妖精の尻尾の双竜   作:uru1629

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見てぬ魔の手

 

突如始まった妖精の尻尾(フェアリーテイル)幽鬼の支配者(ファントムロード)の戦争は苛烈を極めていた。

ナツはそばにいるファントムの者らを片っ端から黒焦げにする。

レアは向こうから襲ってくる者らを逆に流し去っていく。

エルザは戦場を駆け回りながら敵を切り刻み、フリーシャもそれに便乗するように飛び回っては引っ掻きをお見舞いする。

ハッピーもフリーシャのように飛び回って翻弄し、手に持った棒切れやらでヘイトを稼いでは同士討ちを誘う。

グレイは依然変わらず鷲掴みにしたところから凍らせ、ダメ押しに生み出した氷の武器で纏めて吹き飛ばす。

妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強チームを筆頭に場を蹂躙するが、最も注目を集めていたのはその誰でもなかった。

 

 

「漢! 漢!! 漢ォ!! 漢なら…! 漢だぁああっ!!!」

 

 

雄叫びをあげながら目の前の敵をその変貌した石造りの腕で次々と殴り飛ばしていく男。

否、漢のエルフマンである。

その異様な腕こそが彼の魔法、バルカン達と同じ『接収(テイクオーバー)』である。

倒した魔物の力をその腕に宿していく彼に付けられた字名こそ、『ビーストアームのエルフマン』である。

 

 

「エルザ!!ここはお前たちに任せる」

 

 

ファントム軍勢の士気が明らかに低下した頃、戦況が大きく動き出す。

 

 

「ジョゼはおそらく最上階。ワシが息の根を止めてくる」

 

 

妖精側の最大戦力であるマカロフが1人前線を押し上げ、本丸の元へと向かっていった。

階段へと続く扉を破壊し、小さくなっていく背中にエルザは心配そうな視線を向けながらも「お気をつけて」とただ一言手向けたのだった。

 

そして、それと同時のこと。

息を潜めていた双竜の片割れが動き出した。

 

 

「一番やっかいなのが消えたトコで、ひと暴れしようかね」

 

「行ってら〜。僕はもう少し観戦してるよ」

 

 

腕をグリングリンと回したガジルはそう言い、ブルームは呑気そうな返事をする。

まだ眠いのか、お気楽そうな彼にガジルは「楽しみがあるうちに来いよ」と残すと梁から飛び降りる。

そして…。

 

 

「はァー!! 来いクズ共! 鉄の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)ガジル様が相手だ!!」

 

 

鉄棍に変化させた右腕を振り下ろして妖精の尻尾(フェアリーテイル)のナブとウォーレンの脳天に叩き込み、()()()()()()()戦闘不能に追い込んだ。

妖精の尻尾(フェアリーテイル)では考えられない鬼畜の所業(仲間ごと敵を討つ行為)に誰もが手が止まる中、真っ先に仕掛ける者がいた。

 

 

「漢はァー! クズでも漢だぁ!!!」

 

 

エルフマンである。

渾身の一撃を叩き込んだエルフマンであったが、雄叫びをあげながらの攻撃故に振りかぶった時点で気づかれていた。

石造りの腕の右ストレートは攻撃時とは反対の腕を鉄棍に変化されて防がれ、ガンッ!と拳のぶつかり合いとは思えない鈍い音が鳴り響く。

「む」と苦々しい声を漏らすエルフマンとは対照的に「ギヒッ」と獰猛な笑みを浮かべるガジル。

それの意味すること、攻守交替である。

 

鉄棍に変化させた両腕をワンツーの要領で打ち込み、エルフマンはそれをそれぞれ咄嗟に胸から上を横に逸らすことで回避する。

パンチの勢いを利用してガジルは右足を鉄棍に変えて回し蹴りを放った。

それを読んでいたのか、エルフマンは石造りの腕で真正面から受け止めた。

衝撃は全てその異様の腕が吸収したのか後ずさりすらしていないエルフマンに、ガジルは少し目を見開いた。

 

 

「ほう……なかなかやる」

 

「漢は強く生きるべし」

 

「じゃあこんなのはどうだ?」

 

 

言うが早いか、受け止めたガジルの足の先端からもこっと数個の突起が生まれる。

瞬間、どぱっ!とまるで弾けたポップコーンのように数本の鉄棍が枝分かれして飛び出した。

咄嗟に足から手を離してその攻撃から難を逃れる。

だが、エルフマンが攻撃を避けた結果、狙いを失った攻撃はほぼ全てが()()()()()()()()に命中した。

 

 

「貴様!! 自分の仲間を!!」

 

「何余所見してやがる!!」

 

 

ガジルによって吹っ飛ばされるファントムに目を奪われるというあまりにも大きな隙をガジルが見逃すはずが無かった。

ガジル渾身の右ストレートがエルフマンの顔面に叩き込まれ、エルフマンは「ぐほぉ!!」と苦悶の声をあげながら吹き飛ぶ。

その時、吹き飛ぶエルフマンの体を踏み台に、何かが飛び込んできたのが見えた。

一瞬見えたのは桜色の頭とたなびく竜の鱗のようなマフラー。

 

 

「ガジルーーー!!!」

 

 

次に見えたのは一面の赤。

それと同時に自分の体がグルグルと回り、どこかに背中から叩きつけられたのだった。

 

 

「オレが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の双竜の片割れだぁ!!!」

 

 

怒る赤き竜が咆哮をあげたのだった。

 

それを上で観戦していたブルームは無表情で眺めるも、「プフっ」と吹き出した。

 

 

「フフ…ガジル、意気揚々と飛び込んで派手に吹き飛ばされてる……フフフ」

 

 

余程おかしいのか、ブルームは自身の腹を抱えながら必死に自分の笑いを押し殺している。

やがて落ち着いたからか、うつ伏せだった状態から立ち上がり、自身の右手を高らかに掲げた。

すると何が起きたか。

彼の背後、今現在彼が乗っている蔦から木が生えたのだ。

枝がいくつにも分かれ、葉っぱも青々しく生い茂っている程の立派な木だった。

 

 

「さ〜て、僕もそろそろ動くかな」

 

 

そう言うと、彼は掲げた右の手のひらをギュッと握りしめた。

それに呼応するように、彼の背後に生えた木の葉っぱがわさっ!と一斉に枝から離れた。

次にブルームが握った拳から人差し指を立てると、宙を舞っていた葉っぱがひとりでに動き、バラバラだった向きを訓練された軍隊の如く一斉に向きを揃えた。

そんな光景を見向きもしないブルームは立てた指を下、傷つき倒れたナブやウォーレンその他傷ついた妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士に向けた。

すると上を向いていた葉っぱはブルームの指した方向に先端を向けた。

あとは突撃の合図を待つのみだった。

 

 

樹竜燐(きりゅうりん)

 

 

瞬間、ドバババババッ!と静止していた葉っぱが一斉に動き出す。

そして飛び出した葉っぱが着弾するまでそう時間はかからなかった。

 

 

「ぎゃあああぁぁああ!!!?」

「イテテテテテ!!?」

「何だこれ葉っぱか!!?」

 

 

飛来した総量は未だ4分の1程度だというのに状況は阿鼻叫喚の嵐。

降りそそがれる鋭利な葉っぱはさながら人体を貫かんとする雹の如し。

 

 

「痛えぇぇえええ!!?」

「止めてくれブルーム!!!」

「落ち着けェ!!!」

 

 

それは妖精も幽鬼も関係なく切り裂いていく。

鮮血が舞い、悲鳴が響き、敵も味方も関係なく地面と接吻する。

そんな地獄絵図に少年は純新無垢な笑みを浮かべていた。

 

 

「アハハ、()()()()()()! 喜んでくれてとっても嬉しいよ!!」

 

 

嗤う少年の精神性は明らかに常軌を逸していた。

ガジルとて味方を巻き込むことはあれど嗤うなんてことは無かった。

しかしブルームはこの惨状を自分の『イタズラ』という一言で済ませているのだ。

あまりにも度が過ぎていた。

 

 

「いい加減にするの」

 

 

そんな声が聞こえた。

かと思えば、ブルームの目の前を荒ぶる激流が横切り、出し切った葉っぱが全て飲み込まれた。

想定外の事態に目を丸くさせ、発射元に視線を送ってみる。

そこに居たのは、「フーッ」と息をつくもバッチリとコチラを睨みつけている、ガジルくらいの歳であろう水色の髪の少女だった。

その姿を完全に視界に捉え、少年の顔はキョトンとした表情から一転、パァっと明るくなった。

 

 

「もしかして! 妖精さんの方の双竜の水の方の! えっと確か……水竜(リヴァイアサン)!?」

 

 

今少年の胸中から溢れ出る思いは、攻撃を防がれた驚きでも、ましてや邪魔をされた怒りでも無い。

それは、好奇心。

目の前の女の子のこと、そしてそれ以上に気になっている()()()について知りたいという好奇心だった。

 

 

「……そう言うお前が、生霊共の双竜。その片っぽ、樹竜(たいじゅ)のブルームなの?」

 

「にへへ〜、うん! 当たりだよ」

 

 

生霊と(詐称で)呼ばれたにも関わらず、ヘラヘラとした態度をとるブルームに、レアは一種の不気味さと違和感を覚える。

そんな彼女を差し置いて、彼は目をキラキラさせながらたずねた。

 

 

「それでそれで! 僕の特製ビックリ箱はどうだった!?」

 

「……ビックリ箱?」

 

 

興味津々という言葉を全身で表現しながらたずねてくるブルームに、レアの目尻がピクリと動く。

聞き返してはいるものの、彼の言う『ビックリ箱』とは何か、何となく察しはついていた。

それ故に彼女の全身から魔力が溢れ出し、凍てつきそうな魔力は足で渦を巻いてその勢いを強くする。

だがそんな状態に気づいていないブルームは上を向いて顎に人差し指を置いて考えるような素振りを見せる。

 

 

「う〜ん……ここに来てるってことは見てもらったと思うんだけど…。ほら、僕の泣き声真似に釣られた間抜けな3人ぐ…」

 

 

そこからの言葉は続かなかった。

なぜなら、彼の腹、鳩尾にレアの水流を纏った拳が叩き込まれたからだった。

足に巻いていた魔力の渦を一気に発散させたレアは梁からブルームの元まで水圧ジェットの勢いで飛び込み、その勢いも利用した高圧パンチがブルームの腹に抉りこまれている。

そして、彼の体が後方斜め上へと吹き飛んだ。

足が離れると同時に、ブルームの足場となっていた蔦が朽ち果てる。

 

ボコォン!ボコォン!といくつかの梁や支柱を破壊しながら吹き飛ぶブルームだったが、やがて彼の腰から、正確に言えば仙骨辺りから一本の蔦がまるで尻尾のように生え、近くの梁にぐるんと巻き付けて静止した。

普通ならば穴が空いていそうな攻撃だったにも関わらず、ブルームの顔はケロッとしており、殴られた腹を擦る程度で済ましている。

 

 

「ビックリしたぁ…。ていうか、僕今喋ってたじゃん!」

 

「みなまで言わなくてもいいの。お前がレビィ達を傷つけて見世物にした。その落とし前をつけるのに言葉なんていらないの」

 

「むー…。僕の求めてた反応ってそういうのじゃないんだけどなぁ。ほら、もっとかかって来ていいんだよ? 『このやろー!』とか『仲間の仇ー!』とかさ!」

 

 

むすーっと頬を膨らませて不満そうな様子をみせるブルーム。

対してレアは煽られても尚その無表情を崩さずさらに上へと飛ばしたブルームをしっかり見据える。

だが、ナツと並んで人一倍『仲間』へ思い入れが強い彼女が、その煽りに何も思わないわけが無かったのだ。

暗く冷たい深海のような凍てつく怒りがレアの周りの空気を支配し、足に纏われた渦は勢いを増す。

表情は努めて冷静にいたが、彼女から溢れ出る魔力は正直である。

 

 

「話すことは無いの」

 

「つれないな〜」

 

 

すると、ブルームの蔦に変化が起きる。

その根元がモゾモゾと蠢くと、グニョリ!とそこからもう一本蔦が生えた。

さらに生えただけに留まらず、パキパキと音を立てた蔦はパキリと先端から裂けた。

 

 

樹竜尾(きりゅうび)

 

 

ブルームが手を翳すと、裂けた蔦のうちの一本がレアに向かって振り下ろされる。

裂けてなおその太さは健在であり、目の前まで迫ったそれはさながら竜の尾の振り下ろし攻撃と相違なかった。

レアはバッ!とその場から飛び退くと同時に蔦は空を切る。

瞬間……。

 

 

バッキィッ!

 

 

振り下ろされた蔦はレアが先程まで足場にしていた梁に命中し、骨組みとして使命を全うしていた梁はただの木片へと姿を変えた。

 

まだ彼のターンは終わっていない。

レアが地から足を離したのを見たブルームはニヤリとほくそ笑み、空に置いた手を小さく払う。

それに呼応するように、裂かれたもう一本の蔦がレアの真横へと迫り、その小さな体を薙ぎ払おうとする。

しかし、レアはナツと比較して火力面においては一歩劣ってしまうものの、防御面は彼女の方が優れている。

 

 

「水竜の抱擁」

 

 

慌てる様子も無く、レアは自分の周りに荒ぶる激流のバリアを張った。

そして払われた蔦がバリアに触れたその瞬間、バチンッ!と音を立てて弾いた。

決まったと確信していたからか、ブルームはギョッと目を見開く。

その隙は大きかった。

ぷくぅっと頬を膨らませたレアの口に魔力が収束する。

それは滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)のある魔法の共通の前動作であり、ブルームの表情には若干の焦りが見えた。

 

 

「水竜の咆哮!!」

 

 

レアのブレスの発射とブルームが自分の方へ手首をクイッと曲げたのは同時だった。

ゴオッ!と鳴った激流のブレスがブルームに届くかといったところ、彼を中心にレアへ攻撃をした一発目の蔦がとぐろを巻いた。

ズギャアアァァン!!と音が響き、水蒸気が舞い、木片がばら撒かれる。

 

油断なく敵がいた場所を見据えるレア。

やがて水蒸気が晴れると、とぐろを巻いた蔦が姿を現す。

ブレスが当たったであろう部分は多少の傷はあれど中心部に届くほどのものでは無かった。

精々薄皮が剥がれただけであろうその傷だったが、レアの表情は動かない。

すると、ズズズッと蔦が動き出し、中からブルームが姿を現した。

 

 

「驚いちゃった。少しね。まさか、今のが本気?」

 

「そんな訳ないの。ちょっと小突いただけなの」

 

 

その時、レアの後方、ブルームの遥か前方からゴッ!と鈍い音が強く響いた。

続いてバキッ!バキッ!とさっき吹き飛ばされたブルームのように連続で梁や支柱を破壊する音がコチラに向かってきていた。

やがて飛ばされたそれはレアの真横を通り過ぎるとクルクルとひとりでに回り、やがて逆さの人型をなせば、その足裏からシャキン!と剣が生えてゴスッ!とブルームが蔦を巻いている梁の裏に刺さり、梁の裏側に立つという珍妙な絵が出来上がった。

それと同時に、レアの隣に誰かが立った。

 

 

「あ、ガジル」

「ん? ブルか」

 

「ナツ」

「おう、レア」

 

 

それぞれのパートナーと言える存在であるガジルとナツであった。

ブルームがここに居ることに少し驚いた様子を見せたガジルだったが、すぐに視線を下のナツの方へ向けた。

 

 

「で? それが本気か? 火竜(サラマンダー)

 

「安心しろよ、ただの挨拶だ。竜のケンカの前のな」

 

「お遊びもここまでにして、本腰入れていくの」

 

「それじゃあ〜。もっと僕を楽しませてよ、水竜(リヴァイアサン)♪」

 

 

それぞれニヤリと笑い見下ろすファントムの双竜とは対照的に、自身の属性の魔法を手足に纏わせて敵を討たんと睨みあげる妖精の双竜。

 

舞台は整った。

体が温まった4頭の竜の喧嘩が今幕を開ける――

 

 

ズドオオォォオオン!!!

 

 

――ことは無かった。

 

 

「え!?」

「は…?」

 

「ワ…ワシの……魔力が…ぁ……」

 

 

ナツとレアよりもさらに上から落ちてきた、息を切らし肌の色が緑へと変色してしまったマスター・マカロフによって。





まさに青天の霹靂。
賢しい幽鬼は闇より生気を喰らう。
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