お待たせ致しました(*・ω・)*_ _)ペコリ
マグノリア病院魔導士専用病棟。
名前の通り、魔法によって傷ついた魔導士が入院する専用の病棟であり、救助されたチームシャドウギアの3人も例外無くこの場所へと搬送された。
ルーシィはここへ3人のお見舞いにやって来ていた。
未だ意識は回復せず、名前を呼びかけても返答は沈黙のみ。
「ヒドイ事するんだなぁ……ファントムって…」
表情を曇らせたルーシィは窓の外の景色に目を移す。
マグノリアの街を一望できる中、一際目立つ滅多刺しにされたギルド。
それはファントムの惨たらしさを表現するのに相応しいオブジェのようになっていた。
悔しさから涙がこぼれ落ちるルーシィの頭に浮かんだのは、レビィとの初会合である。
彼女の初仕事、エバルーの屋敷から
それに真っ先に食いついたのがレビィである。
書くのはからっきしだが、本を読むのは大好きな彼女は「見せて見せて!」と子供のようにすがった。
恥ずかしながらもまだ途中だとやんわり断りを入れたルーシィ。
『じゃあ完成したら読者1号になっていい!?』
レビィの押しにルーシィは思わず頷いたが、約束を結んでくれたことに、彼女は「わーい!」と無邪気に笑った。
以来彼女とのやり取りはナツとレアに次いで多くなり、2人が仕事での相棒と言うならば、彼女はルーシィにとって親友とも言える関係になっていった。
「許せないよ……あいつら…!」
彼女は膝の上の拳をギュッと握りしめた。
〜〜~
同時刻、オークの街にある魔導士ギルド
「だっはー!!! 最高だぜー!!!」
「妖精の
「ブルームの奴、その上3人もやったってよ!!!」
「ヒュー!! さすがは
あちらこちらから笑い声が聞こえ、酒場に居た誰もが溢れんばかりに酒が入ったジョッキを酌み交わしている。
目障りな妖精との前哨戦、その勝利を祝った宴の真っ只中であった。
「あーいけね、こんな時間だ」
「女かよ」
「まあまあいい女だ。脅したら報酬2倍にしてくれてよォ」
「オレなら3倍までいけるよ」
「言ってろタコ」
「ハハハハハ!」
この醜さこそ、
他者を下に見て嗤い、礼儀を知らず、挙句の果てに依頼者を脅して報酬を増やすような闇ギルドに片足を突っ込んだようなギルドである。
だが、亡霊達はハチャメチャな妖精達の真の怒りを知らなかった。
ズドオォォンッ!!!
ギルドの入口が派手に爆発した。
仕事に出発しようとした者、妖精の醜態を嗤いに行こうとした者、その付近で酒を飲んでいた者も関係なくまとめて吹き飛ばされる。
爆炎によって黒焦げになりながら宙を舞い、やがて空から降ってきたカエルのように、無様にボトボトと落ちていった。
誰もが呆気にとられる中、立ち込めていた爆煙が晴れていく。
見えてきたのは、目に角を立てた桜色の髪の少年と、四白眼を揺らめかせた水色の髪の少女である。
そして何より、少年の右肩、少女の左肩にはいつも目の敵にしていた妖精の紋章が刻まれていた。
「
怒りの咆哮にギルドが震える。
突然の自体にファントムは揃って「なっ!!?」とまず戸惑いに体が硬直するが、至極当然であった。
羽を擦り合わせて震えているだろうとバカにしていた妖精達が、あろう事か真正面から殴り込みきたのだから。
すると、先頭に立って開戦の狼煙を上げた2人がそのまま先陣を切った。
「誰でもいい!!! かかって来いやアッ!!!」
「まとめて成仏させてやるのッ!!! 生き霊共ォッ!!!」
ナツが両腕に纏った炎を薙ぎ払って相手を十数人まとめて打ち上げ、宙に舞ったそれをレアが水流のブレスで一人残らず撃ち抜いた。
「調子に乗んじゃねえぞコラ! やっちまえー!」
ようやく体が動き出したファントムは武器をとり、魔力を練り上げ、最前線に立つナツとレアに突貫する。
だが、ただの突撃でやられる程、怒りに満ちた妖精は甘くない。
双竜のすぐ後に続いたのはグレイとエルフマンだった。
凍てつくような視線のまま辺りを駆け回り、すれ違ったファントムの頭や腕を鷲掴みして触った側から凍らせて無力化していくグレイ。
反対にエルフマンは雄叫びをあげながら棘棍棒のように変化させた右腕を力任せに振り回し、ファントムを薙ぎ倒していく。
量の幽鬼と質の妖精。
その差は顕著に現れており、次々とファントムの魔導士達が倒れていく中、戦線を離脱した
「
「あいよ!
マカオが網状にした
「
「詰めが甘いよ、アル! ターゲット……ロックオン!
「ナイスショット! ビスカ!」
魔導拳銃を構えたアイザックは
「マスター・マカロフを狙え!!!」
一発逆転を狙ってか、ファントムは目を閉じて立ち尽くすマカロフへ乱雑に攻撃をしかける。
確かにここでマカロフを落とせば士気も落ちて逆転は可能であるが、「現実的に不可能」という一点に考えが至らなかったことがあまりに浅はかだった。
「かあーーーッ!!!」
瞬時にその小さな体を天井スレスレの巨体へと変化させたマカロフは自分を襲ってきた魔導士達を蚊を叩くかのようにその掌で叩き潰した。
バキバキ、メキメキと人間の体から鳴ってはいけない音が鳴り、圧倒的な力の差を見せつけた。
「バっ…バケモノ……!!」
「貴様らはそのバケモノのガキに手ェ出したんだ! 人間の法律で
叩き潰されたうちの誰かの思わずでた呟きに、マカロフは鬼の形相で返答する。
その声はギルド中に響き、立ち向かわせる者を怯ませ、震えあげさせた。
「つ…強ェ!!」
「兵隊どももハンパじゃねえ!!」
「こいつらメチャクチャだよ!!」
雷が落ちたかのような怒号により、ファントムの魔導士達は完全に弱腰になっていた。
それに反して妖精達の士気はますます上昇していく。
ふくよかなお腹を持った魔導士、リーダスは
紫色のポニーテールメガネ女子のラキは、木の造形魔法によって襲ってきた者を一瞬の空の旅へと案内した。
そして、彼らもまたギルドの為に戦っていた。
「オイラだって魔導士だよ!!!」
「舐めらられるのは心外なのよ!!!」
「猫ですが何か?」
「猫なら問題あるかしら?」
ハッピーは敵の間を縫うように飛び回って同士討ちを誘い、自身の風呂敷から取り出した巨大な魚を振り回し、現場補充した食べ物を無理やり魔導士の口にねじ込んでいる。
フリーシャは時に飛び回り、時に地に足を着けて相手を翻弄し、
「ジョゼーーーッ!!! 出て来んかアァーーーッ!!!」
「ガジルとブルームはッ! エレメント
これだけ有象無象を減らしていっても、未だにその主戦力は姿を見せない。
そんな話題の渦中にいるうちの一人、
「あれが
だが、彼はギヒッとその顰めっ面を破顔させた。
「しかし……これほどまでにマスター・ジョゼの
「るっさいなぁ……僕まだ眠いんだけど…」
すると、喧騒が鳴り響くこの場とは不釣り合いな高い少年の声がガジルの耳に飛び込んだ。
それはガジルにとって、この場で一番聞きなれた声であった。
「起きたか。ブル」
「起こされたんだよ……」
振り向く事無く掛けた声に返ってきたのは、ズズズッという奇怪な音と不機嫌そうな返答であった。
「僕ここに帰ってきたの朝の7時だよ? まだ3時間しか寝てないんだ……妖精さんたち来るの早すぎでしょ」
「てめェが列車使わなかったからだろ」
「ヤダ、使いたくない」
「コイツ…」
文句を言う声の主にガジルはこめかみをひくつかせながらようやく視線を向けた。
そこに居たのは、支柱、梁に1本の巨大な蔦が絡む異様な光景と、その蔦の先端にてうつ伏せに寝転び、眠たそうに目を擦っている小柄な少年の姿だった。
この齢14程の少年こそが、
「そういえば、アリアは上で見かけたけど、あと3人はどうしたの?」
「アスバルから聞いてねえのか」
「なぁんにも」
「……あンのクソ猫。……兎兎丸は本部で待機、ジュビアとソルの野郎が作戦の仕上げに今頃
そうガジルが言い終えると、自分から聞いておきながら興味なさげに「ふーん」と零す。
そして彼はニヘッと年頃の少年らしい、しかし可愛らしいと表現するにはあまりにも不気味な笑顔を浮かべた。
「そっかそっかー。じゃあ、もうすぐなんだね。妖精さんたち、どんな顔するんだろうな〜」
「ギヒッ! そいつは同意見だ。せいぜい良い顔見せろよォ……クズ共」
嗤う、嗤う、妖精に取り憑いた幽鬼はその生気を吸い尽くさんと嗤うのだった。
〜〜~
「はぁー……みんなアタシ置いてっちゃうんだもんな…」
静まり返ったマグノリアの住宅街。
住民らは今朝の事もあり、ギルド間抗争の飛び火を受けないようにと、可能な限り
そんな状況下の中、ルーシィは信頼する仲間らにそんな愚痴を零しながら一人寂しく歩いていた。
というのも、彼女は現在
レビィ達が心配で見舞いに行ってた頃には既に他の者らはオークの街に向かっていた為、言ってしまえば乗り遅れたのだ。
もちろん不満はある。
だがルーシィはレビィ達も心配だと無理やり自分を納得させた。
完全に制しきれてないが故に文句はタラタラと出てくるが…。
すると、なんの前触れも無くサーッと雨が降り出した。
「やだ…天気雨? ……!」
突然の雨に傘など持ち合わせている訳もなくあっという間にずぶ濡れになる。
腕で頭を覆っていると、雨のせいで形は朧気だが何やら目の前から人影なるものが見えてくる。
どうやらコチラに近づいているらしく、その形はやがて鮮明になっていった。
「しんしん…と。そう……ジュビアは雨女。しんしんと…」
そんな自虐じみた言葉を発しながら現れたジュビアと名乗る女は、全体的に暗い印象を与えた。
海を思わせる深い青の髪に、黒に限りなく近い紺の帽子に服装、そして首から下げたてるてる坊主が一際目を引かせる。
突然現れては意味不明な言葉を投げかける彼女に、ルーシィは「はあ?」と困惑の表情を浮かべる。
「あなたは何女?」
「あの……誰ですか?」
「楽しかったわ、ごきげんよう」
「え!!? 何なの!!?」
向こうから言葉を投げかけてくるのに自分からの言葉は相手に届いていないのか無視されているのか、とにかく会話が成り立たない。
終いにジュビアはピンクの傘をさして別れの挨拶を告げた。
ルーシィが半分キレているのも差し置いて何事も無く2人の初会合が終息しようとした時だった。
「ノンノンノン♪ ノンノンノン♪ ノンノンノンノンノンノンノン♪」
やけに耳に残る男の声が、2人の耳に飛び込んだ。
それと同時に、ジュビアの目の前の地面がもっこりと不自然に盛り上がった。
盛り上がった地面は「ノン」と唱える度に大きくなっていく。
「3・3・7の
やがて盛り上がった地面は茶色のタキシードを身にまとった男へと姿を変えた。
しかし足元は依然地面と同化しているように繋がっていた。
続いて現れた変人にルーシィは「また変なの出た」とげんなりした様子。
それを他所に男はクネクネと体をくねらせながらジュビアに近づく。
「ジュビア様、ダメですなぁ仕事放棄は」
「ムッシュ・ソル」
「私の眼鏡がささやいておりますぞ。その
「あら……この
ソルと呼ばれた男が右目のモノクルをキラリと輝かせてその視線をルーシィに突き刺すと、ジュビアは無表情ながらも意外そうな声色で呟きながら振り返る。
それとは反対にルーシィは2人に対する警戒の色が強くなる。
当然だ、全く知りもしない赤の他人から
するとソルが改めてルーシィに向き直り、ピシッと仰々しくも紳士的な礼を見せた。
「申し遅れましたら私の名はソル。ムッシュ・ソルとお呼びください。偉大なる
「ジュビアはエレメント
「ファントム!!?」
まさかの正体に、ルーシィは驚愕を隠しきれず叫ぶ中、ソルは変わらぬ面持ちで「左様」と返答する。
そう、この2人こそが
「あ……あんた達がレビィちゃん達を!!」
怒りの宿った視線と声を2人に浴びせながらルーシィは腰にかかった鍵に手をかける。
だが、事態は戦いにすらならなかった。
「ノンノンノン、3つの
ソルの完全な開き直りにルーシィは反論しない。
否、出来なかった。
彼女を襲ったのは水中に落ちた時のような浮遊感。
瞬間、自身の鼻から大量の水が侵入してきた。
驚いて口を開くと、出てきた空気が気泡となって目の前を浮かび上がっていった。
ルーシィは今、巨大な水流の塊に閉じ込められていた。
見た目こそレアが用いる水流のバリアにそっくりだが、決定的な違いが2つ。
1つは表面の水流は形を成すために必要最低限の力しかない故に緩やかであること。
そしてもう1つは、水流の
「ぷはっ!? 何コレ!!」
「無駄よ」
顔を横に逸らすと水面から飛び出し、訳が分からないまま足りない空気を思いっきり吸い込む。
しかしジュビアが手を翳すと、水塊がひとりでに動き、飛び出したルーシィの頭を呑み込んだ。
「ジュビアの
ジュビアの言葉はほとんど頭に入ってこなかった。
抵抗する暇もないまま、彼女の意識は海に落とされたカナヅチのようにあっという間に沈んでいったのだった。
「ん〜! トレビア〜〜ン!」
「じゃあ、あとはよろしく」
意識が落ちたのを確認したソルは歓喜を表すかのように声をあげ、ジュビアは肩から下げたサコッシュポーチに向けて声をかけた。
するとモゾモゾとポーチが動くと、ピョコッと
「ダルいんですけど〜…」
気だるそうな言葉と同時に、素顔を外に晒した。
その正体は赤と白を基調にしたハチワレ柄の猫である。
この猫こそ、ブルームの相棒猫であるアスバルだ。
「そう仰られましても、ここから彼女を本部へ最速で送り届けられるのはアスバル様を置いて他にいらっしゃらないのです。彼の御方の
「オレっちじゃなくてソル爺でも十分間に合うと思うんですけど…。それにオレっちじゃあ結構荒っぽいから依頼者から文句言われちゃうかもしれニャいし〜……」
困ったように眉を顰めてアスバルにお願いするソルと、それをタラタラと言い訳しながら回避しようとするアスバル。
仮にも仕事に来ているのに堂々と仕事放棄をしようとするこの猫、性格が悪い意味でタフである。
すると、これまで表情を変えなかったジュビアが分かりやすくギロッと擬音がつくような目つきでアスバルを睨みつける。
「うだうだ言ってないでさっさと行きなさい。この雨の中に放り投げてそこに集中豪雨を降らせるわよ?」
「は、はいぃ!! 行って参りますうぅ!!!」
全身の毛を逆立たせ、アスバルはポーチから飛び出しては翼を出し、水塊が解除されて落ちるところだったルーシィの首根っこを掴む。
そのまま雨の中、まるでプロピッチャーが投げる豪速球の如く、ドッピューン!!と飛び去って行ったのだった。
「これで作戦は滞りなく終了ですな! ん〜
「えぇ。ルーシィ・ハートフィリア様の捕獲任務、完了」
そうして、2人もその場を後にする。
残ったのは不自然に出来上がった水溜まりと、ルーシィが手放してしまった鍵束だけであった。
妖精さんコチラ手の鳴るほうへ…