妖精の尻尾の双竜   作:uru1629

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投下投下ぁ


命を喰らう魔法

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の双竜の片割れ、ナツは窮地に陥っていた。

 

 

「よくぞそこまで立っていられる。たいしたものだ」

 

「ハァ……ハァ……ハァ……!」

 

 

息を切らし、全身ボロボロの彼の前に立ちはだかるは幽鬼の支配者(ファントムロード)幹部エレメント(フォー)の頂点、大空のアリア。

目隠しが特徴的な彼はそれゆえに表情が読み取れず不気味な雰囲気が漂う。

 

そんな状況に、物陰で隠れていたハッピーは目の前で起こる一方的な蹂躙に自身の目を疑っていた。

 

 

「くそっ!」

 

「しかし、我が“空域”の魔法の前では手も足も出まい」

 

 

炎を拳にまとって飛び掛かるナツであったが、アリアが掌底打ちの要領で構えていた手を突き出すと、ナツは何もない“空間”に吹き飛ばされ、床を転がった。

見えない魔法。

それがアリアの魔法の神髄であった。

 

 

「……まだ立つか火竜(サラマンダー)

 

「倒れるわけにはいかねえだろ……オレは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士なんだ……燃えてきたぞコノヤロウ!!!」

 

 

火竜(サラマンダー)は咆える。

立ち上がるたびに全身の筋肉が悲鳴を上げる。

だがナツはその炎を燃やすことを決してやめなかった。

再び拳に炎を纏わせ、爆ぜるように飛び掛かった。

 

 

「火竜の――」

 

「無意味だ」

 

 

冷静に右手を掲げたアリアがそう告げた瞬間、空間がぐにゃりと歪み、ナツの攻撃はまたしても“何か”に突き飛ばされた。

 

 

「空域…“絶”」

 

「ぐああああっ!!!!」

 

 

見えない“壁”……襲い掛かる“空間”……それは魔力を奪い、力そのものを奪う“枯渇(ドレイン)”の力そのものであった。

ナツの炎が消え、空間は再び無へと帰す。

 

 

「ちくしょオ!!」

 

「上には上がいるのです、若き竜よ」

 

「火竜の咆哮!!!」

 

 

吹き飛ばされながらも体勢を立て直したナツはアリアに向けて自慢の炎のブレスを発射。

だが──

 

 

「消えた!!?」

 

「!!! ど……どこだ!!?」

 

 

ブレスが当たる直前、彼の姿は最初からそこに存在していなかったかのように消えた。

すると、どこからともなく声が響いた。

頭に直接届くかのようなそれはまさに幽鬼の宣告。

 

 

「終わりだ火竜(サラマンダー)……あなたにマカロフと同じ苦しみを与えてやろう」

 

 

するとナツの背後に、最初からそこに存在していたかのように姿を現したアリアが両手を構える。

その手の中で、光が怪しく輝きだした。

 

 

「空域“滅”!!! その魔力は(から)になる!!」

 

 

瞬間、ナツの体に異変が起こった。

炎が灯らない……力が抜けていく……彼の体から魔力が抜けていっているのだ。

イタズラに消費される魔力はナツの身体機能を麻痺させ、枯渇(ドレイン)による魔力欠乏の症状を加速させる。

 

 

「ナツーーー!!!」

 

「炎なき火竜は、もはやただの獣だ」

 

 

やがて膝をついたナツへ無常に告げるアリア。

ナツの瞳に宿る炎がぶれる。

もうだめかと思われたその時だった。

 

 

「それは違うの……!」

 

「む……?」

 

 

水のように澄み切った声が響いた。

アリアがわずかに顔を向けた瞬間、強烈な水圧が空間を裂いた。

蒼き奔流が一直線にアリアを襲う。

魔力の壁をすり抜け、衝撃が彼の体を揺らした。

 

 

「水流のブレス……まさか!」

 

 

何度も見たことのある光景に、ハッピーの表情がパァッと明るくなった。

 

 

「ま……間に合ったかしら……」

 

「……」

 

 

荒ぶる水流を纏わせた、雨すらも己の糧とする水竜──レア・ギルティの到着を意味していた。

口元には微かに怒気を含ませた笑みを浮かべている彼女はゆっくりと膝就くナツの隣に降り立った。

その背中には、アスバルとのドタバタ劇を終えたばかりのフリーシャがいた。

来た道を戻った彼女はすぐにレアと合流し、ここまで全速力で文字通り飛んできたのだ。

 

 

「……レア…!」

 

「……ナツがレア抜きで先にやられるなんて、そんなの……レアは許さないの」

 

 

目線を合わせた彼女は震える彼の肩にそっと手を添える。

その瞬間、静かな波紋のような魔力が彼の体に流れ込んだ。

 

 

「これ……魔力が戻ってきた……!」

 

「レアの魔力…あんまり多くも無いけど…半分わけるの」

 

 

本来魔力の譲渡とは、血と同様簡単に行えるものは決してない。

当人に合った魔力の質というものがあるからだ。

しかし、レアの魔力は違う。

 

水の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の魔力は、生命の循環そのものである。

どんな形にも姿を変え、あらゆる状況に適応する。

さらに同じ滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)ともなれば、相性はこれ以上ないほどに良好。

共に竜を殲滅せんとする魔導士同士の魔力は合わさることで共鳴を起こす。

 

 

「悲しいな……火竜(サラマンダー)だけでなく、水竜(リヴァイアサン)の首まで私にくれるとは……」

 

「コイツが枯渇(ドレイン)の使い手……おじいちゃんをやったやつなの……」

 

 

レアの声は静かで冷たい。

それは水底に沈んだ怒りのようであり、決して爆ぜることはない……だが、確かに燃える感情だった。

アリアの目隠しの奥にわずかな警戒の色が差す。

 

 

「ふふふ……さすがに怒りに燃える双竜を相手取るとなれば……この私も本気を出さねばなりませんな」

 

 

そう言いながら、彼は目隠しに手をかけた。

彼の閉ざされていた目が解放されたその瞬間、彼の内で眠っていた魔力が覚醒した。

 

 

「来い、双竜。死の空域“零”発動。この空域はすべての命を喰いつくす」

 

「何でそこまで簡単に人の命を奪えるんだコノヤロー!!!」

 

「人の命は……お前らの道具でも玩具でも無いの!!!」

 

 

開眼された目が光り、アリアを中心に魔力が……いや、もっと違う“なにか”が渦を成す。

それは、生命力。

生きるにおいてもっとも重要なそれを、アリアはいとも容易く奪い去ろうとする。

 

ナツから、レアから、ハッピーにフリーシャ……生命全てから奪い去ろうとするそれは、双竜の逆鱗に触れた。

しかし、アリアはそれに臆することは無かった。

 

 

「さあ、楽しもう」

 

 

その狂ったような笑みを皮切りに、第二ラウンドが幕を開けた。

同時に駆け出したナツとレアはまっすぐアリアに立ち向かう。

 

 

「あなたがたに、この空域が耐えられるかな!?」

 

 

嘲笑を浮かべながら、アリアは掌底打ちのように手を突き出し、空域を飛ばした。

今までの彼らであれば、なすすべなく打ちのめされただろう。

だが、彼らはその一瞬一瞬を糧にさらに成長する。

先ほどまでとは全く違った。

 

 

「今のオレらなら、負ける気がしねェ!!! 火竜の翼撃!!!」

 

 

両腕に炎を纏ったナツは舞うように旋回した。

すると、渦を巻いた炎に巻き込まれ、空域は荒々しく破壊されていった。

 

 

「え!?」

 

 

先ほどとは全く違う動きとその出力の差に、アリアは一瞬呆気にとられた。

その一瞬を、共に向かっていったレアは見逃さなかった。

 

 

「派手にいくの……!!! 水竜の槍角!!!」

 

 

全身を水流で纏ったレアは思いっきり地面を蹴ってアリアに向けて飛び蹴りを放った。

蒼い軌跡を作ったレアの水流は高圧ジェットのように辺りを吹き飛ばし、周囲の空域を押し流した。

 

 

「バカな!!? 空域を破壊し押し流すなど……!」

 

 

考えもしなかった事態に、目を奪われていたアリアは、自分の懐まで潜り込まれた双竜の存在に気が付かなかった。

 

 

「火竜の鉄拳!!!」

 

「水竜の鍵爪!!!」

 

 

交差する拳と蹴りが、ついにアリアの防御を崩した。

なんとか急所を外させたアリアであったが、その代償に彼は大きく吹き飛ばされた。

空域は弾け、彼を守る壁はもう何もなかった。

 

 

「ぐっ……まさか……ここまでとは……!」

 

 

打ち上げられてなお、彼は掌底打ちの構えをとり、新たな空域を展開しようとする。

だが、彼の前ではすでに、“竜”が二頭、臨戦の構えを取っていた。

 

 

「トドメだ、レア!!!」

 

「ん、いくの……!」

 

 

双竜が咆える。

炎と水が絡み合い、渦を巻く。

そして放たれたのは──

 

 

合体魔法(ユニゾンレイド)……烈渦(れっか)の咆哮!!!!』

 

 

轟音響く、爆炎と奔流が混ざり合った命の息吹。

アリアはその中心で空域を操作する暇もなく、さらに押し上げられた。

爆発の余波が吹き抜け、やがて静寂が戻る。

煙の中に、崩れ落ちたアリアの姿があった。

彼の意識はすでに遠く、もはや戦闘不能であった。

 

 

「やったーーー!!! やったよナツ!!エレメント4最強の魔導士を倒したんだ!!!」

 

「さっすが双竜かしら!!! 揃えば最強なのよ!!!」

 

 

へたりと座り込んだナツとレアの前にハッピーとフリーシャが飛び込んできた。

肩を寄せ合いながら座り込む二人は、我が事のように喜ぶ二匹の猫を見ながら静かに拳を合わせた。

火と水。

決して交わることのないはずの力が、確かに今、一つの勝利を刻み付けていた。

 

そう思われた……。

 

 

「……悲しい」

 

「!!?」

 

「な、なんだ!!?」

 

 

ナツとレアの背後で、アリアがボロボロながらも立ち上がっていたのだ。

しかしもうすでに限界のようで、その大きな体はフラフラと揺れていた。

しかしそれでも彼はナツとレアに向けて両手を構えた。

 

 

「私は竜に喰われた……だが、タダでは喰われまい。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の双竜の首をマスター・ジョゼに捧げて散ろう」

 

 

土壇場で合体魔法(ユニゾンレイド)を使った反動は大きく、ナツとレアはその場から動くことができない。

ハッピーとフリーシャが助けようとするも、一足遅かった。

 

 

「空域“滅”!!!」

 

「ヤバッ……!」

 

「んぐ……!? 力が……!」

 

 

アリアの最後の力を振り絞って発動した魔法がナツとレアを捉えた。

動けない彼らからさらに魔力を奪う。

 

が、それは最終的に不発に終わった。

 

 

「天輪・繚乱の剣(ブルーメンブラット)!!!!」

 

 

数十に及ぶ光り輝く剣がアリアを切り裂いた。

そのまま彼は今度こそその意識を闇に墜としたのだった。

アリアにとどめを刺した人物……その正体に4人は目を見開いた。

 

 

「マスターが貴様ごときにやられるハズがない……今すぐ己の武勇伝から抹消しておけ」

 

「「エルザ!!!」」

 

「すまない、遅れた……無事だったか?」

 

「全部持ってかれたの……」

 

「やっぱエルザはおっかねえ……!」

 

 

わずかながらに魔力を回復させたエルザの姿に、ナツとレアは複雑な気持ちを抱かざるを得なかった。

 

 

~~~

 

 

超魔導巨人MkⅡの前で展開された魔法陣が光り輝く。

 

 

「全員ふせろォオっ!!!」

 

「ふせてどうにかなる魔法じゃねえだろォ!!!」

 

 

ファントムの幽鬼兵と戦っていた妖精の尻尾(フェアリーテイル)は阿鼻叫喚の絵図と化していた。

街の半分を消し飛ばす魔法の発射がもうすぐそこまで迫っている。

 

その時だった。

巨人に異変が起こった。

腕の関節が外れ、体のあちこちが砕け、そして何より発射を寸前まで控えていた魔法陣が霧散したのだ。

立つのも限界となったのか、巨人は膝から崩れ落ち、そこから動かなくなったのだった。

 

それはつまり、巨人の停止……煉獄砕破(アビスブレイク)が消滅し、妖精の尻尾(フェアリーテイル)にとっての最大の脅威が消えたことを意味していた。

 

 

~~~

 

 

「ありえんっ!!!」

 

 

魔導巨人の指令室では、マスター・ジョゼがご乱心な様子であった。

 

 

「エレメント4が妖精の尻尾(フェアリーテイル)のクズ共相手に全滅したというのかぁっ!!!?」

 

 

感情を制御しきれていないのか、拳を震わせながら怒鳴り声をあげるその姿に、ファントムの魔導士たちは揃って小さな悲鳴を上げた。

 

 

「……ガジルとブルームはどこにいる?」

 

「そ…それが…どこにいったのか……」

 

 

いまだに声を震わせながら低く問いかけたジョゼに魔導士の一人がビクビクしながら答えた。

その時、指令室の扉が開いた。

 

 

「ここにいるよ、マスター」

 

「エレメント4が全滅だぁ? まあクズにやられたんなら奴等も同じクズって事さ。ギヒヒ」

 

「あのアリアもやられるなんて思ってなかったけどね~。けどこういうことになるなら、僕かガジルどっちか残っとくべきだったかもね」

 

 

現れたのはジョゼが探していたその人であった。

幽鬼の支配人(ファントムロード)最強の魔導士、双竜の二人であった。そして、ガジルの左腕の中には、気を失ったルーシィが抱えられていた。

 

 

「マスター、おみやげだよ」

 

「ルーシィだと!? どうやって……」

 

「忘れちゃった~? 滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の鼻ってとってもいいんだよ」

 

 

ドサッと乱雑に床に落とされたルーシィを見て、ジョゼは目を丸くさせた。

そのルーシィはというと、もうボロボロな状態であり目を固く閉じていた。

そんな様子に、魔導士たちが不安に陥っていた。

彼女は今回の戦争の引き金となった存在でありながら依頼主との交換材料だ。

死なれたら依頼は失敗、お金は入らないのだ。

 

そう言われたガジルは顎に手を置いて考えた素振りを見せた。

その次の瞬間、ドゴッ!と鈍い音が鳴り響いた。

なんとガジルが意識のないルーシィの腹部めがけて一切躊躇のない蹴りを叩き込んだのだ。

突然の凶行にファントムの魔導士の何人かが悲鳴をあげた。

腹を蹴り上げられたルーシィは急な痛みに意識を覚醒させ、血を吐き出しながら咳き込む。

そんな様子に、ガジルはおかしそうにギヒヒと笑った。

 

 

「生きてるみたいよ」

 

「あ、ガジルずるい!! それ僕がやりたかった!!!」

 

「ブルにはあのデカブツをやっただろうが」

 

「あんなすぐ壊れる玩具で満足できるわけないじゃん!」

 

 

そんなやり取りに、ファントムの魔導士たちは身の毛がよだつ。

それとは反対にジョゼは満足そうな笑みを浮かべたのだった。

 

 

「さすが我がギルド最強の魔導士、ガジルさんとブルームさんですね」





いよいよです…!
いよいよ次がこの章で一番書きたかったとこです!
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