エバルー邸上空、ぱたぱたと動く影が一つ。
「羽…まだ消えないわよね」
「心配しなくても今日はまだ大丈夫なのよ」
その正体は赤いワンピースを着た羽を生やした金のネコ、フリーシャと、同じく金髪の美少女、ルーシィであった。
メイドによる潜入作戦が失敗した彼女らは別の方法で潜入する為にエバルー邸の屋上にハッピーとフリーシャの力を借りて来ていた。
「なんでこんなコソコソ入らなきゃいけねんだ?」
「決まってるじゃない! 依頼とはいえどろぼーみたいなモンなんだから」
ナツが不貞腐れて文句垂れるが、ルーシィは当たり前だと言わんばかりに強めに返した。
「ルーシィ。作戦Tは突撃のTなの。正面玄関から入って邪魔者は全員ぶっ飛ばすの」
「ダーメ!」
「で…本をナツに燃やしてもらうの」
「だからそれじゃダメなの!!」
レアも不満な為、何とかルーシィを説得しようと試みるも、全て一蹴される。
「あんたらが今まで盗賊退治やら怪物退治やらいくつの仕事してきたのか知らないけどね、今回のターゲットは街の有力者! ムカツク変態オヤジでも悪党じゃないのよ。ヘタな事したら軍が動くわ」
ルーシィの発言は的を得ていた。
実際ナツもレアもルーシィの言った盗賊退治や怪物退治の仕事を引き受けた事がほとんどで、こういう泥棒まがいのデリケートな仕事を引き受けることは少なかった。
ルーシィの言う通りここで突撃して本を無理やりにでも燃やせば逮捕待ったナシだ。
「何だよ、オマエだって「許さん!!」とか言ってたじゃんか」
やはり納得いかないナツはそうやってブーたれるが、ナツの言葉にルーシィがニヤリと笑う。
「ええ、許さないわよ!! あんな事言われたし!! だから本を燃やすついでにあいつの靴とか隠してやるのよっ!!! ウフフフ…」
「うわ…小っさ…」
「あい…」
「子供のイタズラなの…」
「かしら…」
ルーシィは拳を握りしめそう言うが、周りの反応はとても悲しいものであった。
男性陣は呆然とし、女性陣は完全に哀れな子供を見る目でルーシィを眺めていた。
と、ルーシィは真剣な眼差しをナツ達に再度向けた。
「とにかく、暴力だけはダメよ。暴力だけはね」
そうやって念を押すルーシィだがナツはというと、
顎をしゃくらせて、下唇を出っぱなしながら目を細めルーシィの声を右から左へと流している。
レアも表情の変化こそ無いが、頬杖をついている。
「何よその顔と態度!!」
耐えかねたルーシィはナツの頭に鋭いチョップをお見舞いする。
ナツは言ってる事とやってる事が違うとツッコミながら渋々ガラスに自身の手のひらを押し付けた。
押し付けられたガラスはナツの高い体温によってドロっと融けだした。
ナツはそのまま手を窓の鍵にかけ、中から開けた。
ルーシィからさすが
中に入ると、そこは物置のようで、早速ハッピーが置いてある髑髏を被って遊び始める。
「ナツー、フリーシャー。見て見て〜」
「お! 似合うぞハッピー!」
「えぇ、下衆なハッピーに良く似合うかしら」
かなりの毒舌で罵るフリーシャだが、褒め言葉と受け取ったハッピーはレアとルーシィにも見て見て〜と見せびらかしている。
仕事に戻り、ハッピーが扉から外を確認してGOサインが出たので、全員部屋の外に出ては、ルーシィの指示で壁に沿ってかさかさと動き出す。
「おい、ルーシィ。まさかこうやって一コ一コ部屋の中探してくつもりなのか?」
「トーゼン!」
「誰かとっつかまえて本の場所聞いた方が早くね?」
「ん。じゃないと文字通り日が暮れるの」
隠密行動に不慣れなナツとレアはそう文句垂れる。
だがレアの言うことも最もだ。
エバルー公爵は腐っても街の権力者。
屋敷もそれなりに大きく、大きな部屋が少なくとも十数部屋はあるだろう。
ここからたった一冊の本を見つけるとなると骨が折れるというもの。
「見つからないように任務を遂行するのよ。忍者みたいでかっこいいでしょ?」
「に…忍者かぁ」
「じゃ、じゃあ……私はくノ一なの?」
「別にそこに食いつかなくてもいいわよ」
ルーシィの「忍者」という一言に食いついた竜二匹。
早速心がフワフワしだした所にツッコミを入れる。
と……。
もこっ
ズボォ!!
「侵入者発見!!」
「「うほぉおおおぉおぉおっ!!」」
地面が盛り上がったかと思えば突如その地面から飛び出した入口で見たゴリラメイドとその愉快なブスメイドの仲間たち。
突如現れたメイド集団にハッピーは驚きの余り髑髏の被り物がすぽんと抜ける。
「ハイジョ シマス」
ロボットの様に怪しく目を光らせるゴリラメイド。
だがゴリラがなんのその。
ナツは首に巻いていたマフラーで顔を隠し……。
「忍者ぁっ!!!」
「くノ一ぃっ、なの!!!」
「はいいいっ!!?」
それぞれの足に火と水流を纏った二匹の竜がメイド軍団を文字通り一蹴した。
「まだ見つかる訳にはいかんでごさるよ。にんにん!」
「にんにん、なの」
「普通に騒がしいから……アンタら……」
隠密行動をする気のない忍者コンビにルーシィはガックシと肩を落とす。
「いけない!きっと誰か来るわ! どっかの部屋に入りましょ!!」
「来るなら来いでござる!」
「いいから隠れるの!!」
と、ルーシィがナツを半ば強引に引っ張って、レアも連れて一つの部屋に入った。
そこは……。
「うおおっ! スゲェ数の本でござる!」
「あい! でござる」
ナツの言った通り、見ただけでも百は超えていよう本が棚にギッシリと詰まっていた。
ルーシィがボヤいたように、頭の悪そうなエバルー公爵だが以外と蔵書家であり、ここにある本は全部読んだという。
「探すぞーっ!!」
「あいさー!!」
「はぁー。こんな中から一冊を見つけんのはしんどそぉ…」
「うほっ!! エロいのみっけ!」
「魚図鑑だ!!」
「ん……。字ばっかりなの」
「レア…普通はそうかしら」
完全に関係ない事で盛り上がっているその他4人。
まともに探しているのはルーシィだけだった。
「金色の本発見なの!」
「「ウパー!!」」
「アンタら真面目に探しなさいよ!! って、ウパ?」
とうとう耐えきれなくなったルーシィは表情をクワッとさせてツッコミを入れる。
だがそのツッコミでレアに視線が集中し、手に持っている本が全員の目に止まった。
表紙には「DAY BREAK」と大きく書かれている。
「
「見つかったーっ!!」
「こんなにあっさり見つかっちゃっていい訳!?」
レアがたまたま手に取った本が目的の本であったが為に驚愕に満たされるも、直ぐに冷静さを取り戻す。
「ん。ナツ」
「おう! さて、燃やすか」
「簡単だったね!」
「ちょっ…ちょっと待って!」
レアが
ナツから本をぶんどったルーシィは表紙を見て驚きと喜びを表情に浮かべる。
「こ…これ……作者ケム・ザレオンじゃない! あたし大ファンなのよー! うっそぉ!? ケム・ザレオンの作品全部読んだハズなのにー! 未発表作って事!? すごいわ!!」
ケム・ザレオンとは魔導士でありながら小説家であった人で、彼の冒険譚を書き起こされた小説は根強い人気を誇っているのだ。
読書家のルーシィもこのビックネームに食いつかないはずも無く、目をキラキラさせている。
「いいからはやく燃やそうぜ」
しかし小説などには興味が無いナツはケム・ザレオンの幻の小説よりも200万の方大事な為、さっさと燃やそうと提案する。
「何言ってんの!? これは文化遺産よ!!燃やすなんてとんでもない!!!」
「仕事放棄だ」
だが根っからのケム・ザレオンファンのルーシィ。
依頼主が明言した通り、この本は世界で一冊しか無い幻の本。
大ファンとしてちゃんと読みたいと思っているルーシィは燃やすことを断固拒否するも、ハッピーの的確な言葉にうっと唸る。
「大ファンだって言ってるでしょ!!」
「今度は逆ギレかしら……」
手をブンブン振って抵抗するルーシィに4人の視線は冷たく哀れなものになる。
「じゃあ、燃やしたって事にしといてよ! これはあたしがもらうから!!」
「ウソはヤなの」
ルーシィがそう提案するも仕事には熱心な4人だ。
嘘を吐いてまで報酬を貰うのは
しかし、タイムリミットだ。
「なるほどなるほど、ボヨヨヨヨヨ……。
貴様らの狙いは"
屋敷の主、エバルー公爵の登場だ。
ゴリラメイド達同様に、エバルー公爵は床を突き抜けてナツ達の前に現れた。
「ホラ…もたもたしてっから!」
「ご…ごめん」
「(この屋敷の床ってどうなってんだろ)」
エバルー公爵が現れたことで身構えるナツとレア。
ハッピーはというとさっきから連続で地面から飛び出すこの屋敷の住民の行動のせいで、そんな疑問が頭をチラつかせる。
「フン……魔導士どもが何を躍起になって探しているかと思えば…そんな
「くだらん本?」
「人の本をくだらないっていうのは関心しないの」
「偉ーい我輩にケチつけるか小娘! 我輩の物になんと言おうと我輩の勝手よ」
飛び出したエバルー公爵はドシッと着地してはレアと簡単に言葉を交わす。
だが、ルーシィはエバルー公爵の言葉に依頼主の屋敷で抱いたのと同じ疑問を浮かべた。
依頼主のみならず、所有者のエバルー公爵でさえくだらないと言わしめる本。
「も…もしかしてこの本、もらってもいいのかしら?」
「いやだね。どんなにくだらん本でも、我輩の物は我輩の物」
一抹の希望に縋ってそう零すも、エバルー公爵もそう言って譲る気はさらさら無かった。
ケチと文句を言うルーシィだがうるさいブスと小学生のような喧嘩をする2人。
「燃やしちまえばこっちのモンだ」
「ん。目的は本の破棄」
「ダメ! 絶対ダメ!!」
ナツとレアの言葉に駄々をこねるルーシィだが……。
「ルーシィ!!」
「仕事なの!!」
ナツと珍しく声を荒らげるレアがルーシィを叱る。
するとルーシィの次の行動に、他の者は口をあんぐりさせる。
「じゃせめて読ませて!」
「「「「ここでか!!?」」」」
「なの!?」
ルーシィは敵陣のど真ん中の地べたに座り、あろう事か敵の目の前で本を読み出した。
突拍子の無い突然の行動にエバルー公爵も揃って、表情がほとんど動くことの無いレアでさえも( ゚д゚)となっていた。
「ええい! 気に食わん!! 偉ーい我輩の本に手を出すとは!! 来い!!! バニッシュブラザーズ!!!」
エバルー公爵がそう叫ぶと、何処からかズズズッと鈍い音を立てる。
音の方向に視線を向けると……。
「やっと
「仕事もしねえで金だけもらってちゃあママに叱られちまうぜ」
本棚が動き、隠し扉が現れた。
本棚の側面にはご丁寧に「隠し扉 御開帳」と書かれ、中から2人の男が現れた。
「グッドアフタヌーン」
「こんなガキ共があの
一人は額に上、顎に下、右頬に左、左頬に右と書かれた特殊メイクをし、自身の背丈ほどもある巨大な平鍋を背負っている。
もう一人はバンダナを額に巻き、右腕に刺青を入れ、さっきからマザコンな発言が目立つ大男。
そして二人の共通点として、前者は左腕に、後者は右腕に、狼の紋章が記された布を紐で結び、それぞれの反対の肩からかけている。
「あの紋章! 傭兵ギルド南の狼だよ!!」
「こんな奴等雇ってたのか?」
ハッピーは二人の持つ紋章を見てピンと来ていた。
南の狼。
確かな実力を持った傭兵ギルドであり、魔法を使える者はそうそうと存在しないが、魔導士にも対抗できる体術を持ち、権力者の護衛としての依頼を受け持つことが多いという。
「ボヨヨヨ! 南の狼は常に空腹なのだ! 覚悟しろよ!!」
両者睨み合う。
緊張感が極みに達する。
……が。
『おい!!!』
そんな緊張感も一瞬で霧散した。
こんな状況下でも本を読むことを止めないルーシィに、その場にいる全員からツッコミを入れられる。
新〇劇でもこんな一体感のあるツッコミはほとんど無いだろう。
「なんとふざけた奴等だ」
「これが
「バニッシュブラザーズよ! あの本を奪い返せ!! そして殺してしまえっ!!!」
エバルー公爵がそう指示して動こうとする中、本を読んでいたルーシィが小刻みに震えだした。
「これ…。ナツ、レア! 少し時間をちょうだい!!この本には、なんか
かと思えば、突然駆け出すルーシィ。
「ルーシィ!どこ行くんだよ!!」
「どっかで読ませて!!」
ルーシィはそれだけ言うと、バタンと扉から飛び出し、駆けていくのだった。
「(ひ…秘密だと!? わ…我輩が読んだ時は気づかなかった。
あ…
エバルー公爵の頭の中でそう結論づけると、キュピコーンと目を輝かせ、体を回転し始めた。
「作戦変更じゃ!! あの娘は我輩が自ら捕まえる!! バニッシュブラザーズよ! そのガキ共を消しておけ!!」
体を回転させたエバルー公爵は頭から地面に突っ込み、ドリルのように地面に潜っていった。
「やれやれ、身勝手な依頼主は疲れるな」
「まったくだ」
「めんどくせぇ事になってきたなぁ」
「ん。本燃やすだけの簡単な依頼だったのに…」
お互いうんざりする中、ナツは腕をぐりんぐりんと回し、レアは手首足首を回して各々準備運動に入る。
「ハッピーはルーシィを追ってくれ」
「フリーシャもお願いなの」
「相手は"南の狼"二人だよ!」
「そうよ! こっちは四人。数の有利で行けばすぐ終わるかしら!!」
ナツとレアの提案に反対のネコ二匹。
だが、次のナツとレアの一言で作戦会議は終結する。
「二人で双竜」
「揃えば最強なの」
言葉はこれ以外に不要。
目の前の狼を挑発する発言だった様だが、ハッピーとフリーシャにとって、この言葉はこの状況において何よりも信頼できる言葉だった。
「ナツ、レア!気をつけてねー」
「油断して足元すくわれるんじゃないかしら!」
「おー! ルーシィ頼むぞーっ!」
「ここは任せるのー」
ハッピーとフリーシャはそれだけ言って部屋から飛び出し、ルーシィを追いかけたのだった。
「
「ん? 何で火と水って知ってんだ?」
ナツはそんな疑問を浮かべる。
目の前の男二人の前ではまだ魔法を使っていなかったハズ。
だが何故かバレている。
そんな疑問はすぐさま明かしてくれた。
「すべては監視水晶にて見ていたのだよ」
「あの娘は鍵…
「そして小僧、貴様はガラスを溶かし、足に火を纏った…
小娘、貴様は足に水を纏い、メイドの服や髪が濡れていたことから、
長々と解説したが、要は水晶を通してナツ達の行動は筒抜けだったという事だ。
ナツはよく見てんなぁと関心する中、手に火を纏い悪魔の笑みを浮かべた。
レアもそれにシンクロするように、足に水流を纏った。
「じゃあ、覚悟はできてるって事だな? 黒コゲになって、」
「地の果てまで流される覚悟が、なの」
「残念ながらできてないと言っておこう」
そう言った男は「なぜなら」と言いながら背中に背負っていた平鍋を手に持って構えた。
「火の魔導士は、
自信満々にそう宣言する狼の片割れだが、竜の二匹は「ふーん」と、興味なさげに反応したのだった。