないのかなぁ…?」

 

「あら、新人さん?」

 

 

自分では無理なのかと感じていたルーシィの元に、救いの声が聞こえた。

ハッとなってルーシィはガバッと顔をあげると、綺麗な白髪に真っ赤なドレスを纏った美女が目に映った。

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の看板娘のミラである。

 

 

「ミ…ミラジェーン!!? きゃー!本物〜♡」

 

 

目の前にいる本物のミラに、ルーシィはメロメロになる。

というのも、彼女はロキの件でもあったルーシィの愛読する週刊誌『ソーサラー』にてグラビアアイドルをしており、表紙を飾るほどの人気ぶりだ。

ルーシィも例に漏れずそのファンの一人であり、彼女の顔が視界に入るや否や、一瞬で顔をトロッととろけさせ、完全に見惚れている。

だがまたもや一瞬で現実を思い出し、ハッとなってミラに問題の件について聞いてみた。

 

 

「ア……アレ、止めなくていいんですか?」

 

「いつもの事だから放っておけばいいのよ」

 

 

しかしミラの返答は無視が一番とのこと。

笑顔を浮かべているミラだが、ルーシィはそれが何処か諦めの感情が混ざっている気がし、あらあらとボソッと呟いた。

だが、悲劇は突然に。

ミラがそれにと続けようとした所、ヒューと何かが飛んでくる音が聞こえてきたその次の瞬間、ガンッと再び鈍い音が響く。

音の発信源はミラの頭であり、彼女はそのまま力無くパタっと倒れた。

一連の流れを見ていたルーシィは一瞬で顔を真っ青にした。

 

 

「キャーッ!! ミラジャーンさぁーん!!!」

 

「楽しいでしょ?」

 

「(怖いですぅーー!!!)」

 

 

ルーシィの魂の叫びに応えるかのように、ミラはすぐにムクッと体を起こす。

しかし、その額からはダラっと血が流れており、彼女の変わらない笑顔も相まって、何処かのホラー映画としか思えない形相になっている。

ミラの頭に飛んできた物の正体は割れた瓶であり、一歩間違えれば刺さってもおかしくない危険な状況だった。

そんな危険な状況だったにも関わらずミラ自身はケロッとしている様子も、ルーシィの恐怖を煽っていたところだろう。

 

だが、こんな事はまだ序の口。

ミラはフラフラ〜とかなり危ない足取りでルーシィの元を後にした次の瞬間。

 

 

ズギャンッ!!!

 

 

男がグオッと音を上げながらルーシィの隣にあった机に突っ込んできたのだ。

ルーシィは肩をビクッと震わせながら、飛んできた男と男が飛んできた方向を交互に見やった。

彼女の目に映ったのはやけに肌面積が多い黒髪の青年と、何かの布を片手にヒラヒラさせながらへっヘーンと得意げに笑っているナツの姿だった。

そこでルーシィはふと疑問に思った。

ナツが持っているあの布はなんだろうと。

そこからルーシィが答えを導き出すのにかかった時間は十秒もかからなかった。

そして、答えが分かったと同時に、彼女の顔色がサーッと良くない色へと変色しいく。

おそろおそる、彼女は今尚倒れているであろう男に視線を向けると。

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! 俺のパンツーーーー!!!」

 

「こっち向くなーーー!!!」

 

 

彼の股の間のイチモツを脳裏にしっかり焼き付けることになってしまった。

飛んできた男はさっきまでパンツ一丁だったグレイである。

しかし、彼の今の状態はパンツすら履いていない。

つまり完全に全裸である。

そう、ナツがヒラヒラさせていた布の正体はグレイのパンツであったのだ。

公共の場で全裸になるのはさすがにまずいと感じたグレイはその場でしゃがみ、ルーシィと向き合う。

 

 

「お嬢さん、よかったらパンツを貸して……」

 

「貸すかーーーッ!!!」

 

 

しかしあろうことか彼はルーシィに対して下着を借りれるかせがんだのだ。

マナーの欠如もいいところである。

ルーシィが思わずグレイの顔面に拳をめり込ませたのは変態に対する正当防衛として片付けられるだろう。

だが、それから彼女に纏う火の粉はもはや火炎放射と差し支えない物だった。

 

 

「やれやれ、デリカシーの無いやつは困るね……」

 

「漢は拳でェーッ!!!」

 

「邪魔なの!」

 

「あーうるさい……落ち着いて酒も飲めやしない」

 

 

どこからともなく現れたロキによってルーシィは横抱きに、つまりお姫様抱っこをされて連れて行かれたかと思えば、ロキは戻ってきたエルフマンによって吹っ飛ばされる。

ルーシィは綺麗にロキの腕から抜け落ちると、ストンと地面に落ちる。

前も見ていないエルフマンはそのままルーシィをも吹っ飛ばしかけるも、それはレアの蹴りによって阻止され、再び吹き飛ぶ。

謎の食物連鎖である。

レアによって吹き飛ばされたエルフマンはカナの背後にあった山積みにされた空の酒樽をボウリングのピンの如く次々と吹き飛ばした。

そしてここにきてただ酒を飲んでいただけだったカナも堪忍袋の緒が切れたようだ。

 

 

「アンタら、いい加減にしなさいよ…」

 

 

苛立ちが頂点に達しているカナは懐からカードを取り出す。

カードが光り出すと魔法陣が展開され、光はさらに強くなる。

 

 

「アッタマきた!!」

 

「ぬおおおおおおっ!!!」

 

「困った奴らだ」

 

「かかってこーい!!!」

 

「押し流すの…!」

 

 

カナのそれが起点となり、他の者も各々の魔法を展開し始める。

まさに一触即発の雰囲気にルーシィは目を見開かせており、血を拭き取ったミラも笑顔ながらこれは少しマズいと感じ始める。

そんな時だった。

 

 

「やめんかバカタレェッ!!!」

 

「デカーーー!!?」

 

 

巨人が現れた。

それは比喩でもなんでもなくその通りである。

身長は体格の大きいエルフマンですら余裕で見下ろすほどの大きさであり、吹き抜けになっている2階の天井ギリギリである。

鬼の形相をしており、頭からはツノまで生えている。

突然現れた鬼の巨人による一喝により、さっきまで騒がしかったギルド内はまるで嘘だったかのようにしんと静まり返った。

 

 

「あら、いらしたんですか? 総長(マスター)

 

「マスター!!?」

 

 

ルーシィから本日何度目かとなる驚愕による叫び。

しかしそれも無理は無いだろう。

あんな破天荒なギルドメンバーをまとめるギルドマスターがこの巨人だというのだ。

ミラの言葉に巨人もうんと軽く返事をしたこともあり、間違いは無いだろう。

巨人の一喝により各々解散していく中、たった一人だけ大声で笑った。

 

 

「だーっはっはっはっはっはっは!!!みんなしてビビりやがって! この勝負は俺の勝…ぴっ!!?」

 

 

空気の読めないナツ(バカタレ)は巨人によって踏み潰され、短い悲鳴をあげた。

あれだけ暴れ散らかしていたナツがこうも簡単に、呆気なく鎮圧されたことに、ルーシィは小さく肩を震わせた。

ハルジオンにてナツの強さを目の当たりにしていた分、余計に恐怖の感情は強く働いた。

最初は小さかった恐怖も、巨人がだんだんこちらに近づくにつれて膨れ上がっていく。

 

 

「ん? 新入りかね?」

 

「は、はいぃぃ…」

 

 

遂に声をかけられた。

恐怖が最高潮に達しているルーシィはそうくぐもった返事しかできず、瞬きすらも彼女にとっては許されない状況だった。

 

 

「ふんぬぅぅぅ……!!!」

 

 

すると巨人は力むような声を上げる。

恐怖によって思考もままならないルーシィは一体何をされるのかと、餌を求める魚のように口をパクパクとしかできない。

だが、巨人のその巨体はみるみる内に小さくなっていく。

ルーシィの視点は天井から徐々に下に向いていき、やがては自分の目線よりもさらに縮んでく。

もうすでに彼女の心には恐怖心など無く、驚嘆が上回ってええー!?と声をあげた。

 

 

「よろしくネ!」

 

 

最終的に巨人は小さな子供くらいの大きさの小さな老人となっていた。

道化師がかぶるような二股の帽子をかぶり、立派な口ひげを生やしてい右手を上げるさまはまさに小人のおじいさん。

あの時の威厳、威圧感はどこ吹く風だった。

 

この老人こそが妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスター……名を『マカロフ』である。

 

マカロフはとう!と後ろ向きに回転しながら飛んでいく。

その身体は真っ直ぐ2階の吹き抜けの手すりまで飛んでいき…。

 

ガンッ!!

 

背中から思いっきりぶつかった。

なんとも締まらない。

ギルド内は微妙な空気になるが、マカロフ自身はそんな事なかったかのように手すりによじのぼって、1階にいるギルドメンバーに向き直る。

 

 

「ま〜たやってくれたのぉ貴様らァ! 見よ、評議会から送られてきたこの文書の量を!!」

 

 

マカロフは懐から取り出した大量の文書をヒラヒラと見せつけながら怒鳴りつける。

その分厚さは辞書と比べても勝るとも劣らないほどの量であり、ギルドメンバーの面々は揃ってげっ!という風に顔を顰める。

ちなみにマカロフが口にした『評議会』とは、魔導士ギルドを束ねる機関。

魔導士ギルドが所属する「地方ギルド連盟」を管理する団体であり、罪を犯した魔導士の検挙や問題を起こしたギルドに制裁を加えたり、魔法界の中で絶対の権力を有している。

 

 

「まずは…グレイ。密輸組織を検挙したまではいいが……その後、街を素っ裸でふらつき、挙句のはてに干してあった下着を盗んで逃走」

 

「いや……だって裸じゃマズイだろ…」

 

「まずは裸になるなよ」

 

 

まずはグレイにほこを向けて、マカロフはため息を一つ。

グレイの脱ぎ癖による事案を大大に発表されたことにより、当の本人は恥ずかしそうに抗議の声を上げるもエルフマンの正論により論破。

だがそんなエルフマンとて他人事ではない。

 

 

「エルフマン。貴様は要人護衛の任務中に要人に暴行」

 

「『男は学歴よ!』なんて言うからつい…」

 

 

マカロフは首を高速に振ること4回。

エルフマンは自身の信条を貶されたことによる暴走を咎められる。

エルフマンの座右の銘を全否定したような言葉であり、エルフマンの気持ちもわからなくはないが、本当に手を、しかも護衛対象に対して手を出してしまえば元も子もない。

それこそ破門になってもおかしくないぐらいの不祥事であり、絶対についでは済まされない。

 

 

「カナ・アルベローナ。経費と偽って某酒場で飲むこと大樽15個。しかも請求先が評議会。

ロキ…。評議員レイジ老師の孫娘に手を出す。某タレント事務所からも損害賠償の請求がきておる」

 

 

次にカナ、ロキと順に矛先を向けられる。

詐欺にも近いそれを公言されたカナはバレたかと小さく零し、女の敵と後ろ指を指されてもおかしくないロキは気まずそうに視線を宙に漂わせている。

ここまでも数々の不祥事を声に出して読み上げたところだが、これらも未だ前座に過ぎない。

 

 

「そしてナツ……」

 

 

ガックシと首を垂れるマカロフ。

その姿はミラの諦めの笑顔に近しい何かがあった。

 

 

「デボン盗賊一家壊滅するも民家7軒のうち4軒を壊滅。チューリィ村の歴史ある時計台を破壊。フリージアの教会全焼。ルピナス城一部損壊。ナズナ渓谷観測所崩壊により機能停止。ハルジオンの港半壊」

 

 

今までとは比にならないほどの量の損壊を一人で叩きだした。

その本人はというと、マカロフに踏み潰されて未だ復活しきれていないようで、うつ伏せの状態で突っ伏して顔を顰めさせながら黙って聞いていた。

ついでに言えば、何度目かの登場になる週刊誌『ソーサラー』にて掲示されている妖精の尻尾(フェアリーテイル)の問題行動の大半がナツ一人の物であると知ったルーシィはヒクヒクと顔を引き攣らせていた。

だがその数秒後、新たな疑問がルーシィの頭をよぎる。

 

 

「(あれ…?デボン盗賊一家壊滅の際の民家壊滅がナツ一人だけの仕業じゃ無いなら、残りの3軒は誰が…?)」

 

 

その回答はすぐにマカロフの口より答えられた。

 

 

「さらにレア。デボン盗賊一家壊滅するも、民家7軒のうち3軒を壊滅。オニバス駅にて魔道四輪車を6台故障。発電所故障によってフリージアの大規模停電。ルピナス城地下崩壊。リント鉱山破壊による落石によりグロン遺跡一部破壊」

 

 

ナツに負けず劣らずの損害をこの少女は叩き出していた。

思わぬ答え合わせにルーシィは目をギョッとさせ、レアの方を見た。

ツーンとした無表情は相変わらずであったが、その頬には小さく汗が垂れているのをルーシィは見逃さなかった。

そして改めてマカロフの方を見上げると、呆れなのか怒りなのか、文書を握っている拳はさらに固く閉じられ、文書の方に皺が寄っていた。

 

 

「貴様らァ……ワシは評議会に怒られてばかりじゃぞぉ……!」

 

 

眉間に寄るシワの数はさらに増え、マカロフは体全体をプルプルと震わせている。

今マカロフが挙げたのはあくまで一例であり、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の不祥事はこんなものでは無いのだ。

マカロフが出す負のオーラに感化され、ギルド全体はどんよりと暗くなる。

ほとんどの者が下を向いても尚プルプルと震えているマカロフに、ルーシィは再び恐怖の熱が再燃する。

 

だが、マカロフは次の瞬間……あろう事か、持っていた文書に火をつけた。

 

 

「が、評議員などクソくらえじゃ」

 

「……え?」

 

 

一ギルドマスターが世のギルドのトップに真っ向から喧嘩を売る発言と行動に、ルーシィは素っ頓狂な声を漏らした。

マカロフは燃やした文書をポイッと下に投げ捨てると、待ってました!と言わんばかりに、ナツが四つん這いの状態から落ちてきた燃える文書に食らいつき、ムシャムシャと食べ出した。

 

 

「よいか……。理を越える力とは全て理の中より生まれる。魔法は奇跡の力なんかではない。我々の内にある気の流れと、自然界に流れる気の波長が合わさりはじめて具現化されるのじゃ。それは精神力と集中力を使う。いや、己が魂全てを注ぎ込むことが魔法なのじゃ」

 

 

もう既にさっきまでの暗い雰囲気は消え去り、全員が上にいるギルドマスターの言葉を、表情を、そして目を正面から受け止める。

そしてルーシィは気づいた。

ここにいる者たちは、ただ頭のネジが二、三本抜け落ちた変人集団なんかでは無いのだと。

ただただ自由なのだ。

それぞれが、それぞれの道を進んでいるだけなんだと、ルーシィは気づいた。

 

 

「上から覗いている目ン玉気にしていたら魔道は進めん。評議員のバカどもを恐れるな!自分の信じた魔道を進めェい!!」

 

 

不敵な笑みを浮かべる我らがマスターを見て、他の者たちも笑みを浮かべる。

それはルーシィとて、そして普段から無表情のレアでさえ例外では無かった。

 

 

「自分が信じた道を進めェい!! それが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士じゃ!!!」

 

 

巻き上がる歓声。

それは本日最高潮の盛り上がりを見せ、さっきまでの喧嘩による刺々しい雰囲気は完全に形を潜め、みんながみんな笑い合っていた。

ルーシィは、そんな風に一体になるギルドの様子を見て、期待で胸をいっぱいにしたのだった。




思っていたよりも長くなってしまった。
亀更新のゆっくりペースですが、気ままに読んでいただければ幸いです

関係ないんですが、FILM REDってみなさま見ましてかね…?
……やばいですね、アレ…(語彙力消滅)
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