妖精の尻尾の双竜   作:uru1629

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あたしの決意

 

昼休みがそろそろ終わるころのこと。

 

 

「ナツ、レア…グレイ……」

 

 

覇気のない声が三人に届いた。

声の方を見ると、ロキがそこに立っていた。

その顔は酷くやつれており、押したら倒れそうなくらいふらふらだった。

その右手には、よく知る少女の鍵束がぶら下がっていた。

ルーシィの星霊を召喚するための鍵である。

 

 

「おまえ……その顔!! しばらく見ねえと思ったら、ずっとコレ探してたのか!!?」

 

「いや……ははは……辛いね、フェミニストは」

 

 

心配そうに駆け寄ったグレイに、ロキはそう零した。

やつれくるらい必死になってコレを探していたのかと思うと、やはり彼もルーシィのことは心配していたようだ。

 

 

「たまには遊びに行くか!!」

 

「ん。ここ最近忙しかったし、久しぶりに会いたいの」

 

「だな……ちょっと心配だしな」

 

 

ナツの提案でルーシィの家に向かうこととなったが、ロキは行くことを拒んだ。

彼が星霊魔導士が苦手であることは周知の事実ではあるが、どこかうつろを眺めるような彼の横顔が、グレイにはやけに印象に残った。

 

 

「貴様等!!! どこに行くつもりだ!!! 働けェ!!!」

 

「逃げろーーー!!!」

 

「鬼ごっこなのー」

 

 

現場を離れようとしたナツとレアを見て杭打ち用のハンマーを構えたエルザに追いかけられる形でその場を後にしたために、彼のその表情にどんな意味があったのか、今となっては想像することしかできなかった。

 

 

~~~

 

 

「ルーシィ元気かぁ!!!」

 

「あいさー!」

 

「お邪魔するのー」

 

「するかしらー」

 

 

直行でルーシィの家にやってきたナツ、ハッピー、レア、フリーシャ、グレイ、エルザ。

なんだかんだ言いながら彼らについてきたエルザの姿にグレイは微妙な表情を浮かべる。

あの追いかけまわされた時間は何だったのか……。

 

一方部屋の中は不気味なくらい静かだった。

ナツやレアの言葉に返事はなく、部屋はキレイに整頓されていた。

 

 

「風呂か!? お約束の展開が待っていそうで申し訳ないが——」

 

「いねえ」

 

「風呂のチェックはえぇよ!!!」

 

 

どうやら出かけているのか、どこを覗いても彼女の姿はなかった。

 

 

「ルーシィ。どこかしら~? むきゅ!!?」

 

 

フリーシャがそこにいるはずが無いだろうとツッコミされてほしいのか、タンスを一つ開けた瞬間悲鳴をあげた。

それに呼応してナツ、グレイ、ハッピーにエルザとフリーシャが見たものが何かと身に来ると、揃って顔を赤くさせていた。

 

 

「こ……こんな下着もあるんだ……」

 

「し……下着……なのか……?」

 

「……ど、どのようなときに身に着けるのだ……?」

 

 

ハッピー、ナツ、エルザとそれぞれ零す中、レアも後ろからそれをのぞき込んだ。

一拍置いて——

 

 

「たぶん、エッ——」

 

「待てレアそれ以上はダメだ!!!」

 

 

レアの言葉をグレイが全力で阻止した。

止められた本人は何がいけなかったのかわからず頭の上に疑問符を浮かべていた。

結局フリーシャの手によって日の目を浴びたそれは再び封印されることとなった。

 

気を取り直して彼女の手がかりを探そうとしたとき、今度は何か崩れる音が部屋に響いた。

音の方を見ると、ハッピーが大量の手紙に埋もれていたのだった。

その中の一通を手に取ったナツは封を破って中身を拝借した。

 

 

「ママ……あたしついに憧れの妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入る事ができたの…」

 

「おいおい、勝手に読むもんじゃねえぞ」

 

「ママ……今日はエルザさんって人に会ったの! かっこよくてキレーで……あのナツとレアがね……」

 

「む…」

 

 

グレイの制止を気にせず読んだ次の手紙の内容。

そこに書かれた自分自身の話題に、エルザは気恥ずかしくなりながらも率直に褒められて悪い気はしないようで頬を赤く染めていた。

グレイは散らばった手紙を集めて、封の裏に書いてある送り宛を見てみる。

 

 

「ママへ……ママへ……これ全部、ママへの手紙?」

 

「何で送ってねーんだ?」

 

「ルーシィ今家出中かしら」

 

「じゃあ何の為に書いてんだ?」

 

 

書いたのはナツの読んだ内容をみても間違いなくルーシィが書いたものであり、宛先がママ……彼女の母親であることも確定だ。

出せないのは家でしているから。

確かにそれで片付くであろうが、ナツの言うようにならばなぜここまで大量に書き溜めているかが謎だった。

 

 

「みんな……ルーシィの書置きがあるの……」

 

 

そんな中、レアはルーシィの机の前に立ち、小さな紙きれを持ってみんなに呼びかけた。

その紙切れに書かれていた内容は——

 

 

——I will go home(家に帰ります)

 

 

「何ィィ!!!?」

 

「帰るって何だよオイイ!!」

 

「何を考えてるかしらァ!!!」

 

「ま…まさか、まだ責任感じてるのかなぁ」

 

「わからん……とにかく急いで追うぞ! ルーシィの実家だ!!!」

 

 

~~~

 

 

四方を山に囲まれた平地の中、一軒の広大な庭を持つ豪邸が一つ。

それと比較すると小さな家が数軒。

この中の豪邸こそが、ハートフィリア財閥(コンツェルン)の代表が抱えるハートフィリア邸であり、その令嬢たるルーシィ・ハートフィリアの実家である。

 

その豪邸の一室、自慢の庭を眺望することができる書斎。

代表であり、ルーシィの父が業務を行うそこで、普段のルーシィとは違った、しかし彼女にとってはとても懐かしい煌びやかな桃色のドレスを身に纏って、父と対面していた。

 

 

「よく帰ってきたな。ルーシィ」

 

「何も告げず家を出て、申し訳ありませんでした。それについては、深く反省しています」

 

 

彼こそ、幽鬼の支配者(ファントムロード)にルーシィの連れ戻しを依頼した張本人、ジュード・ハートフィリアである。

一年もの家でから帰ってきた自分の娘に、大喜びで彼女を取り囲んだ使用人たちと打って変わって、自分の待つこの書斎に来いとだけ命じた父。

そして対面した今でも感情の揺らぎは一切見えず、ただ言葉を紡ぐのみ。

 

 

「件名な判断だ。あのままお前があのギルドにいるのなら、私はあのギルドを金と権威の力をもって潰さねばならないトコだった」

 

 

深々と頭を下げる彼女に淡々と告げる。

それに対し、ルーシィは下げている頭を上げることも無ければ表情も変えない。

 

 

「やっと大人になったな、ルーシィ。身勝手な行動が回りにどれだけの迷惑をかけるのか、いい教訓になったであろう。お前はハートフィリアの娘だ。他の者とは違う。住む世界が違うのだ。それを知ることができたのは幸運だったな」

 

 

その言葉に、ルーシィは反応を示さず目を細める。

既に覚悟を決めていた。

己の人生を変貌させてでも決めた覚悟。

 

 

「今回お前を連れ戻したのは他でもない、もう一つの幸運。ジュレネール家の御曹司との縁談がまとまったからだ」

 

 

この件に関しては、ルーシィは予想していた。

ジュレネール家の御曹司・サワルー公爵との婚姻。

以前から興味があると話も聞いており、実際に顔を合わせったこともあった。

低身長で肥満体型で、彼女に下品な目を向けながら手つきをいやらしく動かしていたことは今でもよく覚えている。

 

 

「ジュレネール家との婚姻により、ハートフィリア鉄道は南方進出の地盤を築ける。これは我々の未来と幸運を決める婚姻となるのだ」

 

「幸運……」

 

「そしてお前は男子を産まなければならん。ハートフィリア家の跡継ぎをな」

 

 

以後も淡々と告げられた言葉の温度は酷く冷たい。

自分を仕事のための道具としてしか見ていない発言の数々。

いつからだったか……いや、とうにわかっていたかもしれない。

あの時から、彼は自分を娘とは見なかった。

だが、もう彼女の心は揺るがなかった。

覚悟も、もう決まっていた。

 

 

「話は以上だ。部屋に戻りなさい」

 

 

「お父様、勘違いしないでください」

 

 

機械のように言葉を紡ぐだけだった彼の表情に、初めて驚愕が現れた。

ルーシィの告げた言葉に、彼は一瞬理解が遅れたのだ。

 

 

「私が戻ってきたのは、自分の決意をお伝えする為です。確かに、何も告げず家を出たのは間違っていました。それは逃げ出したのと変わらないのですから……。だから、今回はきちんと自分の気持ちを伝えて家を出ます!」

 

「ルー…シィ…?」

 

 

畳み掛けるように言葉を紡ぎ続ける彼女に、ジュードはさらに頭がフリーズを起こしていく。

彼女の決めた覚悟。

それは、犠牲になる覚悟などではない……それは自分の過去と、家と……父と決別する覚悟であった。

 

 

「人に決められる幸運なんてない! 自分で掴んでこその幸運よ! あたしはあたしの道を進む……結婚なんて勝手に決めないで!!」

 

 

黙って自分の話を聞いているだけと思い込んでいた娘の、強い意志のこもった反論に、彼はとうとう言葉を失った。

ルーシィの主張はさらに続く。

右手に刻まれた桃色の妖精を象った紋章を無意識下で見せつけるように振り、その人差し指を父に向けて言い放つ。

 

 

「そして、妖精の尻尾(フェアリーテイル)には二度と手を出さないで! 今度妖精の尻尾(フェアリーテイル)に手を出したら、あたしが……ギルド全員があなたを敵をみなすから!!!」

 

 

身に纏った桃色のドレスに手をかけた彼女は勢いよく引き裂き、彼女は堂々と宣言した。

白いコルセットのみを纏ったその姿は、過去の自分、ハートフィリアとしてのルーシィとの決別を表していた。

もう引き返せない……だが、後悔は無かった。

 

彼が幽鬼の支配者(ファントムロード)に依頼しなければ、もう少しきちんと話し合えたかもしれない……でも、もう遅い。

ジュード()ルーシィ()の仲間を傷つけすぎた。

 

 

「あたしに必要なものはお金でも綺麗な洋服でも、用意された幸運でもない……あたしという人格を認めてくれる場所!」

 

 

そんな彼女にとって、妖精の尻尾(フェアリーテイル)はもう一つの家族……ここよりもずっと温かい場所だった。

 

短い間とはいえ、母と過ごしたこの家を離れることも、幼い頃から世話を焼いてくれた使用人たちと別れることも、とても寂しくつらい。

 

 

「でもね……もしもママが生きてたら……あなたの好きな事をやりなさいって、言ってくれると思うの」

 

「……! レイラ……!!」

 

 

儚げに微笑む娘。

その横で、もうここにはいない……逝ってしまった妻が同じ微笑みを浮かべて姿が、ジュードには見えた。

あり得るはずが無い……しかしそれは、彼女の母が、娘を応援しに来たと、そう思わずにはいられたなかった。

 

立ち尽くす父に、ルーシィは背を向けて歩き出す。

一年前は、ただ逃げ出しただけだった。

でも……もう逃げたりしない。

 

 

「さよなら、パパ……」

 

 

最後まで堂々と告げた彼女は、今度こそ、生まれ育った家を出た。

今度こそ……己の家と別れを済ませたのだった。

 

 

~~~

 

 

敷地内に存在する共同墓地。

別れを告げたルーシィは、そこに来ていた。

この周辺に住まう者たちの遺族が眠るここにて、彼女の母もまた、その例外では無かった。

 

ひと際目立つ女神像の下の墓石に刻まれるその名は『レイラ・ハートフィリア』。

748年から777年とわずか29年の生涯に幕を下ろしてしまった彼女の墓に向かって、ルーシィは立っていた。

 

その途端、彼女の耳に自分の名を呼ぶ声が聞こえた気がした。

振り向いてみると、自分の名前を呼びながらこちらに走ってくるナツ、レア、グレイ、エルザの姿がそこにあった。

思いもしなかった人物たちの登場にルーシィが度肝を抜かれていると、自分の胸元に、泣いたハッピーとフリーシャが飛び込んできた。

 

それに追いついた彼らも、家に置いて行った書置きを見て、ここまで追ってきたことと、「家に帰る」としか書かれていなかったそれに、責任を感じているのではと思ったことを話した。

だが実際に思っていたこと、彼女の目的と覚悟を伝えると、一同は呆然としていた。

後に、ナツとレアは怒り、エルザは笑い、グレイは意気消沈し、ハッピーとフリーシャは揃って大泣きしていた。

その中で浮かべた彼女の笑顔は、ジュードも久しく見ていなかった、輝かしい満面の笑みであった。

 

 

「みんな……心配かけてごめんね」

 

「結局、取り越し苦労だったわけか…」

 

「気にするな。早合点した私たちにも非はある」

 

 

豪邸を後にし、帰路に着いた一同はルーシィの話とともに歩いていた。

この時聞いた話によれば、母の墓参りも兼ねての里帰りだったらしい。

話題には出さなかったが、母の手紙を出さなかったのはこれが理由かと数名はあたりをつけていたのはここだけの話である。

 

 

「ハッピーとフリーシャなんかずっと泣いてたしな」

 

「な……泣いてないかしら……!!」

 

「ナツとレアだってオロオロしてたじゃないか」

 

「し……してねェよ……!」

 

「なんでコッチに流れ弾なの……」

 

「な、なんかごめんね……?」

 

 

本当に散々心配かけたと小さな罪悪感と以前とは違った自責の念を感じたルーシィ。

だが、それに比例して、自分をここまで案じて迎えに来てくれた彼らに改めて温もりをも感じていた。

 

 

「しっかし、やけにでけー街だよな」

 

「のどかで良いではないか……」

 

 

「あ、ううん……ここは庭だよ。あの山の向こうまでがあたしん()

 

 

…………。

 

 

「あれ? どーしたのみんな……」

 

 

「お嬢様キターーー!!!」

 

「さりげ自慢キターーー!!!」

 

「…………」

 

 

ルーシィの 天然規格外発言!

ナツと レアと グレイは

混乱した!

 

ナツと グレイは 訳も分からず

肩を組んで 小躍りしだした!

 

レアは 訳も分からず

頭から 煙を噴いた!

 

 

「ナツとレアとグレイがやられました!」 

 

「エルザ隊長、一言お願いしますかしら!」

 

 

ハッピーが

報告を 使った!

 

しかし 何も起こらなかった!

 

フリーシャは 

伝令を 使った!

 

 

「空が……青いな……」

 

「えいせいへーい!!!!」

 

「エルザ隊長が故障したかしらーーー!!!」

 

 

エルザは 訳も分からず

夕空に向けて 呟いた!

 

パーティの 頭は

真っ白に なった……

 

 

「……っ…あはは……!」

 

 

——天国のママへ

 

あたしはね、みんながいなきゃ、生きていけないと思う。

だって……妖精の尻尾(フェアリーテイル)はもう、あたしの一部なんだから





長らく続いた幽鬼の支配者(ファントムロード)編もこれにて終幕です。
また書き溜め作業に入るので更新がストップします。
もう事故は起こさせねェ…!
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