妖精の尻尾の双竜   作:uru1629

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uru1629です、お久しぶりでございます。
半年以上も更新が止まって申し訳ないです。途中で筆が止まってしまい、何を書いても納得出来なかった期間があったのでしばらく執筆を休止していました。これからもそういう事が発生するかもしれませんが、作品を完結する気概はありますので、更新が止まったら「あ、今スランプかなんかなんだな」と察して頂けると幸いですm(_ _)m


親として

 

レアのママになる宣言から既に1週間が経過していた。

当初の予定では既に規定数の(バルカン)を倒して帰り支度を整えているところであった。

しかし、レアのあれからの討伐進捗はたった7。

なんと1日一体のペースでしか進んでいないのだ。

こうなってしまった理由は至極単純である。

 

 

「んー…ほんとうに甘えんぼさんなの」

 

 

そう口に零しながらも柔らかな目で自身の腕の中に収まるタマゴを眺めてそっと撫でた。

察するであろうが、原因はこのタマゴにある。

このタマゴ、タマゴとは思えないほど型破りである。

自分から跳ね出すことから始まればレアの呼びかけに答えるかのように殻の内側から音を鳴らし、あまつさえ甘えるかのように()()()()()擦り寄るのだ。

 

可愛くはあるのだが、これがレアをこの場に留まらせている原因である。

レアがバルカン討伐に行こうと思っても、タマゴがレアから離れようとしないのだ。

そんなバカなと思うかもしれないが、実際レアがバルカンの討伐に向かおうとタマゴを置いて出ようとしても、振り向けばそこにタマゴがあるのだ。

レアだからこそ反応は薄いものの軽くホラーである。

 

結果的にレアはタマゴを庇いながら戦闘にでる訳なのだが、当たり前であるが戦いづらいことこの上ない。

意識は散漫になるし、視線もちょくちょくタマゴの方を向いてしまう。

そんな事を凶悪モンスターとして数えられているバルカンの前ですれば、距離を一気に詰められてレアの命の灯火を容赦なく消そうとしてくる。

さらにタチが悪いのが、バルカンの好物は共通してタマゴである。

つまりバルカンたちもタマゴをレアから奪い取ろうと割と本気なのだ。

子ども故の小さな体躯から舐められる事が多いのだが、集中出来ない環境下で本気のモンスターの相手をすればどうなるか。

 

結論、バテる。

当たり前であった。

 

だがレアは決してこのタマゴを拾ったことを後悔などしていない。

むしろいつもこの子守っているのだと誇りに思っているくらいだ。

しかし、元々今日帰れる予定だったのにこれ以上帰る日を伸ばしてはマカロフたちを心配させてしまう。

故にレアは今日から心を鬼にしてタマゴをこの場に置き、討伐数を稼ごうと考えていた。

 

 

〜〜〜

 

 

「レアは行くから、ここでいい子で待ってるの」

 

 

我が子に言い聞かせるように優しく声をかけるレア。

しかしタマゴはうんともすんとも言わない。

これが普通なのであるが、そんな常識はこの型破りタマゴの前では通用しない。

先述の通りレアも何度も置いていって仕事に向かおうとしたが、このタマゴに限っては勝手に着いてくるのだ。

そうと分かっていれば対策は可能である。

 

 

「水竜の抱擁」

 

 

レアは手に水流を纏い、それをタマゴの周りへと覆いかぶせた。

レアの十八番の1つである水流のバリアだ。

突然の環境の変化からか、タマゴは慌てたようにバリア内で跳ね回っている。

やはり外が見えているだろこのタマゴ…。

 

 

「この中でいい子に待っていれば、好きなだけ撫でてあげるの」

 

 

レアがもう一度そう聞かせるも、タマゴは跳ね回る事を止めない。

それに加えバリアに向かって体当たりを仕掛け始めた。

幸いレアがそれも織り込み済みで水流の力を限りなく弱くしているが、何度もそんな体当たりを続けていたらタマゴは無事では済まない。

少し悩んだレアはタマゴと同じ視線(?)まで腰を落とした。

 

 

「…ねぇ」

 

 

そうして口から飛び出したのは、いつも以上に抑揚のない平坦な声だった。

それを聞いてか、タマゴも一瞬で体当たりを止めて大人しくなる。

心做しかタマゴはカタカタと震えていた。

 

 

「…………君は……悪い子、なの?」

 

 

続けて放たれる絶対零度を思わせる程のレアの言葉。

それを聞いてか、タマゴは幻視というにはあまりにもハッキリと震えを露わにした。

 

 

「…………悪い子……なの?」

 

 

もう一度、今度は手に水流を纏って問うた。

それを受けてタマゴは全身を震わせながらも無い首を必死に横に振った。

完全に脅しである。

タマゴの様子を見届けたレアは薄くも、しかし確かな笑みを浮かべた。

 

 

「ん…いい子なの……」

 

 

それっきり、タマゴは大人しくなった。

先程までの元気と勢いは完全に消沈しており、レアは必要以上に脅したことを反省する。

しかしあれくらいしなければ是が非でもこのタマゴは自分に着いてこようとするのは目に見えていた。

その上あれ以外にこのタマゴを宥める方法はレアは持ち合わせていない。

ゼルネールが自分にしてくれたことが効かなかった故の苦肉の策である。

 

レアはせめてものお詫びに、タマゴを覆っていた水流のバリアを解いた。

バリアを解かれて尚、タマゴが動く気配は無かった。

やはり脅しが効きすぎたかとレアは今一度謝罪の念を送ってからその場を後にしたのだった。

ある程度離れた所、しかし洞窟の入口が見える場所で一度振り返る。

タマゴは着いてきていなかった。

 

 

〜〜〜

 

 

「はぁ……はぁ…これで……22」

 

 

あれから数時間。

レアは順調に討伐数を稼ぎ、なんとその日の夜の時点で総討伐数35体。

あと1日あれば余裕で狩れる数までこぎつけていた。

 

しかし元々1日6体換算で予定を組んでいたにも関わらず一気に22体ものバルカンを相手にしてさすがのレアも体力の限界だった。

明日はタマゴとゆっくり休んで、明後日には全て終わらせよう。

そう胸の内で決意して洞窟に戻った。

その頃、異変が起こっているとも知らずに…。

 

 

〜〜〜

 

 

「ただいまぁなの」

 

大仕事を終えすっかりクタクタなレアはそんな間延びのする声を洞窟内に響かせながら戻ってきた。

しかし、違和感を感じる前に異変に気がついた。

彼女としては、帰ってきた途端に飛びつかれてもおかしくないのでは無いかと考えていた。

そうでないにしても、自分の言葉に対して何かしらの反応はあるものだろうと思っていた。

 

だが、あまりにも静かすぎた。

 

 

「……どこ行ったの?」

 

 

そう、あのタマゴが見当たらないのだ。

中央に冷えきった焚き火の後があるだけで洞窟内はガランとしており、物音一つしなかった。

 

 

「そんな……」

 

 

そう零しながら、レアはガックシと膝から崩れ落ちた。

やはりあの脅し方は良くなかったか……もっと他に方法があったのでは……と、そんな後悔が彼女の頭の中で渦巻く。

タマゴを守っていることに誇りを持っていた故にタマゴが居なくなったことのショックは予想よりも遥かに大きい。

母に続いて子まで失った。

その悔しさ、そして悲しみが形となってレアの瞳から溢れ出した。

ツーっと彼女の頬を伝って垂れ落ち、パキパキと固まってから地面に衝突して儚く散った。

これ以上失うくらいならいっそこのまま妖精の尻尾(フェアリーテイル)からも消えてしまおうかと考えたその時。

 

 

「……ん?」

 

 

初めは根拠の無い奇妙な違和感だった。

だが、彼女の()はこの異変の根幹に関わるものを嗅ぎ捉えた。

 

 

「……獣臭いの」

 

 

そう。

洞窟内には微かに獣臭が漂っていた。

それはレアの鼻をもってしても嗅覚を研ぎ澄まさなければ分からないほどの薄く、消えてしまいそうなものだった。

それと同時に、一度嗅ぐと鼻の奥に残るような嫌な臭いでもあった。

そして彼女はこの臭いを()()()()()

その瞬間レアの頭の中で点と点が線で繋がり、彼女の表情から色が消えた。

 

 

「フザケルナ……ナノ……!」

 

 

目の前が真っ赤になりながらもレアは至って冷静に臭いを辿り外へ出た。

 

 

〜〜〜

 

 

ところ変わって山の中腹にあるレアが拠点にしていたのとは別の洞窟。

 

 

「ウッホ♪ ウッホッホ♪」

 

 

一匹のバルカンがウキウキと腕を振りながら喜びの舞を踊っていた。

円形の洞窟の中心にその理由は存在していた。

何を隠そう、レアの元に転がりこんできたタマゴであった。

 

レアの帰宅の約2時間前の事であった。

既に腹を満たしていたバルカンが自分のねぐらへ戻っていたときに偶然レアの拠点へと足を延ばした。

野生動物としての本能だろうか、何かあると感じたのだという。

案の定、バルカンは洞窟内にポツンと置かれたタマゴを見つけた。

当時は今以上に喜びに狂い舞ったバルカンだったが、既に満腹であった故にこの場では食べれないと判断して持ち帰ったのだ。

 

タマゴは震えていた。

外の様子など分からないが、あるかも分からない本能が緊急信号を出している。

カタカタとなる音は陽気な声にかき消される。

そしてバルカンがニヤケヅラでタマゴに手を伸ばした……その瞬間。

 

 

ドゴォオォンッ!!!!

 

 

轟音が鳴り響いた。

あまりの音に洞窟内がビリビリと響き、パラパラと石礫が降る。

バルカンは驚いて目を見開き洞窟の入口を見やる。

舞い上がった雪が煙幕のようになって視界を曇らせる。

だがゆっくりと、着実に視界が晴れていく。

次の瞬間バルカンが目にしたのは……。

 

 

「…ッ!!?」

 

 

一面の白であった。

 

 

「この子は返してもらうの」

 

 

訳の分からない状況の中、そんな声が耳に入った。

そしてその声を聞くと同時に、後頭部に激しい痛みが走った。

 

声の主はご存知の通りレアであった。

両腕にはタマゴがしっかりと抱えられており、右足には水流が渦を巻いている。

そして四白眼となって熱を帯びる余地のない瞳はバルカンを見下ろしている。

 

一方腕の中に抱えられたタマゴは未だにカタカタと音を立てていた。

寧ろそれは助けられる前よりもひどく大きい。

そんな異常を抱えている本人が気づかないほどレアは鈍感では無い。

すぐに顔が埋もれているバルカンから距離をとってタマゴを置いた。

タマゴがレアの手から離れると震えがある程度落ち着き、それを見たレアはやはり今朝の件の畏れが残っているかと少し落ち込む。

レアが声をかけようと口を開いたその時…。

 

 

「ッ!? ウグッ…!」

 

 

レアは膝から崩れ落ちた。

こうなった原因は探るまでもなかった。

 

 

「ま……魔力が…足りないの…!」

 

 

そう、深刻な魔力不足であった。

人間誰しも体内に魔力はある。

それを魔法によって体外に出すか出さないかが一般の人と魔導士の大きな違いである。

魔力はセルフエナジーとも変換され、人の生命線にも直接繋がっている。

これの()()な消失は命の危険にも直結しかねないのだ。

さらに悪い状況は続く。

 

 

「ウホォ……!」

 

「ッ!?」

 

 

レアが沈めたハズのバルカンがもうすぐそこまで迫っていたのだ。

さっきとは打って変わって今度はバルカンがギラついた目でレアを見下ろしており、への字になった口から歯がむき出している。

負けるものかと意気込むレアであったが、現在の 彼女では睨み返すことで精一杯だった。

そんな力量が明確に分かれた状況で場面が変わらないなどという事態が続くわけが無かった。

 

 

「ウッホォ!!」

 

「ガハッ!!?」

 

 

バルカンの極太の腕が振りかぶられ、レアの胴体へとフルスイングした。

体をくの字に曲げたレアは口から唾液を吐き出しながら後方へと吹き飛んだ。

ドゴォオォン!!!と再び轟音が鳴り響き、洞窟全体を震わせる。

壁に激突させられて苦悶の表情を浮かべるレア。

だが相手は休ませる暇など与えなかった。

土煙が晴れると、既にバルカンが目の前で拳を振りかぶっていた。

 

 

「ッ!?」

 

「ホォッ!!!」

 

 

咄嗟に腕を交差させて防御の構えをとりバルカンの拳を受けるレア。

腕からミシミシと嫌な音が鳴り、レアを中心に小さなクレーターができる。

普段であらば水流を腕に纏って防御に入るはずなのだが、魔力が致命的に足りない現状でそれは叶わない。

その上体力も足りないので踏ん張りが効かないという悪循環。

 

 

「(ヤバいかも…なの……!)」

 

 

心の中でそんな悲鳴をあげた。

バルカンが殴りつける度に視界がグラッと揺れる。

意識が飛びそうになる中それを繋いだのは、妖精の尻尾(フェアリーテイル)で過ごしてきた記憶であった。

 

 

〜〜〜

 

 

「うぉらあぁあ!!!」

 

「んんッ!!!」

 

 

マグノリアにある妖精の尻尾(フェアリーテイル)ギルドの裏手。

炎燃え盛る拳と水流渦巻く足がぶつかり合ってせめぎ合い、やがて両者は後方へと吹き飛んだ。

 

 

「ハァ…ハァ……クソッ…! もう体が動かねェ…」

 

「ハァ…ハァ……また引き分け……悔しいの…」

 

 

なんのかわりもない2人の日常。

だがこの日だけはいつもとは少し違った。

 

 

「んー……感覚すら掴めないの…」

 

「あん? 何がだよ…」

 

「水温調節の魔法なの」

 

 

何となく呟いたレアの言葉にナツが反応する。

普段の2人を考えれば有り得ない状況であった。

 

 

「ナツっていつも暑苦しいけど、どうやって熱出してるの?」

 

「暑苦しいは余計だよ…! お前だってずっと体冷てーじゃねえか」

 

「ゼルネールはいつもヒンヤリしてて気持ちよかったの。だからレアも冷たくなるの」

 

「関係ねェだろそれ…」

 

 

レアの拗れたマザコンぶりにナツが軽く引く。

それでも構わず、というか気づいていない様子のレアは先程の質問の答えを急かした。

 

 

「どうったって……別になんにも考えてねェよ」

 

「……脳筋なの?」

 

「るっせ、そういうんじゃねーよ……考えてねェっていうか、オマエをぶっ飛ばしたいって思うと、俺の炎が応えてくれるって感じなのか…な?」

 

「知らないの。レアに聞くななの」

 

 

〜〜〜

 

 

その時、洞窟内の空気が魔力の波で震えた。

バルカンもその震えを感じとり、目を見開いて攻撃の手を緩めた。

その隙をレアは見逃さなかった。

空っぽだったハズのレアの魔力の器には既に魔力が注がれている。

満タンには程遠い……しかし。

 

 

「コイツをぶっ飛ばすには……十分なの!!!」

 

 

水流渦巻く足はバルカンの腹を蹴り抜き、水流がバルカンの体を貫通したと錯覚する衝撃が走った。

がら空きの腹にレアの足がめり込み、バルカンの意識が飛びそうになるも首の皮一枚といった具合に耐えていた。

だがまだレアのターンは終了していない。

 

 

「ウッホォオオオォォ!!!?」

 

 

水流のスピードが増す。

渦はさらに回転数を増やし、バルカンの体を巻き込み始めた。

 

 

「んンなぁァァァのおォォォ!!!」

 

 

全てを出し切らんとするレアの叫びに彼女の水は応え、バルカンの巨体が浮き上がった。

そのままそれはきりもみ回転しながら後方へと吹き飛んだ。

そして…。

 

 

ズギャァン!!!

 

 

洞窟の壁へと叩きつけられた。

大の字になって壁にめり込んでいるバルカンを見てレアの表情がにへらと崩れた。

 

 

「やっ…たの……わッ!」

 

 

心からの安堵のような呟きと共にへなへなと座り込む。

そんな状態のレアの胸にタマゴが飛び込んできた。

慌てて受け止めるとタマゴはなんにも無かったかの如く彼女の体に自身を擦り付ける。

それを受け、レアの頭の中はこんがらがっていた。

 

 

「…レアの事……嫌いなんじゃ……ない…の?」

 

 

恐る恐るそう尋ねる。

内心ここで肯定される事が一番恐ろしいが、聞かなければ気持ちの整理がつかないのも事実であった。

だがタマゴはレアの予想と反してその体を左右に振った。

 

 

「え……!?」

 

 

ますます混乱した。

ハッキリ言って自分はこの子に嫌われていると半ば確信に近いものがあった故にその衝撃は大きい。

どういう事かと続けて聞こうとした時、嫌な予感を直感的に感じ取る。

咄嗟にタマゴを背後へとやり、腕を広げて警戒態勢に入る。

 

 

「ッ!!」

 

「ウッホ…!」

「ウホウホッ!」

「ホォウ!!」

 

 

目の前にいたのは10匹程度のバルカンであった。

後から分かった事だが、ここはバルカンのねぐらが連なっている場所だったのだ。

簡単に言えばバルカンの集合住宅となっており、大きな音がしたこの場所に他のバルカン達が集まってきたのだ。

思わぬ絶望的状況にギリッと歯ぎしりをする。

魔力は少ないとはいえ回復はしている。

しかし目の前の猿の大群に抗うには心もとない。

覚醒した事によって習得した水温調整の魔法で魔力を回復しようにも現実的では無い。

 

 

「(感覚を掴んだだけ……まだ覚束無いの…!)」

 

 

そう、圧倒的に経験が足りていないのだ。

料理未経験者がレシピ本を見たからスムーズに料理が出来ないように、やり方が分かったからとすぐに実戦で使える訳では無い。

そして目の前の猿たちもそんな暇を与えてくれるはずもない。

 

 

「「「ウッホォオォオオオ!!!」」」

 

 

バルカンは一斉に飛び上がってレアへと距離を詰める。

 

 

「(…ごめんなさい……なの)」

 

 

心の中で呟いたのは誰に向けたのかも分からない謝罪の言葉だった。

そのまま固く目を閉じる。

その時…。

 

 

「黒焦げになれ雪ざる共がァァアアァァァ!!!」

 

 

火柱が上がったのだ。

バルカンの背後から火炎放射が放たれバルカンの体が支柱となっていくつもの火柱がレアの目の前であがっている。

 

 

 

「炎……」

 

 

レアはこの炎を知っていた。

この熱を知っていた。

そして何より、この匂いを知っていた。

 

 

「なぁに伸びてんだよ」

 

「……ナツ」

 

 

桜色のツンツン頭に竜の鱗のようなマフラーを巻いた少年、ナツ・ドラグニルであった。

思わぬ人物の登場にレアは目を丸くさせる。

 

 

「なん……で…」

 

「ちょっとナツ待ってってば!!」

 

 

混乱した頭でなんとか思考を回そうとしているレアの耳に、今度はそんな高い声が飛び込んできた。

声の方向へ目を向けると見慣れた白髪のボブカットが真っ先に視界に映った。

 

 

「リサーナまで……」

 

「あ、レア! 良かった、無事だったんだね」

 

 

疑問符がレアの頭の上で円を描いてる中リサーナはいつもの笑顔をみせた。

その腕の中にはナツが見つけたタマゴがおさまっている。

するとリサーナはレアの背後にあったタマゴを見て目を丸くさせた。

 

 

 

「え、レア!? まさかその後ろにあるのって……」

 

「……レアの子なの」

 

「「…え?」」

 

 

今の少しの間とレアの言葉選びが2人にとてつもない勘違いをさせたのだった。

 

 

〜〜〜

 

 

「そんな事があったんだ〜。私レアが誰かと子どもを作っちゃったのかってビックリしちゃった」

 

「レアは人なの。タマゴは産めないの…」

 

 

あれから十数分かけてレアは2人の勘違いを訂正した。

話し始めた時は赤い顔をしながら質問攻めするリサーナにかなり困惑したものだと後にレアは語った。

女子たち…主にリサーナがキャッキャと騒ぐ中1人、タマゴを抱えていたナツはレアに顰めっ面を向けていた。

 

 

「フフ…ってナツ、どうしたの?そんな怖い顔して」

 

 

そう聞くもナツは答えない。

気まずい沈黙が数刻の間流れる。

その中で最初に口を開いたのは、意外なことに彼女であった。

 

 

「レアとの差ができて焦ってるの?」

 

「!!」

 

 

 

レアである。

その言葉にナツはビクリと体を震わせた。

 

 

「図星なの? やっぱりナツって単純なの」

 

「んだとコラ…!」

 

「ちょっと二人とも! 喧嘩はダメだって…!」

 

 

売り言葉に買い言葉。

あれよあれよという間に二人の視線の間に火花が散り始める。

リサーナも突然覆い始めた険悪な空気を止めようと顔を顰めてしかろうとしたときだった。

 

 

「ん!?」

 

「うおっ!?」

 

 

レアのタマゴとナツのタマゴがそれぞれの腕の中から飛び出し、2つのタマゴは互いに抱き合うように殻を寄せあった。

 

 

「な……何なの?」

 

「おい…どうしたんだよ…」

 

「わァ~…かわいい〜!!」

 

 

困惑するナツとレアを他所にリサーナは2つのタマゴの様子を見て目を輝かせた。

 

 

「ねえ2人とも。この子たち、なんだか兄弟みたいじゃない?」

 

「アァン…?」

 

「きょう…だい……?」

 

 

リサーナのそんな言葉にナツとレアの目にはさらに困惑の色が濃く映った。

 

 

「だって見てよ! この2人、すっごく仲が良さそうだよ?」

 

 

そう言われ、二人は改めてそれぞれのタマゴに目を向けた。

互いに殻を寄せ合い擦り寄っている様子は、まるで互いの温もりを分け与えて眠っている双子の様に見えた。

そう感じた瞬間、ナツとレアは揃ってなんとも言えないもどかしい感情が胸の内から溢れ出てくる。

その時、リサーナがとんでもない爆弾を投下した。

 

 

「じゃあ、レアがナツのお嫁さんになるのは近いかもしれないね〜♪」

 

「……ん?」

「……は?」

 

 

唐突……あまりにも唐突。

リサーナの発言に2人は揃って思考がフリーズした。

誰が、誰の、嫁になるのが、近い?

今リサーナが言ったことを一つ一つ噛み砕いていくナツとレア。

そして、理解は着弾を意味した。

 

 

「はああああぁぁぁああっ!!!?」

「げぇぇえええ……!」

 

 

ナツは理解はしたが納得できるかと言いたげな叫びをあげ、レアは明らかな拒絶反応を示した。

表情の変化に乏しい彼女がわかりやすく顔を顰めるくらいに。

 

 

「なななななな!!? 何言い出すんだ急にてめェ!?」

 

「でもナツはお父さんでしょ? レアはお母さんで、ほら!」

 

「ほら! じゃねェよ!!! レアはオレの……ラ、ライバルってやつだ!!そんな結婚とかねェよ!!!」

 

「喧嘩するほど仲がいいって言葉知ってる? そういう意味じゃ、2人は妖精の尻尾(フェアリーテイル)一番の仲良しなんだよ」

 

「なわけあるかー! レアからも何か言えよ!」

 

 

ああ言えばこう言うリサーナにナツはうがーっ!と唸った。

ふと拒絶反応を見せてから黙りこくっているレアに話を振る。

だがそれでも反応は無く、リサーナはからかい過ぎて怒ってしまったかと不安になる。

 

 

「……ホントしつこいの」

 

 

やはり怒ってしまったかとリサーナの不安が確信に変わった時のこと。

 

 

ドシイイイィィィンッ!!!!

 

 

耳をつんざく程の地鳴りが洞窟内でこだました。

そして地鳴りの正体は3人の目の前に立っていた。

頭の位置が背中を屈ませて尚天井スレスレになっている程の大きさのバルカンである。

それはレアのタマゴをこの洞窟に持ち込み、レアに返り討ちにあったハズのバルカンであった。

3人は知らないが、バルカンは倒れた仲間を接収(テイクオーバー)を繰り返して巨大化し、力を付けたのだ。

両手で口を抑えるも「そんな…」と零れ落としたリサーナの前に、2つの人影が現れた。

 

 

「な、ナツ!レア!」

 

 

そう、後の双竜である2人であった。

 

 

「下がってろよレア」

 

「お断りなの」

 

「タマゴを守ってろよ」

 

「そっくりそのまま返すの」

 

「ダ、ダメだよ!2人とも逃げよう! いつものバルカンとはわけが違う!!」

 

 

1歩たりとも譲ろうとしない2人にリサーナが揃って退くよう説得を試みるも、2人の耳にはその声は全く届いてなかった。

 

 

「……じゃあ、半分力貸せよ」

 

「え……?」

 

「……半分どころか全部貸すの」

 

「え? ……え!?」

 

 

だが、ナツが持ちかけた提案。

それにすんなり乗ったレアに、今度はリサーナが理解するのに時間がかかった。

それもそのハズ、今までこの2人は喧嘩ばかりで共闘のきの字すら無かったのだから。

トントン拍子に話が進み、ナツは拳に炎を、レアは足に水流を纏った。

 

 

「レアが崩すの」

 

「じゃあオレが黒焦げにしてやるよ!」

 

「ウッホォオオオ!!!」

 

 

ナツの言葉にバルカンは額に青筋を立てて怒りを表した。

そのまま勢い任せに両腕を振り上げる。

ブォン!と振り下ろされると同時にナツとレアは左右に分かれて動き出した。

その刹那、ドゴォン!!と、まるで大樹が切り倒されたかのような衝撃音が洞窟内に響いた。

しかしバルカンが捉えたのは2人の残像のみで、結果は足元にヒビを入れる程度に終わった。

 

 

「動きが単調なうえに鈍い。見てからでも避けられるの」

 

 

事実を述べただけのレアだったが挑発と捉え、イラッ!と表情に出しながらバルカンは声の聞こえた方向に視線を向けた。

だが捉えたのはレアが足に纏っていた水流の軌跡のみであり、それを残した本人はいなかった。

かと思ったら、レアの残像が一瞬ブゥン!と目の前を通り過ぎた。

ギョッ!?と目を見開いてバルカンは周りを見渡すと、いつの間にか自分を囲うように水流の軌跡が円を成していた。

足の水流をブースターにしたレアの錯乱はすぐに幸をなした。

その巨体に慣れていないバルカンは残像を残す程のスピードを出すレアに体も目もついていけず、バルカンはグルグルと目を回し始めた。

「来たの!」と心の中で呟いたレアはバルカンの死角にてギュン!と方向転換、さらに足に纏わせた水流を今度は全身に纏わせた。

 

 

「水竜の槍角(そうかく)!!!」

 

 

そのスピードを殺さないままバルカンの膝裏に目掛けて蹴りを叩き込む。

普段の鉤爪とは比べ物にならない威力に、バルカンは痛みによる悲鳴をあげながらスレスレだった天井をぶち抜いて宙に浮かんだ。

 

 

「ナツ!!!」

 

「おっしゃあ!!!」

 

 

レアの呼びかけにゴオォ!と炎を轟かせたナツが飛び出した。

魔力を集中させ、拳に纏った炎は最初よりもかなり膨れ上がっている。

だがそれで終わらない。

 

 

「右手の炎と左手の炎を合わせてェ!」

 

 

そう言って合掌すると、元から大きかった炎はさらに巨大になる。

その熱量に周囲の岩が溶解し始め、ドロドロと流れて床の氷を溶かす。

その様はまるで太陽であった。

 

 

「喰らえっ! 火竜の煌炎!!!」

 

 

叫びながらナツはその火球をバルカンに向けて放った。

その巨体なうえに空中に打ち上げられ身動きも取れず、着弾はすぐだった。

 

 

ズゴゴゴゴオオオォォォ!!!

 

 

それと同時に、火球を中心に爆発が起こった。

カッ!と焔光が辺りを照らし、誰もが目を眩ませた。

やがて明るさも落ち着き、3人が目にしたのは黒焦げになったバルカンの姿だった。

 

 

「……勝ったの? ……すごい! すごいすごい!! すごいよ2人とも!!! あんなにおっきいバルカンに勝っちゃうんだもんっ!!!」

 

 

戦った2人よりも興奮している様子のリサーナ。

一方功労者の2人は大股広げてヘタリと座っていた。

手を後ろについて完全にリラックス状態であった。

すると、ナツがレアに拳を突き出した。

 

 

「ナイスアシスト。アレが無かったら、アイツを黒焦げに出来るほどの魔力はたまらなかったと思う」

 

 

小っ恥ずかしいのか、ナツはレアと目を合わせようとしない。

対するレアも無愛想な態度で応対した。

 

 

「別に……あの子のお母さんとして当然の事をしただけなの」

 

「……あっそ」

 

「でも……」

 

 

ナツが「相変わらずやな奴」なんて思いながら拳を下げようとした時だった。

レアのその言葉と同時に何か当たるような感覚があった。

少し驚いて突き出していた拳に目を向けると、レアがナツの方に寄り、その拳をナツが突き出した拳と合わせていた。

 

 

「ナツも……カッコイイお父さんしてたの。ありがとうなの」

 

「! ……お、おう…!」

 

 

意図せず目が合うが、ここで逸らすわけにもいかず真っ直ぐレアの顔を見る。

そして微笑を浮かべて感謝を述べ、ナツは照れくさそうに笑いながらそれに応えた。

それは、2人が初会合を果たしてから()()()対面して笑顔を向け合った瞬間であった。

 

そんな微笑ましい様子をニヤニヤとした笑みを浮かべたリサーナが2人の間から覗き込んだ。

 

 

「おやおや〜? 随分と楽しそうですねお二人共〜」

 

「なっ!? リ、リサーナ!!?」

 

「? 特別楽しいわけじゃないの。ただありがとうを言っただけなの」

 

「あちゃ〜。レアはいつも通りだね……」

 

 

からかうリサーナに対する2人の反応は面白いくらい正反対だった。

うぶ故に顔を真っ赤にして素直に反応を見せるナツと、天然が発動してキョトンと首を傾げたレア。

リサーナはレアをからかうことは諦め、ナツの方へキラーンとした視線を向けた。

 

 

「どうしたのナツ顔赤くしちゃって〜。もしかしてレアに照れちゃった?」

 

「ん? そうなの? でも何に照れるの?」

 

「て…! 照れてなんかねェよ…! つーかからかうなよリサーナ!!」

 

「見かけによらずうぶよね〜。ナツって〜」

 

「うぶって言うなアアァァ!!!」

 

 

〜〜~

 

 

その翌日の朝のこと、3人はタマゴを無事にマグノリアまで持ち帰り、レアも仕事を完了させたのだ。

ルーシィが持っていた小さい方の、子供3人が描かれた絵はその時のものだとミラは話した。

 

 

「なるほど……。でも、なんかいい話ですね。ナツとレアにそんな過去があったんだぁ……」

 

「反発し合うのは認め合うからこそ。昔マスターがよく言ってたのよ。当時はよくわかってなかったけど、今の2人を見れば本当にその通りだと思うわ」

 

 

ミラが最後にそう締めると、話の終わりのタイミングを見計らったかのようにマカロフが現れた。

こっちも手伝ってくれと声をかけると、ミラはそれに返事して駆け出した。

その背中を見送ってから、ルーシィは小さい方の絵にもう一度視線を落とす。

この子がリサーナかぁなんて思っていたら、ルーシィにある疑問が浮かんだ。

 

 

「あれ…。そういえば……リサーナって…誰? なんで今居ないんだろう……」

 

 

〜〜~

 

 

ここはクヌギ駅付近の山林。

ナツとレアはお得意の山賊退治の依頼を受けてこの場所にやって来ていた。

そして、山賊のアジト周辺の木々を残さず灰にしたのを代償に依頼を完了させていた。

白目を向いた山賊達をレアの水流の檻に放り込み、依頼人であるクヌギ駅駅長の到着を待っていた。

2人して茜色に染まった空を眺め、無言の時間が続いていた。

なぜなら2人して同じ思い出が頭の中に投影されていたからだ。

 

 

『珍しいね。今どき2人が喧嘩だなんて』

 

『あぁ、リサーナ。帰ってたのか』

 

 

〜〜~

 

 

その日の空も今と同じような茜色だった。

マグノリアの中心部に位置する公園の木の下。

ナツとレアは背中合わせで座り、ハッピーとフリーシャはそんな2人にオロオロとした表情を見せていた。

それを少し驚いたように目を見開いて見ていたのは成長したリサーナであった。

 

 

「ナツが山1つ吹き飛ばして、報酬金全部パーにしたの!」

 

「レアだってその前に山の木全部なぎ倒してたじゃねェか! おあいこだおあいこ!!」

 

「もう……ナツとレア、お父さんとお母さんでしょ?」

 

 

やれやれといった様子でリサーナがそう言うと、喧嘩を止めようとしたハッピーとフリーシャがキョトンとして「え?」と声を揃えた。

対して、ナツとレアはリサーナの発言にどこかきまずそうだった。

 

 

「親として子供を守るんでしょ?」

 

「い…いつの話してんだよ……」

 

「ん……もうそういうのじゃないの…」

 

「ねぇねぇ何の話?」

 

「なんでもねェよ…!」

 

「リーシャも気になるかしら〜」

 

「だからなんでもないの……」

 

 

まだ猫達が生まれていない時の話故にハッピーとフリーシャはからかう準備万端で話に乗っかろうとするも、ナツとレアがなんとか振り払う。

しかしリサーナが助太刀を加えた。

 

 

「家族だから、ぶつかることもあるだろうけど……やっぱり喧嘩はイヤだな…。だってナツとレアは夫婦で、ハッピーとフリーシャは2人の子供でしょ?」

 

「なんかさらりとスゴイ事言ったッ!!?」

 

「リーシャ達そんな関係だったのかしら!!?」

 

「へ、変な言い方すんなッ!!」

 

「流石にそれは勘違いがスゴイの…!」

 

 

かと思えばとんでもない爆弾を投げ込まれた。

軽い気持ちで聞いたハッピーとフリーシャからすれば援護射撃を期待していたら巻き込まれる位置に手榴弾を投げ込まれたような感覚だった。

そしてナツは定石通り顔を赤くしてそう反論すると、リサーナはまたもや驚いて目を見開いた。

 

 

「な、ナツはわかってたけど、レアももしかして……照れてる?」

 

「……あんな正面から言われたら……こうなる、の…」

 

 

なんとあの仏頂面のレアが顔をナツのように赤くして恥ずかしそうにそっぽを向いていたのだ。

思わぬ収穫に、リサーナは内に納めていたニヤニヤが抑えきれず表面に表れだした。

 

 

「おいリサーナ! オレはわかってたってどーいうことだ!!」

 

「え? だってナツうぶじゃない」

 

「だ! だからうぶって言うなー!」

 

「「どぅえぇきてるううぅぅ〜」」

 

「巻き舌風に言うんじゃねェ!!!」

 

「しかも微妙に巻き舌できてないの…」

 

 

そんなこんなで、いつの間にか2人の喧嘩はなーなーで終息したのだった。

 

 

〜〜~

 

 

「……ナツ?」

 

「ん? なんだ…」

 

「……レア、今リサーナのこと思い出してたの」

 

「……奇遇だな。オレもだ」

 

 

そんな会話のせいか、開けたこの場所に微妙な空気が流れる。

 

 

「双竜殿〜!」

 

「「ん?」」

 

 

その時、2人を呼ぶ声と大勢の足音が耳に入った。

視線を向けると、依頼人である駅長と鎧を着た騎士団がぞろぞろとやって来ていた。

 

 

「双竜殿!ご無事ですか!? この有様は……!」

 

「あ〜、悪ぃ! ちょいとやり過ぎちまった!なっはっは!!」

 

「依頼内容の山賊なら、あそこに放り込んでるの」

 

 

ナツの言葉に後からやってきた全員が「えぇ!?」と驚いていると、レアがしれっと依頼完了を報告し、騎士団長がハッ!となって山賊の確保に向かった。

 

 

「あ、ありがとうございました……。お約束の20万Jを差し上げます。と、言いたいところなのですが…この有様は少々……。申し訳ないですが、山の木々の弁償代を差し引いて報酬金とします」

 

「「……」」

 

 

またもやのパターンに、ナツとレアは揃って言葉を失ってしまったのだった。





切るとこ見失ってまたまた1万字超えちまった…。
中編?そんなもんは無い!
いよいよ次から幽鬼の支配者編に入ります!
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