妖精の尻尾の双竜   作:uru1629

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今章にて一番書きたかったとこですね(^^)


鳳仙花の夜

 

デボン盗賊一家。

フィオーレ王国各地にアジトを構える大規模な盗賊団の通称。

フィオーレ王国有数の温泉街、鳳仙花村近くの砦後にもその支部が()()()

 

 

「やったね!! 一丁あがりィ!!」

 

「MOォォ!! 素敵ですルーシィさぁぁん!!!」

 

 

たった今それは妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強チームによって壊滅させられていたのだった。

 

 

「歯ごたえのねえ奴等だな」

 

「全然燃えないの」

 

「弱ェくせに賊なんかやってんじゃねえよ」

 

 

支部内でルーシィの契約星霊、力自慢のタウロスが最後の一人を倒した。

その後ろでナツは盗賊の一人の顔面を壁に叩きつけながら不完全燃焼といった様子をみせる。

レアも同様のようで物足りなさを隠さずボヤく。

転がっている盗賊を足蹴にしていたグレイは言外に「アホか」と文句を言っていた。

 

 

「オレらにこんな事して、ただで済むと思うなよ……」

 

「デボン様が黙ってねえぞ……」

 

 

指ひとつ動かせない盗賊の一部が負け惜しみともとれそうなセリフを吐き捨てる。

そんな彼らに棒を持ったハッピーと(ソウ)を展開したフリーシャが反応した。

 

 

「そいつってナツとレアが牢にぶち込んでなかったかしら?」

 

「あい、とっくに潰れてるよ」

 

「……え?」

 

 

いつだったか、彼らの頭目であるデボンはナツとレアによって7軒の民家と引き換えに壊滅させられていたのだ。

知らぬうちに我らが(かしら)が牢の住民になっていたことを知った盗賊たちは揃って絶望を表情に浮かべていた。

 

 

「こっちも片付いた」

 

「さっすがエルザ!!」

 

 

カツカツと足音が響き、見てみると地上へと続く階段から力尽きた盗賊を引きずるエルザが降りてきた。

怪我どころかナツら同様汗ひとつかいていない彼女に、ルーシィはグッとサムズアップする。

為す術なく倒れた仲間を見て恐れをなした盗賊が一人悲鳴をあげながら逃げ出そうとするも、その気配に気づいたエルザが顔面に飛び蹴りを食らわせ、強制的に地面に伏せさせた。

 

 

「まだ仕置きが足りないようだな」

 

「ああああ……!! エルザさぁん〜〜、自分にもお仕置きしてくださ――」

 

「強制閉門え〜〜い」

 

 

倒れ伏した盗賊の尻を踏みにじりながら痛みを与えるエルザに、タウロスが鼻息を荒くさせた。

あまつさえマゾ発言をしようとした彼を、ルーシィは自分の意志だけで星霊を星霊界に送り返す強制閉門を使って送り返したのだった。

 

 

「思ったより早く仕事が片付いたな」

 

「うおおおっ!! 暴れ足りねえ!!」

 

「ん、アイツら弱すぎなの」

 

「気持ちはわかるが十分暴れたじゃねーか」

 

 

完全に盗賊の支部としての機能を失った砦後を出て、エルザ、ナツ、レア、グレイがそう言う。

元々デボン盗賊一家はフィオーレ王国各地に支部を構えていることもあり、盗賊にしてはかなり大規模なはずだが、頭が消えた今のそれはただの烏合の衆と同列。

討伐依頼にしてもかなり簡単な部類だったようで、特にナツとレアは不満げな様子を隠そうともしなかった。

 

 

「ルーシィ見てーこの宝石」

 

「リーシャはこの髪飾り持ってきたかしらー」

 

「だーーーっ!!! 勝手に持ってきちゃダメでしょ!!!」

 

 

一方ハッピーとフリーシャはそれぞれ持ってきた宝石と髪飾りをルーシィに見せつけていたが、これは勿論盗難品である。

勝手に持ってきていいわけが無いのだ。

 

猫二匹を諌めていたルーシィがふと目をそらすと、遠目に人影が映っていたことに気づいた。

目を凝らして見てみると、今個人的に彼女が会いたいと思っていた男だった。

 

 

「ロキ?」

 

「あれ?」

 

 

向こうもコチラの存在に気がついたようだ。

ルーシィの呼びかけに男が立ち止まる。

やはりロキだった。

赤みがかった茶髪に、洒落た装い。

陽の光を受けるときらめくような笑み――は、今の彼にはなかった。

 

 

「……あ、やあ……」

 

 

振り向いたロキはぎこちない笑みを浮かべており、その声には明らかに落ち着きのなさが滲んでいた。

 

 

「ちょうど良かった! この前は鍵――」

 

「そ、その……悪い、仕事中なんだ。じゃあ、またっ」

 

 

ルーシィが星霊の鍵の件でお礼を言おうとするも、ロキは早口にそう言いながら踵を返し、あっという間に走り去った。

誰がどう見ても明らかに逃げ出すような動きだった。

自身の言葉の行き場を無くしたルーシィは、やがてぐぬぬと顔をしかめた。

 

 

「な…何よあれェ〜〜」

 

「お前アイツに何したんだ?」

 

「そーとー避けられてんな」

 

「何もしてない〜!」

 

 

彼が星霊魔導士が苦手だということを加味しても、ロキのルーシィに対しての反応は異常だ。

終いにグレイとナツはルーシィが何かしたのではと疑いの目を向ける。

当然何もしていないルーシィは心外だと言わんばかりに声を荒らげた。

そんな中、グレイがそういえばという調子で口を挟んだ。

 

 

「でも確かに……アイツ、さっき視線的にレアの事も避けてなかったか?」

 

「……ん?」

 

 

その言葉に、全員の視線がレアに向く。

当の本人はというと、ふいっとそっぽを向いてポツリとだけ呟いた。

 

 

「レアも……別に。何もしてないの」

 

 

その声はルーシィのと比べると硬く、明らかに冷えていた。

グレイはわずかに眉を寄せ、ナツは首を傾げながら言う。

 

 

「なーんか変だよなー。前の仕事からずっとそんな感じだしさ」

 

「……別にどうでもいいの」

 

 

レアは静かにそう返しただけだった。

その空気に、一歩遅れてエルザが口を開く。

 

 

「やめておけ。誰しも踏み込まれたくない過去や感情があるものだ」

 

 

彼女の一言がやんわりと場を締めくくった。

ナツとグレイは口をつぐみ、ルーシィも頬を掻きながら「そうだね……」と呟く。

誰もが何かを口に出しかけては飲み込み、微妙な沈黙が場を支配していた時だった。

 

 

「じゃあはぁいっ!」

 

 

パッと手を挙げたのはルーシィだった。

 

 

「せっかく鳳仙花村まで来たんだしさ。ね? 温泉! 温泉入って一泊してこうよ! 仕事も終わったことだし!」

 

 

何の気負いもない、いつも通りの笑顔。

その言葉にナツが勢いよく飛びつく。

 

 

「おっしゃー! 温泉だぁーっ!!」

 

「レアも入りたいの!」

 

「悪くねえな」

 

「リーシャもゆっくり浸かりたいかしら」

 

「あい!」

 

 

と、一気に空気が和らぎかけたその瞬間。

 

 

「……ルーシィ」

 

 

エルザの低くて重い声がその場に響いた。

 

 

「は、はいッ!!?」

 

 

ルーシィが飛び上がるように背筋を伸ばし、顔が引き攣る。

ナツは口を開けたまま凍りつき、レアはピタリと動きが止まる。

グレイ、フリーシャ、ハッピーも声一つ上げられず、その場で硬直した。

重たい沈黙が数秒流れた後。

 

 

「……いいアイデアだな」

 

 

静かに微笑むような声に戻ったエルザの言葉に、全員が一斉に脱力したように息を吐いた。

 

こうして一行は今夜の宿と温泉を求めて、鳳仙花村へと向かうのだった。

 

 

〜〜~

 

 

鳳仙花村。

フィオーレ王国の中で最も有名な温泉街である。

村の名が示す通り、東洋建築の町並みが続く観光地だ。

そんな名実伴った村の宿。

風情ある岩風呂の露天に、湯けむりがふんわりと立ち上る。

 

 

「ふぅ〜……生き返るぅ〜……」

 

 

肩までしっかり湯に浸かって、ルーシィが気の抜けた声を漏らす。

その横ではエルザが静かに目を閉じ、湯の感触をじっと味わっていた。

 

 

「……極楽だな」

 

「ん……気持ちいいの……」

 

 

2人と比べ小柄な体を湯に沈め、レアは静かに言う。

膝を抱えるようにして縁に寄り、そっと目を細めていた。

けれど、ルーシィの様子はどこか落ち着かない。

つい数時間前のあの出来事が、頭から離れなかった。

 

 

「何なのよ……ロキの奴…」

 

 

あんなにもあからさまであれば気にするなという方が難しかった。

 

 

「ロキの事が気になるのか?」

 

 

ふと、エルザが目を開けて尋ねた。

 

 

「そりゃあ……うん、気になるわよ。星霊魔導士が苦手っていうのはミラさんから聞いたけど、アタシはアタシなのにって思ってたら……余計に…」

 

「……ふーん」

 

 

俯きながらエルザに応えるルーシィ。

それを見てレアも小さく反応した。

 

 

「まあ、アタシが避けられてるのは今に始まったことじゃないけど、レアも避けられてるとは思わなかった……ナツの話じゃ、一緒に仕事に行ったんでしょ?」

 

「……ん、行ったの。ロキと二人で、調査の仕事に」

 

 

レアは湯の中で視線を落とし、小さく答えた。

あくまで平静を装っているが、その声音にはわずかに棘があった。

 

 

「でも……そのあとからレアのことも避けてるんでしょ?」

 

 

ルーシィがそう続けると、レアはゆっくりと肩まで湯に沈んでいく。

 

 

「……気にしてないの」

 

 

短い言葉であったにしても、感情の起伏は無かった。

だが、その奥には微かに沈殿した怒りと寂しさがあった。

エルザが何も言わず目を伏せる。

しばらく湯の音だけが、三人の間を埋めた。

 

 

「そっか……。でもレアのことを避けるなんて、ロキもバカね。こんなかわいい子をさ」

 

 

ルーシィが気まずい空気を変えるように、軽く笑って話題を逸らす。

するとレアが、ふいにそっぽを向いてぶっきらぼうに言い返した。

 

 

「……かわいくなんてないの。……胸も小さいし」

 

「えっ?」

 

 

ルーシィがポカンとした後、湯をバシャバシャ揺らして慌てて前かがみになる。

 

 

「え!? レアってそういうの気にしてたの!? 羞恥心の欠けらも無いレアが!!?」

 

「……別に。ちょっとだけ、なの」

 

 

そっぽを向いたまま、レアが湯に沈み気味に呟く。

その声音は淡々としていたが、耳の先がわずかに赤い。

 

 

「いやいやいや……アンタこの前、アタシの家のお風呂勝手に使って上がったときスポブラ姿でナツの前に出てきてたでしょ!? そういうの気にしないタイプだと思ってたのに!」

 

「? それとこれとは別なの」

 

「別!? なんで!?!?」

 

「必要だったから出ただけなの。見られて困ることなんてないし、ナツはナツだし……」

 

「もうやだこの鈍感娘!!!」

 

 

ルーシィが叫んで湯をバシャンと跳ね上げる。

それに驚く様子もなく、レアはすんとした表情のまま首を傾げた。

 

 

「……レアは間違ってる?」

 

「ううん! なんか、もう……! それすらわかんない!!!」

 

 

ルーシィがタオルをグシャッと握りしめて頭を抱えると、その隣からもう一つ、静かな声が湯けむりの中で響いた。

 

 

「羞恥心の基準なんて人それぞれだろう」

 

 

目を閉じていたエルザが、湯から上体をわずかに起こして言う。

 

 

「例えば……私なんか、昔はナツやグレイとよく一緒に風呂に入っていたぞ」

 

「はい出たァァァ!!!」

 

 

ルーシィが勢いよく湯をバッシャバッシャと揺らす。

 

 

「その話本当だったんだ!!? 子供の頃ってやつよね!? ね!?」

 

「今でも問題ないと思っているが?」

 

「ダメだこの人も!! やっぱアタシがおかしいの!!?」

 

 

ギャーギャーと喚くルーシィ。

その隣で、エルザがくすりと笑った。

その様子に釣られ、レアも小さく唇を緩めた。

 

先程までのモヤモヤが、湯に溶けて少しずつ和らいでいく。

そんな時間が、女同士の温泉には確かに流れていた。

 

 

〜〜~

 

 

宿の一室。

男子組の寝室に、ナツの元気な声が響き渡る。

 

 

「始めんぞコラーーーっ!!!!」

 

「うぱー!!」

 

 

宿泊客用の浴衣を身に纏い、両脇に枕を抱えたナツとハッピーの号令に、すでに敷かれた布団に潜り込んでいたグレイが煩わしい様子で目を見やる。

 

 

「なんだよやかましいな……オレぁ(ねみ)ーんだよ」

 

「オイ!!! 見ろよ!!! 旅館だぞ旅館!!! 旅館つったら()()()だろーが!!!」

 

()()()だよ」

 

 

ナツの提案した遊びの内容にグレイはすかさずツッコミを入れた。

ウキウキとした様子のナツとは反対にグレイは終始呆れ顔だ。

 

その時、女子部屋を遮っていたはずのふすまが開いた。

奥からナツ同様両脇に枕を抱えたエルザとレアが顔を出した。

 

 

()()()、レアもやるの」

 

()()()かしら……」

 

「質のいい枕は全て私が押さえた。貴様らに勝ち目はないぞ」

 

「質って……」

 

 

ナツと同様の間違いをするレアにフリーシャがすかさずツッコミ、わりと意味不明なことを言うエルザにルーシィが苦笑交じりに指摘する。

そんな指摘は誰も聞くことなく、ナツの攻撃をキッカケにゴングが鳴った。

 

 

「オレはエルザに勝ーーーつ!!!」

 

「やれやれ……ぐべほっ!!?」

 

 

エルザ目掛けてナツが投げた枕をエルザは危なげもなく躱す。

その代わりに、投擲線上にいたグレイの顔面にクリーンヒットした。

 

いきなりの一撃に、布団の上で仰け反るグレイ。

それを見てナツがガッツポーズを決めるとほぼ同時。

 

 

「……次、行くの」

 

 

レアが無表情のまま、両手で枕を軽く持ち直し、ポイッと投げた。

どう見ても緩やかな山なりの軌道だったが、その枕はなぜか重力に逆らったように落ちず、ちょうど立ち上がろうとしたグレイの側頭部に二撃目が入った。

 

 

「ぐふっ!? おいコラ!何でまたオレなんだよ!!?」

 

「レアの枕の軌道上に入ったのはグレイなの」

 

「…ッ! 上等じゃねえかてめェらァアア!!!」

 

 

憤慨するグレイの叫びを合図に、ついに彼も枕を手に取った。

 

 

「まずはてめェだナツゥ!!!」

 

 

振りかぶると同時に目にも止まらぬ速さで枕を投擲。

狙いはドンピシャで、ナツの顔面にべシュッ!!!と音を立てて炸裂した。

 

 

「ぐほっ!!?」

 

 

吹き飛びながら布団に沈み込むナツを見て、グレイが勝ち誇ったように鼻を鳴らす。

 

 

「次は……お返しだレア!!!」

 

「来るの……!」

 

 

不意打ちだったが、レアは体を捻って避けようとする。

が、避けきれず肩に命中した。

 

 

「んう、不覚なの……」

 

「さっきのお返しだ!!!」

 

 

淡々と反応するレアだが、表情に僅かな不服の感情が滲んでいた。

グレイが満足げに笑いながら叫び、次の標的を選定する。

 

 

「次は、エルザだぁあああ!!!」

 

 

叫びながらグレイは既に装填完了していた枕をその場で素早く投げる。

その投擲線上の先には、エルザが避ける素振りも無しに立っていた。

枕が彼女の顔面まで迫ると、バシュッ!と音を立てた。

命中したかに思われたが、枕はエルザの手によって受け止められ、顔面には一歩届いていなかった。

 

 

「やるな」

 

 

枕を片手で受け止めながら、エルザは静かに微笑む。

そんな楽しげな様子にルーシィが大きく笑った。

 

 

「よーし、アタシも混ざるかなっ!」

 

 

そう言って、浴衣の袖をキュッと捲るルーシィ。

その瞬間だった。

4方向から飛来した枕が、()()()完璧な連携でルーシィ一点集中。

 

 

「ふぎゃああああぁぁぁ!!!?」

 

 

ふすまを突き破り、中庭へと吹っ飛んでいくルーシィの姿が、見事な放物線を描いた。

そんな中4人は——

 

 

「どらァあああぁぁぁあ!!!」

 

「んんんッ!!!」

 

「うおりゃあぁああぁああ!!!」

 

「はぁああぁぁあ!!!」

 

 

一瞬たりともルーシィの名を口に出すことはないどころか、見向きもしなかった。

中庭の砂利に倒れ込み、枕が当たって額を赤くさせたルーシィが、涙目になりながらポツリと呟いた。

 

 

「や…やっぱアタシ、やめとこーかな……下手したら死んじゃう……」

 

 

夜風が優しくルーシィの髪を撫でていた。

 





マジで書きたかった温泉回じゃあ!
ここにアテクシの癖が詰まってます(聞いてない)。
これは次の水着回も楽しみでやんす…^^。
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