妖精の尻尾の双竜   作:uru1629

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いよいよこの章の本編です。


空に戻れない星

 

翌日、鳳仙花村からナツらはギルドへと帰還していた。

そのチームメンバーであるナツとグレイはというと、大怪我の処置をされ、互いに親の仇かと言わんばかりに睨み合っていた。

 

 

「なんだありゃ……?」

 

「仕事先で枕投げしてて怪我したんだって」

 

「どうやったら枕投げであんな大怪我を……」

 

 

事情を知らないエルフマンがなんとなしにミラに聞いてみると、エルザから聞いていたのかそう返答する。

答えを聞いたはいいものの原因が謎すぎてエルフマンは余計頭に疑問符を浮かべていた。

 

 

「大体テメーはなんで枕投げでムキになんだよ」

 

「オレはいつでも全力なんだよ」

 

「その割には負けてんじゃねーか」

 

「はぁ!? 負けたのはオメーだろ!!」

 

 

いつもの様に下らないことで喧嘩をするナツとグレイ。

彼らの論争に終止符を打つとしたら「エルザの勝ち」となるだろう。

三者三葉の枕の投げ方があったにもかかわらず避けるわキャッチするわと彼女へのまともなヒットはほとんど無かっただろう。

 

逆にナツとグレイの怪我の大部分はエルザの影響が大きかった。

ちなみにレアは男子よりも避けに徹していた故に彼らほどの怪我は無い。

彼らほどの怪我はない、つまり怪我はしているのだが……。

 

つまり、彼らが行っているのはどんぐりの背比べに過ぎないのだ。

それを認められないのが、今の二人の有り様である。

 

 

「「ルーシィ!! 勝ったのはオレだよなっ!!!」」

 

 

「うるさい」

 

「……ッ! ……ご……ごめんなさい…」

 

 

こんな展開を誰が予想できただろうか。

エルザにしか止められないと思われたナツとグレイの喧嘩を、ルーシィがたった一言で収めてしまったのだ。

ただの一言にあらず、今までの彼女からは聞いたこともないような冷たい声に見たことないような不機嫌そうな表情。

そして感じたこともないようなドス黒いオーラに、二人は揃って萎縮していたのだった。

 

その様子を見ていた他のギルドメンバーは思わず感嘆の声を上げていたが、当の本人は何処吹く風とそっぽを向いていた。

 

 

「ルーシィずっと機嫌悪いね」

 

「そう? フツーだけど」

 

 

ハッピーが尋ねるも、ルーシィの声のトーンは変わらない。

相も変わらず不機嫌を隠さない様子にハッピーも少し気まずそうな空気を出す。

その隣に、ルーシィはふと人の気配を感じた。

ゆっくりとその方向へ視線を向けると、彼女を真っ直ぐに見つめるレアの姿があった。

 

 

「……レア?」

 

 

人さえ殺せそうな視線に「ひうっ」と喉を鳴らしたレアだったが、それでも彼女はルーシィの隣の席に座った。

 

 

「フリーシャから聞いたの……昨日、ロキに会ったって…」

 

 

ルーシィは数秒だけ沈黙し、重いため息を一つ吐いた。

 

 

「……アイツさ、『女の子を口説く手口の一つ』なんて言って…」

 

「ん……」

 

「それで、『僕の命は残りわずかなんだ』って……! そりゃもう、ビックリしたし……意味がわからないし……」

 

 

ルーシィの声が震え始める。

怒りとも困惑ともつかない感情が混じったような、濁った言葉の端々。

 

 

「……でも、何が一番嫌だったかって言うとね」

 

 

彼女はグラスを持ち上げ、少し揺らすようにしてから、ポツリと呟いた

 

 

「“からかわれた”って思っちゃったのよ。……冗談にしても悪質すぎる」

 

 

レアはしばし黙ったまま、視線を前へ向けていたが、やがてポツリと呟いた。

 

 

「……ルーシィが怒るの、少しわかるの」

 

「……レアも、ロキに何か言われたの?」

 

 

ルーシィに問われ、レアは首を横に振った。

 

 

「んん……言われたんじゃなくて、見たの」

 

「……見た?」

 

 

レアの眼差しが少し陰る。

 

 

「この前の仕事の時……敵の幻影の中に、“誰か”がいたの。……知らない女の人。でも、ロキがその人を見たときの顔が、すごく悲しそうで……」

 

 

その言葉に、ルーシィは一瞬だけ黙り、すぐに苦笑いを浮かべていた。

 

 

「ふぅん……なるほどね。そっち系か。そういうのに弱いタイプなんだ」

 

「……レア、それが嫌だった訳じゃないの」

 

 

てっきり嫉妬でも抱いているのかと考えていたルーシィだったが、否定を挟んだレアの言葉に疑問符を浮かべた。

 

 

「ロキが、全部一人で抱えてるのが……嫌なの」

 

 

ルーシィが驚いたように目を見開いた。

レアの言葉は、静かだけれど重く、真っ直ぐだった。

 

 

「困ってても、傷ついてても、何も言わない。誰にも頼らないで勝手に消えようとする。……レアは仲間だと思ってたのに」

 

 

ルーシィは、その言葉に一瞬言葉を詰まらせ、ゆっくりとグラスをテーブルに戻した。

 

 

「……アタシも、たぶん……同じ気持ちかも」

 

 

ポツリとこぼれ落ちたように、そう言った。

 

 

「ほんのちょっとだけ、信じてたんだよ。冗談じゃなくて、ちゃんと話してくれるって……でも結局、そうじゃなかった」

 

 

レアはそれを否定も肯定もせず、ただルーシィを見ていた。

 

 

「……レアは、ルーシィの味方なの」

 

 

その一言にルーシィは目を伏せ、肩をすくめた。

 

 

「ありがと。……アタシも、レアの味方よ」

 

 

沈黙が流れた。

だけどその沈黙は、痛みを和らげるものだった

 

ルーシィとレアの間に流れる、静かな余韻。

その柔らかな沈黙を破ったのは、奥から聞こえる複数の女性の声だった。

 

 

「ねえ、ロキ来てる?」

「ロキは?」

「ひどいわ、ロキってば」

「ロキ〜〜どこ〜〜?」

 

 

レアとルーシィが揃ってカウンター席の奥を見てみると、数人の女の子たちがミラに詰め寄っていた。

町で見た事のある華やかな雰囲気の子たちばかりだ。

 

 

「何アレ」

 

「……多分、全員ロキの自称彼女なの」

 

 

詳しくないルーシィが疑問を吐露すると、レアが淡々と答えた。

そして女の子たちが言うには、昨日の夜に突然別れようと一方的に告げられたらしい。

それも全員がだ。

 

確かに女たらしで女好きのロキだが、別れ際に泣かせるようなことは絶対にしないタイプだ。

にもかかわらず全員に同じタイミングで一方的な別れ話をするなんて、ロキらしくないにもほどがある。

 

 

「突然別れようなんて……なんで急に言い出すよのよ!!」

 

「さ…さあ……」

 

「もしかして本命が現れたの!!?」

 

「いや……」

 

「誰!? このギルドにいるの!!?」

 

 

ミラは困り果てながら応対をしていたが、その目がふとコチラに向いた。

 

 

「レア〜〜、ルーシィ〜〜、助けて〜〜~」

 

「ちょっ!!?」

 

 

その声に呼応するように、女の子たちの視線が一斉にこちらを向く。

一種の殺気が混じったような視線に、ルーシィは全身の毛が逆立ったのを感じた。

 

 

「何あの女〜〜!」

「ちょっとかわいいじゃない……!」

「片方胸でか……!」

「ムカつくぐらいあどけない……!」

「ロキの本命ってまさか……!!」

 

 

「……レアはアイツのこと別に…」

 

「火に油注ぐような事しないでレア!! ミラさんもめんどくさいことアタシたちに振らないでよ〜〜~!!」

 

 

迫り来る視線と圧にレアは真面目に答えようとするも、ルーシィが絶対面倒なことになると察知し、彼女の首根っこを掴みながらその場から逃げ出したのだった。

 

 

〜〜~

 

 

「……という訳なの、クル爺」

 

「ほマ」

 

 

あれからなんとかロキの彼女たちを振り切ったルーシィとレアは、ルーシィの家に来ていた。

そしてルーシィは星霊の鍵束を手に取り、南十字座の星霊、クルックス……通称クル爺を召喚した。

 

インパクトの強い十字の形をした頭に立派な髭を生やし、胡座をかきながらフワフワと浮かんでいた。

 

 

「あたし……ついカーッとなって手をあげちゃったケド……なんか、だんだん冗談じゃなかったような気がしてきて……」

 

「ほマ」

 

 

事情を説明するルーシィは気まずそうに俯いていた。

彼女の中で引っかかっていたのは、昨晩ロキが彼女たちに対して起こした異常行動、ルーシィに告げた言葉、そしてレアが見たという知らない女。

 

 

「クル爺の力で、過去にロキと関係のあった星霊魔導士を調べられない?」

 

「ほマ」

 

 

一つ返事をし、クル爺は何も言わなくなる。

 

 

……沈黙。

 

 

……数秒。

 

 

……十数秒。

 

 

「……ルーシィ」

 

「なに?」

 

「コイツ寝てるの」

 

「大丈夫…検索中だから」

 

「寝ながら検索してるの?」

 

「違う、そうじゃない……」

 

 

クル爺はいびきをかいていた。

 

ルーシィが言うには、彼は星霊学なるもののスペシャリストらしい。

星霊界と人間界を繋ぐ(ゲート)の情報を全て持っており、過去にどんな星霊魔導士がどんな星霊を呼び出したかがわかる。

なのだが、検索の仕方が「いびきをかく」ゆえにレアからそう言われるのは仕方の無いことだろう。

 

 

「ディアァーーーオッ!!!!」

 

「クル爺、なんかわかった!?」

 

 

突如、クル爺が奇声をあげた。

ルーシィ曰く検索完了らしい。

突然の奇声にビクッと肩を跳ね上げさせたレアだったが、そんな彼女を差し置いてルーシィが聞くと、クル爺は落ち着いた様子に戻り、「ほマ」と返事をしてから口を開いた。

 

 

「個人情報保護法が星霊界にも適用されてますのであまり詳しくは申せませんが、ロキ様と関係ある星霊魔導士はカレン・リリカ様でございます」

 

「カレン・リリカ!!!?」

 

 

クル爺の告げたそれに、ルーシィは驚いて目を見開いた。

 

 

「ルーシィ、知ってるの?」

 

「めちゃくちゃ有名な星霊魔導士よ!!」

 

 

星霊魔導士どころか他所の魔導士の情報はほぼ無いに等しいレアが尋ねると、未だ驚いた様子のルーシィが興奮したまま話した。

 

最もポピュラーである魔導士雑誌、『週刊ソーサラー』のグラビアを務めるくらいに容姿が美しい魔導士だったのだとか。

しかし、何年か前に仕事中に亡くなってしまったのだ。

ギルドの魔導士であり、青い天馬(ブルーペガサス)の魔導士であった。

 

 

「ルーシィ。その女の写真、どこかにある?」

 

「その女って……確か『週刊ソーサラー』のバックナンバーがそこの引き出しにあるわ。カレンが載ってるやつもとっておいたハズよ。で、クル爺! そのカレンとロキがどう関係してるの?」

 

「ほマ、これ以上は申し上げられません」

 

 

ルーシィが指さした引き出しを漁り出すレアを背景に、クル爺に追加質問をする。

だが彼は再びいびきをかいて沈黙しだした。

 

 

「ん、教えられないって言いながらも検索してるの」

 

「いや……寝てるわね」

 

「……は????」

 

 

レアの脳が理解不能とオーバーフローする。

ルーシィが一体どこで目の前の爺の仕事と寝てるの区別を判断しているのかが、レアにはわからなかった。

 

肩を落としながら、ルーシィは座り直した。

疑問は晴れるどころか、むしろ増えたように感じる。

 

ロキの言葉。

突然の町の女の子たちとの関係の遮断。

クル爺が示した名前。

そして、レアが見た“知らない女”。

 

点と点は確かに存在する。

でも、それを一本の線で結ぶには何かが足りない。

 

 

「なんだろう、この違和感……」

 

 

タチの悪い冗談だと考えていた彼の言葉が頭を反芻する。

彼女の小さな呟きが、部屋に沈む静寂のなかへと溶けていく。

 

そのときだった。

 

 

「……ルーシィ」

 

 

ポツンと名前を呼ばれ、ルーシィは顔を上げる。

レアが、引き出しの中から一冊の雑誌を両手でそっと取り出していた。

その手元には――表紙いっぱいに、美しい女性の姿。

 

 

「この女なの……」

 

 

輝くような金髪に赤を基調にしたファーコートを着こなす麗人。

ルーシィはその表紙に目を留めた瞬間、息を呑んだ。

 

 

「まさか……!!」

 

 

疑惑が確信に変わった瞬間のこと。

 

 

「ルーシィ大変だァ!!!」

 

「ひィ!!?」

 

 

グレイがルーシィの家に大声をあげながら滑り込んできた。その様子はどこか焦りに満ちていたが、今の彼の——いや、()()()の現状を考えれば当然だった。

 

 

「レア、オメーもここに居たか!! ちょうど良かった……ロキが妖精の尻尾(フェアリーテイル)を出て行っちまった!!!」

 

「え!!?」

 

 

寝耳に水とも言える報告にルーシィもレアも目を見開いた。

 

 

「やっぱり…!」

 

「やっぱりってお前……事情知ってんのか!? あいつ……ここんとこおかしかったがよ」

 

 

初めて聞いたはずのルーシィが訳知り顔を浮かべることに、グレイは詰め寄る。

だがその間にレアが割って入った。

 

 

「グレイ、今みんなどうしてるの?」

 

「い、今みんなで探してるトコだが……」

 

「なら、グレイは引き続きみんなと探してて。レアとルーシィは心当たりがあるの」

 

 

レアは言うことだけ言ってルーシィの手をとる。

そのままグレイの制止も聞かないまま家を飛び出したのだった。

 

 

「レア、気づいた!?」

 

「確信は出来てないの。でも、さっきの話と女の正体が一緒なら、心当たりはあるの」

 

「なら急ぎましょ……カレンのお墓へ!」

 

 

〜〜~

 

 

マグノリアにて消えた仲間を探す呼び声がいくつも響く中、その町から外れた森の奥。

滝に囲まれた断崖絶壁にて、件の捜し人はいた。

 

ロキはそこに静かに立ち、目の前に佇むお墓にお参りするでも無く、ただ見ていた。

その時、背後から足音が聞こえた。

 

 

「ロキ……みんな探してるよ」

 

「ルーシィ……! レアまで……!?」

 

「ここ、あの女の墓なの?」

 

 

その正体は仲間のルーシィとレアだった。

現れた二人に、ロキは信じられないというような目つきで見つめる。

 

 

「星霊魔導士カレン。あなたの所有者(オーナー)よね。星霊ロキ。ううん……本当の名は、獅子宮のレオ」

 

 

ルーシィの言葉に、ロキの肩がわずかに震えた。

……それが、彼女たちのたどり着いた答えだった。





正直な感想述べますとロキもあそこまでカレンに激重感情のせなくてもいいと思うんは私だけでしょうか…。
まぁそれも彼の美点なのですかね。
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