妖精の尻尾の双竜   作:uru1629

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前回ウォーリーに愚痴ったけど…個人的にはあのキャラクター性は大好き…だゼ。


楽園の塔

 

拳銃の冷たい銃口が、ナツの口内に突きつけられたまま。

ナツは息を詰めて睨み上げ、拘束されたレアは四角い鎖に縛られながらも、じっと男を見返していた。

テーブルの上には、まだチップの山が残っているというのに、周囲のざわめきだけが遠く響く。

男は四角い輪郭の顔に薄い笑みを貼り付け、声を低くした。

 

 

「エルザはどこにいる? だゼ」

 

 

ナツは拳銃を口内に突きつけられ声がくぐもる。

その代わりに、レアが淡い光を宿した瞳で真っ直ぐに男を睨む。

 

 

「……言わないの。……誰が、お前なんかに教えるの」

 

 

息を殺していたフリーシャがかすかに目を見開いた。

男は小さく鼻で笑う。

 

 

「へェ……泣き言も吐かないとはな。ますますダンディなガールだ」

 

 

その時だった。

空気が重たく揺れたかと思うと、ビリ……と何かが裂けるように辺りの明かりが一瞬で消えた。

まるで、夜の底に急落したみたいに、深く、完全な闇がカジノを飲み込む。

 

誰かが小さく息を呑む音。

遠くでコインの転がる微かな金属音。

 

闇の奥から、低く気怠い声だけが転がってきた。

 

 

「グッナイボーイ……」

 

 

乾いた銃声が、静寂を引き裂いた。

ナツの口内に突きつけられていた拳銃から吐き出された火花が、闇の中で瞬いた。

 

 

「ナツ!!!」

「やめ……っ!!」

 

 

ハッピーの尾を逆立てるような悲鳴と、フリーシャの掠れるような声が弾ける。

だが、反撃は許されなかった。

四角い鎖が、まるで生き物のようにレアの細い喉を絡め取る。

 

 

「——ッ……!」

 

 

首筋を食い込む硬い感触が、レアの息を奪っていく。

暗闇の中でも、彼女の瞳だけは恐怖に曇らない。

唇を強く噛み、「言わない」と睨み返したまま……。

 

男は冷たく笑った気配がした。

 

 

「必要ねえサ。答えないガールは……ダンディに眠れ……だゼ」

 

 

鎖がさらに強く絞まる。

小さく息が途切れるような音が喉奥から洩れ、レアの意識は急速に遠ざかる。

視界も、息も、全部を闇が呑み込んでいく。

 

最後に見えたのは、闇の奥に浮かんだ、四角く歪んだ男のシルエットだけだった。

——波打つ暗黒の底に、レアの身体は静かに落ちていった。

 

 

〜〜~

 

 

レアが意識を落としたそのすぐ後のこと、暗闇に包まれていた地下カジノは明かりを取り戻した。

ポーカーを行っていたフロアには暗闇に包まれる前にはいたはずの観光客の姿は忽然と消え、数人の男女と二人の妖精の女性がいた。

 

ディーラーの服装を着て、ポーカー会場にいた観光客をトランプに閉じ込め床にばら撒いた、褐色肌に逆立った金髪を持つ青年。

名は『ショウ』。

 

猫の手を模した数本の管を用いてルーシィを拘束している、髪を猫の耳の形にセットした、見た目から猫のような印象を受ける少女。

名は『ミリアーナ』。

 

ナツとレアを襲ったカクカクした体に、ハードボイルドなマフィアを彷彿とさせる恰好、サングラスとテンガロンハットをかぶった葉巻を吹かしている男。

名は『ウォーリー』。

 

そして頭に白いターバンを巻きつけ、顔を覆うように髑髏の下顎を模したマスク、左目には黒い眼帯を着けた巨漢の男。

名は『シモン』。

 

エルザは彼らを、妖精の尻尾(フェアリーテイル)より前の、かつての仲間だと語った。

抵抗できないルーシィに向かってウォーリーが拳銃を構え、彼らが“エルザを連れ戻しに来た”と宣言する。

エルザが思わず目を向けた隙に催眠弾を撃ち込まれ、今まさに連れ去られようとしていた。

 

 

「ちょっと!! エルザをどこへ連れてくのよ!! 返しなさいよ!!!」

 

 

無関係の人間も巻き込み、有無を言わさず仲間を連れ去ろうとする彼らに、ルーシィは怒りを募らせ、声を荒げる。

だが、それはミリアーナが彼女を、正確には彼女を拘束している管を指さすと、ルーシィの体をさらに締め上げて黙らせられた。

 

 

「みゃあ……あと5分もしたら、その身体が反対側に曲がっちゃうよぉ」

 

 

間延びした喋り方の裏には残酷な笑みを浮かべていた。

そこには、邪魔をするなら容赦しないという冷酷さがあった。

 

 

「そういやミリアーナ。君にプレゼントだゼ」

 

 

そんな彼女にウォーリーが近づいてそう告げながら掌を彼女の前に出した。

するとその中に無数のブロックが現れて、とある存在を形作る。

作られたのはハッピーとフリーシャであった。

よだれを垂らしながら寝息をたてるハッピーと静かに規則正しい寝息を立てるフリーシャを見た瞬間、ミリアーナは飛び跳ねるように喜色の声を上げた。

 

 

「みゃあ!! ネコネコ~!!もらっていいの~~!!?」

 

 

さっきまでの冷酷さな笑みとは比べるまでもない少女らしい喜びの表情にウォーリーもフッと笑う。

見た目に違わずの愛猫家のようだ。

両腕に抱えて頬ずりをする彼女にはもうすでに周りの声は聞こえていなかった。

 

 

「姉さん……帰ってきてくれるんだね……! “楽園の塔”へ……きっと、ジェラールも喜ぶよ……!!」

 

 

感涙を流しながらそう零したショウ。

彼の言った“楽園の塔”という単語に、エルザは薄れかかっていた意識の中でもはっきり聞き取れ、動揺した。

 

楽園の示すその意味は——果たして救いか、それとも……。

 

 

~~~

 

 

ショウたちの姿も完全に見えなくなった。

ルーシィは自分を拘束している管を切ろうとその場をもがき、転がっていた。

やがてポケットにしまっていた星霊の鍵を落とし、見えないながらもなんとか手に取った。

そして両手に鋏を常備したキャンサーを召喚して管を切ってもらおうと考えるも、それは淡い期待だった。

 

彼女が鍵を手に取って呼びかけても、その姿を現さなかった。

それはキャンサーに限った話ではなかった。

タウロスもロキも、誰を呼び出そうとしても反応は無かった。

 

そうこうしている間にも管の絞めつけはさらに強くなる。

敏いルーシィはこの管が魔法を封じているのはと判断したものの、そうだとすれば脱出する方法は完全に断たれてしまう。

 

万事休すかと思われたものの、天は彼女に味方してくれたようだ。

ショウが閉じ込めてばら撒いたトランプの中の観光客の一人がナイフを使って脱出を図ろうとしていたのだ。

だが、どういう原理かそれは上にいたルーシィに痛みとして影響したのだ。

 

機転を活かして彼女はそのナイフを持った観光客のトランプの上に管を持っていき、切ってもらうようお願いした。

それは見事に功を奏し、彼女は管の拘束から解放された。

管を切ってくれた観光客にルーシィは感謝の口づけを行ってからナツらと合流しようと駆け出したのだった。

 

トランプエリアを抜け、一暇つくバースペースにやってきたルーシィ。

そこで、彼女は信じられないものを目にした。

 

 

「グレイ…そんな…! 嘘でしょ! ねェ、しっかりしてよ!!!」

 

 

見るも無残な姿になり果てたグレイがそこにいたのだ。

崩れたバーの残骸にもたれたかかり、胸に鉄パイプが刺さっていた。

開かれた目に光が無い彼をルーシィは揺さぶって起こそうとする。触れた彼の肌は氷のように冷たい。

 

そして、彼の身体に罅が走り出し、音を立てて粉々に砕け散った。

 

 

「きゃああああっ!!!」

 

 

思わぬ光景に悲しみを越した驚愕の悲鳴がその場に木霊した。

だがそれもつかの間の事。

 

 

「安心してください」

 

 

聞き慣れない声が耳に飛び込んできた。

声の聞こえた方向へ目を向けると、水たまりがひとりでに動き出していた。

やがてそれは立体を持ち、両腕で上体を起こした形となった。

その正体はジュビアだった。

幽鬼の支配者(ファントムロード)のエレメント(フォー)として対峙したことがある彼女は戦闘態勢に入ろうとした。

 

 

「待て、ルーシィ!こいつはもう敵じゃねえ」

 

 

すると、聞き覚えのある制止の声が聞こえてきた。

その直後、ジュビアに覆いかぶさる位置に姿を現したのは、先ほど粉々に砕け散ったはずのグレイだった。

 

 

「グレイ様は、ジュビアの中にいました」

 

「な、中…あはは…」

 

「あなたではなく、ジュビアの中です」

 

「う…うん…そうね……」

 

 

何故かルーシィに詰め寄り、自分の中にいたことを強調するジュビア。

なんとなく危ない発言にも聞こえなくもないが言及しないが吉だろう。

 

突然の暗闇だったゆえにグレイは身代わりを造り様子を見ようとしていたところ、ジュビアが敵にバレないよう水流拘束(ウォーターロック)を使って守ったのだ。

善意でやったもののグレイ本人からはおかげで追えずじまいで余計なことしやがってと一蹴されてしまった。

ジュビア悲しい。

 

 

「それより、ナツとレア、エルザはどうした?」

 

「ナツとレアはわかんない。エルザは——」

 

 

ルーシィはうつむきながら先ほどエルザに何が起こったのか伝えようとした瞬間。

ルーレットエリアから赤い炎と青い奔流が勢いよく立ち昇った。

 

 

「あれは!!」

 

「ナツ!! レア!!」

 

 

瓦礫の中に埋もれていたナツとレアが、その瓦礫を吹き飛ばしているところだった。

駆け寄ってみると、二人とも激しく息切れしており、ナツに至っては口から硝煙のようなものが出ていた。

 

 

「普通口の中に鉛玉なんかぶち込むかよ!!! ア!!? (いて)ェだろ!!!下手すりゃ大けがだぞ!!?」

 

「思いっきり首絞められたの……! これで死んだらどうするの……!!」

 

「普通の人間なら、完全にアウトなんだけどね……」

 

「むしろあの襲ってきた奴ら殺す気だっただろ……」

 

「さすが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の双竜……」

 

 

口々に仲間からそう言われるナツとレア。

だがそんな言葉は耳に入っておらず、今彼らの胸中にあったのはあのハードボイルド気取りのカクカク男への怒りだけだった。

 

 

「あんの四角野郎ォオーーー!!! 逃がすかコラーーー!!!」

 

「絶対許さないの……!」

 

 

二人の叫びは、同じ方向を見据えた双竜の咆哮だった。

ナツの叫びがスタートダッシュの合図となり、双竜は揃って走り出した。

彼らの向かう方向は外への道であった。

 

 

「追うぞ!!」

 

「追うって言ってもどこにいるのか……!」

 

「あいつらの鼻の良さは獣以上なんだよ!!」

 

 

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の意外な特性を信じるグレイはそう呼びかけ、ナツとレアを追いかけ始めたのだった。

 

 

~~~

 

 

あれからすでに数時間が経ち、水平線から太陽が昇り始めていた。

 

 

「どこだよここはよォ!!!」

 

「ジュビアたち、迷ってしまったんでしょうか?」

 

 

そんな中、ルーシィ、グレイ、ジュビア、ナツ、レアの現在地は小舟に乗って海のど真ん中まで来ていた。

ナツとレアの鼻を頼った結果、彼らは海の向こう側にいるというのだ。

彼らは被害に遭った観光客は通報した軍に任せ、小舟を借りてここまで来ているのだが……。

 

 

「お……おお……おぷ……」

 

「うえぇ……えぅ……」

 

 

常例に漏れず船酔いしていた。

小舟の淵に体を預けて吐き気を我慢している彼らに詳しい道案内などできるはずもなく、なぁなぁでここまで進んできたがとうとうしびれを切らしたグレイが声を荒げた。

 

 

「オメーらの鼻を頼りに来たんだぞ!!」

 

「グレイ様の期待を裏切るなんて信じられません。……でも、レアさんは仕方ないです。火竜(サラマンダー)、しっかりなさい……!」

 

 

怒り混じりの視線と発破をかけるグレイとジュビア。

何故かレアの扱いが優しいかの反論は、酔いに苦しめられているナツには難しかった。

 

 

「くそっ! オレたちがのされてる間にエルザとハッピーとフリーシャが連れていかれるなんてよ。まったく情けねえ話だ……!!」

 

「本当ですね……エルザさんほどの魔導士がやられてしまうなんて……」

 

「ア? やられてねえよ、エルザのこと知りもしねえくせに……!!」

 

「ご…ごめんなさい…」

 

「グレイ!! 落ち着いて!!!」

 

 

行き場のない怒りをぶつけるかのようにジュビアを睨みつけるグレイ。

明らかに正常じゃない彼にルーシィが声を上げて諫めると、彼は舌打ちを打ちながらドカッと腰を下ろした。

 

 

「あいつら、エルザの昔の仲間って言ってた。あたしたちだってエルザの事……全然わかってないよ……」

 

 

皮肉にも、グレイの言葉をルーシィはそのまま返した。

彼らだって、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士、妖精女王(ティターニア)のエルザとしての側面しか知らないのだ。

聞かされていないのだから、本当の意味で彼女をわかっていない、と。

 

 

「…うぅ…ん? 何だ、この危ねえ感じ……?」

 

「……んん……なんか……体の中から、拒絶反応が出てるの…」

 

 

すると、今までグロッキーだったナツとレアが珍しく意識をはっきりさせて船から立ち上がって周囲を警戒しだした。

それにつられて全員が当たりに気を配っているときだった。

 

空を飛んでいた鳥たちが、力を失ったかのように意識を失って次々と海に落ちていった。

その海に目を向けると、既に命の灯が燃え尽きた魚が何十匹も海面に浮かび上がっていた。

 

それだけにとどまらず、魚の死体に混じっていくつかの木片も同様に浮かび上がっている。

よく見るとそれは船の残骸であり、それもフィオーレ王国の王国軍の船だった。

近くの残骸にフィオーレ王国の旗が引っかかっていたゆえに間違いないだろう。

 

 

「あ、あれ……!」

 

 

ふとルーシィが違和感を覚えた先に目を凝らすと、とうとうその姿を目にした。

巨大な蛇が体をくねらせながら天高く昇ろうとしていると形容するべきか、塔と呼ぶにはいささか歪な形であったそれが見えてきた。

全体的に機材や歯車が不格好に取り付けられたそれに全員が確信した。

 

これが目的地である“楽園の塔”だ、と。





とりあえずナツたちを中心に描写。
ここからが本番や…。
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