妖精の尻尾の双竜   作:uru1629

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間が空いて申し訳ないです。毎日投稿してる人ってすごいですねって肌身で感じました。


双竜と猿と牛

 

すっかり夜は更けていく中、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の中は昼の時と相変わらずバカ騒ぎしていた。

 

 

「ナツ。遅くなったけど、おかえりなの」

 

「おう! ただいま、レア!」

 

 

レアはこの時間になってようやくナツに話しかけた。

それに対しナツは大量の燃え盛るファイヤーグルメ(物理)を前にニカっと笑って応えた。

短くそれだけ済ますと、ナツは目の前のファイヤーグルメに食らいついた。

 

 

「それで、他の人から聞いたけど、ハルジオンに出た火竜(サラマンダー)って言うのが、ナツの名を語った別人だったって事かしら?」

 

「そう言う事みたいだね」

 

 

ムシャムシャと料理を貪っている隣で、猫同士が簡単なやりとりをする。

 

火竜(サラマンダー)がハルジオンに出たという噂をギルドメンバーから聞いたナツはそこに向かった訳だが、フリーシャが言った通り、それはナツの(あざな)を語った偽物であったに過ぎなかった。

そこまでであらばナツにとって迷惑ではあるものの、大した問題にはならなかった。

しかしその偽物はその名を利用して多くの女性を誑かし、他国に売り捌く奴隷商に手をつけていた。

火竜(サラマンダー)の名に加え、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の名まで勝手に名乗っていたことに対して激怒したナツは、その場で偽物をボコボコにし、ハルジオンの港を半壊させたと言うのが簡単な事の顛末だ。

 

 

「ナツが火竜(サラマンダー)なら、オイラはネコマンダーでいいかなぁ」

 

「その理屈だと、リーシャもネコマンダーってことになるかしら」

 

「……マンダーってなんなの?」

 

「聞くところ絶対そこではないのよ……」

 

 

ハッピーの意味不明発言からレアの天然発言に、フリーシャはこめかみを押さえつけた。

レアはこのように天然なところがあり、その天然ぶりにはあのナツでさえ振り回されるほどにはレア・ギルティというキャラクターはフワフワしている。

 

 

「ナツー! 見て見て!ギルドマーク入れて貰っちゃったぁ!」

 

 

フリーシャがボケの処理に頭を抱えていると、ミラに手の甲へ妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマークを入れて貰ったルーシィが嬉しそうに見せびらかしながらこちらへと寄ってきた。

 

 

「よかったな、ルイージ」

 

「ルーシィよ!!」

 

 

しれっとボケるナツにルーシィはフンガーとなりながらツッコミ返す。

しかしそんな事知らないというかのように、ナツはレアと一緒に依頼書を貼っている依頼板(リクエストボード)の立ち眺めだす。

金が無いため報酬の良いのをというハッピーのリクエストに答えるかのように、手頃の依頼はすぐに見つかった。

 

 

「盗賊退治で23万Jだ!!」

 

「ん、お得。これで決まりなの」

 

 

ナツはレアの言葉にだな!と返事をして依頼書をボードから引きちぎった時だった。

 

 

「父ちゃん、まだ帰ってこないの?」

 

 

そんな今にも泣きそうな声が耳に入る。

揃って声の聞こえた方向へ視線を送ると、そこにはマカロフと同じくらいの少年……名を『ロメオ』がカウンターのテーブルに座っているマカロフを見上げる形で詰め寄っていた。

この少年、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士……名を『マカオ』を父に持つ魔導士の息子である。

話によれば、彼の父マカオは依頼に出たきり帰ってこないのだと言う。

しかも彼の父の言葉で3日で帰ると言ったにも関わらず、既に1週間が経過しているのだ。

単純に考えれば何かあったと考えるのが普通であり、ロメオの心配は他の人の常軌を逸する。

彼も声を荒げて探しに行くよう訴えるが、返ってきた言葉は、ロメオにとってはあまりに無慈悲だった。

 

 

「探しに行ってくれよ! 心配なんだ!!」

 

「冗談じゃない!! 貴様の親父は魔導士じゃろ! 自分のケツも拭けねぇ魔導士なんぞ、このギルドにはおらんのじゃ!!

帰ってミルクでも飲んでおれい!!」

 

 

突き放すかのようなマカロフの言葉に、とうとうロメオは涙をその目に浮かべる。

悔しさのあまり力なく俯く。

 

 

「バカーー!!」

 

「おふ!」

 

 

その悔しさをバネに、ロメオはその拳をマカロフの顔面にめり込ませてから、タッタッタと逃げるようにギルドを出ていった。

 

 

「厳しいのね……」

 

「あんなこと言っても、本当は総長(マスター)も心配してるのよ」

 

 

その様子を遠目で見ていたルーシィは気の毒そうに溢し、ミラは皿を洗いながらマカロフを擁護するようにそう言った。

一方、レアはその様子を黙って見て、何時ぞやの自分と今のロメオの姿を重ねていた。

 

 

『何か言ってよゼルネールぅ…』

 

「……!」

 

 

ロメオの今の気持ちは痛いほどレアに伝わっていた。

ずっと一緒にいると信じていた大切な人が、ある日突然居なくなり、孤独に苛まれる。

その孤独感、喪失感に、レアは胸を締め付けられるかのような錯覚を覚える。

 

 

「……」

 

ズシンッ!!

 

 

そして、それはレアだけでは無かった。

 

 

「オイナツ! 依頼板(リクエストボード)壊すなよ!!」

 

 

音の鳴った方向を見ると、ついさっき引きちぎった依頼書を依頼板(リクエストボード)の元の場所にめり込ませたナツが、自分の荷物を持ってさっさとギルドを出ていってしまった。

いつも依頼板(リクエストボード)を眺めるだけで仕事に出かけない妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士の一人、ナブの注意も聞かずにギルドを後にする姿はどこか重い雰囲気があった。

 

 

「ナツ……」

 

総長(マスター)…ナツのやつ、ちょっとヤベェんじゃねぇの?」

 

 

ナブの言葉を皮切りに他の者たちもやれガキだの、やれマカオの自尊心が傷つくだの口々にナツを非難するかのような言葉を放つ。

しかしそれらはあくまでもマカオ思ってのことだった。

騎士には己の騎士道があるように、魔導士にだって、譲れないプライドなどもあるのだ。

しかし、マカロフはこれらの言葉をバッサリと切り捨てた。

 

 

「進むべき道は誰が決めるでもねぇ。放っておけぃ」

 

 

そう言ってロメオに殴られたことなど無かったかのようにパイプを加え、煙をふかした。

 

 

「…ど……どうしちゃったの? アイツ急に…」

 

「ナツも、ロメオくんと同じだからね。…自分とダブっちゃったのかな」

 

 

事情を知らないルーシィにミラはそう答える。

どこか悲痛な表情を浮かべるミラはルーシィのえ?という返答に続けて口を開く。

 

 

「ナツのお父さんも、出ていったきり帰ってこないのよ。お父さん……って言っても、育ての親なんだけどね。

しかもドラゴン」

 

 

最後のミラの爆弾発言に、ルーシィは椅子から転げ落ちた。

なんとかカウンターにしがみついて座り直すも、育ての親がドラゴンという事実はルーシィにとっては信じられないものであり、声を荒げるが、ミラが静かに「ね」と静止の声をかけ落ち着かせる。

 

 

「小さい時、そのドラゴンに拾われて…言葉や、文化や…魔法なんかを教えて貰ったんだって。

でもある日、ナツの前からそのドラゴンは姿を消した」

 

「そっか……それがイグニール」

 

 

そうしてルーシィは合点がいった。

ハルジオンで初めて出会ったとき、ナツは本物のドラゴン…イグニールを探して火竜(サラマンダー)の噂を聞きつけてきたのだと。

彼があの時見せつけた彼の魔法…滅竜魔法(ドラゴンスレイヤー)を教えたのだと。

一人で答え合わせをしていた時だった。

ルーシィは突然隣に人の気配を感じ、慌てて横を見ると、ナツと負けず劣らずの量の荷物をまとめたレアがいた。

 

 

「レ……レア…? 急にどうしたの?」

 

「レアも、マカオ探しに行くの。ナツだけだと心配だから」

 

「あらあら」

 

 

レアはそれだけ言うと、フリーシャを連れて駆け足でナツを追いかけていった。

その様子に、ミラはかわいい子供を見るかのように微笑ましく眺め、ルーシィはただ呆然と、その背中を眺めていたのだった。

 

 

〜〜〜

 

 

「でね! あたし今度ミラさんの家に遊びに行くことになったの〜♡」

 

「下着とか盗んじゃダメだよ」

 

「盗むかー!」

 

「違うかしらハッピー。彼女にはそんな度胸も覚悟も無いのよ」

 

「盗む気もないわよ!!」

 

 

マカオが向かったというハコベ山への馬車の中。

その中には、馬車に酔ってぐったりしているナツとレア、寄り添いあって座っているハッピーとフリーシャ、そして何故かルーシィが乗車していた。

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

「な、なんで……ルーピンが、うっぷ……いる、の?」

 

 

しれっとボケるレアにルーシィは自分の名前を訂正するツッコミを一つ入れてから目をキラキラさせながら答えた。

余談だが、今のレアのルーピン発言、いつもの天然発言だったりする。

 

 

「だって、せっかくなら何か妖精の尻尾(フェアリーテイル)の役に立つことがしたいなぁ〜〜」

 

 

と、ルーシィは言っていたが、猫2匹は役立つことをして自分の株を上げたいんだと謎に確信していた。

しかし、そんな軽い気持ちで行くほど、この先の場所は甘くない。

 

 

「っていうか、ナツは分かってたけど、レアも酔いやすい体質なの!?」

 

「まぁ、そうなのよ。ナツとレア、二人揃ってグロッキーになるから毎度毎度大変なのかしら」

 

「うっ、大きい声出さないで……気持ち悪いの」

 

 

レアは口を抑えながら本当に苦しそうにそう訴える。

何か別の話題をと考えたとき、ルーシィはポンと手を叩いた。

 

 

「ねぇねぇ、そういえば聞きたかったんだけど、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に《双竜》っていう二人組がいるでしょ? 一人は火竜(サラマンダー)のナツ、もう一人は?」

 

「あぁ。それなら…」

 

 

ルーシィの質問にフリーシャが答えようした時だった。

突然馬車がガタッと音を立てて止まった。

 

 

「止まった!!」

 

「復活なのー!」

 

「今日は比較的短い距離でよかったかしら」

 

「あい」

 

 

馬車が止まったことにより乗り物酔い組は揃って喜びを露わにする。

ネコたち介護組も二人の早い復活に安堵の息を漏らした。

これ以上は馬車では進めないと、運転手の忠告が入り、ルーシィが礼を言って扉を開けたときだった。

目に入ったのは辺り一面真っ白な景色だった。

 

 

「何コレ!? いくら山の方とはいえ、今はまだ夏季でしょ!!?」

 

 

轟々と横から殴りつけるような吹雪にルーシィは怯みまくり、中々馬車から降りられないでいるが、吹雪なんぞ気にしないと言わんばかりにナツとレアはさっさと馬車を降りる。

それに観念したかのように、ルーシィも馬車から降りた。

 

 

「寒っ!!」

 

「そんな薄着してっからだよ」

 

「だらしないの」

 

「アンタらも似たようなモンじゃないっ!!」

 

 

この場合はルーシィの方が正しい。

ルーシィが言ったように今は夏季であり、街中では薄着であっても若干暑いと感じるくらいだ。

それが一変して真冬の空になれば対策をしていなければ動くこともままならないはずだ。

ルーシィはノースリーブにショートパンツというバリバリの夏の格好出し、ナツに関しては上半身の前が完全にオープン状態である。

この中で一番服を着ているレアであっても、セーラー服とそれは決して真冬の寒さに耐えれる格好とは言い難い。

毛皮で全身を覆っているネコ2匹を除き、正常な反応を示しているのは1人だけという異常光景だが、ツッコむ者は誰もいない。

ルーシィはナツのリュックに背負われている毛布を無理やりぶんどっては包まり、腰から鍵束をとっては銀の鍵をかざした。

 

 

「ひひ…ひ…開け……ととと…時計座の扉…ホロロギウム!」

 

「おお!」

 

「時計だ!」

 

 

ボフンと煙が巻き上げ、晴れて現れたのは古時計の星霊だった。

ナツとハッピーは目を輝かせ、レアとフリーシャは特に興味が無いのか、黙ってホロロギウムを見ていた。

顕現させた星霊で何をするのかと思えば、いつの間にか振り子の部分にルーシィが入り込んでいた。

 

 

「『あたし、ここにいる』と申されております」

 

「何しにきたの?」

 

 

レアが冷たくそう言い放つが、寒さでそれどころでは無いルーシィは再び口をぱくぱく動かす。

しかしやはりルーシィの声は聞こえず、続けてホロロギウムが代弁する」

 

 

「何しにきたといえば、マカオさんはこんな場所に何の仕事をしに来たのよ!?』と申しております」

 

「知らねえでついてきたのか? 凶悪モンスター『バルカン』の討伐だ」

 

 

ナツが質問に淡々と答えると、今尚毛布に身を包んでいるルーシィはギョッと目を開かせた。

馬車の中での元気は完全にどこ吹く風だった。

 

 

「『あたし帰りたい』と申しております」

 

「はいどうぞと申しております」

 

「あい」

 

「帰りの馬車は無いから気をつけて帰るようにと申しておりますなの」

 

「かしら」

 

 

ルーシィのことは軽く流し去り、二人と2匹と一体は歩を進め始めたのだった。

 

 

「マカオー!!いるかー!! バルカンにやられちまったのかーー!!」

 

「ナツ。縁起でもないの。うわっぷ!?」

 

「レアは気が抜けてるんじゃ無いかしら?」

 

 

叫ぶナツにそうツッコんだレア。

だがその直後、雪に足を取られて彼女の体はあっという間に雪に埋もれた。

次の瞬間。

 

 

ドゴォォン!!!

 

「バルカンだー!」

 

 

ナツ目がけて巨大な猿、バルカンが襲いかかってきた。

吹雪のせいで視界が悪い中、ナツは間一髪でバルカンの不意打ちを避ける。

そのまま追撃を仕掛けるかと思いきや、バルカンはナツを無視して、ある一点に突っ込む。

その一点とは、ルーシィを中に入れているホロロギウムの元だった。

 

 

「人間の女!」

 

 

突然目の前に現れたルーシィが驚いているのを他所に、バルカンはホロロギウムを担ぎ上げ、「うほほ〜」と喜びの声を上げながらその場を去っていった。

バルカンが去っていったタイミングで、レアは「ぷはっ」と少し色っぽく声を上げながら雪から這い上がった。

 

 

「アイツ、喋れるのか」

 

「ん。喋れる魔物は珍しいの」

 

 

冷静に分析しているの中、ルーシィの助けを求める悲鳴が…響くことはなく、ホロロギウムがそれを代弁するというシュールな絵面が出来上がっていた。

 

 

〜〜〜

 

 

「なんでこんな事に……なってる訳〜〜〜!!?」

 

「と申されましても…」

 

「なんかあの猿テンション高いし!!」

 

 

ルーシィは現在、窮地に立たされていた。

ホロロギウムごとルーシィを誘拐したバルカンは洞窟に着いたかと思うと、最深部にゴトっと置き、何故かその周りで踊り始めたのだ。

ここに来た事に何度目かわからない後悔の念を抱くルーシィだが、一度それを仕舞っては冷静に状況を分析しようとホロロギウムのガラス部分に顔を近づけて外の確認する。

 

 

「女!」

 

「ヒッ!」

 

 

そしてそれを待ってましたというが如く、バルカンはルーシィの顔に自身の顔を近づける。

数秒の後。

 

 

ボンっ!!

 

 

ホロロギウムが消え、ルーシィは外に追い出されてしまった。

 

 

「ちょ……ちょっとォ! ホロロギウム!!消えないでよ!!」

 

「時間です。ごきげんよう」

 

「延長よ! 延長!!ねえっ!!!」

 

 

ルーシィは喉が裂ける勢いで叫ぶも、返答はなし。

一方バルカンは、ようやく壁無しでルーシィとご対面できたのが嬉しいのか、フンスフンスッ!と鼻息を荒くしている。

完全に変態の所業である。

 

 

「もう! 覚悟を決めるしかないっ!」

 

 

いいかげん目の前の猿の変態具合に嫌気が差したのか、ルーシィはさっきまでの弱気な様子とは一変し、腰の鍵束に手を伸ばす。

先ほどのホロロギウムとは違う金の鍵を手にしてかざす。

 

 

「開け! 金牛宮の扉、タウロス!!」

 

「MOーーー!!!」

 

 

現れたのは巨大な斧を担いだバルカンの大きさにも劣らない体格を持った牛だった。

 

 

「あたしが契約している星霊の中で一番パワーのあるタウロスが相手よ! エロザル!!」

 

 

そうしてバルカンと対峙するルーシィ。

だったが。

 

 

「ルーシィさん!! 相変わらずいい乳してますなぁ」

 

「そうだ……こいつもエロかった…」

 

 

タウロスもルーシィの体(主に乳)を見てバルカン同様鼻息を荒くしていた。

重大な欠点を今思い出したかのように、ルーシィは頭を抱えてため息を吐く。

 

 

「ウホッ! オデの女とるなっ!」

 

「オレの女? それはMO(モ〜)聞き捨てなりませんなぁ」

 

「そうよタウロス! あいつをやっちゃって!!」

 

 

バルカンの発言にピクッと反応したタウロスはヅカヅカと距離を詰める。

傍らから見れば巨大怪獣のぶつかり合いというお年頃の男子にとっては胸熱のシーンに見えるだろう。

 

 

「『オレの女』ではなく『オレの乳』と言ってもらいたい」

 

「もらいたくないわよっ!!!」

 

 

しかしどちらも中身がエロいのでただの淫獣のぶつかり合いという胸糞もいいところであった。

ギャグみたいなノリで進んでいるが、ルーシィにとっては苦しい状況であった。

さっきまでホロロギウムを時間いっぱい召喚していた事が今現在彼女の首を絞めていたのだ。

星霊魔導士は召喚と星霊をルーシィたちの世界にとどまらせる事に魔力を使い、現在のルーシィの魔力は多いとはいえず、タウロスを今戦わせる事ができる時間も五分と無いだろう。

であれば、今の彼女の勝機とは相手が対応できないくらいのパワーで一気押し切ることである。

それをタウロスもわかっているのか、斧を構えて一気にバルカンに距離を詰める。

 

 

「うおおおぉぉぉ!!! 火竜の鉄拳!!」

 

 

そこに、ようやくバルカンに追いついたナツがナイスタイミングで右の拳に炎を纏わせ、勢いよく殴り飛ばした!

 

 

「MOふっ!!?」

 

「そっち!!?」

 

 

タウロスを……。

 

 

「なんで怪物が増えてるのよ!?」

 

「それ味方!! あたしの星霊!!!」

 

 

遅れてレアたちも到着した。

が、やはりタウロスのことを敵側と勘違いしていた。

そして吹っ飛ばされたタウロスはというと。

 

 

「MO…ダメっぽいですな……」

 

「弱ーーーッ!!!」

 

 

完全にノックアウト状態であった。

ルーシィも仮にも自分が契約している星霊だというのに中々ひどい言いようであるが、一撃で落とされては致し方ないといえるかもしれない。

 

 

「ルーシィ無事見たいだね」

 

「ま、まぁ……一応」

 

 

ハッピーがそう言ってルーシィの元に駆けつける。

だがルーシィとしては、自分の星霊が呆気なく、それも味方に吹っ飛ばされた事になんとも言えない気持ちになっていた。

 

 

「ナツ、突っ込みすぎなの」

 

「レアだってそう変わらねぇだろ」

 

 

レアはそう言いながらナツの横に並び、ナツも慣れた様子で言葉を返し、腕をグルングルンと振って準備運動を始めていた。

レアも戦うのかと察したルーシィだったが、未だにレアの魔法がどんな魔法なのか知らないルーシィは疑問符を浮かべる。

 

 

「うしっ! やるか、レア!」

 

「ん! 肩慣らしには丁度よしなの!」

 

 

二人と対峙したバルカンはニンマリと悪い笑みを浮かべていた。

 

 

「オデをただのバルカンと思うな!」

 

 

そう言ったバルカンは胸を叩き始めた。

ゴリラ特有の行動であるドラミングだ。

するとバルカンの周りで不思議なことが起こり始めた。

なんと周囲に氷が浮かび上がってきたのだ。

ドラミングを続けるごとに氷の鋭利さは増していき、やがてドラミングが止まると、氷…もはや氷柱と行っていいそれらは一斉にナツたちの方へ向いた。

 

 

「ウホォ!!」

 

 

そうしてバルカンが地面に拳を叩きつけると、宙に浮いている氷柱は一斉にナツたちに向かって飛んでいった。

ものすごい勢いで飛んでくる氷柱はまさに氷のミサイル。

ナツとレアは咄嗟にそれぞれ左右に分かれて氷柱を全弾避けた。

大量にあった氷柱だったが、途中で方向転換はできないらしく氷柱は全て氷の壁に突き刺さって終わる。

しかし、ナツにとっては避けた先に運が無かった。

 

 

ドカッ!

 

「「「「あ」」」」

 

「……あああああああ!!!!!」

 

「ナツーーーーー!!!!」

 

「オデ…女好き……男いらん」

 

 

ナツは偶然空いていた壁の穴からバルカンによって押し出され、崖へと真っ逆さまに落ちていった。

 

 

「ハッピー、ナツをお願いなの!」

 

「あいさー!」

 

 

素早いレアの指示にハッピーはナツが落ちた穴へと飛び出した。

ちなみにレアが避けた先は丁度ルーシィがいる場所、つまり洞窟の最深部である。完全に逃げ場がない状態に追い込まれた。

 

 

「何なの!? バルカンってこんな事もできるの!!?」

 

「普通はできないのよ! おそらく変異種かしら」

 

 

そう、バルカンは普通こんな魔法は使えない。

明らかな異常個体であったが、フリーシャは不敵に笑った。

 

 

「けど、あのバルカンも相手が悪かったかしら」

 

「そ、そうよね。落とされちゃったけど、ナツがいるんだもん」

 

「確かに、火の魔道士ならあんな氷の魔法はほとんど意味は無いかしら。でも、()()()()()()相手が悪かったのは別の部分にあるのよ」

 

 

バルカンがレアたちに向き直り、再びドラミングを始めた。

氷が宙に浮き、鋭利さがさっきにも増して鋭くなる中、レアは両手を広げてルーシィとフリーシャの前に立った。

 

 

「ダ、ダメ! レア、避けて!!」

 

「ウホオオオォォォ!!!」

 

 

ルーシィが悲鳴をあげるも、バルカンの雄叫びと地面を叩きつける音に掻き消され、さっきよリも数と鋭利さを増した氷柱が飛んでくる。

鋭利さを増したおかげか素早さもさっきより増しており、氷柱は瞬きをしている間にあっという間に懐まで飛んでくる。

レアに当たる瞬間、ルーシィは反射的に目を閉じた。

あぁ、何ということだ……。

あの人形のように小さく、華奢な体のレアがこうも無惨に無慈悲に無秩序に無策に無意味に……。

 

しかし、ルーシィはいつまで経っても聞こえてくるはずのレアの悲鳴が聞こえず、それどこか衝撃も無く、恐る恐る目を開いた。

ルーシィの目に映ったのは、無数の氷柱がレアに着弾する事なく、レアの周囲をグルグルと回り、最終的にはレアの()()()に入っていくところだった。

 

 

「はあああぁぁぁ!!!?」

 

 

思わず叫ぶ。

だが、この光景には見覚えがあった。

どこかで既視感を覚えていた。

つい先日、ハルジオンにてナツがボラの炎を食べていた……。

 

 

「まさか!?」

 

 

ここまで考えてやっとルーシィも悟った。

思えば、ここまでも気づける要素はいくつもあった。

 

ナツとハッピーと同じように、レアと常に一緒にいるフリーシャ。

ギルドにてマスターが読み上げたナツに匹敵する不祥事の数々。

ナツと同様乗り物に酔いやすい体質。

そして馬車の中でのフリーシャの「ナツとレア、二人揃ってグロッキーになるから毎度毎度大変なのかしら」という言葉。

毎度ということは、既に何回か仕事を共にしたかとがある。

これほどの共通点があって尚気づかなかったとは…。

 

 

「……水竜(リヴァイアサン)

 

「んくっ…ぷはっ、ご馳走様なの」

 

 

少し色っぽく息を吐いたレアは満足そうにバルカンを一目見て、顔だけルーシィに向けた。

 

 

「わかっているとは思うけど、改めて自己紹介なの。

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の『双竜』の片割れ、レア・ギルティ。よろしくなの」

 

 

そう言ってレアは顔を正面に向き直した。

 

 

「食べたら力が湧いてきたの!」

 

 

その声にバルカンはハッ!と我に帰り、氷がダメなら自分が!とレアに向かって突進を仕掛ける。

レアは勢い良く息を吸い込む。

そして。

 

 

「水竜の咆哮!!!」

 

 

渦巻く水流のブレスがレアの口より放たれた。

バルカンは顔を真っ青にさせ、慌ててそこから回避行動を取った。

躱されたブレスは真っ直ぐ飛んでいき、ドゴオォン!と洞窟を貫通し、ナツが落ちた穴を拡張させた。

 

 

「す…すごい」

 

「竜の肝は水を喰らい、竜の鱗は水の形を変え、竜の爪は水流を纏うかしら」

 

「氷だったじゃない!」

 

 

ナツと同じ滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)であることはルーシィにも理解はできた。

しかし、あの時ナツが火を食べたのとは訳が違う。

水の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)であるレアが氷を食べたことがルーシィにとっては謎であった。

だが、すぐにフリーシャが答えてくれた。

 

 

「氷だって元は水かしら。

水の魔法と一括りに言っても色々あるかしら。水流を操る魔法や水中で効力を発動する魔法、水の温度を変える魔法もそうなのよ。

レアはそれらを巧みに操って、あらゆる状態の水を操ることができるのよ。普段は水蒸気を食べて魔力を供給し、氷の魔法もレアには効かないかしら」

 

 

フリーシャの説明にルーシィはポカーンとなった。

彼女の説明の通り、レアはあらゆる水を操ることが可能であり、その様と魔法の様子から水竜(リヴァイアサン)(あざな)で呼ばれている。

ちなみにこの(あざな)に関してはレア自身知らず、フリーシャも知らなかった故に帰ってから調べて初めて知ったのはここだけの話。

 

 

「ナツが帰ってこないならレアだけでやるの。フリーシャ、ルーシィの側にお願いなの」

 

「しょうがないかしら」

 

 

レアとフリーシャは短いやりとりを終え、ブレスから横に逸れたバルカンに向かう。

未だに顔を真っ青にしているバルカンはレアに接近に対して反応が遅れてしまう。

気づいて迎撃しようとしてももう既に時は遅し。

 

 

「水竜の鉤爪!!」

 

「ウホォ!!?」

 

 

水流を纏ったレアの蹴りがバルカンの顔面にクリーンヒットした。

バルカンはそのまま後方へ飛んでいった。

 

 

「俺も混ぜろォォォ!!!」

 

ドカアアァァン!!

 

 

そしてナツがハッピーによって崖から復活したと同時に、ナツのすぐ隣の壁に激突し、亀裂を入れた。

 

 

「ナツ、遅い。もう終わったの」

 

「何ィィィ!!?」

 

 

戻ってきたナツは戦いに参加できず不完全燃焼で不貞腐れる中、異変が起きる。

突然、さっきレアによって吹き飛ばされたバルカンが光だした。

 

 

「な…何だ何だ!?」

 

 

突然のことに、ナツはばっと距離をとって構える。

バルカンはしばらく発光し続けると、ボゥゥン!!とバルカンの巨体が消えた。

代わりに現れたのは紫の髪の丸刈りの男だった。

 

 

「マカオ!?」

 

「え!!?」

 

 

そう、この男こそ、ナツたちが探していたマカオ本人だった。

全身ボロボロであり、今は気絶しているようだった。

 

 

「バルカンに接収(テイクオーバー)されてたんだ!」

 

接収(テイクオーバー)?」

 

「体を乗っ取る魔法なのよ」

 

 

マカオも見つかり一件落着。

かと思いきや、マカオは不安定な体勢のまま、ズルッと滑って、ナツが落とされた穴に身を投げ出した。

 

 

「「あーっ!!」」

 

 

すぐに動き出した4人。

一番近くにいたナツがマカオの足を掴むも、気絶したマカオは重力に非常に従順な状態であり、完全に真っ逆さまである。

ナツが踏ん張るも、踏ん張りの効かない氷の上ということもあり、そのままつるんと滑って一緒に崖から追い出された。

その足をレアが掴むが、マカオの体重に加えナツの体重も合わさり、とても女子一人で持ち上げられるものでも無く、同様に崖から投げ出される。

レアの足をハッピーとフリーシャが掴んだ。

空中で制止した三人と二匹だったが、ジリジリと崖に吸い込まれていっている。

 

 

「三人は無理だよ! 羽も消えそう!!」

 

「弱音吐いてるんじゃないかしらッ!!」

 

「んんっ!」

 

「くっそぉおおっ!!!」

 

 

もうダメかと思われた時だった。

 

 

ガシッ!

 

 

ハッピーの尻尾が何者かに掴まれ、急に安定感が増したのだ。

そうして、そのまま三人はゆっくりと引き上げられる。

 

 

「MO大丈夫ですぞ」

 

「タウロス!!」

 

「牛ーーーっ!」

 

「いい怪物だったの!」

 

 

ハッピーを掴んだのはルーシィであり、そのルーシィを支えていたのは序盤にナツによって吹き飛ばされ、伸びていたタウロスだった。

パワー一番は伊達ではなく、三人は着実に引き上げられ、無事…とは言えないが、マカオの救出には成功した。

そして、意識を取り戻したマカオだが、息が荒い。

安静にし、上半身を脱がせると、腹部に痛々しい傷があった。

 

 

接収(テイクオーバー)される前に相当激しく戦ったみたいだね」

 

「マカオ! しっかりしろよ!!」

 

 

ハッピーは応急セットを広げて治療を行うが、とても応急処置では抑え切ることができず、今もドクドクと血が流れ出ている。

このままでは確実に助からない。

今から山を降りて病院に向かおうにも、その頃には出血多量であの世行きだ。

ルーシィは半ば諦めかけるも、二人は違った。

ナツは手に炎を纏い、レアはマカオから離れて水を出し、温度変化で氷を生成する。

炎を出したナツはその手でマカオの傷を押さえつける。

 

 

ジュウウウウウウウ!!!

 

「ぐああああぁぁぁ!!!」

 

「ちょっ…何してんのよ!」

 

「今はこれしかやれねぇ! ガマンしろよマカオ!!

ルーシィ! マカオを押さえつけろ!!」

 

「あぐあっあああ!!!」

 

 

そこでルーシィもナツの意図に気づいた。

傷口を焼くことで火傷させ、止血しようとしているのだ。

そして、ナツのやる事を行動する前から気づいていた、というより、ナツならそうするだろうと確信していたレアは塞いだ傷口を冷やすための氷を生成しているのだ。

 

 

「死ぬんじゃねえぞ! ロメオが待ってんだ!!」

 

 

ナツが傷口を塞ぎ、レアがその後の処置をテキパキとこなす。

 

 

「ふがっ! あっ! ぐ…。

ハァ…ハァ…クソ…! 情けねぇ…。19匹は倒し…たん…だ…」

 

「……え?」

 

 

突然話し出したマカオの言葉に、ルーシィは絶句した。

 

 

「うぐぐ…20匹目が魔法を使う異常個体で…接収(テイクオーバー)…され……グハッ!」

 

「わかったからもう喋んな!! 傷口が開くだろ!!」

 

「(ウソ…!? あの猿……一匹じゃなかったの!?)」

 

 

ルーシィの驚きは最もだ。

ナツが最初に言ったように、バルカンは凶悪モンスターの一匹だ。

並の魔導士では一匹でも手に余る相手であり、その群れなんて一人で受ける仕事ではなかった。

 

 

「チクショウ…! これ…じゃ……ロメオに…合わせる顔が…ね……くそっ…!」

 

「19匹も倒したら充分英雄なの! だから今は黙っててなの!でないとホントに殴るの!!」

 

「(……すごいなぁ。やっぱり……敵わないや)」

 

 

レアが珍しく声を荒げ、表情も顰めながら氷を火傷した腹に押しつける。

必死になるみんなの様子を見て、ルーシィの表情はどこか影を帯びたものになっていった。

こうして、マカオは無事救出され、マグノリアに戻ったのだった。

 

 

〜〜〜

 

 

夕日が沈みかけたマグノリア。

公園の傍らで本を読んでいる少年が一人。

ふと読むのをやめて顔を上げた。

見えたのは肩わ支えられながら歩く自分の父と、笑顔で片側を支える少年、もう片側を無表情ながらもどこか朗らかな雰囲気を出している少女だった。

平気そうな父の顔を綻ばせるロメオであったが、すぐにその表情は暗くなる。

 

マカオがこの仕事を引き受けたのは、ロメオの周りの子供たちが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士をバカにされた事からくる悔しさにより、同じギルドの魔導士である父にお願いした事が発端であったのだ。

その結果一週間も返ってこなくなるという大ごとになったのは自分のせいなのだと、自分を責めていた。

しかし、マカオはそんなロメオを叱るなんてことはせず、ギュッと抱きしめた。

 

 

「心配かけたな。スマねぇ!」

 

「! ……いいんだ。オレは魔導士の息子だから……」

 

「今度クソガキどもに絡まれたら言ってやれ」

 

 

そうしてマカオはロメオにニヒリと笑ってみせた。

 

 

「テメェの親父は怪物19匹倒せんのか!?ってよ」

 

「!!……うん!」

 

 

嬉しさのあまり、涙を流す。

この人こそ、自慢の父なのだと言うことがとても誇らしく思え、この瞬間の彼の顔は、この一週間の中で最も輝いていた。

ロメオは思い出したかのように遠くにいるナツたちに向かって手を振った。

 

 

「ナツ兄ーー!ハッピーー!レア姉ーー!フリーシャーー! ありがとーーー!!!」

 

 

ナツは背を向けたまま手を振り、レアも小さく微笑んで小さく手を振り返す。

 

 

「それと、ルーシィ姉もありがとぉっ!!」

 

 

ルーシィもロメオにレア同様小さく手を振り返し、公園を後にした。

吹雪に見舞われ、体の芯まで冷え込んだルーシィだったが、その温かい心によって、寒さなんてとうに忘れていた。

そして彼女は、このギルドを心から好きになれる。

そんな予感がしていた。




ちょっとこじつけ感が否めないかもしれませんが、ウチはこんな感じでやっていきますのでよろしくお願いします。

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