妖精の尻尾の双竜   作:uru1629

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割と難産でした。
ギャグ描写を文字に書き起すのって難しい…。


フレデリックとヤンデリカ

 

建物の復旧と依頼の遂行を同時並行で行っている妖精の尻尾(フェアリーテイル)

その仮設カウンターにて金髪の少女、星霊魔導士のルーシィは頭を突っ伏していた。

 

 

「あら? 元気ないわねルーシィ。どうしたの?」

 

「お金ない……」

 

 

ため息混じりに呟いたそれにミラはクスクスと可笑しそうに笑った。

 

 

「お嬢様のセリフとは思えないわよ」

 

「違います!!! あたし、家のお金なんて一銭も持ってきてないんですよ!!!」

 

 

紙の束をトントンと叩いて整える我らが看板娘に向かってルーシィは心外だと言わんばかりに吠えた。

彼女がこうして嘆いているのは言わずもがな、ナツ筆頭の自身含め先日結成した最強チームのせいである。

 

高額の仕事に行ってもナツ、レア、グレイを中心に周囲のものを壊し、その影響で報酬額を減らされてしまうのだ。

かといって物を壊さない仕事に行っても、元々安い報酬をさらに分割するので割に合わないのだ。

そんな負のループに彼女は陥っていた。

 

そんなルーシィの悩みも知らずにか、彼女を背景にナツらはどこからか持ってきたビリヤードで遊ぼうとしていた。

 

 

「オレからだな!」

 

「ナツ、頑張れなの」

 

「オメーには無理だよ」

 

 

本当にどこから持ってきたのか謎に思っているルーシィはさておき、ナツはキューを構えた。

中々様になっているその姿勢からキューを引き——

 

 

「うおりゃあっ!!!」

 

 

掛け声と共に勢いよく手玉を突いた。

突かれた手玉はビリヤードテーブルのスレスレを飛行し、その勢い殺されないまま的玉を弾いた。

轟音が鳴り響き、残ったのはボロボロになったテーブルと的玉だけだった。

 

 

「ちぇー、6個か……」

 

「さっすがナツー」

 

「馬鹿言え!5個だろ!」

 

「ん、1個は原型が残ってるの」

 

「流石にこれはカウント出来ないからグレイの言う通り5個かしら」

 

「遊び方が違う!!!」

 

 

誰一人としてナツの所業の荒らさに突っ込まないかと思えば認識しているルールが違っていた。

外野にいたルーシィが思わずツッコミを叩き込んだ。

ビリヤードは的玉をテーブルの穴に落とすゲームであって、的玉を破壊するゲームでは断じてない。

 

今のやり取りを見てもわかる通り、ルーシィは彼らが壊すことに悦を感じているのではと思う始末だ。

ミラはそれを否定するも見境なく物を壊す彼らの所業を見ているとミラの否定も根拠が弱いだろう。

 

 

「あーん!! このままじゃ今月の家賃払えないよーっ!」

 

 

八方塞がりの現状にルーシィは万事休すと泣いた。

そんな彼女にミラは手を差し伸べる。

 

 

「じゃあ、とっておきの仕事紹介しちゃおうかなー。すっごくルーシィ向きだし、何かが壊れる心配もないやつ」

 

「え?」

 

 

そんな言葉にルーシィの涙も引っ込んだ。

首を傾げる彼女に紹介された仕事の依頼書にルーシィは目を通してみると、確かに自分向きだし、物が壊される心配も無さそうだと目を輝かせたのだった。

 

 

〜〜~

 

 

「列車にはもう二度と…乗ら……うぷ…」

 

「右に……同じく…おえ……」

 

「着いたかしらー」

 

「ナツ、レア、しっかりしてー」

 

 

やって来たのはオニバスの街だ。

ここまでは列車の移動であった故に、ナツとレアが酔いつぶれ、フリーシャとハッピーが無理やり彼らを列車から降ろしていた。

さすがに鉄の森(アイゼンヴァルト)の一件でナツとレアを列車に置いていってしまったあの事件から学んでいるようだ。

 

 

「なるほど…客足の遠のいている劇場を、オレたちの魔法を使って盛り上げてくれって話なんだな」

 

 

そう、それが今回ルーシィたちが引き受けた依頼の内容である。

約一名(エルザだけ)発声練習をしていたがあくまで演出である。

ナツが炎を出したり、ルーシィの召喚したリラが詩で情感を出したりなどだ。

気の早い話だが、ルーシィは自分の小説もいつか舞台化すると考え、今から演出の勉強をするのも悪くないと考えていた。

 

そうしてやって来たのは『シェラザード劇場』。

やって来た全員が首を大きく上に傾けるほどに巨大な劇場であった。

宮殿のような様相の石造りの建造物に一同は感嘆の声を零す中、その柱の影から声がかかった。

 

 

「あのぉー、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のみなさんですかな? 引き受けてくださり誠にありがとうございます」

 

「はい!! 演出のことなら、あたしたちに任せてください!!」

 

 

ひょこっと顔を出したのは今回の依頼主、この劇団の座長『ラビアン』であった。

気の弱そうな声に控えめな態度の彼を前に、ルーシィはやる気十分と言った具合に返事をした。

だが、ラビアンの表情はより一層曇ったように見受けられた。

 

 

「それがですねぇ……ちょっと困ったことになってしまいまして……」

 

 

鼻の下のちょび髭も気持ち垂れ下がったように見える彼にルーシィたちは揃って疑問符を浮かべる。

詳しい話は中でという事で、彼らはラビアンに案内されて劇場の控え室へと向かったのだった。

 

 

〜〜~

 

 

「えーーー!!? 役者全員が逃げ出したァ!!?」

 

「ハイ……ありがとうございます」

 

「何が!?」

 

 

何故か控え室のカーテンに身を隠して顔だけを覗かせ、何故か礼を告げるラビアンの話に、ルーシィは驚愕をあらわにした。

 

夢を追って脱サラしてからこの道に飛び込んだ彼であったが、公演する舞台は不評に続く不評。

やがてそんな彼のつくる舞台に出ることを恥に思った役者たちは何も言わずにこの劇場を去ってしまったのだという。

それでも尚夢を追う彼に愛想を尽かした妻も出ていってしまう始末であった。

 

 

「私に残された道はもうこれしか無いというのにっ!! 本当にありがとうございます!!」

 

「礼を言うトコ間違ってるよ……」

 

 

もう口癖なのだろう、執拗に感謝の言葉を述べる彼にグレイが軽くツッコミを入れた。

間違いなく後がない状況であるにも関わらずその言葉のせいで妙に危機感が薄れているのだ。

 

 

「そういう訳で、せっかく来てくださったのですが舞台は中止なのです。ありがとうございます」

 

 

客足を戻すために演劇の手助けをしに来たハズが、その演劇自体ができない状況に陥っているというアクシデントに、ルーシィはどこかやり切れない表情になっていた。

そんな中、声をあげる者がいた。

 

 

「ん? レアたちが舞台に出るのはダメなの?」

 

「よく言ったぞレア。役者なら…ここにいるではないか!!」

 

「えーーーっ!!?」

 

「か…輝いてる!!!」

 

 

レアとエルザであった。

純粋にそう尋ねたレアに便乗するように、エルザはそうアピールしてみせた。

グレイが言うように換装などしていないのに光り輝くオーラを纏い、目には星が宿っているようにさえ見えた。

ここに来るまでも発声練習をしていた彼女に、ハッピーとフリーシャはそんなに舞台役者をやってみたかったのかと訝しんだ。

 

 

「そうね……なんか面白そうかも!」

 

「火吐く野菜と火吐く果物!! オレはどっちをやりゃいいんだ!!?」

 

「そんな役絶対ないよ」

 

「ナツならドラゴンの役とかできそうなの」

 

「確かにそれならピッタリかしら」

 

「アンタの夢はこんなトコロで終わらせねえよ」

 

「みなさん……!」

 

 

レアの思いがけない提案であったが、ルーシィも乗り気になる。

一方混乱気味なナツは既存の作品でも無いだろう役の提案しハッピーにツッコミを入れられ、レアがならばと代替案を出していた。

グレイが締めと言わんばかりにラビアンにそう語りかける。

彼は目尻に涙を浮かべながら感謝を——

 

「まあ……やらせてやってもいいかな。チッ……素人か…」

 

「そこは「ありがとう」って言わねえんだ……」

 

 

——示さなかった。

むしろ態度が大きくなって悪態すらついていた。

豹変した彼の様子に、彼らは役者が逃げ出した要因の片鱗を見た気がしたのだった。

 

 

〜〜~

 

 

公演までは、わずか一週間しかなかった。

 

まずは台本を頭に叩き込むところから始まる。

内容はよくある冒険活劇であった。

だが、その中身は言ってしまえば悲惨なものだった。

こんなクオリティの台本を毎度出していたとあらば不評も納得であるほどに悲惨だった。

 

しかし、一週間で公演となればいくら小説を書いているルーシィがいるといえど修正は不可能である。

故に台本は半ばヤケクソでそのまま使われ、配役も瞬時に決めた。

台本を持っての通し稽古にてはエルザのやる気に触発されてかナツもグレイも気合いは乗っていた。

 

その合間にビラを作っては撒いても行って、舞台のセットも制作し、慌ただしい一週間を過ごした。

演技に疎いナツらもなんだかんだ乗り気であったのが、ルーシィにとってはたまらなく面白かったのは余談である。

 

そして、迎えた公演日当日。

不評のせいで客足の遠のいていた劇場は、広告の効果もあってか列をなす程に盛況であった。

客席は既に満員に近い状況であり、その中には見覚えのある顔ぶれもあった。

マカロフやミラを始めとした妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々から、ナツがハルジオンの港でボコボコにされ改心した元巨人の鼻(タイタンノーズ)の魔導士ボラ、ガルナ島の村に住む悪魔たちの代表として村長のモカと村人のルル、エルザがガルナ島へ向かうために制圧した海賊船の船長、そして元幽鬼の支配者(ファントムロード)にしてナツとレアの戦いを見て改心したボーズという男とスーという女。

ラビアンは舞台袖上手(かみて)から顔を覗かせながら歓喜に震えていた。

 

 

「おおお……こんなに客が入るなんて初めてですよ、ありがとうございます」

 

「キャーーー♪ リラもこんな大勢の前で歌うの初めて〜〜!!」

 

 

さらに奥、舞台袖ではルーシィが召喚した星霊、琴座のリラが待機していた。

緊張と歓喜の声をあげながらその時を待つ。

準備は万端、後は成功させるだけである。

 

ブザーの音が鳴り、照明が落とされる。

雑談に興じていた観客たちも、始まった演劇に見入るために口を閉じた。

 

——遠い~遠い~昔の事~♪

 

程なくして流れるように鳴り響くハープの音色。

それと共に語り部を兼任するリラの歌が始まった。

 

——西国の王子は~敵国の姫に~恋をした~♪

 

心を洗われるようなハープの音色と共に紡がれるリラの美しい歌声に、会場の空気は一気にうっとりしたものとなった。

誰も彼もその歌声に骨抜きにされる中、舞台の中央にスポットライトが当たる。

そこに立っていたのは、緋色の髪を後ろに束ね、華美な服装に身を包んだ西国の王子(エルザ)であった。

凛とした表情と立ち姿に、女性の黄色い悲鳴が上がった。

 

——西国の王子は~~♪ 姫を助けに~死の山へ~~♪

 

そうしてぶっこまれたのは姫が捕まっていたという情報だった。

事前情報にそんな話は無かったゆえに観客席からは「姫捕まってたの…?」と驚きの声が上がっていた。

やがてハープの音色が止み、プロローグが終わった。

 

 

「わ…わ…わわ……わ…我が名は、フレデリック~。ひ…姫…た……たた…たす……助けに……ました!!」

 

 

右手を高く掲げながら最初のセリフを告げる王子(エルザ)

だが、様子が明らかにおかしかった。

挙動不審という言葉があまりにも似合いすぎるくらいに動きはカクついており、肝心なセリフもところどころ飛んで噛みまくっている。

 

リハーサルや通し稽古の際は役にも入って問題なく演じていたにもかかわらずこのありさまを見るに、どうやら本番に弱いタイプだったようだ。

あまりにガチガチな様子に観客の多くは困惑をあらわにした。

 

 

「ああ……助けてくださいフレデリック様。私は()()セインハルトい捕まってしまいました~……」

 

()()って言われても……誰…!?」

 

 

続けて(ルーシィ)の出番での初ゼリフ。

ロープで天井から吊るされた彼女は桃色のドレスを身に纏って、もともとお嬢様だったということもあるのか中々様になっている。

こちらの演技力はガチガチの王子(エルザ)とは比べるまでも無いだろう。

だが、セリフの中に突然でてきた『セインハルト』なる謎の人物に観客は耐えきれず困惑の声があがった。

セリフを飛ばしたようにも思えるかもしれないが、残念ながら()()()()である。

その時、舞台袖から一人の男が現れた。

彼こそがセインハルト——

 

 

「我が名はジュリオス!姫を返してほしくば、私と勝負したまえ!」

 

「お前も誰だ!! セインハルトどうなったんだ!?」

 

 

——ではなくジュリオス(グレイ)である。

突如として現れた敵と、名前だけ登場して何もなかったかのようにフェードアウトしたセインハルトに、観客の困惑はさらに一層深まった。

 

 

「くらえ!氷の剣!!」

 

 

しかしそんな混乱も一瞬で収まるほどの演出が繰り出される。

一瞬でジュリオス(グレイ)の手元に現れた氷の剣に観客たちは目を奪われ、歓声が上がった。

 

 

「な…何の……! 私…に…は……10の剣が……ァ……!!」

 

 

相も変わらずガチガチなフレデリック(エルザ)は負けじと腰に差していた剣を引き抜き、背後にはさらに9本の剣を換装にて召喚した。

そのまま剣はジュリオスの足元へと高速で飛ぶ。

 

 

「ぐわー!」

 

「何か知らねーけど弱ーーッ!!」

 

 

足元に刺さった剣の風圧に飛ばされるように、ジュリオス(グレイ)は情けない声をあげながら吹き飛んだ。

あまりにも一瞬すぎる戦闘に観客席からちらほら残念そうな声が上がっている。

 

 

「フレデリック様、ありがとうございます」

 

 

天井から降ろされ、拘束を解かれたヤンデリカ(ルーシィ)は目の前のフレデリック(エルザ)に感謝を表す。

そしてフレデリック(エルザ)は彼女の前で膝まづくと、次のセリフを告げる。

 

 

「ヤ…ヤンデリカ姫…たくさん…子供をつくりましょう…!」

 

「気が早ェよフレデリック!!!」

 

 

とんでもない爆弾発言に、観客たちはフレデリック(エルザ)がセリフを間違えたのかを疑ったが、残念ながらこれも台本通りである。

本読みの時点でこのセリフの異質さを感じていたルーシィは、なぜこんなセリフを入れたのかと脚本家の正気を疑ったのは言うまでもないだろう。

 

そのとき、明るかったステージ全体が暗闇に包まれた。

やがて中央にスポットライトが当たり、観客たちの期待感を煽った。

現れたのは淡い水色のドレスを身に纏ったレアであった。

背中にはフリーシャが張り付いており、(エーラ)を展開することであたかもレア本人に翼が生えているように魅せていた。

その神秘的な姿に観客たちは唾を飲み込むほどの没入感に呑まれた。

 

 

「勇者フレデリック……よくぞ試練を果たした…なの」

 

「王子じゃなかったっけ!!? 試練って何のこと!!?」

 

 

だが最初のセリフで一気に現実へと引き戻された。

最初に『西国の王子』として入ったはずのフレデリックがいつのまにか勇者に仕立て上げられ、姫の救出もいつのまにか試練とされていたことに、観客たちは強烈な違和感を覚えていた。

 

 

「勇者よ、剣に宿るは決意の奔流……今こそ、さらなる力を宿すのだ! ……なの」

 

 

彼女元来の口癖のせいで妙に締りが悪いものの、演出はそれらすべてをかき消した。

精霊(レア)フレデリック(エルザ)に向けて手をかざすと、小さな水玉がエルザに向けてふわふわと飛ぶ。やがてそれがエルザの腰にささっていた剣に触れると、剣は淡く光りだした。

数秒の後に光が収まると、剣はそれまでのありふれたものでは無く、豪華な飾りが施された立派なものへと姿を変えていた。

これには観客たちからも歓声が上がった。

 

 

「そして、氷の剣士には……健やかな明日を…なの」

 

 

だが、なぜか精霊(レア)は倒れたグレイにも手を向けると、同様の水玉を飛ばす。

ジュリオス(グレイ)の体に触れた水玉は儚く消えた。

すると、彼はむくっと上体を起こした。

 

 

「はっ! オレは一体……」

 

「あとは頑張りなさい……なの」

 

「いやなんで敵復活させた!!?」

 

 

精霊はそれだけ告げ、再び天井のほうへと姿を消した。

主人公の味方のはずの精霊が敵を復活させるという意味の分からない展開に観客の困惑は止まるところを知らない。

 

 

「なっ! 姫が解放されている!? こうなれば、いでよ!!我が下僕のドラゴンよ!!!」

 

 

ジュリオスは高らかに声をあげた。

すると地響きがステージ……いや、客席を含んだ会場全体に響く。

ステージの山のセットが左右に分かれ、暗闇の中でギランッ!と双眸が怪しく光った。

その正体とは——

 

 

「ぐぉがぁあっ! がおおぉ!! オレ様は全てを破壊するドラゴンだぁ!!!」

 

 

口から炎を吐きながら飛ぶドラゴンであった。

巨大なドラゴンの着ぐるみを着たナツはイキイキと炎を吐きながらステージ上の空を闊歩し、観客たちの度肝を抜かしていた。

その背中には紐が伸びており、その先端の取っ手を黒子姿のハッピーが掴んで(エーラ)を使って飛んでいたのだ。

 

 

「こうなったら手を組むしかない!」

 

「オ…オウ…! それは……たのも……しい」

 

「おまえが呼んだんだろうが!! どういう展開だーっ!!」

 

 

まさかの展開である。

手を取り合うジュリオス(グレイ)フレデリック(エルザ)

しかるべき順序をとれば敵と主人公の共同戦線とは激熱な展開であったはずだが、この状況に置いては理解を示せるものは何一つとしてなかった。

ある種のブーイングが飛ぶ中、ジュリオス(グレイ)フレデリック(エルザ)の前に立ったのはヤンデリカ(ルーシィ)だった。

 

 

「私があいつを足止めします!!!」

 

「オイオイ! 何言ってんだ姫ー!!?」

 

 

本来守られるはずのポジションの彼女が今も尚炎を吐いているドラゴンを相手取るという主張に驚きを隠せない。

普通守るべき対象である姫を置いて逃げるなどあるはずが無い。

 

 

「二人は逃げてください!!」

 

「オウ!」

 

「た……助かったぞー……!」

 

「逃げるんかいっ!!! その剣結局使わねえのかよっ!!!」

 

 

まさかの展開パート2である。

尻尾を巻いて舞台袖へと引っ込んでいくジュリオス(グレイ)フレデリック(エルザ)

与えられた祝福も使わず護衛対象を置いて逃げていく様に、観客たちの反応はすこぶる悪くなっていた。

ところどころの演出はよかったし、一人を除いて演技力も申し分ないというにもかかわらず、台本が足を引っ張りすぎていた。

このままではいい評価はもらえず、劇場の再燃など夢幻の彼方に消えていくだろう。

 

この後のアクシデントが無ければ。

 

 

「着ぐるみの分……重いなァ……!」

 

 

事の発端はハッピーだった。

ナツ一人分の体重なら楽々飛び回れる彼だが、巨大な着ぐるみが彼の腕にダメージを蓄積させ続けていた。

それを連れて狭い空間とはいえ飛び回っているのだ。

こらえていたものの、とうとう限界が来た。

 

 

「あ」

 

「が!?」

 

 

そんな声とともに、ハッピーの手から取っ手が滑り落ちた。

素っ頓狂な声をあげたドラゴン(ナツ)を置き去りに、その体は轟音をあげてステージに落ちた。

悲劇はまだ続く。

炎を吐き続けながら落下してしまい、その炎がヤンデリカ(ルーシィ)のドレスに燃え移ったのだ。

 

 

「キャーーーッ!!! レア助けてー!!! 水! 水!!!」

 

 

突然の状況に慌てて役が完全に抜け落ちたルーシィが天井に消え、舞台袖の下手(しもて)にて待機していたレアに助けを求めた。

そんな悲鳴を聞きつけ、レアも顔を覗かせてすぐに状況を理解した。

 

 

「ん! 水竜の——」

 

 

もはや劇どころではないとレアも急ぎで手に水流を纏って燃えているドレスを消火しようとする。

 

 

「——抱よ…っぷ!!?」

 

 

だが、魔法を放とうとした直前、背中を思いっきり押される……もとい、足蹴にされ、魔法が中断された。

犯人はエルザであった。

剣を片手にレアを踏み台として舞台の飛び込んだ彼女はルーシィに向けて剣を構える。

 

瞬間、数回もの斬撃がルーシィを襲った。

すると、ドレスが燃え移ったところ含め()()切り刻まれた。

中のコルセットもろとも切り裂かれ、ルーシィの裸体があらわになりそうになる。

ルーシィの羞恥の悲鳴が会場内に木霊し、それに呼応するように観客の、特におっさんの歓声があがった。

一部からは「ありがとうございます!!!」などの感謝の声まで混じっていた。

 

 

「姫…だ…だだ……大丈夫…です……カナ」

 

「下手なくせに役に入りすぎーッ!」

 

 

着るものがなくなり裸体をさらされそうになったルーシィに、フレデリック(エルザ)がマントを与えて隠してあげる。

所作を見ればまさに王子そのものであるにもかかわらず、依然としてガチガチ演技力は解けておらずルーシィがツッコミをする。

だが、まだ終わりではない。

 

 

「痛ぇええーーーっ!!!」

 

 

落下した衝撃に苦しんでいるナツが、炎の出力を上げて吐き散らかす。

でたらめに周囲を襲う炎に、客の悲鳴があがり、セットが次々と炎上していく。

 

 

「よさねえかナツ!!!」

 

「消火なの!消火なの!」

 

 

暴走するナツをグレイが氷漬けにすることで強引に止め、レアが水を出して燃えている部分の消火作業に入る。

だが、氷を破ってまた暴れだすナツを見て、役が抜けきっていないフレデリック(エルザ)が剣を抜いた。

 

 

「こ……こうな……タラ……ぜ…ぜぜ……全員成敗いたす!!」

 

 

最終的に、ナツの暴走を中心としたバトルロワイヤルが幕を開けた。

もう台本など存在しないカオス状態に、セットも、観客席も、天井に壁も破壊が加速していく。

 

 

「もうめちゃくちゃー!! しかも…すごくやな予感…」

 

 

彼女の予感は的を射ていた。

会場の異変は外観に如実に表れていた。

石造りの建造物の中心から亀裂が走り、衝撃が加わることでさらなるヒビと亀裂が走る。

そして、数刻もしないうちに、建物は真っ二つに割れるように砕け堕ちてしまったのだった。

 

 

「やっぱりーーー!!!」

 

舞台の骨組みと客席だけをキレイに残して砕けてしまった劇場にルーシィは涙を流しながら悲鳴をあげた。

物を壊さない仕事だったはずなのにこうなってしまい、やはりこのチーム物を壊すことに悦を感じているのではと嘆いた。

だが、彼女の意に反して、観客席からどっと上がったのは大音量の歓声だった。

 

呆気にとられ振り向いてみると、みんなが一様に笑顔を浮かべていた。

歓声が止まず、笑い声が青空に木霊す。

迫力ある戦闘で全てを鎮圧していくフレデリック(エルザ)を中心に混戦は続いており、その迫力ある戦闘に観客たちは目が釘付けになっていた。

 

そんな彼らに釣られるように、ルーシィは輝く笑顔を浮かべていた。

 

 

~~~

 

 

初公演から一週間が経過した。

 

崩れた劇場は休むことを知らず、今日も元気に公演を予定していた。

あのドタバタの連続だった『フレデリックとヤンデリカ』は大人気を博し、初日を終えた以降も衰え知らずの人気を博していた。

 

 

「げはははっ! まさかこんなに大ヒットするとはよォ。大根役者のくせしてやるじゃねーか」

 

 

心底嬉しそうに表情を輝かせるのとは裏腹に、態度の大きい口調を放つ座長のラビアン。

彼もここまで上手くいくとは思っていなかったのか、初公演時は感動していたものの——

 

 

「グズがぁ!! とっとと準備せんか!!! 今日も始まるぜ!!!」

 

 

——その実態、もとい本性が正体を現した。

一日3回公演を丸々一週間やらせるブラック企業に負けず劣らずの労働環境を強いるコイツに、エルザを覗いた全員がげっそりしていた。

 

 

「オイ……いい加減報酬よこせや」

 

「一日3公演はキチすぎんぞ……!」

 

「レアたち、ちゃんと仕事したのに……割に合わないの……」

 

 

彼らも以前の役者たちが逃げ出した理由を理解した。

賃金も発生しない合格点未満の台本をやらされる彼についていけるわけがないのだから。

 

 

「キャラ、変わってるし……」

 

「あのへりくだったキャラ……どこに行ったのよ…」

 

「あーあーあー!」

 

 

こんな状況でもなお発声練習をしているエルザはさすがのS級魔導士の体力というべきか、ポンコツ演技に拍車がかかって体力を温存しているのか…。

元気に発声練習を行っているエルザを除いた全員が、心を一つにして思ったことだろう。

 

 

「早く帰りたい……」

 

 

——二度と……二度とコイツ(ラビアン)の依頼は受けない、と。





ブラック企業はクソってはっきりわかんだね。
アタクシが務めてたとこもさすがに週4で6日は休みはあったってえもんですべ。
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