妖精の尻尾の双竜   作:uru1629

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一万字なんて久方ぶりですね('^_^`)
何気にハコベ山のバルカン戦以来ですね…


レアVS毒爪のトビー

 

ざわざわと、これから襲ってくる敵に不安を抱える村民たちの騒ぎはすぐさま村中に広がった。

当然、それは村長のモカの耳にも入っていた。

 

 

「この騒ぎは何事かねっ!!」

 

 

駆け足でやって来たモカにルーシィが駆け寄って村民に行った説明をもう一度行った。

 

 

「聞いてください。もうすぐ敵がここに攻めてきます」

 

「敵!!?」

 

「そいつらは森の遺跡に住みついてて、みんなの体をそんな姿にした犯人なんです」

 

「そんな事は聞いとらん!!! 月はまだ壊せんのかぁ!!!」

 

 

しかし、モカはというと完全に聞く耳持たずであった。

目をクワッと見開かせて叫ぶモカにルーシィは思わずたじろぐ。

改めて月を壊す必要は無いと言うも、モカはじたばたと暴れながら月を壊してくれと喚く。

見かねた村民がモカを抑える事でとりあえずその場は収束した。

 

 

「気にしないでやってください。やっぱりボボ……息子の事がありますから」

 

 

未だに「月さえ無ければ…!」と喚くモカを見て何とも言えない表情になるルーシィを見た村民の一人がそう耳に囁く。

それを聞いたルーシィも「ええ」と短く答えて神妙な面持ちに変わった。

 

 

「任せて。きっと上手くいくから」

 

 

そう言って、金の鍵を懐から取り出した。

 

 

〜〜〜

 

 

「姫、準備が整いました」

 

 

ルーシィが作戦の為に呼び出したのはバルゴだった。

ひと仕事終えたバルゴに、ルーシィは微笑みながら歩み寄る。

 

 

「ありがとうバルゴ。さすがに速いわね」

 

「お仕置きですか?」

 

「褒めてんのよ!!」

 

「あのさー」

 

 

謎のコントを行うルーシィとバルゴに、真剣な面持ちのハッピーが話しかけた。

 

 

「オイラやっぱりルーシィってバカかもって本気で思うんだ」

 

「淡々とそんな事言われても…」

 

 

いきなり面と向かってかなり失礼な事を言うハッピーにルーシィは微妙な表情を浮かべる。

しかしそれに同意するかのようにフリーシャが頷きながら口を開く。

 

 

「こんな子供騙しな罠にかかるなんて、それこそ子供くらいかしら。大の大人の魔導士が引っ掛かるとは到底思えないのよ」

 

「何言ってんのよ。完璧な落とし穴じゃない」

 

「その発想自体がバカって言ってるかしら」

 

 

フリーシャの言葉に、何故かドヤ顔しながら言葉を返すルーシィ。

その後ろには不自然に盛り上がった草があった。

一層フリーシャは呆れた様子を見せ、額を抑えながらため息を吐いた。

 

確かにこの村の入り口は一つしか無い。

だからと言って馬鹿正直に村の入り口から攻めてくる敵が何処にいるだろうか。

ましてや相手は魔導士、見え見えの落とし穴を飛び越えるくらい訳ないだろう。

 

 

「こんなモノに引っ掛かる人はいないと思うな」

 

「同感かしら」

 

「わ、私も……」

 

「恐れながら、自分も……」

 

「姫、私もです!」

 

「アンタもかッ!!」

 

 

ハッピーとフリーシャのみならず村民からも不評の落とし穴作戦。

トドメにバルゴが堂々と言い放った事によりルーシィも我慢ならずグモォ!と唸った。

 

 

「見てなさいよアンタたち…」

 

「ルーシィさん! 何か近づいてきます!!」

 

 

本気でこの作戦が上手くいくと思っているらしいルーシィは作戦をバカにされての悔しさからか拳を握りしめた。

その時、外を見張っていた門番が声を上げた。

敵だと確信したルーシィは門番に門を開けるよう声を上げる。

ゴゴゴゴと音を上げながら開く門の向こうに見えたのは…。

 

 

「みんなーー!! 無事かーー!!!」

 

「ナツーーー!!?」

 

 

体が氷に閉じ込められ、その氷に乗せるようにグレイを担いだナツであった。

思いもよらない予想外の客に村中から声が上がった。

だが走ってきているのがナツと分かった瞬間、ルーシィは冷や汗をかきながら首を横に振った。

 

 

「ダメー! 来ちゃダメー!!」

 

「あ?」

 

「止まって!! ストーップ!!!」

 

 

このままナツが突っ込んできては折角の落とし穴がお釈迦になってしまう。

だがナツはその事情を知らない。

ルーシィは必死の形相で手を前に突き出して止まるよう叫んだ。

思いが届いたのか、キキーッ!と音を立てながらナツは落とし穴の一歩手前で止まった。

ホッと胸を撫で下ろすルーシィだったが、そうは問屋が卸さない。

 

 

「ん? 何だこれ?」

 

「ハッ…!」

 

 

目の前の盛り上がった草が気になったナツがツンツンと足でつつき出した。慌てて止めようとしたルーシィだったが、時すでに遅し。

 

 

「えばっ!?」

 

ズボンッ!!!

 

 

草の部分に体重をかけてしまったナツはそのまま流れるように落とし穴に落ちてしまった。

一連の流れを見ていた村民は「落ちる奴いたんだ」と哀れな子を見るような優しい目になっていた。

一方作戦が身内に不本意とはいえ潰されたルーシィは「失敗…」とボヤきながら半ば放心状態になっていた。

 

 

「おいおいおい、こんな時にお茶目したやつは誰だコラ…!」

 

「ルーシィに決まってるじゃないか」

 

「やっぱりか!!!」

 

「違うのよー!!!」

 

 

一方嵌められたナツはそう言いながら上を見上げる。

ルーシィにとっては真面目だったとはいえ、ナツからすればイタズラを仕掛けられたのと大差ない故に遠回しに真面目にやれと怒っていた。

 

 

「ナツとグレイ無事だったんだね」

 

「レアはどうしたのかしら!?」

 

「無事じゃねえ、グレイはダウンだ。レアはまだ氷食べてるトコだ」

 

 

淡々とナツらの現状を報告し、ナツは自身に変化があったことに気づいた。

 

 

「ん? あれ!?氷が割れてる! 火でもダメだったのに?」

 

 

そう、ナツの動きを阻害していた氷が割れ、落とし穴の至る所に散らばっていたのだ。

それを見たルーシィが「作戦通り」なんて言ってたが、完全にタマタマだ。

単純に、ナツと術者であるリオンとの距離が離れたから魔法の効力が弱まったのだ。

それが落とし穴に落ちた時の衝撃で霧散したのだ。

身軽になったナツはさっさと穴から這い上がり、傷ついて気絶しているグレイを安静にさせた。

 

 

「グレイ……」

 

「そういやアイツら、まだ来てねえのか?」

 

「確かに遅いかしら……」

 

 

力なく倒れているグレイを、ルーシィは心配そうに見つめる。

その傍ら、ナツが疑問に思ったことを言い、フリーシャが同感と示した。

ナツの疑問は最もだ。

ナツやルーシィたちよりも先に村へ向かったハズであるのに、一旦山を登りグレイを回収しても尚ナツの方が先に村に着いた。

なんなら氷のせいで動きが阻害されていた事もあって普通に走るよりも時間は掛かったハズだ。

その不気味さに、一同はより一層不安を覚える。

迷ったという選択肢も有り得ないと言える。

山の頂上から村の位置は見えていたのだから、三人もいて全員迷うなんてことはまず無いだろう。

その時だった。

 

 

「な…なんだアレは!!?」

 

 

村民の誰かがそう叫んだ。

叫び声の方に向くと、村民の一人が空を指さして口をあんぐりと開けている。

それに釣られるように他のみんなも空へと視線を移す。

紫の月の光が夜空を照らす中、一つ不自然なシルエットが浮かんでいる。

シルエットは少し降下し、その全体像が顕になる。

 

 

「ネズミが飛んでる!!!」

 

「何だ、あのバケツは!!?」

 

 

何と、昼間にナツ、グレイ、レアにボコボコにされたシェリーにアンジェリカと呼ばれていたネズミが尻尾をプロペラのように回転させて空を飛んでいたのだ。

背中には零帝一派の三人が乗っており、手には緑色のゼリーのようなジェル状の液体がたっぷり入ったバケツをぶら下げている。

 

 

「毒々ゼリーの準備に時間がかかってしまいましたわ」

 

「しかしちょうど良かった。一名足りないが、例の魔導士共も村に集まってる」

 

「おおーん」

 

 

空を飛ぶ零帝一派にルーシィが落とし穴作戦が効力を失ったことに悔しさからキーッと唸る中そんな事を話し合う三人。

 

 

「デリオラを滅ぼさない限り、私たちの望みは達せられないのです。邪魔する者には "死" あるのみですわ」

 

 

光の無い瞳で村を見下しながらそう放ったシェリーの言葉は、酷く抑揚が無い。

その時、バケツの端からゼリーがたぷんと一滴、一つの雫となってこぼれ落ちた。

ゼリーは真っ直ぐとルーシィに向かって落下していき…。

 

 

「ルーシィ!!!」

 

「きゃああ!?」

 

 

当たる直前でナツがルーシィに飛びつきゼリーを回避した。

自由落下を続けるゼリーはそのまま地面に向かい、遂にルーシィの足元に生えていた雑草諸共地面に接触した。途端…。

 

 

ジュワアァァ…!!!

 

 

「ひっ!?」

 

「なんだ…この危ねぇ臭いは……!!」

 

 

なんと、ゼリーが触れた傍から音を立てて溶け始めたのだ。

溶けだしたのは雑草のみならず、ゼリーが触れた地面をも溶かしており、ゼリーが落ちた部分にはポッカリと穴が空いていた。

それを見た村民は一斉にパニックになった。

アンジェリカがぶら下げるバケツに、今見た地面をも溶かすゼリーが大量に入って空を飛んでいる。

しかもそんな危険なゼリーを持っている奴らはこの村を消せと言われそれを実行しようとしている。

最悪な結果が想像された。

 

 

「まさか、今のをばら撒くつもりか!?」

 

 

そう、あのゼリーがバケツから溢れるほど大量に入ってる状態でこの村を消す方法。

空中からばら撒くだけの簡単なお仕事だ。

現状を嫌という程鮮明に理解した村民は揃って頭を抱え、あちこちへ走り回りながら慌てふためく。

 

 

「醜い」

 

「ッ!?」

 

 

唐突、そんな言葉をナツの耳はキャッチした。

発言元は空にいるユウカだった。

普通はるか上空にいるユウカの声など、地上にいる者に聞こえる訳が無いだろう。

だが生憎と、滅竜魔導士の五感は常人よりも遥かに優れている。

遠目にしか見えていないハズの者の声をバッチリ聞き取る程には。

 

 

月の雫(ムーンドリップ)の影響がこうも人間を醜くするか」

 

「まるで悪魔。デリオラの子のようで不愉快ですわ」

 

 

なんとも自己中心的な思考だろうか。

彼らの行った月の雫(ムーンドリップ)の儀式によってこの村の惨状が生まれたというのに、彼らは反省どころか自分たちの邪魔をする、それを促した者全てを敵と見なし排除しようとしている。

本当の悪魔とはこういう者どものことを言うのだろう。

一連のやり取りを全て聞いていたナツは眉間に皺を寄せ、ギリッと歯ぎしりをしながら上空にいるシェリーらを睨みつける。

しかし、彼らにとってそんな事は知らない。

 

 

「アンジェリカ、おやりになって」

 

「チュー!」

 

 

シェリーが声をかけた事によって、アンジェリカは手に持っていたバケツを放り投げた。

空中に舞うバケツから大量のゼリーが溢れ出し、まるで隕石でも降ってくるかのように、村の上空を緑で覆い尽くした。

 

 

「こんなのどう防げばいいのよおぉぉ!!!」

 

 

絶望が降り注がれる。

対処法が浮かばず涙目になりながら頭を抱えるルーシィだっが、たった一人この状況で動き出した。

 

 

「みんな!! 村の真ん中に集まれ!!!」

 

 

ナツだ。

ハッピーに飛べるかを問い、彼も「あいさ!」と返事をして羽を出し空へ駆ける。

それと同時に、村民たちも、一人を除いてナツの言った通り村の真ん中へと集まる。

 

 

「ワシは…! ワシはボボの墓から離れんぞ!!」

 

「村長!! 気持ちは分かるが!!!」

 

 

動かない例外の一人は村長のモカであった。

息子であったボボの墓に手を添え、その場に膝をつき全く動こうとしない。

しかし、もう助けに行く時間も無い。

ハッピーに掴まれたナツが降り注ぐゼリーの目の前まで来た。

 

 

「これで吹っ飛べ!!! 火竜の煌炎!!!」

 

 

ナツは右手に纏った炎と左手に纏った炎、二つの炎を合わせることで巨大な火球を作り出す。

人間を丸々飲み込みそうな大きさの火球を、ナツは思いっきり振りかぶってゼリーに投げつける。

火球がゼリーに触れた瞬間…。

 

 

ドゴオォォン!!!

 

 

カッ!と閃光が走り、火球が当たった部分を中心にゼリーを爆散させ空を晴らした。

 

 

「火の魔導士ですわ!!」

 

 

あまりの高威力の魔法に、シェリーらも驚愕を隠せずにはいられなかった。

しかし、一難去ってまた一難。

ナツが爆散させたことで村の中心部は晴れたとはいえ、ゼリーが消滅した訳では無い。

周りに散らされたゼリーはその後流星群のように降り注がれた。

ゼリーが降り注がれる端から村が消滅していく。

その時だった。

 

 

「村長!!!」

 

 

ボボの墓から動こうとしないモカの元にゼリーが一直線に向かっていた。

誰かが叫んだがもう間に合わない。

このままでは村長が殺される…!

しかしそうはならなかった。

 

 

「水竜の抱擁」

 

 

突然、水流のバリアがモカを包み込み、モカの向かっていたゼリーを跳ね返したのだ。

何事かと村民もルーシィも目を見開いたが、フリーシャだけは嬉しそうに目を輝かせている。

状況の理解がまだ混雑している中、ボコッ!とルーシィらの足元が盛り上がった。

 

 

「あの村長お仕置きですね」

 

「ん、吊し上げた方がいいの」

 

「バルゴ! レア!」

 

 

穴から出てきたのは穴掘りが得意なバルゴと、ナツと一旦別れて自身を纏っていた氷を溶かしきったレアであった。

いつの間にかバルゴと合流したレアが、先の一瞬でモカの周りに水流のバリアを張り、ゼリーから守ったのだ。

結果、村は消滅したもののモカが張り付いていたボボの墓だけは守られた。

 

 

バキッ!!

 

「「「ッ!!?」」」

 

「零帝様の敵は全て駆逐せねばなりません」

 

 

消滅してしまった村に心打ちひしがれる中、地上に降りてきた零帝一派。

村の残骸である木の破片を踏み荒らしながら距離を縮めてくる。

 

 

「せめてもの慈悲に一瞬の死を与えてやろうとしたのに……どうやら大量の血を見る事になりそうですわ」

 

「村人約50、魔導士3。15分ってとこか」

 

「おおう」

 

「オイラたちもいるぞ! 魔導士5だ!!」

 

「戦力にも数えられないとは、舐められたものかしら」

 

 

シェリーの言葉に、ナツは「あ?」と眉を顰め拳をグッと握る。

そしてやはり自己中心的な言動が目立つ零帝一派に妖精の尻尾(フェアリーテイル)の内心は穏やかでは無い。

ルーシィは腰の鍵束に手をかけ、レアはトントンとつま先で地面を叩く。

そして共通して、鋭い目付きで目の前の三人の敵を見据えた。

 

 

「オレたちはこの場を離れよう!!」

 

「イヤじゃ!!ワシはボボの墓から離れんと決めておる!!!」

 

「いい加減にしてください村長!!!」

 

「誰か村長を黙らせてくれ!!」

 

「グレイさんはオレたちに任せろー!!!」

 

 

一方村民たちは動けないグレイと動こうとしないモカを連れて零帝一派から背を向けて全力で走り出した。

しかし、それをシェリーは逃そうとしない。

 

 

「零帝様の命令は皆殺し。アンジェリカ」

 

「チュー!」

 

 

一声かけると、アンジェリカはすぐさま行動に移した。

手にシェリーを乗せ、尻尾を回転させてその場から飛び立った。

ナツらとすれ違う際、あまりの勢いに顔を伏せた。

取り逃したと慌てて後ろを振り向いたが、次の瞬間にはポカンとなった。

 

 

「! あれぇ!!?なんか勢いでしがみついちゃったぁ!!!」

 

「バカすぎる!!」

 

 

なんとルーシィがアンジェリカの足にすれ違いざまにしがみついていたのだ。

あまりにも無謀すぎる謎の行動力にナツらは揃ってバカだと口をあんぐりさせた。

しかしそんなバカでも村民を守りたい気持ちは本物である。

 

 

「てか止まりなさい!! 村の人に手出すんじゃないわよ!!!」

 

「何者ですの!?」

 

 

ルーシィはしがみついているアンジェリカの足をガスッガスッと殴りつける。

それによってようやくシェリーもしがみついたルーシィの存在に気がついた。

 

 

「これならどお?」

 

 

殴りつけることは効果が無いと区切りをつけたルーシィは、今度はこちょこちょとアンジェリカの足をくすぐり始めた。

普通こんな巨体にルーシィの手の大きさのくすぐりなど気にもとめないだろう。

実際シェリーもそんなのが効くわけと高を括っていたが、実際はそうはならなかった。

 

 

「チュアアアア!!? キャッキャッキャッ!!」

 

「アンジェリカ!!? 何をしてますの!!尻尾を止めたら…」

 

 

その先の言葉は続くことは無かった。

 

 

「チュウー!!!」

 

 

アンジェリカがくすぐりで尻尾を止めたことにより、そのまま真っ逆さまになって落下し始めた。

アンジェリカの進撃が止まったことにより一瞬喜んだルーシィだったが、結果一緒に落ちることは脳内計算には無かったらしく、アンジェリカとシェリーと一緒に悲鳴を上げながら落下していく。

やがてボスウゥン!!と大量の土煙と音を上げて、二人と一匹は森に落ちた。

 

 

「あ〜あ…ありゃキレるぞ」

 

「キレてねえよ!!!」

 

「お前じゃねえよ」

 

「大丈夫かなぁ。潰されてなきゃいいけど」

 

「潰されたら死んじゃうよ」

 

 

ユウカとトビーがコントを行う中、そんな心配をするナツ。

しかし自分の体格基準での心配故にハッピーからツッコまれる。

 

 

「けど、ルーシィだけだと2対1で心配なの」

 

「それもそうかしらね。ハッピー、ついてくるのよ」

 

「あいさー」

 

「頼んだぞ!」

 

 

レアの真っ当な心配にフリーシャが答え、ハッピーと共に羽を出して森の方向へ飛んでいく。

 

 

「こっちはオレたちが片付けとく!!」

 

 

そしてナツとレアはバッと再びユウカらに向き直り勢いよく駆け出す。

まず狙うは間抜け面のトビー。

ゴンッ!!とナツは頭突きを食らわせ、トビーは「おおう!?」と後ろへ吹き飛ばされる。

そこへさらにレアが追撃を食らわせる。

トビーの真上に飛んだレアはそのままトビーの腹目掛けて踵を落とし込んだ。

「おふう!!?」と苦しそうな声を上げたトビーはゴムボールのように地面を跳ねた。

空中でくるりと体を回転させたナツと踵落としを決めた足を軸にターンを決めたレアはぷくうと頬を膨らませてユウカの方を向いた。

嫌な予感がした次の瞬間、ゴアア!!と炎と水のブレスがユウカの上半身を包み込んだ。

不安定な姿勢だったにも関わらず、ナツはしっかり足から地面に着地し、ズザアと地面を滑りながらユウカの方へと向き直る。

そしてブレスを食らったハズのユウカはというと、全くの無傷であり、周囲に青い膜のようなものを張っていた。

 

 

「なんて凶暴な炎と水流だ。まさか噂に聞く妖精の尻尾(フェアリーテイル)の双竜……火竜(サラマンダー)水竜(リヴァイアサン)とは貴様らのことか」

 

 

そう言いながら青い膜を解いたユウカにナツは苦い顔をしながら後ろに一瞬視線を向け、レアは体ごとユウカから背を向けるように立つ。

視線を向けた先、レアが向いた方向には吹き飛ばされたハズのトビーが何食わぬ顔で既に立ち上がっており、攻撃されたのか?と言外に語っているくらいケロッとしている。

 

 

「だが、オレたちもかつては名のあるギルドにいた魔導士。そう簡単にはいかんよ。魔導士ギルド『蛇姫の鱗(ラミアスケイル)』と言えばわかるかな? そうさ…あの "岩鉄のジュラ" がいた……」

 

ズゴオオォ!!!

 

 

なんと、ユウカらの正体はフィオーレ王国内でも高い実力を持っている有名ギルドの元魔導士だったのだ。

不敵な笑みを浮かべながらペラペラ喋るユウカ。

しかしそれは突然のナツはユウカに、レアはトビーにへの攻撃によって遮られた。

 

 

「き…貴様ら……! 人の話を最後まで聞かんか!!」

 

「知らん」

 

 

ユウカの言い分は最もだが、今それを律儀に守る必要は無い為、ナツはユウカの言葉を一蹴した。

 

 

「どこのギルドだとか、誰の仲間だとか関係ねえんだよ。お前らは依頼人を狙う。つまり仕事の邪魔。つまり妖精の尻尾(フェアリーテイル)の敵。戦う理由はそれで十分だ」

 

 

ユウカを見開いた目で睨みつけながらそう言うナツは眉間に皺が寄っている。

ナツの言葉に対し、ユウカは何か思うことがあったのか睨みつけながら舌打ちを打った。

 

 

「トビー、手を出すな。コイツはオレ一人で片付ける」

 

「おおーん」

 

「んじゃ、オレも一人で相手してやる。レアにはあの犬やるよ」

 

「ん、了解なの」

 

 

そうして、それぞれ配置についた。

レアはすぐさま足に水流を纏ってトビーに距離を詰める。

一瞬でさっきのようにトビーの上まで来たレアは蹴りを叩き込んだ。

しかし、トビーも似たような攻撃を食らうほどの学習能力の無いバカでは無い。

素早く後ろにステップを取ることでレアの攻撃は空を切り、地面を抉りとった。

 

 

「おおーん…お前スゲーな、水の魔法で地面抉るのかよ」

 

「水を舐めてると痛い目みるの」

 

 

避けられたレアだったが特に気にすることなくトビーに再び向き直る。

しかしトビーは余裕綽々とした態度を崩さない。

すうっとトビーは両手を構えた。

 

 

「痛い目なんてみねーよ。オレはユウカより強いんだぞ」

 

 

すると、シャキィン!とトビーの爪が鋭く長いものに伸びた。

 

 

「毒爪メガクラゲ!!! この爪にはある秘密が隠されている」

 

「毒なの?」

 

「ガーン!なぜわかった…? とんでもねえ魔導士だぜ」

 

 

この犬が会話に入ると誰でもコントになってしまうのだろうか…。

自分から毒と明言しているのに秘密もクソもあったものでは無いだろう。

勝手に秘密を喋って勝手にバレたと思い込んで勝手にショックを受けるトビーに、レアはとてつもなく微妙そうな表情を浮かべる。

 

 

「どうしよう……バカなの」

 

「バカって言うんじゃねェよ!!!」

 

「ん」

 

 

どうやら「バカ」はトビーにとって禁句のようらしく、わかりやすく怒ってレアに襲いかかる。

シュバッ!と爪を振るうその姿はあの間抜け面からは想像もつかない程俊敏であり、並の魔導士であらば最初の一撃で爪の餌食になっていただろう。

 

 

「この爪に触れたら最後、ビリビリに痺れて死を待つだけだっ!!」

 

「犬さんちょっと待ってなの」

 

 

ご丁寧に解説をしながら襲いかかってくるトビーだが、レアは軽い身のこなしで爪の攻撃はカスリもしない。

一旦爪の射程圏外へと跳んだレアはトビーに声をかけ、少し目を見開かせて額に左手を当てた。

 

 

「犬さんのココ、何かついてるの」

 

 

レアの言葉にポカンとなったトビーは「おおん?」と疑問の声を浮かべながらレアと同じように手を額に添えた。

 

 

プスッ……

 

「ビビビビビビ!!!? おぉ〜ん……」

 

「やっぱりバカなの」

 

 

レアが呆れたようにそう呟いたが無理もない。

レアと同じように手を額に添えたトビーは、自身の毒爪を引っ込めないまま添えたのだ。

その結果、毒爪はキレイにトビーの額に刺さり、自身の麻痺毒で痺れを起こし、ダウンしてしまったのだ。

ひと仕事終えたレアがユウカを相手取ったナツに視線を向けた時だった。

 

 

「火竜の…!」

 

「素手の威力を上げる為に、魔法をブースターとして使うのか!!?」

 

「炎肘!!!」

 

「んぎィ!!!」

 

 

どうやらナツの方もたった今戦闘を終わらせたようであった。

ユウカは波動と呼ばれる特殊な振動を生み出す魔法であり、あらゆる魔法を中和するのだとか。

ユウカの前では魔法が通じない。

しかし素手であらば波動の前で止まる攻撃も貫通できると考えたナツはすぐさま実行、魔力の渦に素手を突っ込むことになったので想定外のダメージは食らったが、大した問題では無かった。

後は見ていた通りだ。

波動の中では魔法が使えない。

しかし外なら使えるということで肘を波動の外に出しそこから炎を勢いよく噴出させ、ナツの腕はまるでロケットのように構えていた場所から発射され、ユウカの顔面を捉えたのだ。

 

 

「ナツ、お疲れ様なの」

 

「おう、レア。お前ももう終わってたんだな」

 

「ん、相手がバカでちょっと物足りないの」

 

 

落ち着いたところで二人が合流する。

ナツは相手の魔法の中に突っ込んだこともあって顔や腕に多少傷はついていたが、この程度あってない様なものだった。

レアに至っては無傷である。

二人は揃って無事に立っているボボの墓の前に座り込んだ。

 

 

「ひでー事するよな、コイツら」

 

「ん、自己中に理不尽の塊みたいな奴らなの」

 

 

まるでクレーターのようになってしまった村があった場所を見つめ、二人はボボの墓にそう語りかける。

しかし、二人は悲しそうな…憐れむような……そんな暗い声色は絶対に浴びせなかった。

 

 

「でも、村も皆も絶対元通りになる」

 

「ん。悲しいまま終わらせなんて、絶対にしない…させないの」

 

 

しばらく二人はボボの墓の前から動かず、目を閉じて黙祷を捧げた。

 

 

〜〜〜

 

 

「零帝様」

 

 

デリオラが封印されている洞窟。

グレイを叩きのめしても尚、苛立ちが収まらないリオンはこの場に来て師匠の仇であるデリオラを眺めていた。

 

命を賭してデリオラを封印したグレイとリオンの師匠ウルだが、相対したグレイとリオンの中で少し解釈違いが起こっていた。

真実はグレイが自身の村を滅ぼされた復讐にデリオラに挑んだのだ。

それを止める為にデリオラに挑んだウルが、最終的に倒しきれないと判断し、自身の体を氷へと変えてしまった。

デリオラを封じる為に命を賭したと解釈するグレイと、ウルがデリオラに挑む原因となったグレイがウルを殺したという解釈をするリオン。

そこから二人の弟子関係は冷えきっていったとか。

 

そんなリオンに声をかけたのは謎装束を数人連れた仮面をつけた老人だった。

 

 

「あのグレイとかいう小僧をなぜ殺さなかったので?」

 

「…別に意味は無い。オレが血を好まんのは知っているだろう」

 

 

老人……名をザルティが抱く疑問は当然の物だろう。

自身の目的の為に村の消滅を命令する人だというのに、グレイに対しては殺さず放置している。

 

 

「どうも弟弟子には情があるご様子ですな」

 

 

けたけたと笑うザルティはそのまま後ろを向いてその場を後にしようとしながらそう言う。

しかしリオンは「くだらん」とザルティの言葉を一蹴した。

 

 

「あれだけ打ち負かせば歯向かう気も起きんさ。それでも邪魔をするようなら、その時は躊躇なく殺してやろう」

 

「本当に?」

 

 

リオンの言葉にザルティは再び振り向いた。

仮面で表情は分かりにくいが、顕になっている口元は不気味なほど歪な笑みを浮かべている。

 

 

〜〜〜

 

 

時は少し進んでガルナ島の浜辺近くの森の中。

森の中へ敵と一緒に落ちていってしまったルーシィを心配して向かったハッピーとフリーシャ。

その心配は、ハッピーの方が色濃く現れていた。

 

 

「ルーシィ、大丈夫かなぁ」

 

「彼女だって妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一員かしら。森の破壊痕から戦闘は始まってるハズ…エバルー相手にも引けは取ってないし大丈夫なのよ」

 

 

フリーシャがそう言うも、ハッピーの顔は晴れない。

ハッピーとフリーシャが見た森の破壊痕……大木は根こそぎ倒れており、何か大きなものが掘り起こされたのか、地面が一部盛り上がっている。

そしてあちこちにある切り裂かれた痕。

不安を抱えるのも仕方がないが、ハッピーが心配している部分はそこでは無かった。

 

 

「だって、あのバカなルーシィだよ? 変な作戦で自分の首を締めてないかが気がかりだよ」

 

「……」

 

 

ハッピーの心配にフリーシャも何も言えなくなった。

確かに、ルーシィなら有り得ると思ってしまったのだろう。

実際問題、ルーシィは自身の星霊ではシェリーの魔法で操る岩人形(ロックドール)を破壊できない、その上自身の星霊までシェリーの人間以外を操る魔法 "人形撃" によって操られてしまう為絶体絶命のピンチではあったが、海に出て、アクエリアスの味方をも巻き込む性格から自身ごとシェリーを大波に襲わせるというめちゃくちゃな作戦を取ったのだが、それを二人が知ることは永遠にないだろう。

なぜなら二人は森を抜けて浜に出てすぐ、ルーシィを見つけたからだ。

しかし、そこに居たのはルーシィだけでは無かった。

 

 

「ルーシィ!!! よかったー!無事だったんだ…ね……!?」

 

「ホラ、リーシャの言った通…り……!?」

 

 

二人が目にしたのは、白目を向いて砂浜に力なく横たわるシェリーとアンジェリカ、後から積み上がったであろう岩の山、そして正座をさせられてブルブルと震えているルーシィとそれを見下ろすエルザの姿であった。

絶句。

からの大量の冷や汗。

一瞬で状況を理解したハッピーとフリーシャの次の行動へ移るまで時間はすぐだった。

ドピュー!!!と二人はすぐさま来た道を逆走し始める。

だが、エルザがそれを見逃すハズが無かった。

 

 

「ナツとレアはどこだ」

 

「ちょっと聞いて…!!」

 

 

一瞬の間…それこそ瞬きの瞬間にエルザはハッピーとフリーシャを捕まえ、気絶させてルーシィの前に戻ってきていた。

ハッピーは尻尾を掴まれ逆さに、フリーシャは首根っこを掴まれ項垂れている。

右手に剣、左手に意識の無い猫……見た目は完全にひと狩り終えた後だ。

 

 

「勝手に来ちゃったのは謝るけど……今この島は大変な事になってるの!!!」

 

 

ルーシィは正座の状態から立ち上がり、エルザに島の現状を話して訴えかける。

今帰ってしまえば、村は絶対に助からない。

デリオラが復活するまでも時間が無い。

ルーシィは何とかして村を助けたいと言う。

しかし、エルザの口から出た言葉は無慈悲である。

 

 

「興味が無いな」

 

 

フリーズ。

ルーシィは一瞬何を言われたのか分からなかった。

 

 

「じゃ、じゃあ…! せめて最後まで仕事を…」

 

 

その後の言葉は続かなかった。

ルーシィが言い切るよりも前に、エルザが彼女の首元に剣を突きつけたからだ。

思わず「ひっ!?」と悲鳴を上げたのは無理のないことだろう。

 

 

「仕事? 違うぞルーシィ。貴様らはマスターを裏切った……ただで済むと思うなよ」

 

 

レアの言葉よりも抑揚の無いエルザの言葉はルーシィにとって、正に死刑宣告に近しい恐怖があった。

目に光が無いうえに目元に影も落ちた視線で睨みつけられ、ルーシィは「怖い…」と目元に涙を浮かべることしか出来なかった。





新生活始まってますか?
私は始まってます(* 'ω')ノ
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