妖精の尻尾の双竜   作:uru1629

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これで決まりだ。


星霊王

 

「……よく気づいたね。……僕が星霊だって」

 

 

乾いた笑みを浮かべるロキ……獅子宮のレオに言葉を返したのはレアだった。

 

 

「レアは教えてもらっただけなの。ちゃんと気づいたのはルーシィ」

 

「あたしも、たくさんの星霊と契約してる星霊魔導士だからね。でも……もっと早く気づくべきだったんだよね」

 

 

ルーシィが言うには、本来鍵の所有者(オーナー)が死んだ時点で契約は解除される。

次の所有者(オーナー)が現れるまで、星霊は星霊界へと強制的に戻される。

 

しかし、目の前の彼は所有者(カレン)が死に、契約が解除されただろうにもかかわらず、星霊界には戻っていない。

何らかの理由で星霊界に戻れなくなったのだろうと、ルーシィは当たりをつけたのだ。

 

人間が星霊界で生きていけないように、星霊もまた人間界では生きていけない。

生命力を徐々に奪われ、やがて死に至る。

それが、ロキの発した「命は残りわずか」の真相であった。

 

 

「じゃあ……ロキは3年も生命力を奪われていってたの?」

 

「3年!!? 1年でも有り得ないのに!!」

 

「あぁ……もう限界だよ。まったく力が出ないんだ……」

 

 

子供の頃から妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士であるレアは、ロキがいつここにやって来たかもよく知っている。

そんな彼女から告げられた事実に、ルーシィは仰天で目を見開いた。

ロキもそれに静かに頷いた。

 

彼自身もここ最近、自分の本来の力が発揮できないことを痛感していた。

さらに自身の体が透け始めることも多くなり、その頻度はファントムとの抗争辺りから頻度を増していた。

ゆえに未練を残さないよう、ここ最近は自分から関わることを避け、あらゆる関係を絶ってきた。

 

 

「あたし……助けてあげられるかもしれない!!! 帰れなくなった理由を教えて!! あたしが(ゲート)を開けてみるから!!!」

 

 

星霊魔導士である自分ならば今の彼の状況も変えられる。

そう思い声をあげるルーシィだったが、返ってきたのは静かな拒絶だった。

救いの手を払うロキにルーシィもレアも難色を示すも、彼は言葉を続けた。

 

 

「帰れない理由は単純なんだ。所有者(オーナー)と星霊の間の禁則事項を破ってしまったんだ。結果……僕は星霊界を永久追放となった」

 

 

思わぬ事情に、ルーシィは絶句を禁じえなかった。

黄道十二門であるレオ(ロキ)が星霊界を永久追放。

彼の言葉を借りるに、一体どんな罪を犯せばそのような重い罰が下るのか想像も出来なかったが、ロキはこの死をも受け入れられると断言した。

 

 

「僕は裏切り者の星霊だ。所有者(オーナー)であるカレンを、この手で殺した」

 

 

所有者(カレン)の殺害。

それがロキが犯した罪。

その背景には、誰にとっても救いようのない、悲しい顛末があった。

 

今から3年前のこと。

カレンはルーシィの記憶通り、青い天馬(ブルーペガサス)の魔導士だった。

週刊ソーサラーの表紙を飾れるほどの美貌に、貴重な黄道十二門の鍵を持っていたこともあって、注目を集めていた。

 

しかし、彼女の性格には難アリであった。

何人もの男を引き連れては貢がせ、ギルドを我が物顔で歩く。

それゆえか周囲の者、特に同ギルドの女性魔導士からは存在すら煙たがれていた。

引き連れた男を煩わしく思えば彼女が召喚した黄道十二門の星霊の一体、白羊宮のアリエスに押し付けて相手をさせていた。

 

それだけに留まらず、毎日のおつかいや掃除、挙句の果てに仕事中に盾にしたりと、カレンは星霊のことを道具としてしか見ていなかった。

アリエスが内気な性格で逆らう事が苦手なのをいい事に、カレンの横暴さは見るに耐えなかった。

 

青い天馬(ブルーペガサス)のマスターボブも彼女に対して怒りを孕ませて忠告するも、カレンは見当違いな結論を出した。

アリエスがマスターに対してくだらない事を吹き込んだのだと。

 

そう当たりをつけたカレンはアリエスに八つ当たりをし、終いには罰として7日間人間界に留まらせようとしたのだ。

周知の通り、星霊は人間界では生命力を消費し、長くは生きられない。

そんな拷問まがいのことを無理やり入れ替わることで阻止したのがロキ、当時の獅子宮のレオだった。

 

カレンの星霊に対する不当な扱い、特に異常なまでのアリエスへのあたりの強さに我慢ならなくなったレオは、他の星霊たちがカレンの手に鍵が渡ることを恐れていると伝え、人間界に留まることにした。

彼が星霊界に帰る条件としてカレンに突きつけたのは、自分とアリエスの解放……獅子宮と白羊宮の鍵を手放すことだった。

 

星霊魔導士が召喚できる星霊は本人の魔力量や魔力の使い方にもよるが、原則一度に一体までだ。

つまり、彼が人間界に居座ることで、カレンはどの星霊をも召喚出来なくなるのだ。

 

当然、黄道十二門の鍵を二本も手放せないと要求を拒否。

町外れの廃墟に居座っていたレオを説得、ないし生命力が減って弱っていく彼を殺そうと暴力を振るいもしたが、レオは3ヶ月もの間廃墟に居座り続けた。

その頃には生命力が減っていくことに歯止めは効かないものの最初ほどの苦しみも無くなり、そろそろカレンを許してやろうと町に戻った。

彼女の訃報を聞いたのは、その直後だった。

 

彼は、彼女に死んで欲しかった訳じゃない。

ただ、知って欲しかっただけなのだ。

星霊は道具では無い。

意思が、知恵が、感情が存在する、対等な存在なのだと知って欲しかっただけなのだ。

 

だが、彼女はもうこの世に居ない。

自分の起こした行動のせいで、彼女は死んでしまった。

自らの手で殺したのと変わりない。

ならば、これこそが罪。

それを償うには、できるだけ長く苦しみ消えていくことが贖罪になるだろうと、彼は考えた。

 

 

「時間か…な…」

 

 

すると、ロキは突如力を失ったように体をふらつかせ、地面に腰をつけた。

突然のことに二人はすぐに駆け寄る。

 

 

「あの日を境に、星霊界に帰れなくなった。星霊界も、主人の命令に背いた星霊を拒否している……」

 

 

息が荒くなり、体も透けては戻るを繰り返し始めていた。

だが、彼の顔色は悪くも浮かんでいたのは笑顔だった。

思えばこの日まで色んなことをしたが、常に付きまとっていたのはカレンの影だった。

この日を誰よりも待ち望んでいたのは、ロキ自身だったのかもしれない。

 

 

「レア……君のその真っ直ぐさは、僕には眩しかった。ナツにはよろしく言っておいてくれ……。ルーシィ……最期に君のような素晴らしい星霊魔導士に会えて良かった……ありがとう」

 

「待って……! 勝手にお礼言って、勝手に託すななの……!!」

 

 

満足そうにそう言うロキだが、レアはそんな事納得できるわけが無い。

今までに無いくらいの焦りの感情を表情に出すレアは必死に呼び留めようとするも、ロキ自身でさえその進行を止めることは出来ない。

何も出来ない無力感に、レアの心中に悔しさだけが募る。

だが、この場にいるのはレアだけでは無い。

 

 

「絶対助ける!!! 諦めないで、ロキ!!!」

 

 

ルーシィだ。

彼女は星霊魔導士だ。

彼女の力で彼の(ゲート)を開きさえすれば、ロキは星霊界に帰り、生命力を回復させることが出来るのだと信じて疑わない。

 

だが、それを否定したのはロキだった。

星霊界の法は絶対……自分はこのまま消えることに何の躊躇いも無いと。

 

それでもルーシィは認めない。

認めたくなど無かった。

ロキはアリエスを助けるために行動を起こした。

これは殺人ではなく事故だ、カレンを殺したことになどならないと彼の罪を認めない。

 

 

「開け!!! 獅子宮の扉!!! ロキを星霊界に帰して!!!」

 

 

最初よりも透けている部分が多くなったロキの首に腕を回したルーシィは必死に叫ぶ。

星霊を星霊界に通ずらせるための鍵は無い。

だが、彼自身の体と魔力を通せば、星霊界にも自分の魔力を通して(ゲート)を開けられるのではと考えたのだ。

しかし、何度呼びかけても(ゲート)が開く気配は無い。

 

 

「もういいんだ……やめてくれ……」

 

「よくない!!! 目の前で消えていく仲間を放っておける訳ないでしょ!!!」

 

 

瞬間、ルーシィの体から魔力の奔流が走る。

バチバチと嫌な音を立てながらも、ルーシィはロキから手を離さない。

ロキが離せと言っても、ルーシィは絶対に助けると言って聞かない……星霊界の扉なんてこじ開けてやると叫んでさらに魔力を流す。

 

だが、やはりロキは否定する。

開ける開けないの問題ではなく、開かないのだと。

契約している人間に逆らった星霊が星霊界に戻る方法は無い。

感情論などではなく、理屈として開かないのだ。

 

その時、ルーシィの魔力の奔流が少し収まった。

何もここに来ているのはルーシィだけでは無いのだから。

 

 

「ロキ、忘れたの? 妖精の尻尾(フェアリーテイル)にとって仲間は家族なの……! 家族を助けられるかもしれないのに見殺しにするなんて、レアたちが納得できるわけないの!!」

 

 

ルーシィの必死の叫びに、レアが感化されたのだ。

星霊魔導士では無いレアに出来ることは少ない。

でも、ロキを助けようとするルーシィを助けることはできる。

彼女の魔力は流れを循環する水。

レアの魔力をルーシィに流し、相応しい形に適応する。

ナツほどの効率は無いものの、無駄になどならない。

 

 

「レア、君まで!!」

 

「開けぇええ!!! 獅子宮の扉ぁあッ!!!」

 

「開くのォ!!!」

 

 

荒れ狂う魔力の奔流はさらに勢いを増す。

それはさらに強く、さらに激しくなり、ロキと繋がっている二人の体にも変化が現れる。

魔力の奔流の中、彼女らの生命力までも流れ始めていた。

 

 

「やめてくれ!!!星霊と同化し始めてるじゃないか!!! このままじゃ君たちまで一緒に消えてしまう!!!」

 

「仲間を助けられずに消しちゃうなら、いっそ一緒に消えた方がマシなの!!!」

 

「これ以上僕に罪を与えないでくれえっ!!!」

 

「何が罪よ!!! そんなのが星霊界のルールなら、あたしが変えてやるんだから!!!」

 

 

その時だった。

 

あれ程までに荒々しい奔流を巻いていた魔力は一瞬にして霧散した。

それと同時に、3人を中心に風が渦巻いた。

空間全体に衝撃が走る。

周りを囲っていた滝の水の流れが止まったように動かなくなったと思えば、それは自然の摂理に逆らって逆流しだす。

やがてそれは3人の上空で渦を巻き、渦の中から影が現れた。

 

 

「え? 何!?」

 

「誰か……いるの…!」

 

「まさか…そんな……!!」

 

 

困惑、警戒。

二人の胸中をそんな感情が支配する中、ロキはそれが誰か知っていた。

星霊の彼だからこそ知っていた。

巨大な体に、それに見劣らない立派な髭。

そして銀の輝きを持った鎧をまとっている大男。

そんな荘厳そうな見た目のこの者こそが——

 

 

「星霊王!!!!」

 

 

星霊界の最高権力者にして司法を司る存在だ。

渦巻く水と風は、まるで時間ごと支配されているかのように静止し、その中心で彼の影だけが圧倒的な存在感を放つ。

大気が震え、森の葉がざわめきを止め、世界がこの一瞬だけ星霊王を讃えて息を潜めた。

 

 

『古き友。人間との盟約において、我ら…鍵を持つ者ヲ殺める事を禁ズル…。直接ではないにせよ、間接にこれを行ったレオ。貴様は星霊界に帰る事を禁ズル……』

 

「ちょっと!!! そりゃあんまりでしょ!!!」

 

 

重々しく告げられた星霊王の宣告。

わかってはいた。

やはり自分はここで消える定めなのだと理解したロキだったが、ルーシィが立ち上がって主張を叫んだ。

王を前に真っ向から叫ぶルーシィにロキが慌てて止めようとする。

 

 

『古き友…人間の娘よ…その…“法”だけは変えられぬ』

 

 

ルーシィの言葉に淡々と返す星霊王の言葉に、ロキは一つの可能性に至った。

それは、彼の王が姿を現す直前にルーシィが言った「ルールを変えてやる」のセリフに乗じて姿を現したのではと。

たかが一星霊が消えるという小さな案件で王自ら赴くことなど異例な事態だったからだ。

 

 

「3年も苦しんだのよ!!! 仲間のために!!アリエスのために仕方なかった事じゃない!!!」

 

『余も、古き友の願いには胸を痛めるが……』

 

「古い友達なんかじゃない!! 今目の前にいる友達のこと言ってんのよ!!! ちゃんと聞きなさいヒゲオヤジ!!!」

 

「ん…ッ!」

『ヒゲ……!?』

「ル、ルーシィ!!?」

 

 

感情が昂ったのだろう。

王に対して思わぬことを口走る彼女に、レアは笑いを堪え、星霊王は初めて表情に変化をみせ、ロキは彼女の無礼に心底慌てた。

だがそんなことに気づいていないのか気にしてないのか、彼女は主張を続けた。

 

 

「これは不幸な事故でしょ!! ロキになんの罪があるって言うのよ!! 無罪以外は認めないんだから!!!」

 

「もういいルーシィ!! 僕は誰かに許してもらいたいんじゃない!! 罪を償いたいんだ!!!このまま消えたいんだ!!!」

 

「そんなのダメーーーッ!!!」

 

 

ロキの魂からの叫びを、ルーシィは真っ向から否定する。

瞬間、彼女の体からドっと魔力が溢れ出した。

彼らが目にしたのは——

 

 

「罪なんかじゃない!!!! 仲間を想う気持ちは罪なんかじゃない!!!!」

 

 

ルーシィと契約している9体の星霊が、彼女と共に並んだ姿であった。

星霊王を見上げる形で揃う彼らは、言葉は発さずとも主張は同じだと言外に語っていた。

その光景に、ロキは驚きを禁じえなかった。

一度に召喚できる星霊は一体のみ。

それを打ち破って9体もの星霊を同時に召喚するなど、前代未聞であった。

だがすぐにその姿は消えてしまい、ルーシィもバタンと地面に倒れ伏してしまう。

その直前、レアが彼女の体を支えた。

 

 

「ルーシィ……無茶し過ぎなの」

 

「レアが…それを言うの……?」

 

 

力なく笑うルーシィに、レアは小さく微笑んだ。

 

 

「後は任せてなの……」

 

 

そう言ったレアはルーシィを抱えたまま首を星霊王の方へと傾ける。

 

 

「今ルーシィの()()が姿を見せてくれたみたいに、気持ちはみんな一緒なの。後はお前だけなの、王様。お前もおんなじ星霊ならロキの、ロキが助けようとしたアリエスの気持ちもわかるはずなの。レアもおんなじこと言うの。仲間を想う気持ちは罪じゃないって……!」

 

 

ロキもルーシィの元に力ないながらも駆け寄り、ルーシィの心配をしている。

彼女らの主張、そしてロキの彼女らを想う行動。

それを見た星霊王は目を細め、その重々しい口を開いた。

 

 

『古き友にそこまで言われては……間違っているのは“法”かもしれぬな。同胞アリエスのために罪を犯したレオ。そのレオを救おうとする古き友……。その美しき絆に免じ、この件を「例外」とし、レオ……貴様に星霊界の帰還を許可スル』

 

 

星霊王自ら許可が下された。

それはつまり、ロキは星霊界に帰り、生命力を回復させることが出来るという事だ。

ひっくり返った判決に、ロキの開いた口が塞がらない。

 

 

「いいトコあるじゃないヒゲオヤジ」

 

 

ルーシィのそんな言葉に、星霊王はニカッと笑みを浮かべてマントを翻した。

 

 

『免罪だ。星の導きに感謝せよ』

 

「……待ってください…僕は……」

 

 

それと同時に彼の姿は消えていき、ロキは涙を流しながら声を上げようとするも、それは完全に姿が見えなくなった星霊王の言葉によって遮られた。

 

 

『それでもまだ罪を償いたいと願うならば……その友の力となって生きることを命ずる。それだけの価値がある友であろう……命をかけて守るがよい』

 

「……だってさ」

 

 

時が再び動き出す。

止まっていた水の流れが再び在るべき形に戻り、風が3人の肌を凪いだ。

星霊王に告げられた贖罪方法に、ロキは感涙を流していた。

笑顔を浮かべて声をかけてくるルーシィに顔を向けると、その奥。

カレンの墓の横に、彼女の幻影が映って見えた。

 

だが、それは今までの怨嗟の眼差しを向けてくる彼女じゃない。

まるで送り出してくれているような美しい微笑を浮かべているようだった。

彼女はそんな笑みを浮かべながら姿を消していった。

彼女が何を思ったのか、彼にはわからない。

しかし、確かに心に感じたことがあった。

 

——これで僕の罪が消えたわけじゃないけど……

 

——君たちには前へ歩き出す勇気をもらった。

 

 

「ありがとう。そしてよろしく。今度は僕が、君の力になるよ」

 

 

ロキの体が光の粒子となって消えていく。

それは消滅の光じゃない。

その証拠に、ルーシィの右手には獅子宮の紋が彫られた金の鍵が握られていた。

言葉を受け取ったルーシィは、たった一言彼に返した。

 

 

「こちらこそ」

 

 

夜も耽り、星が瞬く。

それは彼らの新たな繋がりを祝福しているようだった。

新たな絆は、夜空に瞬く星のように、何より確かに在り続ける。





はい、ここでこの章は一区切りとなりますので再び書き溜め作業に入ります。
エルザの過去が明かされる楽園の塔編、お楽しみに待って頂けると幸いです。
それではそのときまで、ごきげんよう…。
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