妖精の尻尾の双竜   作:uru1629

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始まりました、双竜対決でございます!


竜たちの喧嘩

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の皆さん。我々はルーシィを捕獲しました》

 

 

突然ファントムの方からどこか上機嫌な声がスピーカーによって発せられた。

その内容に、誰もが耳を疑った。

 

 

《一つ目の目的は達成されたのです》

 

 

その時、スピーカーの奥からボゴッ!と鈍い音が響いたとともに、甲高い悲鳴が飛び込んできた。

 

 

《きゃあああああああああ!!!》

 

「え!?」

 

「ルーシィの声……!?」

 

「オ…オイ!! ルーシィに何をしたァ!!」

 

 

それは紛れもなく彼女の声であった。

これでジョゼが言っていることは嘘八百のブラフではなく、事実を述べているものだと証明された。

 

 

《聞こえたでしょ? 我々に残された目的はあと一つ》

 

 

瞬間、妖精の尻尾(フェアリーテイル)を襲っていた幽鬼兵(シェイド)の雰囲気が変わった。

再び襲い掛かってきたそれらを対処しようとする妖精の尻尾(フェアリーテイル)であったが、そうは問屋が卸さない。

雰囲気が変わっただけではない。

それらの戦闘能力が明らかにパワーアップしたのだ。

ジョゼの目的は明白だった。

 

 

《貴様等の皆殺しだ。クソガキども》

 

 

それっきり、ジョゼからの通告は途切れたのだった。

 

 

~~~

 

 

「あいつら~~…!」

 

 

魔導巨人内部、そこにも先ほどの放送が同様に流れていた。

ファントムの非情なやり方に、ナツは怒りを携えながら拳を握った。

怒りに震えるのは何も彼だけではない。レア、エルザ、ハッピーとフリーシャも同様にファントムに対する怒りが蓄積される。

だが、その中で一人、異変が起きた。

 

 

「くっ……!」

 

「!? エルザ!!」

 

 

アリアにとどめをさしたエルザである。

くらっとなったエルザは纏っていた天輪の鎧が自然解除され、普段の鎧に戻った。

やはりぎりぎりな状態らしく、彼女は息を切らしながら膝をついた。

彼女の不調に真っ先にレアが駆け寄ろうとしたものの、それは彼女が手を前にかざすことで遮られた。

 

 

「ナツ…レア…。力を…解放しろ……」

 

 

息を切らしながら語る彼女に、ナツとレアは揃って疑問符を浮かべる。

 

 

「おまえたちには……まだ、眠ってる力がある……自分を信じ、貫き、呼び起せ……今がその時だ。ルーシィを…ギルドを、守るんだ…。行けぇっ!!! 双竜!!! お前たちは私を超えていく魔導士だっ!!!」

 

 

その叫びは炎よりも熱く、海よりも深く、彼らの心に響いた。

 

一瞬の静寂。

 

ナツは黙って拳を握ると、足元から赤々とした炎が吹き上がる。

怒りと覚悟、全てを燃やすような猛火。

それは言葉以上に雄弁だった。

 

レアもまた、視線を落とし、そっと手を伸ばす。指先から生まれたのは、透き通るような蒼い水流。

それは穏やかに見えて、芯には揺るぎない意思を秘めていた。

 

二人の魔力が交錯する。

火と水。

相反するはずの力が、まるで共鳴するように空気を震わせた。

 

 

「……」

 

 

エルザは静かに目を細め、笑みすら浮かべた。

言葉はいらない。

彼らの返答は、もう充分だった。

 

その背中に、彼女は確かに見た。

未来を切り拓く“力”と“意志”を——

 

 

「行こう」

 

 

ナツが低く、燃える声で呟いた。

 

 

「ん」

 

 

レアも短く答えた。

そして二人は駆け出した。

炎と水が、囚われた仲間の元へ向かって爆発的に放たれていく。

その背には——≪双竜≫の名がふさわしい、誓いと決意が宿っていた。

 

 

~~~

 

 

超魔導巨人ファントムMkⅡの指令室。

薄暗い室内に、かすれた笑い声と金属音が響く。

壁に磔にされたルーシィの目の前で、ナイフがシュッと音を立てて突き刺さった。

ほんの数センチ、顔をかすめる位置であった。

 

 

「ギャハハ、あぶねーあぶねー、今のは当たっちまうとこだったぜブル」

 

「我ながらナイスコントロール! 今日の僕の投擲の腕冴えてるかもね~」

 

 

ファントムの双竜、ガジルとブルームが磔にされたルーシィを相手に飽きもせず“遊んで”いた。

ナイフ投げによる的外し。

対象は、泣きも叫びもしない、明らかに衰弱した様子の少女——ルーシィ・ハートフィリア。

 

 

「な、なぁ……もうやめとけって……お前ら……これ以上やったらホントに当たっちまう……」

 

「あ? だってヒマなんだモンよ」

 

「マスターもひどいよね~。僕らに任せたらこうなるのわかってただろうに」

 

 

非人道的な行為を平気で行う二人に声をかけたファントムの若い魔導士。

だが聞く耳を持とうとしないファントムの双竜。

 

 

「さぁて、次はオレの番か」

 

「僕よりも高得点出せる~?」

 

「よ…よせって……」

 

 

そこからの言葉は続かなかった。

ガジルがナイフを投げるところに割り込もうとした若い魔導士は、ブルームの腰から生えたうねる大木によって叩きのめされた。

 

 

「ちょっと黙っててくんない?」

 

 

ブルームが無造作に吐き捨てると、魔導士を押しつぶしていた大木がゆっくり引っ込む。

そのとき、もう既に魔導士のうめき声は消えていた。

仲間にさえ無常に鉄槌を振り下ろすその姿に、その場にいた者らは揃って震え上がった。

 

 

「この女がどこのお嬢だろうがオレにとっては尻尾(ケツ)のクズだ。死んじまってもどうって事ねえ」

 

「そんな事になったらマスターに怒られる……! ま、ますよ……!」

 

「そうなったら君らのせいにするから。僕らはし~らない」

 

「そんな~~!!」

 

 

二人の非道に、ルーシィは顔を上げた。

額から汗を流し、血のにじむ唇は震えている。

しかし、彼女の瞳は鋭く、笑っていた。

その喉の奥からクスッと、かすれた笑い声が漏れた。

 

 

「んー? 何か言ったか? 女ァ」

 

「アンタたちって本当にバカね。かわいそうで涙が出てくるわ」

 

 

そう静かに、しかし切り込むように言った彼女に、ブルームは少し目を見張った。

 

 

「へぇー……この状況で虚勢がはれるって、思ってたよりも大した根性してるね、妖精さん?」

 

「アンタたちなんか少しも怖くないし……」

 

 

瞬間、スコーン!と甲高い金属音が響いた。

先ほど突き刺さったナイフとは反対側にナイフが突き刺さったのだ。

 

 

「何だって?」

 

 

投げたのはガジルだった。

煽るように耳に手を当てそう問う。

ぶら下がった足が震え、ぎゅっと拳が握られる。

それでも彼女はしゃべり続けた。

 

 

「あたしが死んだら、困るのはアンタたちよ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)は決してアンタたちを許さない!! そういうギルドだから!」

 

 

磔の身でありながらも、彼女の声は力強かった。

 

 

「世界で一番恐ろしいギルドの影に、毎日怯える事になるわ……一生ね」

 

 

静寂が落ちた。

その“静けさ”を破ったのは、乾いた笑いだった。

 

 

「おもしれぇ……」

 

 

ガジルの目に、殺意と嗤いが混じる。

 

 

「じゃあさ……ちょっと試してみる?」

 

 

ブルーム口が歪にゆがむ。

 

言うや否や、二人はナイフを手にかけ、同時にルーシィの頭目がけて一閃——

だが、その刹那。

 

ゴオッ!!!

 

下の階からぶち抜くように、天井が爆ぜた。

空間に迸るのは、紅蓮の炎と蒼碧の奔流。

破片と魔力の渦の中、ファントムの魔導士たちとルーシィは目を見開いた。

 

 

「やはりな……」

 

「だね、匂いで気づけるよ」

 

 

そこに、ナツ・ドラグニルとレア・ギルティが並んで着地していた。

ナツの両腕から広がるのは、燃え盛るような“炎の翼”。

レアの足元からは、迸る“水の鍵爪”が立ち上る。

 

 

火竜(サラマンダー)……水竜(リヴァイアサン)……!」

 

 

竜の姿を幻視したルーシィは、笑みを浮かべた。

 

 

「ダラァッ!!!」

 

 

ドガッ!!!

 

燃える拳がガジルの顔面に直撃する。

そのまま吹き飛ばされ、そばにいたファントムの魔導士を巻き込んだ。

 

 

「んッ!!!」

 

 

ズドンッ!!!

 

反対にレアの跳躍、足裏から生じたらせん水流がブルームの腹に炸裂する。

彼は驚いた顔を見せながら、一瞬で壁まで吹き飛ばされた。

 

剥き出しの殺気と決意を宿す双竜の瞳が、敵を見据える。

 

竜たちの喧嘩(スレイヤーバトル)が、今、幕を開けた。

 

 

「大丈夫だった? ルーシィ!」

 

「今助けるかしら!」

 

「ハッピー、フリーシャ!」

 

 

喧噪広がる中、ルーシィの元へハッピーとフリーシャが飛び込んできた。

ハッピーが彼女の手首を壁に打ち付けている鉄板と杭の除去に取り掛かり、フリーシャはルーシィの体のあちこちに絡みついたツタを(ソウ)を用いて切り裂いている。

 

一方、宙を転がったガジルとブルームはゆっくりと合流した。

 

 

「サプライズがすぎるだろ……」

 

「ふふっ……楽しみだね。ねえ、ガジル」

 

「チッ……手加減無しでいくぜ、ブル」

 

「もっちろん」

 

 

二人の殺気が空間を満たす。

ナツとレアもまた、一歩も退かずに向き合う。

崩れかけた金属床を踏み鳴らし、四つの影が対峙する。

 

吹き荒れる熱風、唸りを上げる水流。

軋む鉄鎧、蠢く触手。

 

言葉などいらない。

先に動いたのは、ナツだった。

 

 

「ガァアアアアッ!!!」

 

 

咆哮を喉元に溜め込みながら瞬時に接近。

迸る火炎が左腕に纏われたまま、炎を握り拳と化し、そのままガジルの腹部に撃ちこむ。

ガジルはそれを、両腕を鋼鉄化させて受け止めた。

 

ギィィィイイン!!!

 

金属が悲鳴を上げ、衝撃で床がひび割れる。

しかし、ガジルの口元が吊り上がった。

 

 

「おもしれえじゃねえか!」

 

 

反撃。

鉄を纏った頭突き。

それを、ナツは咄嗟に肩で受け止める。

火花が散る。

反動で二人の足が床を裂きながら滑る。

周りの空気すら震えるほどの一撃の応酬。

 

同時に、もう一つの対角で触手が唸った。

 

 

「……さあ、お相手してもらおっか」

 

 

ブルームの両腕が樹木の如く肥大化し、黒光りする大枝へと変化していく。

さらに腰から伸びる尾のような蔦は、空気を裂いてレアの周囲を翻弄する。

レアは言葉なく、水流を纏った両腕でその一撃一撃を正確に受け流していく。

乱打、突き、捻り、絡みつくような変則攻撃。

一撃の重さではブルームが勝る。

だが彼の腕が枝を振るたびに、水流が蛇のように巻き付いて勢いを殺す。

 

——静かだ。

 

にもかかわらず、攻撃の応酬は嵐そのもの。

 

ナツとガジル、レアとブルーム。

それぞれの間合いが一度だけ開き、四人は一瞬の間、互いの息遣いを感じ取った。

焦げた金属の匂い、水蒸気の渦。

砕けた木屑と、立ち昇る塵煙。

戦場の静寂に、ふっとガジルが笑った。

 

 

「やっと決着をつけれるな……火竜(サラマンダー)

 

 

ニヤリと歯を剝くナツ。

その奥に燃えるものは、戦いの悦びと怒りの熱。

 

 

「燃えてきたぞ、鉄クズ野郎」

 

——戦火の鼓動が再び加速する。

 

その少し横では、ブルームが飄々と笑い、腕の枝をぐるりと回した。

 

 

「今度こそ楽しませてよ、水竜(リヴァイアサン)

 

 

それを見据えるレアの瞳は、揺るがない海の底のように静かで冷たい。

 

 

「全部流し去ってやるの……」

 

 

彼女の足元に、水の魔力が低くうねる。

 

互いに自らの体を竜の体質へと変化させる滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)

竜迎撃用の魔法をもって人間同士で戦うその結末……それはだれにも予想がつかなかった。

 

瞬間、ガジルの皮膚が金属音を立てながら硬化していく。

全身が鋼鉄の鱗で覆われ、光を鈍く反射していた。

ガジルの目が、より鋭く、鋼の殺意を灯す。

 

かたやブルームも変化が現れる。

腕を横に広げた彼の身体を包むように、背中から生えた無数の枝と根が生い茂り、全身を覆うように“樹の鎧”が形成されていった。

その表面には樹皮のような模様が走り、触手のような蔦が四方八方にうねり出た。

装甲化されたその姿は、まさに古代樹のようだった。

 

 

「ギヒャハァッ!!!」

 

 

先に仕掛けたのガジルだ。

鋼鉄の鱗を纏った拳がナツに向かって唸りを上げる。

それは質量と硬度を帯び、ナツの片腕を的確に打ち抜いた。

 

ボキィッ!!!

 

 

「ぐああぁ!!?」

 

 

ナツの右腕に走る激痛。

骨が軋み、悲鳴を上げる。

皮膚は裂け、血が滴り落ちた。

 

続けて放たれたガジルの蹴り。

これ以上の被弾は不味いとの考えか、ナツはかがんで避けると、突風が巻き起こった。

鋼鉄の鱗によって倍化させた攻撃力のみで起きたそれに、見守るしかなかったルーシィらは驚愕することしかできない。

 

 

「ドラアァ!!!」

 

 

反撃に転じたナツは炎を纏った拳をガジルの顔面に命中させた。

だが、効果はさほどないように見える。

 

 

「ギヒッ、鋼鉄の鱗は全ての攻撃を無力化する」

 

「……ッ! うあああっ!!!」

 

 

鋼鉄を殴った反動で、ナツの拳の骨が軋む。

自身の攻撃が、逆に己を傷つけているのだった。

 

 

「次は、僕の番」

 

 

ブルームの触手がしなやかに、だが雷のような速度で迫る。

可動範囲を広げた分、動きにもキレがあった。

レアの水の壁が間に合う前に、一本の蔦が脚を打ち据えた。

 

 

「ッく……!」

 

 

ドシュッ!!

 

脛を叩かれ、レアが一瞬ひざを落とす。

だがそのまま地面を蹴り、水をまとった螺旋の蹴りを放つ。

ブルームに向かって放たれた“水竜の鍵爪”が、その樹皮の胸部に命中する。

しかし、ブルームはわざと受けたかのように笑っていた。

 

 

「ふふっ、水分は僕の栄養になるんだよ?」

 

 

その水流は彼の身体に吸収され、植物のように潤っていく。

装甲の輝きが一層増していた。

互いの一撃に、互いが明確な手応えを得る。

 

 

「火竜の——」

「水竜の——」

「鉄竜の——」

「樹竜の——」

 

 

四者がそろって頬を膨らませた。

その構えは、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)共通のモーションであった。

 

 

『咆哮!!!!』

 

 

——ドゴォォォォォォンッ!!!

 

空間が歪む。

四つのブレスが交錯し、激突する。

赤と青、銀と緑、全てを吞み込む破壊の波動。

爆炎と轟音の中、視界が塞がれた。

 

 

「お互いの竜の性質の違いがでちまったなぁ」

 

 

やがて晴れた視界に映ったのは、壁に大きく空いた風穴を前に立つ二つの影だった。

 

 

「たとえ炎が相手を焼き尽くす、激流が全てを押し流す(ブレス)だとしても、鋼鉄には傷つかず、樹木は堂々と立つ」

 

「逆に鉄と樹木の刃の(ブレス)は君たちの体を切り刻む。どう? 痛いかなぁ」

 

 

反対にナツとレアには体のあちこちに鉄の破片や木片が刺さり、そこから血が垂れ落ちる。

苦しそうに呻くナツとレアであったが、彼らの言葉には反応せず、かすれた笑いを零した。

 

 

「……あ?」

 

 

ナツが、ゆっくりと顔を上げる。その頬には血の筋が流れるも、口元には不敵な笑みが浮かんでいる。

 

 

「その目は節穴なの?」

 

 

レアの声が静かに、だが冷たく囁いた。

その声と同時に——

 

ピシィッ!!!

 

 

「——ッ!?」

 

 

ガジルの鋼鉄の額にヒビが走った。

左目の上、鱗の間から血が一筋伝い落ちる。

 

バキィッ!!!

 

ブルームの両腕を覆っていた樹の装甲が砕け散る。

木片が飛び、裂け目から鮮血が吹き出した。

 

 

「……なっ」

 

 

まるでバグで起こしたかのように固まるガジルとブルーム。

だが、この結果は至極当然だったのだろう。

 

 

「オレの炎も、レアの水もただのそれじゃねえぞ」

 

「火竜の炎は全てを破壊して、水竜の水は呑み込むの」

 

 

そんな二人からあふれ出す魔力量が跳ね上がった。

雰囲気が変わり、場の空気を四人が完全支配した。

 

 

「本気で来ねえと砕け散るぞ、鉄竜(くろがね)のガジル……探り合いはもう充分だ」

 

 

ナツが低く、しかし熱を孕んだ声で告げる。

 

 

「ここからは……楽しいお遊びなんかじゃすまなくなるの。覚悟するの……樹竜(たいじゅ)のブルーム」

 

 

その隣で、水流を足に構え直すレアが静かに言う。

 

ガジルとブルームが顔を見合わせ、口元をゆがめて笑った。

 

 

「この空に竜四頭は狭すぎる……」

 

「僕たちが墜としてあげるさ。火竜(サラマンダー)水竜(リヴァイアサン)……!」

 

——竜たちの激突は、いよいよ本格的な戦闘へと移り始める。





前編はここまで…。
次回もお楽しみに!(^^)!
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