妖精の尻尾の双竜   作:uru1629

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楽園の塔編までの繋ぎ章です。
この話に関しちゃ前章に入れても良かったかも…。
まあうだうだ言ってもしゃーないので本編どぞ。


獅子宮の改星編
NEXT GENERATION


 

審判は下った。

評議会の審議の結果、幽鬼の支配者(ファントムロード)は解散、ジョゼは聖十(せいてん)の称号を剥奪、そして妖精の尻尾(フェアリーテイル)の無罪の判決が下った。

 

この思い切った判決の裏には、マスター・マカロフとは親しい仲であった評議員六ノ席、ヤジマを始めとした複数の弁護によるお陰だった。

実際、二ノ席であるオーグや三ノ席であるミケロといった評議員の強硬派は妖精の尻尾(フェアリーテイル)に対しても解散請求を提出していたというのだった。

 

そんな事は知らず、無罪が決まった妖精の尻尾(フェアリーテイル)は仕事の受注を再開したのだ。

看板娘ミラジェーンがそう呼びかけると、普段はただの飲んだくれであるハズの妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士たちは一斉に依頼板(リクエストボード)の前に群がった。

ガヤガヤと賑わう彼らを横目に、ルーシィは呆れた様子でカウンター席に腰掛けていた。

 

 

「何アレぇ。普段はお酒飲んでダラダラしてるだけなのにィ」

 

「あはは」

 

「そういや、ロキいないのかなぁ」

 

 

ふと呟いた彼女のそれに、ミラは額に手を置いた。

 

 

「あーあ……ルーシィもとうとうロキの魔の手にかかっちゃったのね」

 

「違います!!」

 

 

どこかニヤニヤしたミラへ食い気味に否定したルーシィは懐から星霊の鍵を束ねた鍵束をカウンターの上に出した。

そこには先日も大活躍した人馬宮(サジタリウス)の鍵もしっかり束ねられていた。

 

 

「なんか鍵見つけてくれたみたいで……一言お礼したいな、って」

 

「うん……見かけたら伝えとくわ。それより星霊に怒られなかった? 鍵落としちゃって」

 

 

ルーシィの感謝の伝言を預かったミラはなんの気兼ねもなくルーシィにそう聞いてみた。

問われたルーシィは乾いた笑みを浮かべ出す。

 

 

「そりゃあ…もう…怒られるなんて騒ぎじゃなかったデスヨ……思い出しただけでお尻が痛く……」

 

「あらら……」

 

 

ミラの言う通り、彼女は星霊に、特にアクエリアスにこっ酷く怒られたのだ。

以前に鍵は落とすなと忠告されたにも関わらず落とした彼女に激昂したアクエリアスは鞭によってルーシィの尻を真っ赤になるまでシバいたとかなんとか。

カウンターに頭を突っ伏しながらお尻を摩るルーシィに、ミラは哀れみを込めて笑った。

 

 

「冷やしてやろうか?」

 

「さりげないセクハラよ、それ」

 

 

手から冷気を出したグレイの提案に、ルーシィはやんわり断る。

 

 

「強く叩かれると内出血になるの。見せてくれたら確かめてあげられるの」

 

「き……気持ちだけ貰っとくわね……!」

 

 

レアの心からの優しさと周囲を気にしない天然発言に苦笑を浮かべながら断る。

 

 

「ルーシィ赤いお尻見せてー」

 

「堂々としたセクハラよそれ!!」

 

 

プククと頬を膨らませながら飛んで寄ってくるハッピーにツッコミを入れる。

 

 

「ルーシィー! リーシャがその赤いお尻にスマイル描いてあげるかしらー」

 

「もうそれセクハラを超えた何かですけど!?」

 

 

マッキーを片手に寄ってきたフリーシャにガタッと立ち上がったルーシィは全力で拒否の意思を示す為に両手を突き出した。

 

 

「もっとヒリヒリさせたらどんな顔すっかなぁルーシィ」

 

「鬼かおまえはッ!!!」

 

 

手に炎を灯しながら悪魔みたいな思考を巡らせるナツにルーシィはクワッと口を開いた。

その瞬間、ドゴオォッ!という音と共にナツ目掛けて机が飛んできた。

それを避ける暇もなく直撃したと同時に場に響いたのは激しい怒号だった。

 

 

「もういっぺん言ってみろ!!!」

 

 

それを機に場はしんと静まり返った。

誰しもが声の方向に目を向けると、青筋を立てたエルザがそこにいた。

そして彼女に対面する形で、ラクサスが椅子に腰かけていた。

 

 

「この際だ、ハッキリ言ってやるよ。弱ェ奴はこのギルドに必要ねェ」

 

「貴様……!」

 

「ファントムごときに舐められやがって……恥ずかしくて外も歩けねーよ」

 

 

仕事としてギルドを留守にしていたはずのラクサスが帰ってきていることに数人が驚いているようで目を見開いている。

険悪な雰囲気を出すエルザと対面しても、彼の表情は変わらないあくどい笑みを浮かべている。

 

 

「オメーだよオメー」

 

 

ふと、ラクサスは横に目をやる。

視線の先にいたのはレビィをはじめとしたチーム・シャドウギアであった。

 

 

「もとはと言えァオメーらがブルームにやられたんだって? つーかオメーら名前知らねえや、誰だ? 情けねえなァオイ!!」

 

 

体もそちらに向けるや否や、好き放題言葉を並べていく。

レビィたちは彼に言い返すこともできず悔しそうに目を伏せる。

握られた拳は震えるも侮辱に耐えんと歯を食いしばっていた。

 

 

「ひどい事を……!」

 

「これはこれはさらに元凶のねーちゃんじゃねーか。星霊使いのお嬢様よ。てめェのせいで……」

 

「ラクサス!!!」

 

 

矛先がルーシィに向き、またも言いたいことを言い並べる前に、ミラがカウンターテーブルに掌を叩きつけて遮った。

このまま言わせることを許したら、再びルーシィの心に傷を負わせることになると判断してのことだった。

それに、非があるのは彼女ではない

 

 

「もう全部終わったのよ。誰のせいとかそういう話だって初めからないの。戦闘に参加しなかったラクサスもお咎めなし。マスターはそう言ってるのよ」

 

 

マスター・マカロフが枯渇(ドレイン)の手に落ち、やむなく撤退を余儀なくされた際、ミラとカナは留守にしていたS級魔導士に応援を掛けようとしていた。

だが、ミストガンの位置は把握出来ず、グランは音信不通。

「あのオヤジ」と呼ばれた魔導士、ギルダーツは事情が事情故に呼び出せない。

そして残ったラクサスはというと、不在のS級魔導士の中で唯一連絡が取れたのだ。

 

だが、彼はあろう事か「じじいが始めた戦争だ、オレには関係ない」「元凶の新人がオレの女になるなら助けてやってもいい」「じじいはさっさと引退してオレにマスターの座を寄越せ」と、仲間の絆を重んじる妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士とは思えない発言を繰り返しながら要請を拒んだ。

 

そんな彼であったが、ミラの言う通りマスターによってラクサスへの罰などは特になく、お咎めなしとなった。

 

 

「そりゃそうだろ、オレには関係ねえ事だ。ま……オレがいたらこんな無様な目には遭わなかったがな」

 

 

だが、ラクサスはそれは当然だろうと主張した。

この一件で自分が責められることは筋違いだと言った上に、仲間と掴んだ勝利を「無様だ」と言い放つ彼にエルザは目を見開いた。

 

 

「じゃあ……なんでいなかったの?」

 

 

瞬間、場が凍りついた。

反論しようとしたエルザの言葉を遮ったのはレアだった。

 

 

「……あ?」

 

 

それは、レアの純粋な疑問だった。

彼女の表情には怒りも哀れみも無い、いつもと変わらない無表情だ。

 

 

「ラクサスがいたらこんな事にはならなかった……ってことは、ラクサスがいればギルドも壊されなかったの。みんなの傷も少なく済んだの」

 

 

小首をかしげながら、ごく真面目なトーンで言葉を紡ぐレア。

その姿に、ラクサスの顔から笑みが消えた。

鋭い視線がレアを射抜く。

 

 

「ラクサスが居たなら助かった……でも居なかったから助からなかったの。居なかったのに自分から居た時の話をするの……レア、それははズルいと思うの」

 

 

焦げた紙切れを眺めるように呟く。

その視線はラクサスに真っ直ぐ向いていた。

臆せず向かい合うその姿に、ラクサスの眉がピクリと跳ね上がる。

そして、ほんの少し眉をひそめたレアは感情を表情に映す。

 

 

「無様って誰のことなの? 傷ついて、戦って、必死で守ろうとした人たちのこと? それとも……責任から逃げて、仲間を侮辱した人のこと? ……どっちが無様か、ラクサスは……分かってる……?」

 

 

いつになく、凛とした表情だった。

その表情に、言葉に、静かな怒りが滲んでいた。

声は穏やかだ。

だが、それは明確な拒絶であった。

 

 

「……何度目だろうなァ」

 

 

訪れた一瞬の間。

だが次の瞬間、ラクサスの様子が豹変した。

彼の言葉を号砲に、ラクサスの体から迸るような雷が走る。

ブチッ、バリッ、と耳障りな音を立てながら、金色の電流が空間を走る。

周囲の空間が灼け焦げ、ピリピリと肌を刺すような緊張感がギルドを包み込む。

 

レアはその場に立ったまま、まっすぐラクサスを見ていた。

無表情、でも目は逸らさない。

彼の怒りに怖じ気づく素振りもなく、淡く熱を帯びた眼差しで。

 

 

「……てめェはつくづく……オレの神経を逆撫でしてくれるよな……?」

 

 

乾いた笑みを浮かべたラクサス。

一歩、雷を纏った足が土を踏むたび、バチッと火花が弾け、焦げたような匂いが土の間から立ち上がった。

空気が焼け、地面が軋む音すら幻のように響いた。

電流が地に吸われ、周囲の魔導士たちが息を飲んで距離をとる。

 

 

「このオレに、上から説教垂れてるつもりかよ……あ?」

 

 

瞬間、雷が爆ぜた。

バチンッ!と火花が飛び、レアの髪が微かに揺れる。

 

 

「やめて、ラクサス!!」

 

 

ミラが叫んだ。

その声には怒りと強い危機感が滲んでいた。

だが、彼は止まらない。

空気そのものが爆発の前触れのように震え――

 

 

「ラクサスてめえ!!!」

 

 

影が一つ飛び込んだ。

雷撃がレアを襲うその寸前、地面を抉って飛び込むナツの拳がラクサスに迫った。

 

しかし、ラクサスはその拳をすんでのところでかわした。

ナツの拳が空を切り、残ったのは黄色い稲妻の痕跡だけだった。

 

 

「ラクサス!! オレと勝負しろォ!!この薄情(モン)がァ!!!」

 

「……」

 

 

いつもなら鼻で笑ってナツをあしらってたであろうその顔に、笑みはなかった。

視線がナツを、そして再びレアを舐めるように往復し、舌打ちが漏れる。

 

 

「……くだらねえ……ガキどもが……」

 

 

かすれたような、苛立ちと疲れが溜まった声だった。

唇の端が僅かに歪み、余裕など微塵もなかった。

あったのは、行き場の無い怒りだけだった。

 

 

「いいかよく聞け! オレがギルドを継いだら、弱ェモンは全て削除する!!そして歯向かう奴も全てだ!! 最強のギルドをつくる!!!誰にも舐められねえ史上最強のギルドだっ!!!」

 

 

怒声を響かせ、雷を纏いながらラクサスは背を向ける。

足元の土を抉り、黒く焼き焦がしながら、その姿は遠ざかっていく。

そんな後ろ姿を、誰しも目を離せずにいた。

 

 

「継ぐって……何ぶっ飛んだこと言ってんのよ」

 

「それがそうでも無いのよ」

 

 

頬をムスッと膨らませながらカウンター席に座り直した。

既に見えなくなった彼の背中に投げつけるかのようにそう吐き捨てたルーシィだっが、ミラはその言葉をやんわり否定した。

ラクサスを力は確かにあるものの如何せん人間としては不十分と思わざるを得ないと感じていたルーシィはそんなミラの言葉に疑問符を浮かべる。

 

 

「ラクサスは、マスターの実の孫だからね」

 

「えーーーっ!!!?」

 

 

顎が外れん勢いで驚くルーシィ。

カエルの子はカエルとはよく言ったものだが、一体どこをとればマスターとラクサスに血の繋がりを感じるだろうか。

 

祖父の昔の姿を見れば確かにその面影はある。

だが、今の彼らに姿における共通点を見つけるのはほぼ不可能に近いだろう。

 

仲間を慮る祖父(マスター)と強さに固執する(ラクサス)

意見も思想も違う彼らではある。

ただ一つ、その血の繋がりという拭いきれない事実だけが、ラクサスが次のマスターとなる可能性が高いことを示していた。

 

 

「あたしはいやだな……仲間の事をあんな風に思ってる人がマスターなんて……」

 

 

暗い面持ちのルーシィはそう呟いた。

無理もないだろう。

仲間を仲間と思っていないようなあの態度の男が自分たちの上に立つ。

そんな未来が来ては、あの憎きファントムと同じようなことになりかねないのだから。

 

そう思うのは、何もルーシィだけでは無いだろう。

それゆえか、マスターもなかなか引退できずにいるのじゃないかという噂がある。

次期マスターの話などマカロフ本人は話していないのであくまでも噂の範疇を越さないでいる話である。

 

 

「あんのヤロォ……!」

 

「もういい……あいつに関わると疲れる」

 

 

拳を握りしめながら彼の消えた方向を睨むナツに、エルザはため息をつきながらそう告げた。

その空気を払拭させるためか、エルザは一つ提案した。

 

 

「それよりどうだろう。仕事にでも行かないか?」

 

「え?」

 

 

その提案に、ナツは素っ頓狂な声を零す。

彼女は続けてレア、グレイ、ルーシィにも声をかけた。

三人も思わぬ誘いにナツと似たような驚嘆の声を漏らした。

 

 

鉄の森(アイゼンヴァルト)の一件から常に一緒にいる気がするしな。この際、チームを組まないか? 私たち5人で。ハッピーとフリーシャを入れて7人か」

 

 

提示されたそれに、あちこちから歓声に似た声があがる。

ミラが言っていた『最強チーム』の正式結成を意味していたからだった。

だが、快く思わない者が約二名いた。

 

 

「こ……こいつと……」

 

「一緒に……」

 

「不満か?」

 

「「いえ、嬉しいです!!」」

 

 

だが、それはエルザの圧によって一瞬で霧散したのだった。

すぐに掌を返した二人にレアが小さく笑みを浮かべながら、一枚の依頼書を持ってきた。

 

 

「ん。じゃあ、もともとナツと一緒に行こうとしていたこれ……みんなも一緒に行くの」

 

「ルピナス城下町で暗躍している魔法教団の殲滅か。チーム結成後の初仕事としては悪くないな」

 

 

レアが持ってきたそれにエルザも目を通し、賛成の意を示した。

そうして、エルザの号令を機に、7人は仕事へと出発したのだった。

 

 

〜〜~

 

 

その夜。

マグノリアの明かりが寝静まった頃、マカロフは復旧が続く妖精の尻尾(フェアリーテイル)の骨組みに座って晩酌しながら黄昏ていた。

 

 

「引退か……」

 

 

ボソッと呟かれたと共に思い返すのは判決が下された直後、ヤジマに告げられた言葉であった。

近頃の妖精の尻尾(フェアリーテイル)の狼藉は目に余るとし、このままではマカロフの身に思い罰が下ると彼の身を案じているのだ。

 

ギルドは新しく建てられる。

ならばマスターも次の世代へと託すべきかと、マカロフは考察する。

 

ラクサス。

彼は心に大きな問題を抱えている。

 

ギルダーツ。

彼の持つ魔法に難あり故に厳しい。

 

ミストガン。

ディス・コミュニケーションの見本のような存在だ。

 

 

「グラン……参謀格としちゃあ申し分ねえが、人の上に立たせるにはまだ早い、か……」

 

 

マカロフは続けてS級魔導士『グラン』にそう判断を下す。

胡座をかくことなく自己研鑽に勤しみ、魔法への探究心と律儀な規律意識。

そこを見る分にはエルザと遜色ない。

彼とエルザの決定的な違いは、他人に対する“温度差”と達観した“合理主義”にあったのだ。

 

 

「だとすると……まだ若いが…エルザ……」

 

 

ある程度の所で踏ん切りが着きそうなところで、彼を呼ぶ声が下から聞こえてきた。

 

 

「マスター、こんなトコにいたんですかぁ〜」

 

「ん?」

 

 

声の方へと目を向けると、腕の中に紙の束を抱えたミラが笑顔をこちらに向けていた。

 

 

「またやっちゃったみたいです」

 

「は?」

 

「エルザたちが仕事先で街を半壊させちゃったみたい」

 

「!!!!」

 

 

そこから評議員が始末書の提出を求められているという彼女の声は耳に入らなかった。

魂が抜け落ちたのかというぐらい口をあんぐりと開けるその姿は某有名絵画の『叫び』そのものであった。

「ぉぉお……」と声にならない小さな悲鳴を零したマカロフ。

その胸には一つの決心が定められた。

 

 

「引退なんかしてられるかぁーーー!!!」

 

 

その叫びは夜空に空しく響いた。

彼の苦難はもうしばらく続きそうであった。





オリジナルキャラ『グラン』の詳細がさらに提示されました。
まあ彼の登場はもう少し先になりそうかな…。
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