妖精の尻尾の双竜   作:uru1629

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ながーらくお待たせして申し訳ありませんm(_ _)m
前話以上の難作でした(´∞`;;)
いやぁ…見切り発車の弊害がこれでもかと(´・ω・`)


永遠の魔法

 

雪がしんしんと降る山の中、グレイはリオン、コユリと共にウルの後をついて行っていた。

これから魔法の修行を行うのだとか。

 

 

「グレイ……着いてこれるか? 私の修行は厳しいぞ」

 

 

挑発するように口角を上げて問うウルに、グレイは「おう!」と力強い返事をした。

 

 

「デリオラを倒せる力が手に入るなら、何だってやるさ」

 

 

その声を聞いたウルは「よし」と頷き、服を脱ぎ始めた。

もう一度言おう、服を脱ぎ始めたのだ。

 

 

「なッ!? 何してんだお前!!?」

 

 

突然の師匠の理解不能な奇行にグレイは思わず目をひん剥いた。

この山は年中雪が降り積もる極寒の地。

だというのにウルはなんの躊躇いもなく服を脱ぎ、あまつさえその服をポイッと放り投げる。

 

 

「お前も服を脱げ」

 

「ふざけんな!!!」

 

 

なんでもない事のようにケロッとそう言うウルにグレイが噛み付く。

こんな雪山で服なんぞ脱げるかということを述べ、同意を求める為にリオンとコユリの方向にも目を向けると……。

 

 

「お前らもかああ!!!」

 

 

既に服を脱ぎスタンバイコンプリートのリオンとコユリがそこに居た。

あと服を脱いでいないのはグレイだけ。

もう味方は居なかった。

 

 

「だあ! 分かったよ!! 脱ぐよ、脱ぎゃいいんだろ!?」

 

 

半ばヤケクソのようにそう怒鳴ったグレイは、その怒鳴る勢いとは正反対に渋々と服を脱いだ。

パンツ以外の服を脱いだ事を見届けたウルは微笑を浮かべて口を開く。

 

 

「それでいい。冷気を操りたくば冷気と一つになるんだ」

 

「すぐに慣れるさ……」

 

「どうって事ないわ……」

 

「テメェらだって震えてんじゃねーか…!」

 

 

ウルの言葉に続いてリオン、コユリもそう言うが、その体は小刻みに震えており説得力に欠けた。

グレイの震え方と比べれば幾分マシに見えるが痩せ我慢の範疇だろう。

そうして修行は開始した。

まずは走り込みという事で、グレイは魔法教えろと文句垂れるが、上手く魔法を扱えないコユリもいるのだ。

基礎から叩き込むと言われ、グレイは不貞腐れながらも走って三人について行った。

 

 

〜〜〜

 

 

造形魔法。

それは数多ある魔法の中でも、最も術者の個性が出る自由な魔法だ。

魔力に形を与える魔法。

その形は十人十色。

術者の有り様によって形は如何様にも変化する。

ウルは願う。

精進しろ……そして、己の "形" を見つけ出せ、と。

 

 

〜〜〜

 

 

日数が幾分か経ち、グレイは姉弟子であるハズのコユリを差し置いて実力を伸ばしていた。

一方で、リオンだけでなく弟弟子であるハズのグレイに置いていかれ、未だに氷を上手く形に出来ないコユリは焦っていた。

グレイは基礎に重きを置いて、両手で安定した氷を生み出していき、対照的にリオンは片手で自身の倍もある体積の動き回る氷を生み出している。

だがコユリの生み出す氷は三秒も経たないうちに溶けだしてしまい、冷気を操る以前の問題だった。

氷の魔導士としての死活問題であったが、コユリは焦りの様子を見せる事は決してなかった。

その行為が……より一層彼女の首を締めるとは知らずに。

 

 

〜〜〜

 

 

「なあコユリ、グレイ。オレたちはあとどれくらいでウルを追い越せるかな?」

 

 

グレイらウルの弟子組の中で、この切り出しはリオンの決まり文句となっていた。

聞き慣れてうんざりしてからか、グレイはリオンに目も合わせずしかめっ面で「興味ねえよ」と淡々と返した。

 

 

「何を今更なこと言ってるのよリオン。リオンは既に片手での造形魔法が出来るんでしょ? それはもうウルの力を超えてるって言っても過言じゃないわよ! そう思うでしょ?グレイ」

 

「だから興味ねえっつってんだろ」

 

 

そしてコユリがこうやってリオンを持ち上げることも日常茶飯事だった。

リオンに続いて話を振られ、グレイは鬱陶しそうに額に青筋を立て、拳を握った。

 

 

「オレはデリオラを倒せればそれでいい。力さえ手に入れたら、あの氷女ともおさらばだ」

 

「師匠に対してなんて言い草だコラァ!!!」

 

 

どうやらウルの地獄耳にグレイの呟きはしっかり入っていたようで、ウルはグレイの頭に拳骨を落としてコブを一つ作った。

グレイは「すんませんッス」と誠意の欠けらも無い謝罪をして帰路に着く。

 

 

「……いつになったら強い魔法教えてくれんだよ」

 

「もう教えてるじゃないか」

 

「造形魔法のどこが強ェ魔法だよ!!! こんなモン、何の役にも立ちやしねえ!!!」

 

 

しばらく歩いて、グレイがそう切り込む。

だがウルは前を向いたままそう答えると、グレイは不満そうに噛み付いた。

するとウルは足を止め、どこか悲しそうな、悲壮感が漂う視線を後ろにいるグレイに向ける。

それを受け、グレイは気まずいからかそっぽを向いた。

 

 

「……私を見ろ」

 

 

そうウルは静かに言う。

しかしグレイは依然変わらずそっぽを向いたまま。

今度は「グレイ」と少し厳しめに名前を呼ぶと、グレイも観念したかのように再び視線をウルに戻す。

 

 

「言っただろう? 造形魔法は自由の魔法。己の形を見つけた時、それはいくらでも強くなる」

 

「ケッ、同じような事ばっか言ってんじゃねえよ」

 

 

諭すようにそう言うウルだが、グレイには深く刺さらないようでまたしてもそっぽを向く。

だが、今回はそれだけでは無かった。

 

 

「って何でこんなとこで脱いでんのよ!?」

 

 

なんとグレイは先のセリフの一瞬の隙に自分の服を無意識に脱いでいたのだ。

そう、無意識であるが故にグレイも指摘されて「うお!?」と驚いている。

 

 

「お、お前のせいで変な癖付いちまったじゃねーか!!!」

 

「私のせいかッ!!?」

 

 

天才的な早業にグレイは羞恥心から頬を赤くしながら憤慨してウルに当たるも、ウルとて心外だと言わんばかりに拳骨をグレイの頭に振り下ろしてもう2個コブを作った。

熟練の芸人のような鮮やかな流れのコントに、リオンとコユリは揃って腹からの大爆笑。

それに留まらず、周りはいつの間にか大所帯となっており、街の人は大なり小なりあれど顔に笑みを浮かべていた。

一方わかりやすく笑われたウルは恥ずかしそうに頬を赤くしながら伸びているグレイの首根っこを掴みあげ、小さく「帰るぞ」と促す。

グレイもそれに返事し、4人は脱線しかけた帰路に再び着くのだった。

 

 

〜〜〜

 

 

「ったく恥ずかしい……」

 

「笑える」

 

 

街から離れた一本道、先の一件を引きずっているウルがそうボヤく。

それにリオンが思い出したかのように笑うと、グレイが「うるせーツリ目」と軽口を叩く。

売り言葉に買い言葉でリオンも「黙れタレ目」と返していると、目の前から一台の馬車がやって来る。

 

 

「そういや、デリオラの話聞いたか?」

 

「あぁ、北の大陸に移動したらしいな。ブラーゴ辺りにいるってよ」

 

「マジか!! じゃあイスバンに平和が戻ったのかよ!?」

 

 

帰宅中の猟師らの会話。

馬車の中から聞こえたそれは、グレイの動きを止めるのに十分すぎた。

自分の心臓の鼓動は嫌という程ハッキリ聞こえ、自分がウルに渡された買い物の袋を地面に落とした事も気づいていない。

周りの声も届かないほどのデリオラへの復讐心に取り憑かれたグレイの次の行動は、単純で愚かなものであった。

 

 

〜〜〜

 

 

その夜、ウルの家の建つ雪山は吹雪に襲われていた。

だというのに、グレイは自身の荷物をまとめて外に飛び出していた。

 

 

「よせ! デリオラに勝てる訳ないだろ!! お前じゃ無理だグレイ!!!」

 

 

しかしそれを止めようとウルは家の玄関口から声を荒らげた。

だがグレイはそんなウルの呼びかけを「うるせえよ」と一蹴してしまう。

 

 

「お前なんかにわかるかよ。俺は父ちゃんと母ちゃんの仇を取るんだ!!何か文句あんのかよ!!!」

 

「出ていけば破門にする!」

 

 

恨みつらみが宿った瞳を開いて声を荒らげるグレイにウルはそう宣言するも、それは彼の背中を押す行動に等しかった。

 

 

「ああ…! せいせいするよ!!」

 

 

そう言って再び歩を進めたグレイは見てわかるくらい早くなる。

後ろから自分を呼び止める声が聞こえるが、止まる気は微塵もない。

 

 

「オレが死んだら、もっと強い魔法を教えなかったアンタを恨む…!」

 

 

最後の最後までそんな恨み言を口にしながら、グレイは北を目指して走り出してしまったのだった。

 

 

〜〜〜

 

 

時は戻って現在のガルナ島。

ルーシィ、ハッピー、フリーシャは目の前の光景に思わず目が点になりながら首を傾げた。

 

 

「遺跡が……傾いて……る?」

 

「どうなってんだー!!?」

 

「て…天変地異でも起きたのかしら…?」

 

 

それは昨日まで普通にまっすぐ建っていたハズの遺跡を見て故だった。

急な状況の変化にフリーズする中、グレイだけは平然を保っていた。

 

 

「ナツとレアだな。どうやったか知らねえが、こんなデタラメするのはあいつらしかいねえ。狙ったのか偶然か……どちらにせよ、これで月の光はデリオラに当たらねえ」

 

 

確信めいて言うグレイに、エルザが「ああ」と同意を示した。

あちこち壊す癖がこんな所で役立つとはと零したルーシィだが、これこそがナツとレアの作戦だったとは夢にも思うまい。

だがそんな時だった。

エルザは周りから突然気配を感じ、全方向に神経を集中させる。

するとそれに呼応するように、周囲の木や茂みがガサガサと音を立て始める。

 

 

「な、何!?」

 

 

ルーシィが声を上げるもつかの間。

 

 

「見つけたぞ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)!」

 

 

現れたのは遺跡の頂上で見た謎装束の者ら……リオンの手下であった。

グレイらを囲むように現れた手下たちは武器を持って行く手を阻む。

 

 

「行け、ここは私に任せろ」

 

 

押しのけようと構えようとしたグレイだったが、それより先にエルザが剣を顕現させそう言う。

思わぬセリフにグレイは面食らう。

 

 

「リオンとの決着をつけてこい」

 

 

呆けてしまったが、面持ちを強く引き締めなおしたグレイはコクンと頷き、リオンの手下を無視して駆け出す。

それを止めようとグレイに向かって攻撃する手下がいるが、それはエルザの剣やフリーシャの(ソウ)に防がれ、グレイの包囲網突破を許した。

 

走る 走る 走る

ウルは生きていることを伝え、兄弟子の暴走を止める為に……。

 

 

〜〜〜

 

 

再び時は遡り、10年前のブラーゴ。

起こっていたのは、蹂躙だった。

 

 

「はぁ……はぁ……まいったな…ここまで強いとは……」

 

 

息を切らして片膝をつくウルの目の前では、擬人化された自然災害が街を闊歩している。

ふと、ウルは後ろに目をやると親愛なる弟子であるグレイとリオンが伸びている。

上手く戦えないコユリは街の人の避難に向かわせたのでそっちの心配は無いが、この二人を放置する訳にはいかない。

だがデリオラにそんな事情は関係ない。

魔力が渦巻き、デリオラの口の中が光で満たされていく。

 

 

「アイスメイク "薔薇園(ローズガーデン) "!!!」

 

 

負けじとウルは拳を手のひらに叩きつけ、デリオラをも飲み込みそうな程の巨大なバラの花園を造り上げる。

やがて首元までバラが覆い尽くすが、デリオラの口の中の光が一瞬カッと一際強く光る。

瞬間、デリオラの口から一筋の光が走った。

熱を帯びた光が走った跡には火柱がまるで壁となって建つ。

燃え盛る街を背景に立ちそびえるは厄災の象徴。

人はただ、その巨大すぎる背中を見ることしか許されない。

その傍らには巨大な、しかしデリオラから見れば一束程度の氷のバラの花束が転がっている。

だが氷の花束はすぐさまヒビが入り、パリーンと音を立てて砕け散った。

中からは、腕の中に動けないグレイを抱えるウルの姿が現れた。

 

 

「……! うあああぁぁっ!!!」

 

「グレイ!!」

 

 

その時だった。

意識を失っていたグレイが、再びその気の糸を繋ぎ合わせた。

しかし自身の最後の記憶によるトラウマからか、その場で狂乱しだす。

ウルはそんなグレイをもう一つ強く抱き締め、「大丈夫だ」と声かける。

歯をガチガチと鳴らしながら震えるグレイは、藁にもすがる思いでその腕にしがみつく。

だが数秒して、グレイはその腕の正体と声の正体が結びつき、目を白黒させながら口を開いた。

 

 

「ウル……!? え……なんで?」

 

「いいからリオンを連れて離れろ。庇いながらじゃ、戦いづらくてしょうがない。コユリは街の人の避難誘導をしているから心配するな」

 

 

ウルにそう促されたグレイはその方向へと視線を向けると、確かにリオンはいた。

だがその目は閉じており、心配になって声をかけるも返事は無い。

だがウルから「ダウンしてるがな」と今の状態を聞き少し安心するも、ふと視界の端に映ったデリオラの姿を見てヒッと腰を抜かす。

 

 

「早く行け!! さっさとコイツ片付けてやるからっ!!!」

 

 

声を荒らげてそうウル。

だがグレイの動きはリオンに肩を貸して立ち上がったものの、その場から固まって動けない。

 

 

「……な…なんで……来たんだ…。オ…オレ……破門だろ…?」

 

 

長い沈黙の後、グレイの口から出たのはそれだった。

歯を食いしばって俯く様は、何もできなかった自分に対する悔しさをヒシヒシと感じる。

そんな弟子の姿を見て、師匠は呆れたように笑った。

 

 

「以前……友人に自分の幸せについて考えろと言われたんだ。そんな不幸そうなツラしてる覚えはないんだけどね」

 

 

それはつい先日の事だった。

自分ではそういう風に考えているからか、少し不満を覚えたのは記憶に新しい。

その不満は、ウルにとっては至極当然だった。

 

 

「だってそうだろ? かわいい弟子が三人もいて、日に日に成長し、賑やかな毎日……十分幸せだ」

 

 

その言葉に、グレイは呆気にとられた。

自分のウルに対する態度は決していいものでは無いと、自分でも自覚はしていた。

だというのに、ウルはそんなことを想っていたのかと。

 

 

「その幸せを取り戻す為に来た」

 

 

そう言いながらスクッと立ち上がるが、グレイはそれを見て、言葉が出てこなくなる。

 

 

「いや…そ…その……足……」

 

 

グレイが見たのは、右足が無く、代わりに氷の義足を使って地面を踏みしめているウルの姿だった。

指摘を受けたウルはなんでもないようにケロッと笑って見せる。

 

 

「あぁコレか? もっていかれたが気にする事はない。素晴らしいだろ?造形魔法は。あの怪物がお前こ闇ならば、私にも戦う理由があるという事だ。行け、アレは私が倒す」

 

 

そこまで言われて、グレイの感情はのダムは崩壊した。

涙はもう止まる事を忘れたかのようにボロボロと溢れ出てくる。

ウルに逃げろと言われたグレイだが、その場から動くことが出来ない。

 

 

「ダ…ダメだ…オレは…行けない…! こんな事になったのはオレのせいだ……!!」

 

「誰のせいでもない」

 

 

自責の念に駆られるグレイだが、それを否定したのは他でもないウルだった。

 

 

「これは幸せを取り戻す為の試練だ」

 

「ウル……本気でやってるの…?」

 

 

微笑を浮かべながら背を向けたウルだったが、それを止めたのは意識を取り戻したリオンだった。

だが、その様子は明らかにおかしかった。

 

 

「幸せとか…何それ……。ウルは最強の魔導士……あんな怪物ごときに勝てないハズないだろ?」

 

 

バンッとグレイの肩を押し退けたリオンの足取りはフラフラとしている。

そして何より目は大きく開かれ、ただでさえ小さい黒目がさらに小さく見え、鋭い視線をウルへ突き刺す。

そんな様子のリオンを見て、ウルは呆れたようにため息をつく。

 

 

「リオン……前にも言っただろ? 上には上がいる。西の国へいけば、私より強い魔導士は山ほどいる」

 

「そんなのいない……ウルが最強だ。じゃないとオレ……何のために修行したのか……」

 

「私を超えた時は、次の高みを目指せばいいだろう?」

 

 

厄災が行進を続ける背後で、ウルはリオンにそう説くも、リオンは納得出来ないと言わんばかりに涙が見開かれた目から溢れ出てくる。

 

 

「オレはアンタが最強と信じて弟子入りしたんだ……あんな怪物に負けるなよ……オレを裏切るなよぉ……!」

 

「リオン…」

 

 

裏切るな。

その言葉に、ウルは何も言えなくなる。

ただ呆然と立ち尽くす事しか出来ない師匠に痺れを切らしてか、弟子は駆け出す。

そして厄災の前に立った。

 

 

「アンタが本気を出さないなら、オレがやる…!」

 

 

 

そう言って、リオンは腕を目の前で交差させる構えを取った。

右は手の甲を、左は手のひらを上に向ける独特な構えをウルが見間違えるはずも無く、目を丸くさせた。

すると、リオンを中心に魔力が渦巻く。

 

 

「一体どこでその魔法を!!!」

 

「アンタがなかなか強い魔法を教えてくれないから、倉庫の魔導書を読ませてもらった。こんなに強い魔法を隠してたんだ…… "絶対氷結(アイスドシェル)"!」

 

 

一人蚊帳の外のグレイは、リオンが最後に零した魔法名をオウム返しに呟く。

一方ウルはとてもじゃないが尋常ではない様子で焦っており、慌ててウルの首元の服を掴んだ。

 

 

「リオン!!その本、最後まで読んでないだろ!!! その魔法を使った者は……」

 

 

その先の言葉は続かなかった。

理由は単純、リオンの魔力がドッ!とドーム状に展開し、ウルを間接的に払い除けたからだ。

そしてそれと同時に、デリオラも凄まじい魔力の流れを感じ取り、ギロッと魔力の発生源であるリオンを睨んだ。

 

 

「デリオラにはどんな魔法も効かない……。ならば、この魔法で永久に氷の中に閉じ込めてやる」

 

「その魔法を使ってはならん!!!」

 

 

リオンの魔力が今か今かと解放されようとした時、それを止めたのはウルだった。

渦巻く魔力の外側からリオンを凍りつかせ、ウルはリオンの魔法の使用を阻止した。

 

 

「ウル!! 何を…」

 

「ダメなんだ…。絶対氷結(アイスドシェル)は……使った者の身を滅ぼす」

 

 

何をしていると言おうとしたグレイの言葉は、ウルのまさかの言葉で喉の奥へと引っ込んだ。

だがウルの表情は何故か、誇らしいと言外に語った微笑を浮かべていた。

 

 

「しかし…あいつを倒すにはこれしか無いのも事実……。まさか…私がやろうとしていた事をリオンがやろうとするとはな…。さすがは弟子だ」

 

 

放心状態のグレイには、ウルが何を言っているのか理解が遅れる。

その隙に顔を引き締めなおしたウルは「下がってろ!」と声を上げて、凍らせたリオンよりも前へと飛び出し、リオンと同じく腕を交差する構えを取った。

 

 

「私の弟子たちには近づけさせないっ!!! これで終わりだ!!バケモノォ!!!」

 

 

咆哮を上げながら進撃する厄災と同じくらいの荒々しさを持った叫びは、錯覚か、デリオラの動きを一瞬止めたようにも見えた。

デリオラの拳がウルに降りかかる直前、ウルはその交差した手を振り払った。

 

 

絶対氷結(アイスドシェル)!!!」

 

 

その刹那のこと、デリオラとウルを囲うようにいくつもの魔法陣が展開される。

身の危険を感じて拳を引っ込めるデリオラだが時すでに遅し、何とかならないかと熟考するも全ては後の祭り。

大質量の氷の塊がのしかかったと錯覚するほどの凄まじい冷気が辺りを包み込み、ウルの身体に変化が現れ始める。

なんと右の目の辺りから耳に掛けて、人の身体に現れるはずのない亀裂が入りはじめた。

 

「体が!?」

 

「言ったろ? この魔法は身を滅ぼす。自らの肉体を氷へと変える魔法なのだ。永久にな」

 

 

その禁忌とされる魔法を知らないグレイに語りかけるように、ウルはそう口を開き、絶句した。

だがウルはなんでもないように淡々と言葉を紡ぐ。

 

 

「グレイ…頼みがある。リオンとコユリには、私は死んだと伝えてくれ」

 

「え…?」

 

「あいつらの事だ。私が氷となった事を知れば、この魔法を解く為に人生を棒に振るだろう。それでは私が氷となる意味がない」

 

 

ウルが何を言ったのか一瞬思考が停止するグレイだったが、続いた言葉で嫌でも理解された。

やめろ、そう叫ぶがもう遅かった……何もかもが。

手を伸ばすもあまりにも遠く届かない。

 

 

「二人にはもっと世界を見てもらいたい。グレイ…もちろんお前にもだ」

 

 

渦巻く魔力が突風を起こし、近づいてくるグレイを吹き飛ばした。

空中で一回転して転び、うつ伏せの状態から顔を上げるグレイ。

酷く顔を歪めているも、初めて会った頃の憎悪の感情は欠片も感じなかった。

その顔は悔恨がひしひしと表れ、目は潤み鼻はたれ情けなく開けられた大口から飛び出したのは、今までのグレイからは想像もつかない懺悔の言葉だった。

 

 

「頼む……もうやめてくれ…。これからは何でも言う事聞くからぁ……」

 

 

心の何処かで、彼も理解していたのだろう。

デリオラを憎みながら修行してきた日々だったが、確かに感じる充実感を。

出来ないことが出来るようになっていく達成感を。

そしてもう二度と与えられないと思っていた親愛の情を。

こんな状況でようやくこれ程の物を与えられたと分かったのに、彼女はその恩を返させる間もなく遠い場所に行こうとしている。

 

 

「悲しむ事はない」

 

 

だがウルの口から出たのは、小さな子を落ち着かせるかのような慈愛に満ちた言葉だった。

そして振り向いたウルは、魔法の効力で身体の半分が消えながらも、いつもと変わらない微笑を浮かべていた。

 

 

「私は生きている」

 

 

その言葉を最後に、ウルの姿はフワッと消えてしまった。

まるで最初からそこに居なかったかのように、たんぽぽの綿が風に吹かれ空へ舞うように。

 

 

―――氷となって 永遠に生きている

 

 

そして(ウル)はそのままデリオラを包み込んでいく。

包み込まれていた端からデリオラは動きを固定されていき、カチカチと固まっていく。

 

 

―――歩き出せ 未来へ

 

―――お前の闇は 私が封じよう

 

 

「ウルーーーーーーッ!!!!!!」

 

 

こうしてイスバン地方を荒らし回った厄災の悪魔は封じられ、グレイにこびりついていた闇は晴れた。

だが、彼らの物語にはまだほんの少しだけ続きがあった。

 

戦っていた時間が夜明け間近という事もあり、リオンが目覚めた時には日が昇り始めており、空を青く染めかけている。

眼前に広がる青い空を見て、リオンは即座に意識を覚醒させて上体を起こした。

 

 

「な……!デリオラが!! ウルは!?ウルはどうした!!?」

 

 

それと同時に、リオンは目の前に氷漬けにされたデリオラを目にした。

目を輝かせながらこの偉業を行ったであろうウルを探すも、姿が見当たらずグレイに聞く。

だが、蹲るグレイから聞かされたウルの実情は、リオンの精神を破壊するには十分すぎた。

 

 

「…し…死んだ……」

 

「……うそ…だ……。うそだぁーーーーっ!!! オレの夢はどうなる!!?ウルを超えるオレの夢はどうなるんだ!!ええ!?」

 

 

胸ぐらを掴みあげそう怒鳴るリオンに、グレイは謝罪の言葉を紡ぐ事しかできない。

だが謝ったところで、ウルはもう帰ってこない。

永久に閉ざされた夢への道。

誰よりもリオン本人が自覚しており、その絶望は計り知れない。

 

 

「くそっ…くそっ!! お前さえ……お前さえデリオラに挑まなければ…!! お前がウルを殺したんだ!!!」

 

 

全ての怒りを、憎悪を、そして殺気をグレイにぶつける。

涙に濡れた顔は一向に渇く余地が見えず、自身の心がカチカチと冷たく凍っていくのを感じる。

それは、何も二人に限った話では無い。

 

 

「どういう…こと……?」

 

「ッ!! ……コユリ…!」

 

 

騒ぎが収まり、デリオラが氷に閉じ込められたところを遠目でもしっかり確認できたコユリが、最悪のタイミングで合流してしまった。

 

 

「グレイが…ウルを殺したって…何? 戦いは終わったんでしょ……? ねえ、早くあの家に帰ろうよ……ウルから教わらないといけない事、私まだいっぱいあるんだよ?」

 

 

目からハイライトが消え、自分に語りかけるようにそう言葉を紡ぎ続けるコユリの姿は、酷く痛々しかった。

典型的な現実逃避に走るコユリを見て、リオンは力無くグレイの胸ぐらを掴んでいた手を離し、グレイに向けたものと同じ冷たい視線を向けた。

 

 

「どの(ツラ)下げてそんな事言ってんだよ……コユリ…」

 

「……へ?」

 

 

思いもよらなかったリオンからの冷たい言葉に、コユリは思わず素っ頓狂な声を上げた。

だがリオンはそんな状態の彼女に気づいているのか否か、そのままさらに内に秘めていた思いを吐露し始めた。

 

 

「お前も、ウルの足を引っ張ってた要因の一つだろ……。いつまでたっても上達しねえお前に、ウルはどれだけの時間をお前だけに割いたと思ってる。その時間さえあれば、オレはもっと高みにも行けたハズだったのに……ウルだって自分を見つめ直す時間を作れたハズなのに…! お前が奪った時間が、ウルの首を絞めて殺すことになったんだろ!! お前もグレイと同類だよ!!!」

 

 

だんだんと激しさを増していくリオンの言葉を聞き、コユリは膝からその場で崩れ落ちた。

ウルが自分に必要以上に付き合ってくれていたという自覚もあり、リオンの言葉はグサグサと刺さってくる。

 

 

「だって……私…」

 

「言い訳なんか聞きたくねえッ!!! オレを持ち上げる前に、まず自分をどうにかしたらどうなんだよ!!! いつまでも出来損ないの癖して傲慢な奴が、ウルの名を語るんじゃねえよッ!!!」

 

 

コユリとて、そう出来るのならそうしたかった。

だが、それを邪魔したのは他でもない彼女の消極的な考えと彼女自身のプライドだった。

幼なじみであるリオンの前でそんな事聞けば、内心バカにされるかもしれない。

自分は家事などはリオンよりも上手くできたのだから、魔法だってきっと上手くいくハズ。

そんな考えとプライドが彼女に意地を張らせ、ここまで来てしまったのだ。

その張った意地が水面下でリオンとコユリの間で少しずつ亀裂を作っていき、ウルの消滅をキッカケに断崖してしまったのだ。

 

 

「お前も!グレイも!!ウルを殺した原因だ!!! 二度とオレの前に姿を現すんじゃねえ!!!」

 

 

こうしてリオンはブラーゴの街を去り、以来二人と顔を合わせることは無かったのだった。





という訳で重ね重ね申し訳ないです!( *>.<; )!
本当はこれの半分くらいで出すつもりだったんですが、文字数足りない上に全然進まないなって思って次話分も書いたら余裕で1万字超えました:( ;´꒳`;):
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